アドリブログ 〜JAZZ/FUSION批評〜

ジャズ/フュージョン批評ブログ CD, DVD, ALBUM REVIEW, TRACK REVIEW and more

松岡 直也 feat. トゥーツ・シールマンス & 松木 恒秀 / カレイドスコープ5

KALEIDOSCOPE-1 出発が他社に対抗するためのワーナー・グループによる「高音質盤」の作成のためにあった『KALEIDOSCOPE』(以下『カレイドスコープ』)だが,当の松岡直也にとって「高音質盤」なんて眼中なし。目指したのは,ただただお盛り上がりのセッション大会!

 『カレイドスコープセッションにおいて,プロデューサーより“フィーリング”として指名されたのがハーモニカトゥーツ・シールマンスギター松木恒秀であった。
 この主役の2人をサポートするために“御大”松岡直也が招集したメンバーが,ギター安川ひろし杉本喜代志土方隆行ドラム村上“ポンタ”秀一ベース高橋ゲタ夫長岡道夫パーカッションペッカーソプラノサックス土岐英史
テナーサックス清水靖晃トロンボーン向井滋春シンセサイザー助川宏という超豪華な面々である。

 そんな「WESING」と「KYLYN」が合体したような凄腕メンバーたちが「デジタル2トラック1発録り」という最高にシビレル演奏で燃え上がらないわけがない!
 『カレイドスコープ』の全5トラックは松岡直也作編曲の,本来はロック色やエレクトリック色を抑えた,すこぶるスムースでメロウなナチュラル・フュージョンであるが,そこに「デジタル2トラック1発録り」の興奮なのか,出来上がったのは“ジャズ寄りのフュージョン”である。

 ジャズの醍醐味であるインプロヴィゼーションが“生々しく”記録されている。特に主役格であるトゥーツ・シールマンス松木恒秀ソロ・パートが長めで,燃えに燃えたアドリブが“生々しく”記録されている。

 これは後日談であるが“御大”松岡直也トゥーツ・シールマンスと共演する前までは「大のハーモニカ嫌い」だったようで,実はトゥーツ・シールマンスソロ・パートはそれなりにしか準備していなかった。ただしリハーサルで聴いたトゥーツ・シールマンスハーモニカが“圧巻”で,松岡直也が急遽スコアを書き直してソロ・パートを伸ばしたとのこと。

 でも【FALL FOREVER】と【FANCY PRANCE】を聴き終わった感想は,もっとトゥーツ・シールマンスハーモニカを聴きた〜い,であった。
 全ての楽器がトゥーツ・シールマンスハーモニカと有機的に絡み合い,音楽の最も美味しい部分を抽出されたような明るく楽しい演奏に仕上がっている。実に素晴らしい。

 もう1人の“フィーリング”である松木恒秀ギターもいい。マイルドでありながらスパイシーなギターの独創的なリフが素晴らしく個人的に色香を感じる。
 『カレイドスコープ』で共演する4人のギタリスト松木恒秀安川ひろし杉本喜代志土方隆行は「横並び」かと思いきや,この4人の演奏を聴き比べてみると確かに松木恒秀ギターが“抜きん出ている”。
 松岡直也松木恒秀に合わせたのか,それとも松木恒秀松岡直也に合わせたのかは不明であるが,松岡直也フィーリング松木恒秀の音楽性が即興なのに充実感で満ちている。

KALEIDOSCOPE-2 多重録音で失われたフュージョン即興性を取り戻すべく,当時の最新技術「デジタル2トラック1発録り」が企画されたのだったが「高音質」企画の産物である“生々しさ”が臨場感を伝えている。
 でも大切なのは音楽性である。「デジタル2トラック1発録り」だから実現したライブ感。これである。

 『カレイドスコープ』とは,ただただお盛り上がりのセッション大会! 管理人が選ぶ“勝者”は村上“ポンタ”秀一だと思う。村上“ポンタ”秀一ドラムを耳で追いかけながら聴くのが最高に楽しい!

 最後に,1回限りの『カレイドスコープセッションだったはずが『LIVE AT MONTREUX FESTIVAL』でのトゥーツ・シールマンスとの再演が実現した。
 松岡直也トゥーツ・シールマンスを気に入ったばかりか,トゥーツ・シールマンス松岡直也を気に入ったという事実が『カレイドスコープセッションの成功を裏付けている。

 
01. FALL FOREVER
02. DRIED FLOWER & DRIED LOVE
03. IVORY ISLANDS
04. CADILLAC
05. FANCY PRANCE

 
NAOYA MATSUOKA : Piano, Keyboards
TOOTS THIELEMANS : harmonica
TSUNEHIDE MATSUKI : Guitar
HIROSHI YASUKAWA : Guitar
KIYOSHI SUGIMOTO : Guitar
TAKAYUKI HIJIKATA : Guitar
SHUICHI "PONTA" MURAKAMI : Drums
MICHIO NAGAOKA : Bass
GETAO TAKAHASHI : Bass
PECKER : Percussion
HIDEFUMI TOKI : Soprano Saxophone
YASUAKI SHIMIZU : Tenor Saxophone
SHIGEHARU MUKAI : Trombone
HIROSHI SUKEGAWA : Synthesizer

(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1979年発売/32XL-55)
(ライナーノーツ/山口弘滋)

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ボビー・ハッチャーソン / エンジョイ・ザ・ビュー5

ENJOY THE VIEW-1 ボビー・ハッチャーソンが37年振りにブルーノートへ復帰したことが話題となった『ENJOY THE VIEW』(以下『エンジョイ・ザ・ビュー』)であるが,管理人にはボビー・ハッチャーソンではなく“デヴィッド・サンボーン買い”であった。

 『TIMEAGAIN』の再演となる【DELIA】と【LITTLE FLOWER】収録。『TIMEAGAIN』のヴィブラフォン奏者がマイク・マイニエリだったから,別のヴィブラフォン奏者との共演を聴いてみたくなった。
 そのヴィブラフォン奏者が「たまたま」ボビー・ハッチャーソンだったというわけで,個人的にボビー・ハッチャーソンに有難みは感じていない。

 加えて“デヴィッド・サンボーン買い”2つ目の理由は,オルガン奏者のジョーイ・デフランセスコである。
 デヴィッド・サンボーンジョーイ・デフランセスコは『ONLY EVERYTHING』で共演済だし『HEARSAY』『CLOSER』『HERE & GONE』でのオルガン奏者との共演盤も脳裏によぎる。
 しばらくデヴィッド・サンボーンソロ・アルバムも出ていないことだし,これは絶対に買いでしょう…。

 でっ,ヴィブラフォンボビー・ハッチャーソンオルガンジョーイ・デフランセスコと組んだジャズサックスデヴィッド・サンボーンが素晴らしい。
 最近の不調がウソのようなデヴィッド・サンボーンの野太い鳴り! その秘密こそがセッション・リーダーであるボビー・ハッチャーソンの硬質なヴィブラフォンにあると思う。

 特に期待などしていなかったボビー・ハッチャーソンの存在感がとてつもなく大きいと思う。休止の時間帯でも「重し」として利いている。あれだけ騒がれるだけのことはある。
 ボビー・ハッチャーソンの“クールな”ヴィブラフォンが,デヴィッド・サンボーンの闘志に火をつけている。ボビー・ハッチャーソンと来れば「新主流派」の人であるが,どうしてどうして。
 ブルーノートボビー・ハッチャーソンと来れば『HAPPENINGS』ともう1枚が『OUT TO LUNCH』。そう。あのエリック・ドルフィーを“喰った”人だったのだ。

ENJOY THE VIEW-2 ボビー・ハッチャーソンの表情を伺いながら,デヴィッド・サンボーンジョーイ・デフランセスコが素晴らしいソロを取っている。ボビー・ハッチャーソンの音を聴き,ヴィブラフォンを邪魔することなく,きっちりと自分の音を鳴らしている。そんなデヴィッド・サンボーンの姿勢がいつになく野太い音色につながっているように思う。  

 『エンジョイ・ザ・ビュー』の聴き所とは,デヴィッド・サンボーンの「完全復活」! 「フュージョン界のスーパー・スター」としての看板を降ろして久しいが,ジャズを吹いてもブルースを吹いてもR&Bを吹いてもデヴィッド・サンボーンデヴィッド・サンボーン

 ジャズ・ファンにとっての『エンジョイ・ザ・ビュー』とは,ボビー・ハッチャーソンブルーノート・アゲインの記念碑的アルバムであるが“サンボーン・キッズ”にとっての『エンジョイ・ザ・ビュー』とは“エモーショナル”なデヴィッド・サンボーン・アゲインの記念碑的アルバムである。

 
01. Delia
02. Don Is
03. Hey Harold
04. Little Flower
05. Montara
06. Teddy
07. You

 
BOBBY HUTCHERSON : Vibes
DAVID SANBORN : Saxophone
JOEY DeFRANCESCO : Organ, Trumpet
BILLY HART : Drums

(ブルーノート/BLUE NOTE 2014年発売/UCCQ-1009)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/熊谷美広)

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スガダイロー / スガダイローの肖像・弐5

スガダイローの肖像・弐-1 スガダイローという人は,単なる“ジャズ・ピアニスト”ではない。「新しい音楽の発明家」だと思う。
 『スガダイローの肖像・弐』の斬新な音楽性は,フリージャズからはみ出ただけでなく,ジャズというカテゴリーをも超えてしまっている。

 『スガダイローの肖像・弐』がジャズというカテゴリーを超えてしまった最大要因は,スガダイローの全く個人的な「好き」という感情が「これでもか!」と詰め込まれているがゆえであろう。
 【山下洋輔】の名前を筆頭に,スガダイローの好きなものの名前がズラリとメニュー表に並べられた感じ? ゆえに『スガダイローの肖像・弐』は「スガダイローの音楽」としか呼びようのないアルバムに仕上げられている。

 『スガダイローの肖像・弐』での演奏は相当に激しい。スガダイローの“伝えたい”が伝わってくる。
 その伝え方がいいんだよなぁ,これが。強引に「耳の穴をかっぽじって聞け」と圧をかけるスタイルではない。そうではなく,スガダイローの主張を分かってもらいたいという気持ちはあるんだけど,分かってもらえない人が大勢いることを前提に“分かりやすい”演奏に徹している。激しいけども厳しくない。初心者でも“ついていける”渾身のメロディー集だと思う。

 『スガダイローの肖像・弐』の印象は,フリージャズではなくピアノ・トリオを聴いていることを強く意識してしまう。ピアノ・トリオって,こんな音楽が作れるんだ,という印象である。
 う〜ん。ちょっと違うな。ピアノ・トリオではなくピアノなのだ。「ピアノを超えたピアノ」。これである。

 ピアノの鍵盤の数は88と決まっている。ビル・エヴァンスキース・ジャレットも,他のどんなピアニストであっても88の鍵盤の中で勝負している。
 しかし,この『スガダイローの肖像・弐』の中で,スガダイローは「88の鍵盤の呪縛」を超える音楽を創造している。
 そう。東保光ベースを89番目の鍵盤として,服部正嗣ドラムを90番目の鍵盤として扱っている。ねっ「ピアノを超えたピアノ」でしょ? ねっ「新しい音楽の発明家」でしょ?

スガダイローの肖像・弐-2  勿論,東保光ベースには東保光の音を感じる。服部正嗣ドラムには服部正嗣の音を感じる。
 つまりスガダイローは「王様」などではない。そうではなく東保光ベースの特徴をピアノ・トリオに取り入れる術を知っている。服部正嗣ドラムの特徴をピアノ・トリオに取り入れる術を心得ている。
 そう。一心同体=スガダイロー隊! ← このクダリ,分かりますかぁ?

 88の鍵盤の表現を超えた90の鍵盤だからできる表現が『スガダイローの肖像・弐』の中にある。新しいメロディーが鳴っている。こんな凄い音楽そう滅多に聴けるものではありませんよっ!

 
01.
02. 蒸気機関の発明
03. 山下洋輔
04. BLUE SKIES
05. さやか雨
06. 春風
07. 無宿鉄蔵毒団子で死なず
08. 寿限無
09. 戦国
10. 時計遊戯
11. 最後のニュース
12. ALL THE THINGS YOU ARE

 
DAIRO SUGA : Piano
HIKARU TOHO : Bass
MASATSUGU HATTORI : Drums

TONY CHANTY : Vocal
CHIZURU ISHI : Hand Drums

(ポニーキャニオン/PONY CANYON 2011年発売/PCCY-30194)

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サイラス・チェスナット / ビフォー・ザ・ドーン3

THE DARK BEFORE THE DAWN-1 管理人がサイラス・チェスナットを知ったのはマンハッタン・トリニティ以後のことである。
 マンハッタン・トリニティにおけるサイラス・チェスナットピアノが素晴らしい。繊細なピアノ・タッチで美メロのツボを確実に突いていく。カクテルっぽい部分が前面に出てはいるが,サイラス・チェスナットの“根っこ”にあるブルール・フィーリングが絶妙のバランスで“見え隠れする”のだから一瞬も聴き逃せない。さぁ,次はサイラス・チェスナットソロ・アルバムの番である。

 最初に手に取ったのが『THE DARK BEFORE THE DAWN』(以下『ビフォー・ザ・ドーン』)である。
 マンハッタン・トリニティを聴いて,恐らくはサイラス・チェスナットをたくさんコレクションすることになると思ったので,どうせなら古いものから順番に時系列で聴いていきたい,と『ビフォー・ザ・ドーン』の購入は先を見据えてのものであった。…が,しかし…。

 『ビフォー・ザ・ドーン』がハマラなかった。こんなにもゴリゴリでペラペラのピアノだったっけ? 全くスマートなジャズピアノではないし,かといってアーシーなジャズピアノでもない。
 サイラス・チェスナットの「地黒」って,管理人の嫌いなゴスペル専門系の「黒」だったのか?

 『ビフォー・ザ・ドーン』のサイラス・チェスナットは表情が沈んでいる。というか窮屈そうに奥まって,背中を丸めてピアノを弾いている。
 マンハッタン・トリニティの“看板”という立場から離れた途端,自分が本当に演奏したい音楽を見失ってしまった感じ?

 要はマンハッタン・トリニティにおけるサイラス・チェスナットの繊細なピアノ・タッチは,ベースジョージ・ムラーツドラムルイス・ナッシュに引っ張られての演奏なのだろう。
 そう。マンハッタン・トリニティの真実とは,サイラス・チェスナットの個性に合わせて“老練”2人が完璧にお膳立てしたフォーマット。後は
サイラス・チェスナットが譜面通りに演奏すれば成立する「美メロのジャズピアノ」。

 サイラス・チェスナットピアノを鳴らす「腕」には確かなものがある。緩急を付けた表現力には耳を奪われる。しかしジャズメン足るもの,そのテクニックを“どう使うか”が勝負である。何を“どう訴えかけるか”が勝負である。

 要はあのキラキラとした輝きはサイラス・チェスナット主導の音楽ではなかったということ。ジョージ・ムラーツルイス・ナッシュによって作られたサイラス・チェスナットの“虚像”であったのが残念でならない。

THE DARK BEFORE THE DAWN-2 サイラス・チェスナットの輝く場所とはメインではなくサイドメンとしてであろう。事実,サイラス・チェスナットはファースト・コールのサイドメンとして引っ張りだこ。リーダーからのリクエストを一瞬で掴む能力には類まれなものがある。

 超一流のジャズメンのすぐ側で弾くサイラス・チェスナットピアノはいつでもゴキゲンである。特に実際にヴォーカルが入るかどうかは関係なく,例えインストであっても「歌ものの伴奏」を演らせたら当代随一のピアニストである。

 だからこそサイラス・チェスナットの資質を見極めたジョージ・ムラーツルイス・ナッシュの凄さが分かる。
 管理人はもう2度とサイラス・チェスナットソロ・アルバムは購入しないが,サイラス・チェスナットの名前がサイドメンとしてクレジットされているだけで俄然聴いてみたくなる。

 ソロでも化けろ! 化けてみろ! サイラス・チェスナット

 
01. Sentimentalia
02. Steps Of Trane
03. The Mirrored Window
04. Baroque Impressions
05. A Rare Gem
06. Call Me Later
07. Wright's Rolls And Butter
08. It Is Well (With My Soul)
09. Kattin'
10. Lovers' Paradise
11. My Funny Valentine
12. The Dark Before The Dawn
13. Sometimes I'm Happy

 
CYRUS CHESTNUT : Piano
STEVE KIRBY : Bass
CLARENCE PENN : Drums

(アトランティック・ジャズ/ATLANTIC JAZZ 1995年発売/AMCY-1130)
(ライナーノーツ/リアンダー・ウィリアムズ,岩浪洋三)

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スガダイロー / スガダイローの肖像3

スガダイローの肖像-1 『スガダイローの肖像』を買ったのは『スガダイローの肖像・弐』の後だった。『スガダイローの肖像・弐』が超。お気に入りで,これはと“一匹目のドジョウ?”を狙って買った。

 結果は「…が,しかし」。でも『スガダイローの肖像』を買って良かった。なぜなら『スガダイローの肖像・弐』がもっともっと大好きになったから! 『スガダイローの肖像・弐』の有り難みが増したから!( ← 本当は強がりです )

 そう。“鬼才”スガダイローの腕をもってしても『スガダイローの肖像・弐』のような名盤を作るチャンスは,生涯を作じて1枚か2枚。管理人はスガダイローと同じ時代に生まれた幸運を音楽の神に心から感謝している。

 さて,そんな“期待外れ”の『スガダイローの肖像批評なのだが,実は『スガダイローの肖像』には2曲だけ超・名演が収められている。それが1曲目の【】と2曲目の【キアズマ】である。

 【】の輝きが眩しすぎる。キラキラとエメラルド色に輝いている。これはメルヘン作品である。スガダイローの“お花畑”へようこそいらっしゃ〜いの構図。
 パッションと狂気あふれる“ピアノの花束”の中から,1本1本取り出されては次々と手渡されていく感覚があって,すぐに手元が満杯になってはこぼれ落ちていく〜。

 続く【キアズマ】は“御存知”山下洋輔トリオの衝撃の代表曲。山下洋輔の【キアズマ】も何十回と聴いたが理解できなかったのだが,スガダイローの【キアズマ】も何回聴いても理解不能。ただし,同じ匂いがすることだけは確認できた。いつの日かスガダイローがバカ売れした時,この【キアズマ】について語られる日が来ることだろう。

 しか〜し『スガダイローの肖像』が決定的にダメなのは,イロモノ感とキワモノ感が強いということ。『スガダイローの肖像』の問題は残りの9トラック。これがいけない。要は下品で卑猥でゲスイ。品位がない。
 特に二階堂和美ヴォーカル入りトラックについては,一生涯,もう2度と自分の意志で聴くことはないだろう。

 元来,スガダイローという人はその人物像が危ない。管理人がスガダイローと初めて接した『坂本龍馬の拳銃 −須賀大郎短編集−(上)』と『黒船・ビギニング −須賀大郎短編集−(下)』の2枚が最高に素晴らしかったので,他のアルバムをチェックしていたのだが,そのタイトルとは,やれ『ジャズ・テロリズム』『ジャズ・テロリズム<豪快篇>』『ジャズ無宿』なるものがズラリ。果ては『秘宝感』なるものまであった。

 管理人はMALTAの名言=「その人の人間性が音に出る」の支持者である。管理人の2トップであるキース・ジャレットパット・メセニーもその正しさを証明してくれている。ゆえに上述したアルバムに手を出すことは絶対にしない。たとえ内容が良くてもそんなタイトルが付けられた音楽など聞かなくても良い。後悔しない。
 ダークサイドの音楽などなくても人生は大いに楽しめる。死ぬまでに一度は聞かなければならない優良なジャズ・アルバムが五万とある。人生は短い。限られた時間しか残されていない。

スガダイローの肖像-2 『スガダイローの肖像』の9トラックを聴いて,上記のようなことを考えていたことを思い出した。そして『スガダイローの肖像』を聴いて,やっぱりこんな感想が頭をかすめた。

 スガダイローとは「ハマル人ならとことんハマル」ワールド・クラスのフリージャズピアニストである。でもいつでも,どんな曲でもハマルほど間口は広くない。
 ズバリ,スガダイローの音楽の特徴とは「演者側が聴き手を選ぶ」音楽なのである。

 悪魔の『スガダイローの肖像』と天使の『スガダイローの肖像・弐』。
 管理人はスガダイローに『スガダイローの肖像』で嫌われ『スガダイローの肖像・弐』で愛されたように思う。

 そんな“変態アウトロー野郎”スガダイローに「選ばれし者」となるのはかなり難しい。「本当は好きなのに嫌い」→「本当は嫌いなのに好き」→「本当は好きなのに嫌い」の繰り返しで気持ちが揺れ動く。スガダイローに“入れ込む”加減が実に難しい。

 
01.
02. キアズマ
03. ゲットー
04. 墮天使ロック
05. 蘇る闘争
06. 季節のない街
07. マリアンヌ
08. スカイラーク
09. レイジーボーン
10. 慶応三年十一月十五日
11. リアルブルー

 
DAIRO SUGA : Piano
KAZUMI NIKAIDO : Vocal
TAKASHI MATSUMOTO : Alto Saxophone
NOISE NAKAMURA : Alto Saxophone
YOICHIRO KITA : Trumpet
MASATSUGU HATTORI : Drums

(ポニーキャニオン/PONY CANYON 2011年発売/DLCP-2090)

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フライ・トリオ / イヤー・オブ・ザ・スネイク5

YEAR OF THE SNAKE-1 ベースラリー・グレナディアドラムジェフ・バラードの組み合わせが,現在考えられる最良のリズム隊の1つに違いない。
 現にブラッド・メルドーチック・コリアパット・メセニー,そして山中千尋までもが,ラリー・グレナディアジェフ・バラードが創造するリズムを必要としたという事実がある。

 では逆に,ラリー・グレナディアジェフ・バラードの2人が本当に必要とするフロントマンとは一体誰なのだろう?
 その答えが「FLY」にある。マーク・ターナー“その人”である。

 カチッとした鍵盤とは異なり,マーク・ターナーテナーサックスが,時にルーズに,また時に急がされるかの如く,変幻自在に楽曲を組み立てていく。
 そんなマーク・ターナーの“呼吸”に合わせるかのように,ラリー・グレナディアジェフ・バラードがいつも以上に自由度の高い演奏を展開する。

 ラリー・グレナディアジェフ・バラード組の,こんなにも堅実で重心の下がったリズム・キープが聴けるのは「FLY」だけ! いいや,ベースドラムサックスと対等に渡り合う音楽を聴けるのは「FLY」だけ!

 ラリー・グレナディアベース・ラインが,常にマーク・ターナーサックスの動きに反応してはカウンターでメロディーを強調していく。ピアノの打音のようにベースが響く瞬間があるし,時にはアルコでサックスとユニゾンしてみせる。
 「FLY」におけるラリー・グレナディアの演奏楽器とはベース+“仮想”ピアノの様相である。

 「FLY」の推進力とは,ジェフ・バラードが叩き出す“常に替わり続けるリズム・パターン”にある。空間を自由に行き来しつつ,カラフルな音を敷き詰めていくジェフ・バラードのハードなドラミングが,サックストリオにおける“正しいドラムの在り方”なのだろう。
 「FLY」におけるジェフ・バラードの演奏楽器とはドラム+“仮想”ピアノの様相である。

 そう。ラリー・グレナディアジェフ・バラードの2人がリーダーとして演奏したいバンドとはピアノレス。
 ラリー・グレナディアジェフ・バラードも,自分自身がピアニスト気分で演奏できる癒しの場所。それがサックストリオの「FLY」であり,マーク・ターナーのような「何でもできる」フロントマンなのである。

 ただし,そこは世界最高峰のリズム隊。ラリー・グレナディアジェフ・バラードも,音楽そのもののバランスを絶対に崩すことはしない。
 「FLY」の構図とは,マーク・ターナーテナーサックスを常に中心に置いて,ベースが前に出る時はドラムが下がり,ドラムが前に出る時はベースが下がる,というもの。
 則ちサックス奏者からすると,サックスが音楽の「体幹」のような位置を占めるということ。バンドの要がサックスという異例のパワーバランスから来る重圧が半端ないということ。

YEAR OF THE SNAKE-2 だからこそマーク・ターナーなのである。ラリー・グレナディアジェフ・バラードマーク・ターナーを指名した理由こそがマーク・ターナーの最大の武器=ホーン・レンジの広さである。

 マーク・ターナーサックスが,革新的で冒険的なアイデアを数多く盛り込んでいるように聞こえるのは,ラリー・グレナディアジェフ・バラードの2台の“仮想”ピアノの音域を広げるための工夫であろう。

 所詮,ピアノの音を出そうとしてもベースは単体ではベースでありドラムは単体ではドラムである。しかしベースであってもドラムであっても,常に楽曲の組み立て役であるホーン・レンジの広いサックスとハモればピアノのように響くことができる。

 こんなにもテナーサックスを生かし,こんなにもテナーサックスを殺すことができる,マーク・ターナーって凄いよなぁ。

 
01. The Western Lands I
02. Festival Tune
03. The Western Lands II
04. Brothersister
05. Diorite
06. Kingston
07. Salt And Pepper
08. The Western Lands III
09. Benj
10. Year Of The Snake
11. The Western Lands IV
12. The Western Lands V

 
FLY
MARK TURNER : Tenor Saxophone
LARRY GRENADIER : Double-Bass
JEFF BALLARD : Drums

(ECM/ECM 2012年発売/UCCE-9312)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)

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