アドリブログ 〜JAZZ/FUSION批評〜

ジャズ/フュージョン批評ブログ CD, DVD, ALBUM REVIEW, TRACK REVIEW and more

2006年03月

TVCM / ウイントン・マルサリス / iPod(アイポッド)+iTunes(アイチューンズ)


 TVからジャズが流れ出す機会は多くない。それで,たまにTVからジャズが流れ出すと,どうしても過剰に反応してしまう。耳が喰いついてしまう。
 松永貴志矢野沙織による「報道ステーション」のテーマ曲【OPEN MIND】を,毎晩の“訓練の賜物”か,やっと普通に聴けるようになったと思っていたが,先日,まだ訓練が足りないことを痛感させられてしまった。
 そう。ちまたでも大好評のTVCMiPod+iTunes』の【SPARKS】! ウイントン・マルサリスである。

 やはりアップルはマイクロソフトの一歩先を走っている。コールドプレイ,U2,エミネムと,最近ではロック/ヒップ・ホップ界とのタイアップが続いていたこのCM枠に,突然のジャズ・ミュージシャンの起用! それも「ジャズ界の至宝」と謳われる,永遠の若手=ウイントン・マルサリスの起用とは…。
 ウィントン・マルサリス=「保守派」は間違いないので,この意表をつくコラボ&“鮮やかな裏切り”にシビレまくってしまった。

 このTVCMが超カッコイイ! ブルーを基調とした背景のテクスチャーや幾何学模様が,ウイントン・マルサリスの“知的でクール”なトランペットと見事にマッチしている。ダークなシルエットの中に浮かび上がる白色のヘッドフォン・コードが輝いて見える。商業的にも芸術的にも大傑作で呼べるであろう。
 管理人も,バックの男女のように踊ってみた〜い!
 このカッコ良さが分からない“時代遅れ”の頑固親父も多そうではありますが,このTVCMで若干年齢層の高い?ジャズ・ファンにも「iPod」の知名度が一気に浸透するに違いない。管理人はTVCMでの“NEW”ウイントン,大賛成ですよ。

 さて肝心のCMトラック【SPARKS】は,ジャズ・ブルース&オーギュメントスケールの“荒々しさ”がポイント! ジャズを聴かない人にも“サムシング”を訴える王道ジャズ! 真正面から一発KOを狙っている?
 すぐに欲しい。しかし【SPARKS】の購入は「iTunes Music Store限定」とのこと。管理人は圧縮オーディオは嫌いなので,ここはCD化されるまで我慢することにします。それまでは“夜な夜な”上記動画へアクセス&アクセス! 読者の皆さんも?

PS 管理人は『CDウォークマン』で頑張ります。CM効果薄いのかなぁ?

渡辺 貞夫・ライヴ・アット・ブラバス・クラブ・'85 / パーカーズ・ムード / BILLY'S BOUNCE4

 『PARKER’S MOOD』の4曲目は【BILLY’S BOUNCE】(以下【ビリーズ・バウンス】)。


 【ビリーズ・バウンス】の聴き所はたくさんあるが,主役はチャーネット・モフェット! “ブイブイ”言わせる“地を這う”ベースが,観客のボルテージを,否が応でも盛り上げる!

 3分11秒からのロング・ベース・ソロは,いかにもNYで大受けしそうな,キレ+ノリ+パンチが効いた“正統派”の力技である。
 終盤で聴かせる早弾きはウッド・ベースとしては驚異的! 人気ベーシストチャーネット・モフェットは,相当のテクニシャンである。
 特に5分19秒からの26秒までのフレーズが“エレキ・ベースっぽくて”お気に入りである。

 ラスト8分22秒からの3フレーズがバッチリ決まっていて,これには「どうだ,参ったか?」的なポーズ付の画が浮かんでしまう。カッコイイんだろうなぁ。ベーシストっていいよなぁ。

SADAO WATANABE : Alto Sax
JAMES WILLIAMS : Piano
CHARNETT MOFFETT : Bass
JEFF WATTS : Drums

渡辺 貞夫・ライヴ・アット・ブラバス・クラブ・'85 / パーカーズ・ムード / LAMENT5

 『PARKER’S MOOD』の3曲目は【LAMENT】(以下【ラメント】)。


 【ラメント】は,ナベサダの快演が先か,バックの快演が先か,互いに一気に盛り上がる! ミディアムなのに“熱すぎる”名演である。あんなに哀しかったのに,こんなに豪快にぶつかり合ってもいいのだろうか?

 イントロは完璧な“バラード”の入りである。カルテット全員でバラードをプレイする“つもり”で曲が進行していく。
 しかし2分7秒のジェフ・ワッツのハイハットを合図に,チャーネット・モフェットの“ゴリゴリ”ベースが“ズンズン”とプッシュを開始する。このリズムの変化に“呼応した”渡辺貞夫アルト・サックスが,徐々に“ビ・バップ”していく。
 このサックスのトーンの変化が導火線となり,ジェフ・ワッツの「2段ロケット=ジャズドラマー・魂」に火をつけたのか,もう止まらない! あっという間に“ハード・バップ”のノリと化す! スケールの大きな“ザ・ジャズ・ドラム”の世界へと全員が引きずり込まれてゆく!

 やっぱり渡辺貞夫は偉大だ。【ラメント】で見せる表情=音色の変化が,どれもいい。
 アンチ・ナベサダ派は,その常套句=マンネリ批判を口にするつもりなら,この【ラメント】での快演を聴いてからにしてほしい。どうせケナスにしても,バラエティに富んだ,ちょっとはマシな“批評”を展開するのに役立つはずである。
 管理人は“正攻法”でいきたい。マンネリはマンネリでもこんなに“偉大な”マンネリは希有である。聴けば聴く程,耳に馴染めば馴染む程,なんとも言えない“心地良さ”が増加する。

SADAO WATANABE : Alto Sax
JAMES WILLIAMS : Piano
CHARNETT MOFFETT : Bass
JEFF WATTS : Drums

渡辺 貞夫・ライヴ・アット・ブラバス・クラブ・'85 / パーカーズ・ムード / STELLA BY STARLIGHT5

 『PARKER’S MOOD』の1曲目は【STELLA BY STARLIGHT】(以下【星影のステラ】)。


 【星影のステラ】の名演は多いが,キース・ジャレットチック・コリアの代名詞的ナンバーなので,ピアノによる“静かな”プレイ向きという印象を持っている。
 しかし【星影のステラ】には,パーカーマイルスミンガスといった“ハード・バップ”の“ホットな”名演が残されていることも忘れるわけにはいかない。 

 さて,渡辺貞夫である。ナベサダ流の【星影のステラ】は断然後者! イントロの“スーッ”とした印象はご愛敬。すぐにバックを引っ張る(バックにあおられ?)熱気を帯びてくる。そう。メンバー全員馴染みの曲なのだろう。よく歌っている。
 3分35秒からのジェームス・ウィリアムスピアノ・ソロは非常にダイナミック! 6分25秒からのチャーネット・モフェットベース・ソロもハイ・テクニックでメロディーを奏でていく。

 しかし,このトラックの主役は“格上”渡辺貞夫である。【星影のステラ】の持つロマンティックな響きを“あの”渡辺貞夫アルト・サックスの音色が飾り付けしていく。“世界一”のアルト・サックスの音色に“グッと”きてしまい,あれだけのバックの好演も耳には残らない。
 そう。【星影のステラ】は,渡辺貞夫の「次元を超えた名演」である。

SADAO WATANABE : Alto Sax
JAMES WILLIAMS : Piano
CHARNETT MOFFETT : Bass
JEFF WATTS : Drums

渡辺 貞夫・ライヴ・アット・ブラバス・クラブ・'85 / パーカーズ・ムード5

PARKER'S MOOD-1 “ナベサダ”こと渡辺貞夫はJ−ジャズの枠を越えた,世界のジャズ・ジャイアントの一人である。
 …と,紹介しようとも,読者の皆さんに渡辺貞夫の“偉大さ”はストレートに伝わらないのではないか?
 管理人がそうだった。渡辺貞夫と来れば草刈政雄と豪快に笑う「ブラバス」のCM。どこにでもいそうな“気のいいおっさん”でしかなかった。

 しかしあるCDとの出会いにより,それまで“色眼鏡”でナベサダを見ていたことを心から悔いた。CDから聴こえてきたのは“パーカー派”のアドリブインプロヴィゼーション。フレーズの節々にパーカーカバーしてきた面影が色濃く残っていたのだ。

 その“パーカー派”としての渡辺貞夫との出会いが『PARKER’S MOOD』〈以下『パーカーズ・ムード』〉!
 この時期の渡辺貞夫は「ナベサダフュージョン」の大連発! フュージョンナベサダが大好きだったので,当時高校生だった管理人にはきつかったが,発売されるCDは全部買っていた。

 『パーカーズ・ムード』もその流れで買ったものだったが,いつもとは違う空気感に心を“鷲づかみ”されてしまった。「もう元には戻れない」と感じてしまう何かが…。
 そう。脱フュージョンジャズへの目覚め! 管理人のジャズ好きは,ズバリ『パーカーズ・ムード』から始まった!

 『パーカーズ・ムード』は“蜜月関係”資生堂提供「BRAVAS CLUB」のライブ盤。渡辺貞夫が目と鼻の先にいる聴衆に全力でぶつかっていく。
 そんなストレートなジャズ・スタイルであるからこそ『パーカーズ・ムード』には,他のナベサダフュージョンでは聴くことができない“命がけのアドリブ”が持つ圧倒的な存在感がある。“命を削る”演奏とは,正に『パーカーズ・ムード』のことを指す!

PARKER'S MOOD-2 実は冒頭に述べた経験をしたのは,正確には数年後のこと。渡辺貞夫を追いかけてパーカーと出会い,そのパーカーとの出会いからアドリブのイロハを学ぶことができた。
 一皮一皮脱皮し,ジャズ好きとして成長するにつれ『パーカーズ・ムード』から“パーカー派”の渡辺貞夫を聴き取れるようになった。

 相当練習したんだろうなぁ。ナベサダが子供の頃は,王,長嶋ではなく,チャーリー・パーカーが“ヒーロー”だったんだろうなぁ。アルト・サックスをキラキラと輝く瞳で見つめている貞夫少年の姿を想像すると,知り合いでもないのに今夜も目頭が熱くなってしまう。

 あ〜あっ。やっぱり読者の皆さんに渡辺貞夫の“偉大さ”を伝えることはできなかった。是非『パーカーズ・ムード』を聴いていただきたい。言葉で伝えられるのは,ただそれっぽっち…。

  01. STELLA BY STARLIGHT
  02. EVERYTHING HAPPENS TO ME
  03. LAMENT
  04. BILL'S BOUNCE
  05. I THOUGHT ABOUT YOU
  06. PARKER'S MOOD
  07. BIRD OF PARADISE
  08. BEAUTIFUL LOVE

(エレクトラ/ELEKTRA 1985年発売/WPCL-10643)

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2009/02/24 追記しました。続きもご覧ください。

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Saya / TIMELESS / PAVANE5

 『TIMELESS』の12曲目は【PAVANE】(以下【亡き王女のためのパヴァーヌ】)。


 【亡き王女のためのパヴァーヌ】を取り上げるジャズメンは皆一様に“繊細な美の追究”に向かう。百戦錬磨のジャズメンでさえ,ついつい創作意欲を駆り立てられるだから,ラヴェルの作曲能力はさすがである。
 
 Sayaも,しっとりと静かなトーンで,耳元でささやくかのように,ピアノで語りかけている。実にソフト・タッチ。正に女性ピアニスト特有のエッセンス! これが魅力的だ!
 管理人も一聴した後,てっきりSayaも“繊細な美の追究”にのめり込んでしまった,と思い込んでしまったものである。

 しかし【亡き王女のためのパヴァーヌ】のハイライトは,お馴染みのテーマを奏でた直後,2分30秒から突然始まるSayaアドリブ! ここでのアドリブがそれまでの曲の表情・雰囲気を一変させている!
 一瞬の“硬質な”ピアノ・タッチを持って,それまでの張りつめた空気感が引き裂かれる。一気に“ジャズ・ピアニストSayaとしての感情が吐露されている。同じフレーズの“あの手この手の表現”が,聴き手の感情さえも揺さぶってくる。
 そう。Sayaの真の狙いは「こっち」! “クール・ビューティ”とはカムフラージュの“ベリー・ホット”。ほらっ,優雅に泳ぐ白鳥も水面下ではバタ足している。一生懸命もがいている。荒川静香の“クール”な演技も屋台骨は“ベリー・ホット”なのである。

 アドリブを終え“正気に戻った”4分0秒からは,何事もなかったかのごとく“涼しい”顔して“繊細な美の追求”に突き進む。そこが見事なコントラスト! 完全なSayaワールド!

SAYA : Piano
JASON LEWIS : Drums
JOHN SHIFFLETT : Bass

Saya / TIMELESS / SIMPLE POEM4

 『TIMELESS』の9曲目は【SIMPLE POEM】(以下【シンプル・ポエム】)。


 “シンプルなピアノの詩”と言う意味の【シンプル・ポエム】だがポエムと言うよりは“ショート・ストーリー”! 印象的なクライマックスへと展開する,悲しい結末…。つかの間の幸福…。

 Sayaピアノ・タッチの特徴は“明瞭かつ豊かな響き”。この豊かな“残響”が【シンプル・ポエム】の内に秘める“悲しみ”を増幅させる。
 「優しく優しく」で始まるシュート・ストーリーも,1分53秒からの「山あり谷あり」〜2分46秒からの「絶頂期での悲劇」を迎えて,再び「優しく優しく」。
 【シンプル・ポエム】にはSayaの“人生観”が表現されている。

SAYA : Piano
JASON MARSALIS : Drums
DAVID PULPHUS : Bass

Saya / TIMELESS / BUTTERFLY4

 『TIMELESS』の8曲目は【BUTTERFLY】(以下【バタフライ】)。


 【バタフライ】を聴くと,いつも“どっぷりと”悲しみに沈み込んでしまう。こんなに“切ない気分”になるのはなぜなのだろう。今にも涙がこぼれ落ちてきそうで,この手の曲はどうも苦手である。

 原因は何となく分かっている。あの“ブツ切れ”のシンセサイザー。いい感じで上がってきてはブツ切れする。その繰り返し。そこへピアノが抑揚を付けて乗っかってくるから,たまったものではない。
 【バタフライ】を聴いているうちに,キース・ジャレットの名言を思い起こした。「私たちは生(誕生)と死の間を生きている」!

 【バタフライ】には,短くとも人生の喜びも表現されている。
 2分20秒から2分45秒までの“駆け足”のピアノは,Sayaの描く“喜びへの昇華”そのものである。

 ただし,すぐにまた,あの悲しみが襲ってくる。以前の何倍にも悲しみを増して…。ああ…。
 この一瞬の喜びのための悲しみなのか,それとも常につきまとう悲しみを乗り越えるための喜びなのか…。ああ…。

SAYA : Piano, Synthesizer

Saya / TIMELESS / CHOPIN IN CARIBBEAN (NOCTURNE OP.9 NO.2)4

 『TIMELESS』の7曲目は【CHOPIN IN CARIBBEAN (NOCTURNE OP.9 NO.2)】(以下【ショパン・イン・カリビアン / ノクターン 第2番 作品9−2】)。


 【ショパン・イン・カリビアン / ノクターン 第2番 作品9−2】は,タイトル通りの“カリビアン”。ショパンが格調高いヨーロッパから南国リゾートへ舞い降りてきた!

 と言っても,ショパンが“羽目を外して”大暴れなどするはずがない? タキシードから水着に着替えての日光浴。
 ショパンを優しく海辺に誘い出したのがSaya。【ノクターン】の原型はそのままに,カリビアンシンセギターを持ち出し“さわやかな風”を送り続ける。うん。そんな感じ。
 時計を気にせず,ゆったりとSayaピアノに身を任せる心地良さが『TIMELESS』である。

 Sayaピアノは,作曲者ショパンに【ノクターン】は“こうやって弾くものよ”と“手ほどき”できるほどの,流ちょうさ。
 4分19秒からのテーマの崩し方,アドリブの展開力こそ,ジャズ・ナンバーへと変貌を遂げた【ノクターン 第2番 作品9−2】の“アナザー・ストーリー”である。 

SAYA : Piano, Synthesizer
PAISLEY : Programming
DAVID PULPHUS : Guitar

Saya / TIMELESS / VIA SPRING3

 『TIMELESS』の6曲目は【VIA SPRING】(以下【ヴィア・スプリング】)。


 【ヴィア・スプリング】は,わずか49秒の小品であるが,何度も繰り返し“マザーグース”似のメロディが登場する。
 そのマザーグースとは【OLD MACDONALD HAD A FARM】(邦題【ゆかいな牧場】)。「一郎さんの牧場で,イーアイ・イーアイ・オー♪」と紹介した方が早いかも?
 一度そう思ってしまってからというもの,オーバーダビングで「一郎さんの牧場で…」が何度も鳴っているようで,もう頭から離れない。特に22秒からのフレーズが分かりやすいと思う。

 マザーグースの特徴が「覚えやすいメロディ,覚えやすいリズム,覚えやすい歌詞」にあるように【ヴィア・スプリング】の特徴も「覚えやすいメロディ,覚えやすいリズム」にある。
 そう。【ヴィア・スプリング】は,ジャズ初心者の耳にも“馴染みやすい”Sayaからの“マザーグース”である。

 あくまでもマザーグースの位置付けゆえ,ジャズ中級者,上級者の耳には?です。あしからず。

SAYA : Synthesizer

Saya / TIMELESS / CLAIR DE LUNE4

 『TIMELESS』の5曲目は【CLAIR DE LUNE】(以下【月の光】)。


 【月の光】は“大人”の気品溢れるジャズ! と言うのは,3人とも決して“自分が”前に出ようとはしていない。それどころか丁寧に,互いに音を重ね合っている。つまりはハーモニー重視,ピアノの“響き”重視の名演である。
 このストレートな狙いが,実に心地良い。“リズミカル”なドビュッシーの名曲が,ゆっくりと管理人の心の中で“時”を刻んでいく…。いい! ← でも,毎日だと物足りなくなるのかなぁ?

 そう述べると,アドリブ好きには“味気なく”思えるかも知れないが,Sayaピアノはいつも以上に大活躍! メイン・テーマ以外のほぼ全編でSaya一流のアドリブが散りばめられている。
 例えば,2分19秒から57秒までのピアノ・ソロは,完全な“Sayaフレーズ”であるが,印象としては“リズム”である。そう。ピアノとリズム隊が“トロトロ”に溶け合っている!
 Sayaアドリブベースドラムを生かすための“自己犠牲的な”アドリブである。

 Sayaのサポートを受けたベースドラムも,決して目立とうとしない。【月の光】からは,日本社会の「譲り合い精神」を感じてしまった。
 そう。【月の光】は,控え目で奥ゆかしい,3人のジャズメンによる“静かに燃えた”ジャズ! やはりSayaは(サンフランシスコに住んでいようと)日本を代表する女性ジャズ・ピアニストである。

SAYA : Piano
JASON LEWIS : Drums
JOHN SHIFFLETT : Bass

Saya / TIMELESS / GYMNOPEDIES NO.13

 『TIMELESS』の4曲目は【GYMNOPEDIE NO.1】(以下【ジムノペディ 第1番】)。


 【ジムノペディ 第1番】は,ご存じ「エリック・サティ」の超有名曲。ジャズ・スタンダードもそうであるが,永遠の名曲と呼ばれるものは,様々なジャンルの様々なアーティストから,ありとあらゆる手法でやり尽くされており,結果,そこで目新しさを発揮するのは並大抵のことではない。

 Sayaの【ジムノペディ 第1番】も,いつもの“軽快な”独自色が出し切れていない。完全に曲の魅力に負けている。
 思うに【ジムノペディ 第1番】に対する愛着が強すぎて,斬新なアレンジを無意識のうちに控えたのでないか? 言うなれば,美しいと思うものには手を触れにくく感じる,あの感覚。

 管理人の結論。ノーマルでフォーマルなプレイは“華麗”だが,ジャズではない。
 1分45秒から始まるピアノ・ソロが“きらびやか”であるだけに,もっともっとSayaワールドへ発展させてほしかった。

SAYA : Piano
JASON LEWIS : Drums
JOHN SHIFFLETT : Bass

Saya / TIMELESS / PIANO SONATA OP.8 NO.25

 『TIMELESS』の3曲目は【PIANO SONATA OP.8 NO.2】(以下【悲愴】)。


 【悲愴】に聴き覚えあり。ビリー・ジョエルの【ディス・ナイト】と思い込み,ライナーノーツに目を落とす。するとこんな解説が…。
 「【悲愴】は,ベートーベン三大ソナタの一つであり,耳が聞こえなくなってきた頃の作品」。この年になって,恥ずかしながら初めて知りました。ベートーベンって“天才”だったんですね。

 しかし管理人にとって,原曲がベートーベンだろうが,ビリー・ジョエルがカバーしていようが,それは全く関係ない。
 【悲愴】はSaya! Sayaのこのトラックが大定番! Sayaの優しいピアノ・タッチが原曲の美しさを最高に昇華させている。

 58秒から始まるピアノ・ソロがいい。流れの中での1分29秒から34秒までのフレーズに涙する。2分9秒からのトーンの変化はバックと溶け合うピアノ・トリオの魅力に溢れている。
 後半の甘く切ないメロディーで,感情を抑えた静かなプレイ。これがたまらなくいい。あそこで甘さを爆発してしまっていたら,ここまで心に残ることはなかったのではないか? あくまでも,しっとりと,しっくりと…。

SAYA : Piano
JASON LEWIS : Drums
JOHN SHIFFLETT : Bass

Saya / TIMELESS / FLOWER WALTZ5

 『TIMELESS』の2曲目は【FLOWER WALTZ】(以下【花のワルツ】)。


 【花のワルツ】は,ハートフォード生命のCMタイアップだったので,聴き覚えのある方もいらっしゃると思う。小林稔侍主演「年金の達人・ほのぼの家族篇」と言えば分かるだろうか?
 あの「ほのぼの」とした感じは,そっくりそのままSayaの音楽世界とつながっている。

 【花のワルツ】は,チャイコフスキー作「くるみ割り人形」の中の一曲。筋金入りの音楽オンチでもない限り,この【花のワルツ】を耳にしたことがあるはずだ。幾人もの名演奏家の幾つもの名トラックを聴いてきたはずなのである。

 それなのにイントロの2音,3音だけで,過去の名演では感じ得なかった“何か”が,今から始まる名演を期待させてくれる“何か”がある。ウキウキ,ワクワク,ルンルン,ランラン。 ← なにも春が近づき,頭がおかしくなったわけではありませんよ。Sayaピアノがそうさせるのです。

 実際,イントロのコロコロ&キラキラとした感じだけでなく,1番だけで説明すれば50秒,59秒,1分8秒,1分17秒と続く例のキメ! このキメがSayaらしい。かわいくも繊細なタッチで,身をとろとろにさせられてしまう。
 全体にはポップなラテンのノリであり,華やかなサウンド。2分8秒からのピアノ・ソロが全速力で一気に駆け上がる。
 とっても“チャーミングな”ジャズ・ピアノである。

SAYA : Piano
JASON LEWIS : Drums
JOHN SHIFFLETT : Bass
CHRIS CAMOZZI : Guitar
MIKE SPIRO : Percussion

Saya / TIMELESS / AIR4

 『TIMELESS』の1曲目は【AIR】(以下【G線上のアリア】)。


 数あるクラシックの名曲の中でも,最もジャズメンに愛されてきた?【G線上のアリア】であるが,Sayaの見事なアレンジにより【G線上のアリア】が“ジャズ・スタンダード”の仲間入りを果たす日が,にわかに現実味を帯びてきたように思う。
 超・硬派のジャズ批評家たちが,このトラックにどのような評価を下すのか,一度,意見してみたいところである。

 Sayaの絶妙な“崩し”はジャズだけが放ち得る緊張感で満ちている。「原曲がクラシックだから…」という理由だけで,素晴らしいアドリブの連続を聴き逃す手はない!
 ここは一旦,ジャズ・ファンとしてのプライドをかなぐり捨てていただきたいし(極上のアドリブを聴き逃したくないと思うのであれば)当然捨てるべきである。

 【G線上のアリア】の聴き所は,38秒からのピアノの入りと2分42秒からのメロディー・ライン。
 【G線上のアリア】で聴かせるSayaアドリブは,聴き手の心を熱くするチャーリー・パーカーソニー・ロリンズのそれではない。自然に身体に染み込んでくる“おとなしめ&控え目”なアドリブである。
 派手なインパクトは感じないが,最近,こうした“癒し系”のアドリブが,ジャズの魅力の一つとして語られてもいいかな,と思っている。

SAYA : Piano
JASON LEWIS : Drums
JOHN SHIFFLETT : Bass

Saya / TIMELESS4

TIMELESS-1 「逆輸入」という言葉がある。「MADE IN JAPAN」が海外で高く評価され,その人気ぶりから我が国でもブレイク,という図式。
 SONYの“WALKMAN”。TOSHIBAの“DynaBook”。TOYOTAの“レクサス”…。数え上げれば,枚挙にいとまがない。

 しかし「MADE IN JAPAN」の逆輸入は,なにも“ハード”に限定されたものではない。“ソフト”例えばミュージシャン!
 倖田來未も全米でまずブレイク。デビューCD【TAKE BACK】はビルボードの “ホットダンスミュージック・マキシシングル・セールスチャート”で堂々の初登場20位を記録している。
 倉木麻衣(Mai−K)の全米デビューCD【BABY I LIKE】も即日ソールドアウト!
 今をときめく歌姫二人も,きっかけは「逆輸入」だったのだ。

 そして,ここに一人の“ピアノの歌姫”がいる。Sayaである。
 Saya斉藤栄弥)も,まずアメリカで認められ,後に日本デビューを果たした「逆輸入」ジャズ・ピアニスト
 Sayaの奏でるジャズ・ピアノは日本人以上に日本人っぽい音を出す。ワビサビ+西洋かぶれ+ジャズ。そこがアメリカでも受け入れられた理由なのだろう。

 『TIMELESS』はSayaのルーツである,クラシックをジャズにアレンジした曲とクラシックの香り漂うオリジナルで固めた,新録音4曲を含むクラシック・ベスト盤! しかし『TIMELESS』のテイストは間違いなく“ジャズそのもの”である。

 昔からジャズとクラシックの融合を目指した多くの駄作が制作されては消えていったが『TIMELESS』はその数少ない成功例! それこそ“アレンジャー”Sayaの成せる技!
 軽やかな8ビートにエレガントなピアノを乗せた温かいタッチがメロディ・ラインの美しさを引き出している。Saya独自の解釈&ハーモニーが原曲を崩しすぎず,それでいてアドリブを随所に織り交ぜた“絶妙のバランス”で聴かせてくれている。

 管理人にとって,こんなに楽しくバッハやベートーベンを聴いたのは実に久しぶりの経験だった。『TIMELESS』と初めて接した時の“心地良さ”に興奮した日のことを今でも覚えている。Sayaの書き出すバッハやベートーベンの楽譜には,最高の一音が,時に加えられ,時に間引きされている。
 『TIMELESS』=PRICELESS!

 無い物ねだりで欲を言えば“ジャズ・ピアニスト”としてのSayaをもっと全面に押し出して,バックとのガチンコ・バトルを聴かせて欲しかったのだが…。

TIMELESS-2 しかし,それでは『TIMELESS』のコンセプトにはそぐわない。そう。『TIMELESS』の聴き所は“天才アレンジャー”としてのSayaにある。
 ここでのSayaはクラシックも弾く“ジャズ・ピアニスト”として“ポップ&キュートな”ジャズの表情で聴かせてくれる。ジャズとクラシック融合の“舵取り役”に徹している。

 野球で言えばキャッチャー。キャッチャーと言えば古田。今年の古田はプレイング・マネージャー。正に『TIMELESS』でのSayaの役所である。
 ん? 城島の方が近いかな? 単身アメリカへ渡った城島であるが,数年後にはSayaのように,ホークスへ「逆輸入」してもらいたいものである。ねっ,孫さん。

PS Sayaファンにとっての『TIMELESS』の真価は,本邦初登場の【VIA SPRING】【CHOPIN IN CARIBBEAN (NOCTURNE OP.9 NO.2)】【BUTTERFLY】収録にある。幻の『DESTINATION FARAWAY』から3曲も聴ける〜。

  01. Air
  02. Flower Walz
  03. Piano Sonata Op.8 No.2
  04. Gymnopedies No.1
  05. Clair de Lune
  06. Via Spring
  07. Chopin In Caribbean
  08. Butterfly
  09. Simple Poem
  10. Prelude
  11. Etude Op.10 No.3
  12. Pavane
  13. Timeless

(ポニーキャニオン/LEAFAGE JAZZ 2005年発売/PCCY-30072)
(ライナーノーツ/Saya)

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SPELLBOUNDSPELLBOUND
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チック・コリア

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イン・ラインIN LINE
ビル・フリゼール

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同じ曲をテイク別に批評してほしい
多くのジャズメンを幅広く批評してほしい
一人のジャズメンを掘り下げて批評してほしい
超有名曲をもらさず批評してほしい
発売直後の新作を批評してほしい
初心者を意識したほんわかサイトにしてほしい
マニアを意識したニッチなサイトにしてほしい
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