アドリブログ 〜JAZZ/FUSION批評〜

ジャズ/フュージョン批評ブログ CD, DVD, ALBUM REVIEW, TRACK REVIEW and more

2016年01月

菊地 成孔 ダブ・セクステット / DUB ORBITS5

DUB ORBITS-1 なるほど。2作目はこう来たかっ!
 「菊地成孔ダブ・セクステット」の2nd『DUB ORBITS』には,前作以上に革新的で過激な「ダブ」が仕掛けられているのだろうが,その全てがスッキリのクリアーな視界の“電化”ハードバップ。
 結果『DUB ORBITS』は,相当に聴きやすい“スクラッチ&ダビー・エフェクト”。全てが上手くいったのだろう。超カッコイイ。

 だ・か・ら『DUB ORBITS批評では「菊地成孔ダブ・セクステット」が使用した最新のデジタル処理の知識については書かないし,書きたくもない。
 書きたいのは,菊地成孔の“鬼才”のみ。カオスと混沌をここまで“まとめ上げた”菊地成孔の“鬼才”は,ウェイン・ショーターばりに「遠くまで見通す音楽の目」にあると思う。理知的な彼だけあって,特に「最終アウトプットの術」を誰よりも知っている。

 様々な要素を詰め込み,こねくり回しているであろう『DUB ORBITS』の立ち位置は,本来なら,もうぐっちゃぐちゃで身動きが取れない“電化”であろうが,聴いた印象としては,理路整然とスムーズに仕分けされた“アコースティック”特有の香りがする。

 そう。『DUB ORBITS』の真実とは「最新のエレクトリックジャズの仮面を被った,生粋のアコースティックジャズ」なのである。

 『DUB ORBITS』における菊地成孔の“鬼才”は「インプロビゼーションの交通整理人」たる役所にある。バッサバッサの仕分け人。
 本来なら“自然発生的”に鳴りだす過激なインプロビゼーションが,バンドの計算通りに「連動」している。ひたすらCOOLに,ぶち切れることなく抽象的にまとめ上げられたテーマが「連動」している。

 そう。その場その場で判断されるアドリブの「出口」が「菊地成孔ダブ・セクステット」には見えている。猛烈な勢いのまま“粉々に砕け散った”スローモーション風に“止まって聴こえる”瞬間こそが美しい。

DUB ORBITS-2 管理人の結論。『DUB ORBITS批評

 『DUB ORBITS』の基本サウンドは,尖がっているのに尖がっていない。これまでの「難解路線」の菊地成孔にはなかった「聴きやすさ」がプラスされてきている。

 菊地成孔が『DUB ORBITS』で投入した「聴きやすさ」のヒントは,例えば,あのハービー・ハンコックも『V.S.O.P.』で体験した,最先端エレクトリックからの“揺り戻し”にあるように思う。

 そう。単なる懐古主義ではなく,時代の進歩に合わせた「アコースティックの新鮮な響き」は,エレクトリックの手法をフィードバックすることから誕生するものなのだ。

 その意味で『DUB ORBITS』は,エレクトリックを“骨の髄までしゃぶり尽くした”菊地成孔だから作ることを許された「スタイリッシュでCOOLな」最良のアコースティック・サウンド! ストレートな“電化”ハードバップの響きが最高にカッコイイ!

  01. (I’ve lost my) Taylor Burton
  02. Koh-I-Nur
  03. Orbits
  04. Despute
  05. Ascent
  06. Monkey Mush Down
  07. Dismissing Lounge From The Limbo

(イーストワークス・エンタティンメント/EWE 2008年発売/EWCD-0154)
(デジパック仕様)

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デイヴ・グルーシン・アンド・フレンズ / ガーシュウィン・コネクション5

THE GERSHWIN CONNECTION-1 「東のボブ・ジェームス」「西のデイヴ・グルーシン」と語られていたように,フュージョン界におけるデイヴ・グルーシンの存在感はとてつもなく大きかった。

 なにせ同じ鍵盤奏者であり“御三家”の一人であるチック・コリアを自己レーベル=GRPの所属アーティストとして“傘下に収めてしまった”という事実。わずか数年のことだったとしても,あのチック・コリアのボスだったという事実。

 管理人は年に数回考える。「東のボブ・ジェームス」「西のデイヴ・グルーシン」のままであれば,現在の「フォープレイ」のピアニストは,ボブ・ジェームスではなくデイヴ・グルーシンが務めていたはずである。

 デイヴ・グルーシンの「フォープレイ」とは可能性のない妄想などではない。そもそもリー・リトナーハービー・メイソンは「西のデイヴ・グルーシン」の盟友であったし,デイヴ・グルーシンには「前歴」がある!

 かつてデイヴ・グルーシンは,チック・コリアのボスであった時代に,チック・コリアに代わって「チック・コリア・エレクトリック・バンド」のピアニストを務めたことがある。
 そう。「デイヴ・グルーシン・アンド・フレンズ」名義の『THE GERSHWIN CONNECTION』(以下『ガーシュウィン・コネクション』)である。

 『ガーシュウィン・コネクション』には,ギターリー・リトナーキーボードドン・グルーシンヴィブラフォンゲイリー・バートンクラリネットエディ・ダニエルズトランペットサル・マーケスドラムソニー・エモリと,超一流の「フレンズ」たちが参加しているのだが,管理人が注目したのは,ピアノチック・コリアベースジョン・パティトゥッチドラムデイブ・ウェックルサックスエリック・マリエンサルの「チック・コリア・エレクトリック・バンド」のメンバー4人。

THE GERSHWIN CONNECTION-2 ズバリ『ガーシュウィン・コネクション』の真実とは「GRPの総帥」としてのデイヴ・グルーシンコネクションが爆発した,言わば『デイヴ・グルーシン・コネクション』。
 そしてその中心にはほぼ全曲に,デイヴ・グルーシンが「チック・コリア・エレクトリック・バンド」をそのまんま借りた「デイヴ・グルーシン・エレクトリック・バンド」の演奏がある。

 『ガーシュウィン・コネクション』における,デイヴ・グルーシンによる“乗っ取り”は大成功。“本家”「エレクトリック・バンド」を凌駕する素晴らしい演奏が続いている。
 ガーシュウィンの原曲の「いいとこどり」なオーバー・アレンジが特徴的なトータル・サウンドがキラキラ系であり,ジョン・パティトゥッチデイブ・ウェックルも見事にデイヴ・グルーシンのトーンをボトムから作り上げている。

 そうしてノリノリで迎えるハイライトの【メドレー:ベス,ユー・イズ・マイ・ウーマン/アイ・ラヴス・ユー・ポーギー】で大泣きさせられてしまう。今の今聴いても感動してしまう。

THE GERSHWIN CONNECTION-3 【メドレー:ベス,ユー・イズ・マイ・ウーマン/アイ・ラヴス・ユー・ポーギー】における,壮大なストリングスと溶け合うデイヴ・グルーシンピアノの音色に関して言えば,チック・コリアだけではなく『THE MELODY AT NIGHT,WITH YOU』収録【アイ・ラヴス・ユー・ポーギー】におけるキース・ジャレットをも凌いでいる,と断言する!

 残る“御三家”の一人であるハービー・ハンコックは『GERSHWIN’S WORLD』で対抗するが,やはり歯が立たず…。
 恐るべし,デイヴ・グルーシンの“御三家”への3連勝! やはりデイヴ・グルーシンは超大物であった!

  01. THAT CERTAIN FEELING
  02. SOON
  03. FASCINATING RHYTHM
  04. PRELUDE II
  05. HOW LONG HAS THIS BEEN GOING ON?
  06. THERE'S A BOAT DAT'S LEAVIN' SOON FOR NEW YORK
  07. MY MAN'S GONE NOW
  08. MAYBE
  09. OUR LOVE IS HERE TO STAY
  10. 'S WONDERFUL
  11. I'VE GOT PLENTY O' NUTHIN'
  12. NICE WORK IF YOU CAN GET IT
  13. MEDLEY: BESS YOU IS MY WOMAN/I LOVES YOU PORGY

(GRP/GRP 1991年発売/MVCR-24)
(スリーブ・ケース仕様/ブックレット付)
(ライナーノーツ/デイヴ・グルーシン,油井正一)

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菊地 成孔 ダブ・セクステット / THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED5

THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED-1 “鬼才”菊地成孔のマルチな活動を追い続けていると,メディアミックスによるメジャーな展開とその胡散臭さから?どんどんジャズから遠ざかっている,と感じていた。
 菊地成孔の新バンド「菊地成孔ダブ・セクステット」は,レコーディング芸術としての「ダブ」がテーマと聴いて,ますますジャズから逃げていく,と感じていた。

 そんな「菊地成孔ダブ・セクステット」のデビュー・アルバムのタイトルが『THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED』ときた。直訳すると「革命はコンピューター化されない」である。
 オオーッ,ついにこの時がやって来た。「菊地成孔ダブ・セクステット」の結成は,菊地成孔による「既存のジャズへの革命宣言」であり「既存のジャズへの挑戦状」であるかのように受け取れた。“衝撃の問題作”が提示されることを期待した。

 しか〜し,そうではなかった。事実は想像の反対であった。菊地成孔が真面目に「ジャズの王道」と向き合っている。菊地成孔が「伝統の再生」へと舵を切ってきている。

 ズバリ「菊地成孔ダブ・セクステット」名義の『THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED』は,事実上,菊地成孔からの「ジャズ回帰宣言」であった。
 オーソドックスでストレートでスタンダードな“電化”ハードバップに,我を忘れて“絶叫”してしまった。スクラッチがリードする超攻撃的なハードバップを久しぶりに聴いた気がしたのだ。

 『THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED』の2曲目【DUB SORCERER】は『SORCERER』の【SORCERER】がネタ元だし,4曲目【PARLA】は『NEFERTITI』の【FALL】がネタ元だし,5曲目【INVOCATION】は『MILES SMILES』の【FOOTPRINTS】+『WATER BABIES』のテーマがネタ元であることはマイルスのマニアであればすぐに分かる。

THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED-2 そう。菊地成孔からアナウンスされた「ダブ・セクステット」の役割モデルは,マイルス・デイビスの第二期“黄金のクインテット”による『E.S.P.』『MILES SMILES』『SORCERER』『NEFERTITI』のスタジオ4部作。

 “電化マイルス”と比較して過小評価されてきた,フル・アコースティックマイルス・デイビスに,デジタル・エフェクトが絡みつき“電化マイルス”に「負けず劣らずの破壊力」を身にまとうことに成功している。
 触媒として“COOL”にコラージュされた「ダブ」がスパイスとして効きまくった,全く新しい“電化ハードバップ”の出現である。『THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED』こそが現在進行形の“モーダル”である。
 正しく「革命はコンピューター化されない」のであった。

 菊地成孔が「21世紀のマイルス・デイビス」を再現するために取った手法は「アウトすること」にある。
 一聴すると“定番で王道な”マイルス・デイビスっぽいのだが,例えば,別々でバラ録りしてコンピュータで編集したり,音をわざとディレイ処理でずらしたり,サンプリングされたタイムラグをループさせたりと,徹底的に“虚構のマイルス・サウンド”を鳴らしている。

THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED-3 そう。「ジャズの王道」を追いかけ続ける菊地成孔が,実際にはジャズからどんどん遠ざかっているように「菊地成孔ダブ・セクステット」が作り上げた“虚構のマイルス”も「ダブ」を重ねれば重ねるほど,実際のマイルス・サウンドから遠ざかってしまっている。
 ただし,管理人は菊地成孔が選択した「アウトする」手法を肯定する。なぜならマイルス・デイビスは基本「破壊王」だったのだから…。

 “ジャズの帝王”マイルス・デイビスは永遠である。「捕まえきれそうで捕まえることのできない」孤高の存在である。
 マイルス・デイビスに近づくにはマイルス・デイビスを聴き続けるしか他に手がない。我慢して背伸びして聴き続けていれば,いつか手が届くようになるのかもしれない…。
 「ダブ」で「アウトすること」を別にすれば…。

PS 「THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED-3」は販促用のポストカードです。

  01. Dub Liz
  02. Dub Sorcerer
  03. AAAL
  04. Parla
  05. Invocation
  06. Caroline Champetier
  07. Susan Sontag
  08. Betty-Go-Round

(イーストワークス・エンタティンメント/EWE 2007年発売/EWCD-0141)
(紙ジャケット仕様)

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デイヴ・グルーシン / シネマジック4

CINEMAGIC-1 『CINEMAGIC』(以下『シネマジック』)とは,デイヴ・グルーシンが以前に手掛けた「映画音楽」を1枚にまとめた“新録音による”ベストサウンド・トラック集。

 『シネマジック』を聴くまでは,デイヴ・グルーシンと来れば『マウンテン・ダンス』然り,リー・リトナー渡辺貞夫絡みのLAフュージョンの“大御所”ピアニストであり,GRPの主催者としての認識であった。
 しかし“新録音された”『シネマジック』の「ファンタジーの世界」に魅了されてからというもの,管理人にとってデイヴ・グルーシンと来れば「映画音楽の人」となった。

 自分の個性を捨て,作りたい音楽表現の発想が制限され,ただただ映画のストーリーを盛り上げるべく“裏に回ったはずの”デイヴ・グルーシンの個性が,俄然“前面へ”と浮かび上がっている。
 そう。デイヴ・グルーシンの有する「叙情性の構築美」を表現する最適なフォーマットが「映画音楽」というわけだ。

 アドリブログでこれまで何度も書いているが,映画は全く見ない管理人であっても,街角で耳にしてきた「黄昏」「天国から来たチャンピオン」「トッツィー」(←「トッツィー」と聞くとどうしてもイタリアはローマのサッカー選手=トッティを連想してしまう)「グーニーズ」「愛すれど心さびしく」「恋におちて」「チャンプ」「コンドル」「リトル・ドラマー・ガール」のサウンド・トラックが,見事にリ・アレンジされて“デイヴ・グルーシンの音楽”として輝いている。

 デイヴ・グルーシンの作ったスコアが「映画音楽」から離れ,デイヴ・グルーシンの“レギュラー・バンド”の手に渡された瞬間,デイヴ・グルーシンピアノシンセサイザードン・グルーシンシンセサイザーリー・リトナーギターエイブ・ラボリエルベースハービー・メイソンドラムトム・スコットソプラノサックステナーサックスアーニー・ワッツテナーサックスエディ・ダニエルズクラリネットマイク・フィッシャーパーカッションエミル・リチャーズパーカッションが,オリジナルサウンド・トラックを上回る「叙情性の構築美」を奏で始める。

CINEMAGIC-2 『シネマジック』を聴いていると,デイヴ・グルーシンの音楽が画面を飛び出し「ファンタジーの世界」を奏で始める。
 1曲1曲の完成度が極めて高く,映画同様,曲が進行するにつれ,徐々にテーマの中に感情が籠って行く過程が楽しめる。
 ハラハラドキドキの連続で展開するサビを迎えたとしても,映画本編がほぼハッピー・エンドで終わるのだから,そのサウンド・トラックシネマジック』に安心して没頭することができる。

 『シネマジック』を聴いていると,もはや映画の主人公はリスナー自身である。人それぞれの人生の節目で流れ出す「悲喜交交」なサウンド・トラックがある。
 『シネマジック』の,時に明るく楽しくコミカルで,時にロマンティックでセンチメンタルな“叙情的なメロディー・ラインとリズムの絶妙な絡み合う美しさ”の“グルーシン・マジック”なのであろう。

  01. ON GOLDEN POND
  02. NEW HAMPSHIRE HORNPIPE
  03. HEAVEN CAN WAIT
  04. AN ACTOR'S LIFE
  05. IT MIGHT BE YOU
  06. FRATELLI CHASE
  07. THE HEART IS A LONELY HUNTER
  08. MOUNTAIN DANCE
  09. LETTING GO (T.J.'S THEME)
  10. THE CHAMP
  11. CONDOR
  12. GOODBYE FOR KATHY
  13. PLO CAMP ENTRANCE
  14. LITTLE DRUMMER GIRL EPILOGUE

(GRP/GRP 1987年発売/VDJ-1089)
(ライナーノーツ/シドニー・ポラック,柳生すみまろ,デイヴ・グルーシン)

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菊地 成孔 / オリジナルサウンドトラック 『パビリオン山椒魚』5

THE PAVILLION “SALAMANDRE” ORIGINAL SOUND TRACK-1 管理人が菊地成孔に“鬼才”を感じたのは『THE PAVILLION“SALAMANDRE”ORIGINAL SOUND TRACK』(以下『オリジナルサウンドトラック『パビリオン山椒魚』』)が最初であった。

 例によって,映画の本編を見ていない管理人にとって『オリジナルサウンドトラック『パビリオン山椒魚』』は,菊地成孔のニュー・アルバムとしての価値しかない。
 全23トラックの菊地成孔の“ショート・ストーリー”が楽しめる。実際にCDを聴くまでは,そう思っていた。

 本来,映画のサウンド・トラックとは,映像と言葉を補う存在である。しかし『オリジナルサウンドトラック『パビリオン山椒魚』』を聞いていると脳裏に映像が浮かんでくる。脳裏にストーリーが浮かんでくる。オダギリジョーと香椎由宇のセリフまで聞こえてくる。
 そう。『オリジナルサウンドトラック『パビリオン山椒魚』』の「雑多ぶり」を耳にして,これはリアルな映像作品である,と思い直すようになったのだ。

 矛盾していると思われそうだが,映画というのは不思議なもので,映像や言葉で伝えられるよりも,音楽で伝えられる方が制作者の意向を抵抗なく受け入れやすい。映像や言葉はその大半が誤解されて伝わっているように思う。

 『オリジナルサウンドトラック『パビリオン山椒魚』』は,映画本編で冨永昌敬が伝えたかった映像を,本編以上に伝えてくる。この明確な映像イメージは間違いなく“鬼才”菊地成孔の手によるものである。
 無論『パビリオン山椒魚』の監督は菊地成孔とは別にいる(冨永昌敬)。
 ゆえに『オリジナルサウンドトラック『パビリオン山椒魚』』は『パビリオン山椒魚』の“メイキング・ビデオ”のようなものだと思う。

 映画のラッシュを見終わって,一気呵成にサウンド・トラックを描いた菊地成孔の脳裏には,完成された映画の本編作品以上にリアリティある『パビリオン山椒魚』の残像が刻まれていたことだろう。

 プロットを無視した『パビリオン山椒魚』の撮影シーンがピースとして組み合わさって,菊地成孔監督の“アナザー・ストーリー”『パビリオン山椒魚』が完成したのである。

THE PAVILLION “SALAMANDRE” ORIGINAL SOUND TRACK-2 エスニックでフレンチでエレクトニカ風の『オリジナルサウンドトラック『パビリオン山椒魚』』から連想する映画『パビリオン山椒魚』とは,日本映画的なフランス映画でバリバリの現代映画。
 この妄想が当たっているかどうかは,映画の本編を見て確かめてみるしかないのだが,その必要性を感じない。

 “鬼才”菊地成孔は,とにかく引き出しの大きいアーティストであった。

  01. CONRAD19 TAKE1
  02. CONRAD19 TAKE2
  03. CONRAD19 TAKE3
  04. OMERTA
  05. HER VISIONARY GYM SUITS
  06. NIGHT AND CRABS
  07. STRANGOLARE
  08. HER INVISIBLE ORANGE TRAINS
  09. FRAU ANNA BERTHA
  10. CAN YOU X-RAY ME?
  11. UN SOUFFLE MERVEILLEUX DE "KINJIRO"
  12. SIGNORA USTINA
  13. LE JAPONAIS DE GRAND PALAIS
  14. MONTE VERITA
  15. HOT-TEMPERED TV, STAMMERING TV
  16. OPIUM DEN IN ROROROROPOPIPONGI
  17. SALVATORE E LA SUA PROPRIA DI RINNOVAMENTO
  18. IL CAMERATA DE "TIERRA DEL FUEGO"
  19. 4 FOR VENDETTA
  20. 1 MILLION YEN WHICH KENNETH COOPER DOESN'T KNOW
  21. DER LUFTBALLONKAMPF
  22. INCREDIBLE SHAMPOO BALLS
  23. KEEP IT A SECRET

(イーストワークス・エンタティンメント/EWE 2006年発売/EWCD 0127)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/菊地成孔,冨永昌敬)

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デイヴ・グルーシン / マウンテン・ダンス5

MOUNTAIN DANCE-1 LAフュージョンの“金字塔”『MOUNTAIN DANCE』(以下『マウンテン・ダンス』)は,デイヴ・グルーシンの施す“緻密で四角四面なサウンド・コラージュ”の賜物である。

 『マウンテン・ダンス』は,恐らく細かく譜面が起こされていて,そこには適当とか,さらリと流すとか,ノリのまかせて,と言うような「ジャズ的でアドリブを自由に弾かせるソロ・パートのない」端整な完全密封書き譜アレンジのパッケージ音楽である。

 そう。『マウンテン・ダンス』は“名曲揃い”のゴールデン・アルバムである。プレイが主役ではなく曲が主役のゴールデン・アルバムである。
 例えば,タイトル・トラックである【MOUNTAIN DANCE】は,後に映画「恋におちて」のサウンド・トラックとして使用されたが,確かに【MOUNTAIN DANCE】聴いていると,演奏しているミュージシャンの姿ではなく,雄大でナチュラルな原色“マウンテン”カラーの風景が脳裏に浮かぶ。そんな「映像系の曲」であろう。

 しかし,それでも管理人は『マウンテン・ダンス』は,ジャズ的なフュージョンだと断言する。それは,譜面に忠実に弾いても自分の個性を出せる,7人の超一流ジャズメンの“演奏力”があってこそ!

 デイヴ・グルーシンピアノエレピジェフ・ミロノフギターマーカス・ミラーベースハービー・メイソンドラムルーベンス・バッシーニパーカッションイアン・アンダーウッドエドワード・ウォルシュシンセサイザーが,譜面通りに進行しつつも,譜面から「1/F」離れて「遊んでる」。

 デイヴ・グルーシンが準備した最高のメロディーを前にして,ジャズメンたるもの「遊ばずにはいられない」。
 尤も,超絶技巧を要するサビもあり,そこは四苦八苦しながらも,間違いなく弾ききる喜びがある。実際には冷や汗もんの高難度のユニゾンなのに,涼しい顔して余裕で弾いているかのようなダマシの演奏に「遊び」がある。

 7人のメンバー全員がテクニックに走らずに,丁寧に美しいメロディーを響かせることだけに集中している。
 ズバリ『マウンテン・ダンス』から感じる“洗練された構築美”は,1つでも失敗したらアルバム全てが終わってしまうかのような「THE END」の「遊び」があるのだ。

MOUNTAIN DANCE-2 “ジャズ・ピアニスト”願望への思いを断ち切れないデイヴ・グルーシンは,自己名義のソロ・アルバムでは,シンセではなくピアノを弾きまくるのだが『マウンテン・ダンス』での「ピアノの遊び」は「ジャズ・ファンク」がテーマである。

 当時はまだ無名の若手であったマーカス・ミラーの超絶チョッパーに,ふくよかなハービー・メイソンドラムが刻む“GROOVE”にノリノリのデイヴ・グルーシンが「ジャズ・ファンク」を「遊んでいる」。

 クラシカルであり,ジャズ・ロックであり,得意の映画音楽風なLAフュージョンの“金字塔”『マウンテン・ダンス』に“ハートを鷲づかみ”されてしまう最大の理由は,デイヴ・グルーシンの胸に秘められている“ジャズ・ピアニスト”への憧れやロマンを感じてしまうからであろう。

 その意味で『マウンテン・ダンス』のハイライトは,世紀の名曲【MOUNTAIN DANCE】でも,リー・リトナーアール・クルーの【CAPTAIN CARIBE】でもなく,リリカルなソロ・ピアノの【THANKSONG】なのであろう。素晴らしい。

  01. RAG-BAG
  02. FRIENDS AND STRANGERS
  03. CITY NIGHTS
  04. RONDO..."IF YOU HOLD OUT YOUR HAND"
  05. MOUNTAIN DANCE
  06. THANKSONG
  07. CAPTAIN CARIBE
  08. EITHER WAY

(ビクター/JVC 1979年発売/VICJ-61032)
(☆XRCD24盤仕様)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)

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UA X 菊地 成孔 / CURE JAZZ4

CURE JAZZ-1 ウォォー! 『CURE JAZZ』を聴いていると,菊地成孔の興奮が伝わってくる。「心技体揃ったシンガー」をついに見つけた,という興奮である。

 共同名義の『CURE JAZZ』で菊地成孔UAとの“疑似恋愛”に励んでいる。UAへの“ラブ・コール”を送り続けている。
 自ら進んで菊地成孔UAのバンド・メンバーに成り下がっている。『CURE JAZZ』は菊地成孔UAによる「対等のコラボレーション」ではない。UAに“惚れてしまった”菊地成孔の「負け戦」の様相を呈している。

 『CURE JAZZ』における菊地成孔テナーサックスによる“雄叫び”は「みんなUAを聴け!」の合図に徹している。
 全てをお膳立てしてUAヴォーカルに「毒を盛ってゆく」サウンドが,実にJAZZY。UAって,こんなにJAZZYなヴォーカリストだったんだ!

 菊地成孔の「みんなUAを聴け!」の大攻勢に,管理人にも菊地成孔の発する“UA愛”が伝染してしまった。“歌姫”UAに“首ったけ”〜!

 UAが歌えば,それだけで音場がジャズになる! ただただUAのあの声が聴きたい! UAの堂々たる歌いっぷりを無性に聴きたくなる! これって一種の中毒症状のようなものであろう。

 UAJAZZYなヴォーカルが“手垢のついた”ジャズスタンダードUA色に染めていく。
 リスナーは,ジャズスタンダードがみるみる“UAに呑み込まれていく”過程を聴くことができる。楽曲の持つ空気感に真空と呼吸の両方を与え,時には押し広げ,時には深く沈み込む。
 そして湖面に浮かび上がってきた時には,元々UAオリジナルであったかのような錯覚を覚えることになる。UAの類まれな浸透力・調和力は,自らが望めば何にでも変貌してしまうような脅威を覚えさせるに十分である。

 静けさの中,俯瞰や,微笑,様々な心象風景を水墨画のような濃淡の筆遣いで描き切ってしまう“歌姫”UAを賛美するだけのテナーサックスを置き,菊地成孔がついに本格的なヴォーカルまで披露してしまった。
 無理もなかろう。UAは“魔物”なのだから…。

CURE JAZZ-2 そう。『CURE JAZZ』のメロディーの中心にはいつでもUAが存在している。
 『CURE JAZZ』のリズムの中心にはいつでもUAが存在している。
 こんなUA菊地成孔は,そして管理人は負けてしまった。負けるべくして負けてしまっただけである。

 【OVER THE RAINBOW】の詠唱による刻みからの「高音一発」な,5分過ぎからの圧倒的にダイナミックな表現力に“のたうち回ってしまう”。
 【ORDINARY FOOL】の「可憐さ」には,全てを投げ出し“泣いてしまいたくなる”。

  01. Born to be blue
  02. Night in Tunisia
  03. Over the rainbow
  04. Music on the planet where dawn never breaks
  05. Ordinary fool
  06. 嘆息的泡
  07. This city is too jazzy to be in love
  08. Luiza
  09. Honeys and scorpions
  10. Hymn of Lambarene
  11. I'll be seeing you
  12. Nature d'eau

(ビクター/JVC 2006年発売/VICL-61957)
(ライナーノーツ/菊地成孔)

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クリス・ミン・ドーキー / 夢風景4

SCENES FROM A DREAM-1 サイレント・ベースの名手たるもの,アコースティックベースの良さもエレクトリックベースの良さも知り尽くしているはずである。

 クリス・ミン・ドーキーが『SCENES FROM A DREAM』(以下『夢風景』)で選択したのは,得意の「エレアコ」ではなくウッドベース1本。
 『夢風景』の「ロマンティックで,ポエティックで,ときにちょっぴりメランコティックな儚さの美しさ」を表現するには,重厚で繊細なストリングスが必要である。そして重厚で繊細なストリングスと調和させる弦楽器は,ウッドベース“一択”が正解なのである。

 そう。『夢風景』におけるクリス・ミン・ドーキーの狙いは,ウッドベースの持つ“荘厳さ”であろう。
 リリカルにシンクロするウッドベースストリングスが織り成す『夢風景』でのスローバラードは,クリス・ミン・ドーキーの故郷である「北欧の冷たい空気感」を表現するに最適な組み合わせであろう。

 『夢風景』のハイライトは,クリス・ミン・ドーキーFEATURINGヴィンス・メンドーサ・WITH・ザ・メトロポール・オルケストによる“音の漆塗り”にこそある。

SCENES FROM A DREAM-2 クリス・ミン・ドーキーが,一音一音をいとおしむようにウッドベースを奏でれば,瞬時に呼応し,上塗りしてくるストリングスの美しい調べは「クリス・ミン・ドーキーのDNAの音」している。
 ズバリ,ストリングスの“柔らかくクリスタルな音色”には「クリス・ミン・ドーキーの魂の音」が宿っている。

 大編成のドラマーを務めさせたら,今や「世界一」であろうピーター・アースキンドラミングに説得されてしまう。
 普段はオルガニストであるラリー・ゴールディングスの“COOLな”ピアノにぶっ飛ぶのも,これまた一興である。

 クリス・ミン・ドーキーの見た北欧の『夢風景』とは,元禄文化の『夢風景』に見られた“原風景の叙情詩”なのである。

  01. THE COST OF LIVING
  02. ARTHOS II
  03. FRED HVILER OVER LAND OG BY
  04. RAIN
  05. ALL IS PEACE/RU CON MIEN BAC
  06. VIENNA WOULD
  07. I SKOVENS DYBE STILLE RO
  08. JULIO AND ROMIET
  09. DEAR MOM
  10. ROMANZA

(ビデオアーツ/RED DOT MUSIC 2010年発売/VACM-1422)
(ライナーノーツ/工藤由美)

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菊地 成孔 / 南米のエリザベス・テイラー4

ELIZABETH TAYLOR EN AMERIQUE DU SUD-1 「本職不詳な」菊地成孔である。一応,菊地成孔の本業は,ミュージシャンでありテナーサックス・プレイヤーであり音楽プロデューサーであるのだが,個人的には文筆業にこそ「歯に衣着せぬ」言葉の圧力に「菊地成孔ここに有り」と思わせてくれる。

 ズバリ,菊地成孔の個性とは「理性と感情のバランスの崩壊」にあると思う。1つ1つは大したことはないのだが,あの勢いで音楽にしても文章にしても,自分の思いをストレートに語られると見過ごすことができないのだ。

 菊地成孔の人格のベースには理性がある。菊地成孔の語る言葉は,常に高尚であり知性的なアプローチが試みられている。しかし最後の最後,いざ,口元から言葉が発せられる瞬間に,それまでは理路整然と構築されていたものが,どうしても何度やっても,野性的で感情的な表現に置き換えられる人種の人なのだろう。

 自分自身でも「理性と感情のバランス」をコントロールできていない。口元で全てが崩壊してしまう。無論,失言が多い。しかし,よくよく振り返ってみると,至って普通のことを述べている常識人としての一面にも気付く。
 菊地成孔は“感情に素直な人”なのだろう。誤解されやすい“江戸っ子”気質なのだろう。

 そんな菊地成孔の個性=“理性で構築され,感情優先で表現された”代表作が『ELIZABETH TAYLOR EN AMERIQUE DU SUD』(以下『南米のエリザベス・テイラー』)である。
 イギリス王室の「伝統と格式」と見事に調和する,場違いなラテンの熱いリズム,タンゴもあればサルサもある。正しく『南米のエリザベス・テイラー』と題されるべき音楽の完成である。

 恋多き人生を過ごしたエリザベス・テイラーの“サウンド・トラック”ともいうべき「官能と憂鬱」を繰り返す音楽。勢いとヘタウマが多面的に表現された,菊地成孔にしか作り得ない「ラウンジ・ミュージック」の完成である。
 ブエノスアイレスの,パリの,そして東京の空気感がたっぷりと詰め込められているように思う。

 濃密な無調。作曲と即興。平均律とモノタイム。懐古と革新。そんなインテリな表現を包み込む“退廃的に響く”熱いパーカッションとポリリズムがジャズとクラシックの2つのフォーマットで鳴っている。
 いいや,ジャズをもクラシックをも飛び越えたポップスの音が鳴っている。菊地成孔有する「病的な多面性」が断片的に連続して飛び出している。

ELIZABETH TAYLOR EN AMERIQUE DU SUD-2 艶のあるストリングス,躍動するリズム,バンドネオンテナーサックスがリードする『南米のエリザベス・テイラー』の「倒錯した合奏」は,集団舞踏を思わす性的な昂ぶりと静まりである。
 まるで安いキャバレーの下品なショーを見ている時のような感覚…。見たくてたまらなかったエロスなのに,そんなことどうでもよくて,時間の経過と共に徐々に意識が遠のいていくような…。

 一体,我々リスナーは『南米のエリザベス・テイラー』をどう受け止めればよいのだろうか?
 正直,管理人は当初『南米のエリザベス・テイラー』にひどく困惑させられてしまった。菊地成孔を哀れんだことを白状して謝罪しよう。

 飲みすぎて胃を裏返すほどに吐いて,頭は酩酊をとどめているのに,身体は一足先にすっきりしているときのような…。あるいは一晩中踊って明け方の薄青の中を地下鉄の駅に向けて,鈍重な体にそれと裏腹に風通しのよい頭を乗せて歩いているときのような…。

 そう。「理性と感情」であり「官能と憂鬱」である。
 『南米のエリザベス・テイラー』からは,ばらばらに存在する「相反する要素」が同時に顔を出し,それらに引き裂かれるときの「苦痛と快楽の喘ぎ」を再現した音が聴こえてくる。

  01. Lounge Time #1
  02. Nocturne for Machiko Kyo
  03. The Look of Love
  04. Jorge Luis Borges
  05. Elizabeth Taylor a Paris (qui n'a jamais existe)
  06. The Latina Elizabeth Taylor
  07. Lounge Time #2
  08. Lounge Time #3
  09. Corcovado
  10. The Funeral of Lupe Velez
  11. Crazy He Calls Me
  12. Song of The Latina Elizabeth Taylor

(イーストワークス・エンタティンメント/EWE 2005年発売/EWCD-0104)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/菊地成孔)

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クリス・ミン・ドーキー / ザ・ノマド・ダイアリーズ5

THE NOMAD DIARIES-1 管理人とクリス・ミン・ドーキーとの出会いは,愛する増崎孝司の紹介から始まった。DIMENSIONの『20 −NEWISH−』である。

 『20 −NEWISH−』は,名盤揃いのDIMENSIONの中にあって,格段に評価が落ちる。その原因はベースクリス・ミン・ドーキードラムライオネル・コーデューの大物外国人リズム隊にある。そう思っていた!

 しかし,どうしても心の奥で“何かが引っ掛かる”クリス・ミン・ドーキーベース。迷盤?『20 −NEWISH−』の真意を確かめるべく購入してみた『THE NOMADO DIARIES』(以下『ザ・ノマド・ダイアリーズ』)にビックリ!
 クリス・ミン・ドーキー最高! 増崎孝司よ,クリス・ミン・ドーキーを紹介してくれて,ありがとう!

 ズバリ『IMPRESSIONS』『MY RULE』『20 −NEWISH−』と続いた「音の万華鏡」期のDIMENSIONに必要なベーシストは,クリス・ミン・ドーキーの他にいなかったと思い知らされた。増崎孝司のチョイスに狂いはなかったのだ。

 クラブ・ジャズとは一線を画する『ザ・ノマド・ダイアリーズ』の“電化ジャズ”のハイセンス! 管理人が初めて聴いたクリス・ミン・ドーキーというベーシストは,ベーシスト版のフィリップ・セスのようであった。
 クリス・ミン・ドーキーの紹介として,ちょくちょくジャコ・パストリアスが引き合いに出される意味がよ〜く分かった。

 『ザ・ノマド・ダイアリーズ』の“電化ジャズ”の主役は,クリス・ミン・ドーキープレイズ・サイレント・ベースである。
 「MIDIでエフェクトとされ,ディストーションされた」サイレント・ベースが,あたかもギターであるかのようにメロディアスにリズムと絡んでいく!

 そう。クリス・ミン・ドーキーのサブネームとは“アコースティックベーシストジャコ・パストリアス”。
 ジャコ・パストリアスフレットレスベースで革新を起こしたとすれば,クリス・ミン・ドーキーはサイレント・ベースで革新を起こしている。
 「アコースティックでもエレクトリックでもない新しいエレアコ」の世界で奏でられる“電化ジャズ”が最高なのである。

THE NOMAD DIARIES-2 基本打ち込みである『ザ・ノマド・ダイアリーズ』なのだが,印象としてはスローからミディアム・テンプの楽曲が続くことから“モロ・アコースティック”なヒューマン・サウンドを実感する。

 この点がクリス・ミン・ドーキーの目指した「アコースティックでもエレクトリックでもない新しいエレアコ」の成果であり,クラブ・ジャズの一言では“片付けられない”無機質なのに温かい『ザ・ノマド・ダイアリーズ』の成果である。

 クリス・ミン・ドーキーのサイレント・ベースに導かれ,テナーサックスEWIマイケル・ブレッカートランペットランディ・ブレッカーギターマイク・スターン,そして“あの”坂本龍一までがピアノで「静かなのにカラフルな」美メロを“紡ぎ上げている”。「心に沁み渡る演奏」とはこんな演奏のことを指すのであろう。
 マイケル・ブレッカーのラスト・レコーディングが『ザ・ノマド・ダイアリーズ』のハイセンスで良かった。悲しいけれど…。

 とにもかくにもクリス・ミン・ドーキーのロマンティックな感性にメロメロで一気にドハマリ。『ザ・ノマド・ダイアリーズ』がマイケル・ブレッカーのラスト・レコーディングという事実にもドハマリ。

 「新しいエレアコ」のクリス・ミン・ドーキー。またDIMENSIONベース弾いてくれないかなぁ。

  01. September (for Tanja)
  02. Last Call
  03. If I Run
  04. Blog:Tracking
  05. Satellite
  06. Blog:Frida + Milo
  07. The Scanner
  08. Blog:Rise + Shine
  09. Life In The Mirror
  10. Where R U?
  11. I Skovens Dybe Stille Ro
  12. Blog:neon
  13. Teen Town
  14. Blog:display

(ブルーノート/BLUE NOTE 2006年発売/TOCJ-66370)
(ライナーノーツ/工藤由美)

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菊地 成孔 X コンボピアノ / 10ミニッツ・オールダー4

10 MINUTES OLDER-1 管理人は映画はほとんど見ていない。シリーズで見ているのは「スター・ウォーズ」ぐらいである。理由は映画一本見る時間があればCD3枚聴けるから!

 ゆえにジャズ関連のサウンド・トラックを聴く場合の法則は「映像は見ていない→あらすじを読んで勝手に自分だけのスト−リーを想像する→サウンド・トラックを聴いて感動の場面をあれこれ妄想して完結する」の流れ。

 そもそも個人的には,映画のサウンド・トラックは,映画を見ていない人の方が自由に楽しめると思っている。映像を目にするとダメだ。もはや脳内には映画制作者によって植え付けられた固定観念が邪魔してイメージが発展しない。
 一般的には,映像を目にしないのは「弱み」であろうが,映像を目にしないことには「強み」もあると思っている。

 菊地成孔コンボピアノ名義の渡邊琢磨コラボレーションによるサウンド・トラック10 MINUTES OLDER』(以下『10ミニッツ・オールダー』)を聴いてみてほしい。映像を目にしない「強み」がビンビンに感じられるはずだから…。

 『10ミニッツ・オールダー』とは,アキ・カウリスマキビクトル・エリセヴェルナー・ヘルツォークジム・ジャームッシュヴィム・ヴェンダーズスパイク・リーチェン・カイコーベルナルド・ベルトルッチマイク・フィギスイジー・メンツェルイシュトヴァン・サボークレール・ドゥニフォルカー・シュレンドルフマイケル・ラドフォードジャン=リュック・ゴダールという,いわゆる非ハリウッド系の巨匠監督15人による,制限時間『10ミニッツ』の短編映画のオムニバス集。

 映画を見ない管理人は,この中でスパイク・リーしかしらない。スパイク・リーの名前を知っているのもブランフォード・マルサリスサウンド・トラックMUSIC FROM MO’ BETTER BLUES』があったから!

 でもいいんです。全く名前も知らないし予備知識もイメージもない状態で聴いた『10ミニッツ・オールダー』が最高に楽しめたのだから,いいんです。
 短編15本の内訳は,コンボピアノが7本で菊地成孔が8本。『10ミニッツ・オールダー』は,菊地成孔コンボピアノコラボレーションでもなんでもない,別々の共同作業のカップリングゆえ,渡邊琢磨サイド,菊地成孔サイドにそれぞれの人脈が繋がっている。

 POPな渡邊琢磨サイドには鈴木正人が参加。JAZZYな菊地成孔サイドには南博坪口昌恭菊池雅晃が参加しているゆえ,概ね,既存の2人のイメージ通りな演奏が展開されていると思う。

 しかし『10ミニッツ・オールダー』が特筆されるべきは,元ネタの“映像10分間の短編縛り”が,サウンド・トラックにも“短編縛り”の影響を及ぼしていることにある。

10 MINUTES OLDER-2 長尺なソロなしという“縛り”から来た,一音で訴えるだけの“インパクト”がある。映像一発のインスピレーションが素直に楽曲に表現されている。音楽そのものの勢いが,今まで以上に“フレッシュ”なのである。

 ゆえに『10ミニッツ・オールダー』のイメージは明確だ。音を聴いただけなのに映像のイメージが明確に浮かび上がってくる。サウンド・トラックを聴いただけなのに,気分の上では『10ミニッツ・オールダー』の映像をすでに鑑賞した気分である。

 15作品で一番良いと思えたのはアキ・カウリスマキ作の「結婚は10分で決める」だろうか? それくらいに鈴木正人ベースが最高〜! まだ見たことはないけれども…。
 15作品で一番悪いと思えたのはジャン=リュック・ゴダール作の「時間の闇の中で」だろうか? それくらいに男女のナレーションだけの繰り返しが意味不明!?まだ見たことはないけれども…。

PS 菊地成孔ファンは『10ミニッツ・オールダー』を異色盤として無視すべきではない。絶対にフォローすべき。【ADDICTED TO THE STARS<<OVER THE RAINBOW】を聴けば,あのコラボレーションの秘密にピンと来るはずです。  

  <<COMBO PIANO>>
  01. TEN THOUSAND YEARS OLDER
  02. 100 FLOWERS HIDDEN DEEP
  03. WE WUZ ROBBED
  04. INT. TRAILER. NIGHT
  05. TWELVE MILES TO TRONA
  06. LIFELINE
  07. DOGS HAVE NO HELL

  <<NARUYOSHI KIKUCHI>>
  08. ABOUT TIME 2 [spielplatz eins]
  09. ONE MOMENT [orchid]
  10. THE ENLIGHTMENT [una commedia musicale]
  11. HISTOIRE D'EAUX Comment [puis-je me rendre a la jardin
     botanique?]

  12. DANS LE NOIR DU TEMPS [about time]
  13. TEN MINUTES [AFTER parla]
  14. ADDICTED TO [THE STARS over the rainbow]
  15. VERS NANCY [spielplatz zwei]

(イーストワークス・エンタティンメント/EWE 2003年発売/EWSY 005)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/菊地成孔,渡邊琢磨)

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デイヴ・ブルーベック・カルテット / タイム・アウト5

TIME OUT-1 ジャズの場合,代名詞である4ビートと2ビート以外の演奏を「タイム・アウト」(変拍子)と呼んでいる。
 変拍子は聴いて面白いだけではない。特に変拍子の中に複雑なキメまで入ってくると,聴く方にも,自然と力が入る,ものであろう。

 変拍子を楽しむにはそれなりのパワーを要する。聞き流す音楽に変拍子は向いていない。変拍子をリラックスして楽しむには,キャッチーなメロディーがどうしても必要だ。
 めくるめく変拍子とポップなメロディ・ラインが見事に調和したデイヴ・ブルーベックの歴史的な名盤TIME OUT』(以下『タイム・アウト』)のような…。

 『タイム・アウト』とは「変拍子ばかりを集めたアルバム」であるが,世間的には【TAKE FIVE】を収録したアルバムと言った方が通りがよい。
 そう。『タイム・アウト』を批評する行為とは【TAKE FIVE】を批評する行為のことなのである。

 ズバリ,山中千尋が「新聞紙・しんぶんし」と紹介した,ジャズ史上,最も有名な5拍子ナンバー【TAKE FIVE】!
 恐らく世界中で【TAKE FIVE】という曲名は知らずとも,聴いたら知ってる率「NO.1」なジャズ・ナンバー!? それくらい,一度聴いただけで鼻歌を歌えるようなキャッチーさがある。

 あたかもベーシストドラマーがするのと同じように,デイヴ・ブルーベックピアノで5拍子を刻んでいくのだが,重量感あふれるブロック・コードから叩き鳴らされた5拍子は,他の5拍子とは異なる「デイヴ・ブルーベック独特の5拍子」であって,スキップしていく感じ。
 そう。【TAKE FIVE】は,独特のユーモラスなズレを伴う魅惑の5拍子! こんな5拍子なら「理屈抜きに」誰だってノレル!

 【TAKE FIVE】のスイング担当は,ベースジーン・ライトドラムジョー・モレロ
 ピチカートで“スイングを生み出す”ジーン・ライトをよそ目に,ジョー・モレロは正確なビートとスリル満点な即興で“ハイライトを生み出す”技ありのドラミング

 中盤のブレイクとして,長めのドラムソロを叩くジョー・モレロが「変拍子への敷居」を下げることに成功している。淡々と地味にドラムが鳴っているのだが,あのドラムソロだけで「物語を綴っていく」。
 ジョー・モレロの音楽的なドラミングが,ズレを楽しむ【TAKE FIVE】に彩りを加えている。

TIME OUT-2 そんなデイヴ・ブルーベックの「緩急自在なリズム・セクション」の上に乗せられた【TAKE FIVE】の主役=ポール・デスモンドの“COOLな清涼感”が予想以上に「タイム・アウト」に馴染んでいる。
 しゃがれがちでどもりがちながらも,乾いた音色に似つかない,小気味のよい“音符が流れ落ちてくるようなフレージング”が「タイム・アウト」とマッチしている。

 ポール・デスモンドアルトサックスが最高に“コケティッシュ”! 頑固で口数の多い辛口のフレージングながらも“知的でウィットに富んだ”ブロウが最高!
 そう。ポール・デスモンドの成功の秘訣は“抑制”である。ポール・デスモンドの無駄の無いインプロヴィゼーションが他を寄せ付けない洗練されたモダンな雰囲気に【TAKE FIVE】を仕立て上げている。

 管理人はまるで「禁断症状」であるかのように,無性にポール・デスモンドを聴きたくなる時があるのだが,そんな時は大抵『タイム・アウト』の【TAKE FIVE】を聴いている。大名演である。

  01. BLUE RONDO A LA TURK
  02. STRANGE MEADOW LARK
  03. TAKE FIVE
  04. THREE TO GET READY
  05. KATHY'S WALTZ
  06. EVERYBODY'S JUMPIN'
  07. PICK UP STICKS

(CBSソニー/CBS SONY 1959年発売/SRCS-9631)
(ライナーノーツ/中川ヨウ)

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佐山 雅弘 / HYMN FOR NOBODY4

HYMN FOR NOBODY-1 『HYMN FOR NOBODY』の佐山雅弘は「PRISM」と「PONTA BOX」でキーボードを弾いていた佐山雅弘ではない。

 ズバリ『HYMN FOR NOBODY』における佐山雅弘は,ジャズフュージョンの境界を越えた“引き出しの広いジャズピアニスト”である。

 『HYMN FOR NOBODY』は,全12曲のうち,6曲がソロ・ピアノ+6曲がゲストとのデュオという構図。
 『HYMN FOR NOBODY』を聴いた感想は,実に優しいジャズピアノである,ということ。喉にスーッと。

 ジャズスタンダードカヴァーしても,ホスト役に徹しても,佐山雅弘が常に優しいメロディーを紡いでいる。
 ピアノ1台で全てを優しく包み込んでしまう,佐山雅弘の“とてつもない愛情”を感じてしまう。

 作詩:忌野清志朗,作曲:佐山雅弘による,タイトル・トラック【HYMN FOR NOBODY】。
 忌野清志朗の声が「ピュア・アコースティックのゆらぎ」。佐山雅弘ピアノが「ピュア・アコースティックのゆらぎ」。

HYMN FOR NOBODY-2 愛してることさえ 忘れてしまうほど
 日常の中でいつも 君が好きさ

 限りある生命が やがて幕を閉じても
 永遠の夢のように 君に夢中さ

  01. IN THE WEE SMALL HOURS(OF THE MORNING)
  02. KEW'S JAVA
  03. SAYA-MAMBO
  04. INFINITE HOPE
  05. TEARS OF NATURE
  06. GIANT STEPS
  07. OBJECT DANCING
  08. DONNA LEE
  09. HTMN TO FREEDOM
  10. TOUGH
  11. WHO KNOWS?〜MAZURKA MONGOLIAN
  12. HYMN FOR NOBODY

(ビクター/JVC 1995年発売/VICJ-210)

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