
この2枚の性格は異なる。『フロム・ガガーリンズ・ポイント・オブ・ヴュー』は,すんなりと受け入れることが出来た。『ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ』以前の「未知のジャズ・ピアノ」として,例えるなら「スター・ウォーズ」の「エピソード4」から楽しむ「エピソード1・2・3」の気分がしたものだ。
一方の『グッド・モーニング・スージー・ソーホー』が引っ掛かる。キャッチーなメロディー・ラインは【GOOD MORNING SUSIE SOHO】と【SPAM−BOO−LIMBO】ぐらいであるが,聴き終わった後にもう一度再生ボタンを押したくなる。そんな空気感のアルバムだった。
『グッド・モーニング・スージー・ソーホー』を聴いていると「静と動」が交互に押し寄せてくるのを感じる。気分が上がってそのまま激しく突っ走ってほしいところで,抑え目で少しダークな世界観が浮かび上がってくる。
これがクラシック大国に囲まれた「北欧ジャズ」の特徴なのだろうが,澄んだ空気の曇り空のような音風景…。
そう。『グッド・モーニング・スージー・ソーホー』で初体験した不思議サウンド。カラフルで万華鏡のようで,エモーショナルでアグレッシヴで,詩的で繊細にしてダーク…。そんな相反するような言葉のどれもが当てはまる不思議サウンド…。
いつしか,大人しめで落ち着いたサウンドの『グッド・モーニング・スージー・ソーホー』を一日に一度は聴かないとこちらが落ち着かなくなってしまった。
ヨーロピアン・ジャズならではの耽美的なメロディーを紡ぎながらも,ドラムンベースのグルーヴ感を強調し,エフェクターを効果的に駆使した「プログレッシヴなピアノ・トリオ」が『グッド・モーニング・スージー・ソーホー』の中で鳴っていたのだった。
この時点ではまだ大声では言えなかったが『グッド・モーニング・スージー・ソーホー』のサウンド・メイキングは真に「ジャズ・ピアノの革命の1枚」で間違いない。

控え目にエフェクトを使用し音色面での幅の広さをベースに,音楽性そのものも雑多なジャンルを消化・吸収し,自分たちの陰影あるカラーで再構築してアウトプットしてみせる。「ロックするピアノ・トリオ」が完成されている。
こう書きながらも「e.s.t.」の軸足は,いかにも白人的な音楽性というか「北欧ジャズ」らしい純粋培養な美しさで満ちている。
基本的にはアコースティックで美しく,エレクトロニックで装飾し,時にラジカルでアグレッシブになるが,それこそ今息づいている“ジャズ表現そのもの”なのである。
ジャズの中でユニークな開拓をやってのけるのは並大抵の事ではない。その大仕事を北欧スウェーデンの3人の若者たち,ピアノのエスビョルン・スヴェンソン,ベースのダン・ベルグルンド,ドラムのマグヌス・オストラムがやってのけたのだ。
「e.s.t.」の挑戦的な姿勢が素晴らしい。洗練されているのにそれでも相当に斬新なのだ。「e.s.t.」の独創的な創造性は称賛に値すると管理人は思う。
01. SOMEWHERE ELSE BEFORE
02. DO THE JANGLE
03. SERENITY
04. THE WRAITH
05. LAST LETTER FROM LITHUANIA
06. GOOD MORNING SUSIE SOHO
07. PROVIDENCE
08. PAVANE - THOUGHTS OF A SEPTUAGENARIAN
09. SPAM-BOO-LIMBO
10. THE FACE OF LOVE
11. REMINISCENCE OF A SOUL〜(Hidden Track) UNTITLED
(ソニー/SUPER STUDIO GUL 2000年発売/SICP-349)
(ライナーノーツ/青木啓)
(ライナーノーツ/青木啓)