アドリブログ 〜JAZZ/FUSION批評〜

ジャズ/フュージョン批評ブログ CD, DVD, ALBUM REVIEW, TRACK REVIEW and more

2017年11月

e.s.t. (エスビョルン・スヴェンソン・トリオ) / ライヴ・イン・ハンブルク5

LIVE IN HAMBURG-1 「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)」の2枚の公式ライブ盤のお話。
 『E.S.T. LIVE』が『TRAVELS』なら『LIVE IN HAMBURG』(以下『ライヴ・イン・ハンブルク』)は『THE ROAD TO YOU − RECORDED LIVE IN EUROPE』である。

 おおっと「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)批評に,突然,パット・メセニーの名前が登場してきたが,今まで書かなかったことをお詫びする。
 「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)」を絶賛してきたのは管理人の“フェイバリットキース・ジャレットだけではない。管理人もう1人の“フェイバリットパット・メセニーも「e.s.t.」を絶賛し,実際に共演し,DVDまでリリースしている。

 そもそも「先進的音楽の求道者」としてエスビョルン・スヴェンソンパット・メセニーに共通点を感じていたが「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)」と「パット・メセニーグループPMG)」が,目指す方向性においても表現する手法においても,ついに『ライヴ・イン・ハンブルク』でシンクロしたように思う。

 『ライヴ・イン・ハンブルク』とは『TUESDAY WONDERLAND』のフォロー・ツアーライブ盤なのだが,偶然にも元ネタである『TUESDAY WONDERLAND』のCD帯にはパット・メセニーからの「過去15年間で見たバンドで一番エキサイティングだ」との推薦文が載せられている。

 これって偶然ではない。数年前からエスビョルン・スヴェンソンとすでにシンクロしていたパット・メセニー。そのパット・メセニーの体験が『TUESDAY WONDERLAND』でのエキサイティングなツアーを予見した。
 そしてその推薦文はそのまま『ライヴ・イン・ハンブルク』に当てはまると思う。

 そう。パット・メセニーは『TUESDAY WONDERLAND』の「e.s.t.」に『THE ROAD TO YOU − RECORDED LIVE IN EUROPE』当時の「PMG」を思い重ねていたように思う。パット・メセニー最大のイケイケの絶頂期で,創造性が漲り,何を演っても上手くゆく。大観衆が熱狂する。
 『THE ROAD TO YOU − RECORDED LIVE IN EUROPE』はヨーロッパ・ツアー。「e.s.t.」はヨーロッピアン・ジャズ

 個人的に大好きなのはECMの美しいパット・メセニー。“最高傑作”はノンサッチの『THE WAY UP』のパット・メセニー
 でっ,超人気盤揃いの「ゲフィンは下品」なのだが,あの下品さが“青春のパット・メセニー”に違いない。聴いていて楽しい。

 だ・か・ら『E.S.T. LIVE』が『TRAVELS』。『LIVE IN HAMBURG』が『THE ROAD TO YOU − RECORDED LIVE IN EUROPE』って訳なのだ。
 【DOLORES IN A SHOESTAND】が【BETTER DAYS AHEAD】に対応し【GOLDWRAP】が【THIRD WIND】に対応するのも『LIVE IN HAMBURG』が『THE ROAD TO YOU − RECORDED LIVE IN EUROPE』って訳なのだ。

LIVE IN HAMBURG-2 それにしても『TUESDAY WONDERLAND』と『ライヴ・イン・ハンブルク』では,同じ曲が演奏されているのに印象がかなり異なっている。
 スタジオ盤では陰陽で言えば「陰」の部分が出ているが,ライブ盤では観客の盛り上がりと共に「陽」の部分が光り輝きCD以上の楽曲へと昇華させている。素晴らしい。

 お得意の「電化ジャズ」も増し増しの盛り盛りで,ヘッドフォンで電子音を追い続けているとあっちの世界へ連れ去られそうに感じてしまう。最高のテクノ・ポップである。スタジオ盤とは異なるベクトルの莫大なエネルギーが流れている。
 本来,ピアノエスビョルン・スヴェンソンベースダン・ベルグルンドドラムマグヌス・オストラムは“超絶技巧”のジャズメン。「内ではなく外へ向けられた」超一流のアドリブが最高に素晴らしい。

 『ライヴ・イン・ハンブルク』で,かつてのパット・メセニーがそうだったように「e.s.t.」も“ベーシックなジャズ”の枠を超えてしまった。
 エスビョルン・スヴェンソンは死んで“伝説”となったわけではない。エスビョルン・スヴェンソンは『ライヴ・イン・ハンブルク』で“生きる伝説”となっていたのだった。

 って,すみません。真面目に批評してしまいました。『ライヴ・イン・ハンブルク』は熱く語るアルバムではありませんでした。
 理性を忘れてエキサイティングな演奏にただただ酔いしれるだけ〜。エンターテイメント〜。

  CD1
  01. tuesday wonderland
  02. the rube thing
  03. where we used to live
  04. 800 streets by feet
  05. definition of a dog

  CD2
  01. the goldhearted miner
  02. dolores in a shoestand
  03. sipping on the solid ground
  04. goldwrap
  05. behind the yashmak

(ユニバーサル・ジャズ/UNIVERSAL JAZZ 2007年発売/UCCM-1139/40)
(CD2枚組)
(ライナーノーツ/ジョー・ヒールシャー,ダン,カーステン・ヤンケ,マグヌス,エスビョルン,オキ)

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渡辺 貞夫 / スウィート・ディール4

SWEET DEAL-1 『SWEET DEAL』(以下『スウィート・ディール』)は,LAの3つのスーパー・フュージョン・グループ,ラッセル・フェランテ率いるイエロー・ジャケッツカルロス・ベガ率いるカリズマ,そしてエイブラハム・ラボリエル率いるコイノニアの各メンバーによる混成セッション・アルバムである。

 つまりは「ナベサダフュージョン,ここに極まりけり!」な豪華絢爛な1枚なのであるが,実際に聴いた『スウィート・ディール』の印象はかなりフュージョンからかなり離れて“ジャズっぽい”。

 『スウィート・ディール』録音の時点で,すでにコイノニアは活動を休止し,イエロー・ジャケッツも突然変異なジャズ・ユニットと化していたのだから『スウィート・ディール』が“ジャズっぽい”のも理解できる。管理人はそう思って楽しんでいた。

 『スウィート・ディール』はジャズフュージョンが見事に融合した『フロントシート』の続編に当たる。
しかし『スウィート・ディール』の真実とは『フロントシート』の続編にして『ア・ナイト・ウィズ・ストリングス』の前作にも当たる。

 『ア・ナイト・ウィズ・ストリングス』を聴き終えて「あっ,これだったんだ」と思った経験がある。『ア・ナイト・ウィズ・ストリングス』の中に『スウィート・ディール』のモチーフが残されている。
 『スウィート・ディール』〜『ア・ナイト・ウィズ・ストリングス』へと流れる「ゴキゲン・フュージョンなのに“ジャズっぽい”」アンサンブルのキーマン。それがピーター・アースキンの存在にある。

 ジャズフュージョンの両方で大活躍+ビッグ・バンドとスモール・コンボの両方で大活躍な,ソロ以上に全体のアンサンブルに気を配る“JAZZYな”ドラマーピーター・アースキン“その人”なのであった。

 『スウィート・ディール』のハイライトは【EARLY SPRING】と【CYCLING】である。
 “先頭でリードしつつ後方からも見守っている”ピーター・アースキンドラミングが素晴らしい。そこにジョン・パティトゥッチである。全てはラッセル・フェランテのハイセンスなのである。

SWEET DEAL-2 管理人の結論。『スウィート・ディール批評

 3人のプロデューサーによる『スウィート・ディール』のサウンドメイクは文句のつけようがない。ジャズの良さとフュージョンの良さが高次元で融合した名盤である。

 ただし,本来そこにメインであるはずの渡辺貞夫アルト・サックスがわずかに一歩だけ引っ込んでいる。もしやナベサダ自身が極上のバック・サウンドに惚れ込み,バックの名演をファンのみんなにも聴かせたかったのかなぁ。

  01. Passing By
  02. Sweet Deal
  03. Early Spring
  04. After Goodbye
  05. With The Wind
  06. Catch Me In The Sun
  07. Old Photograph
  08. As You Say
  09. Only Love
  10. Blue On Green
  11. Masai Talk
  12. Cycling

(エレクトラ/ELEKTRA 1991年発売/WPCP-4400)

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e.s.t. (エスビョルン・スヴェンソン・トリオ) / チューズデイ・ワンダーランド5

TUESDAY WONDERLAND-1 「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)」とは,ジャズピアノ・トリオというスタイルを周到しつつ,一方で既存のピアノ・トリオのスタイルからの逸脱を目指すという,敢えて自らが課した矛盾をエネルギーに前身してきたバンドである。

 ネタ元はエスビョルン・スヴェンソンのアイドルであるキース・ジャレットセロニアス・モンクでありながら,ロックであり,ポップスであり,クラシックのようでもある。
 JAZZYな演奏で全身をまとってはいても,その音楽性はジャズから遠く離れているように思う。

 そんな「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)」の音楽性を「ポスト・ロック」と呼ぶのは,実に言い当てて妙である。
 そもそもブラッド・メルドーにしてもエスビョルン・スヴェンソンにしても,彼等の世代は疑うべくもなくロックからの洗礼を受けている。「e.s.t.」が「ロックするピアノ・トリオ」し始めたのは『GOOD MORNING SUSIE SOHO』の頃からだから随分前のことになる。

 しかし「e.s.t.」が明確にジャズ・バンドではなくロック・バンドとしての音造りを打ち出したのは『TUESDAY WONDERLAND』(以下『チューズデイ・ワンダーランド』)以降であろう。
 『チューズデイ・ワンダーランド』での「e.s.t.」は「ロックするピアノ・トリオ」を越えて「インプロヴィゼーションするロック・バンド」と化しているのだ。

 例えば1曲目の【FADING MAID PRELUDIUM】。クラシカルな旋律の静かな美しさと動的もしくは破壊的なテクスチャーとの振れ幅,コントラスト。ピアニシモからフォルテシモへの意表をつく展開。49秒で突然轟然と鳴り響くディストーション・ベースでの「突き放し」はキング・クリムゾンのあれであり,ジミ・ヘンドリックスのそれであろう。
 【DOLORES IN A SHOESTAND】と【GOLDWRAP】のキラー・チューンでもループやリフが多用され,静寂と喧騒,混沌と整合,何だか全てが彼らの予測通りにコントロールされていくような感じ。まんまとハマって何度聴いても快感が走る…。

 『チューズデイ・ワンダーランド』には,いつも以上にピアノベースドラム以外の電子音が入っている。サウンド・マシーンも使われている。でも一向にうるさくは感じない。
 止まったり動いたりする緩急のつけかたはクラブ・ジャズっぽい。すぐに覚えてしまうシンプルで美しいメロディーと難解な変拍子のリズムがクセになる…。

 ズバリ「e.s.t.」は『チューズデイ・ワンダーランド』で,多くのジャズメンがどうしても越えることの出来なかった大きな壁をついに突き破っている。これは大事件である。
 ジャズピアノ・トリオがその基本形を崩すこと無く,ジャズの言語でついにロックン・ロールの本家本元を呑み込んでしまっている。『チューズデイ・ワンダーランド』での「e.s.t.」こそが“ロックの中のロック”しているのである。

TUESDAY WONDERLAND-2 「インプロヴィゼーションするロック・バンド」と化した『チューズデイ・ワンダーランド』が素晴らしい。大好きである。星5つの大名盤である。

 しかし『チューズデイ・ワンダーランド』は一気に「ポスト・ロック」を通りすぎてしまったような印象を受ける。理由は大手のエマーシー移籍と無関係ではないであろう。
 近年,これだけ玄人から絶賛され,素人からも絶賛され,売れまくったジャズ・バンドは他になかった。ロック・バンド並みのセールスが求められたがゆえの,本心ではない部分での非ジャズ…。

 だから管理人は『チューズデイ・ワンダーランド』のフォロー・ツアーライブ盤『LIVE IN HAMBURG』を押しているのです!

  01. fading maid preludium
  02. tuesday wonderland
  03. the goldhearted miner
  04. brewery of beggars
  05. beggar's blanket
  06. dolores in a shoestand
  07. where we used to live
  08. eighthundred streets by feet
  09. goldwrap
  10. sipping on the solid ground
  11. fading maid postludium

(エマーシー/EMARCY 2006年発売/UCCM-1101)
(ライナーノーツ/鯉沼利成,須永辰緒,佐藤英輔)

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MALTA / サマー・ドリーミン4

SUMMER DREAMIN'-1 『SUMMER DREAMIN’』(以下『サマー・ドリーミン』)は『MALTA』『SWEET MAGIC』に続く「お洒落なシティ・ジャズ」路線の3作目である。

 しかし,同じジャズサックス期のMALTAでありながらも『MALTA』『SWEET MAGIC』寄りではなく,フュージョンサックス期の『SPARKLING』にイメージが近い。
 というか「大人のライト・ジャズ」だったMALTAの印象が『サマー・ドリーミン』で一気に若返って「イケイケのジャズ・パワー」を感じるようになった。

 MALTAジャズサックスが甘いのそのままにエネルギッシュに響き出したのが『サマー・ドリーミン』からだと思う。
 その理由を問われれば,以後の重要なキーワードとなる「夏」であろう。波の音で始まり波の音で終わる『サマー・ドリーミン』が,カシオペアスクェア松岡直也高中正義が既に活躍していた「夏」のBGMというビッグなフィールドに繰り出したのだ。

 ただし『サマー・ドリーミン』でのMALTAの「夏」は真っ昼間でもないし,南国の熱帯でもない。そうではなく,朝晩がひんやりとした避暑地での夏,爽やかな朝日と夕陽の夏である。
 佳曲揃いの『サマー・ドリーミン』であるが,個人的には【MORNING FLIGHT】一択である。

 【MORNING FLIGHT】での岡沢章ベース・ラインが最強である。そこに絡む松原正樹のリズム・ギター渡嘉敷祐一JAZZYなドラムがこれまたよい。

 【MORNING FLIGHT】の別口ではMALTAの甘いアルトサックスに絡むJOE STRINGSがこれまた最高で盛り上げる盛り上げる。俄然,ロマンティック・MALTAにメロメロでトロトロ〜。

SUMMER DREAMIN'-2 個人的に「MALTAの1曲は?」と問われれば,並居るJTのスーパーTVCM曲を抑えて【MORNING FLIGHT】を指名する。

 ただし管理人が愛する【MORNING FLIGHT】は『サマー・ドリーミン』の【MORNING FLIGHT】ではなく『MY HIT & RUN』のアンコール曲となった【MORNING FLIGHT II】の方なのです。ちゃんちゃん。

  01. SUMMER DREAMIN'
  02. MORNING FLIGHT
  03. SEA EXPRESS
  04. OCEAN SIDE
  05. SUPER WAVE
  06. ALL THROUGH THE NIGHT
  07. FANCY WALKIN'
  08. SUNSHINE STREET
  09. HAVE A NICE DAY
  10. A LETTER FROM SEPTEMBER
  11. SUMMER DREAMIN' II

(ビクター/JVC 1985年発売/VDJ-1016)

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e.s.t. (エスビョルン・スヴェンソン・トリオ) / ヴァイアティカム5

VIATICUM-1 『VIATICUM』(以下『ヴァイアティカム』)というアルバムは暗い。そして重い。
 いささか哲学的な思索的な感じが,これまたキース・ジャレットを想起させてもくれる。

 現代最高のピアノ・トリオとして『SEVEN DAYS OF FALLING』で“天下を取った”「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)」のモチベーションは,更なる世界での高みにではなく,再び自分たち自身の音楽性へと向けられている。
 「e.s.t.」を聴いていてクラシック的な影響を大いに感じてしまったのが『ヴァイアティカム』であった。静寂と調和が完璧で美しいのだ。

 そう。「e.s.t.」が世界的なジャズ・バンドと認められたがゆえに,過去を見つめ,現在を見つめ,未来を見つめ,これから歩むべき道を模索した作業に思えてならない。
 そうして描かれた「深遠な音世界」が『ヴァイアティカム』に見事に凝縮されているように思う。

 正直に語ると『ヴァイアティカム』の最初の印象は薄かった。これぞ北欧ジャズ的な,陰があって色彩感も温度感も低い曲が並んでいる。管理人が次の「e.s.t.」に期待する,ガツンと来るJAMっぽさが希薄であった。
 でも『ヴァイアティカム』がつまらなかったのは,最初に聴いた数回だけだった。『ヴァイアティカム』を聴き込むにつれ,どんどんどんどん曲が姿を変えてくる。

 例えば,ピアノが前に出てきた瞬間のベースドラムの絡み方は,ポップスやロックやクラシックの様々なアプローチが垣間見えてくる。
 ピアノベースを歪ませ,そこにコーラスをかけたりエフェクトを多用するバンドであるが,実は「e.s.t.」の“電化”の真髄とはさりげないリバーブにあるように思う。
 必殺リバーブをピアノ・トリオのフォーマットにこだわり,実験性を前面に押し出すことはなく必要最低限の効果で使っている。『ヴァイアティカム』はそんな音響系の細部の音造りが半端ない。音響の「プロ集団」仕様に仕上がっている。

 その一方で「e.s.t.」のポリシーとは,アドリブにではなくアレンジにある,と何かの雑誌で読んだ記憶があるのだが,意外や意外,一聴して印象に残り難いが,エスビョルン・スヴェンソンは感性を研ぎ澄ました鋭いアドリブを要所要所に織り込んでいる。

 どんなにポップでロックでクラシックして聴かせようとも,エスビョルン・スヴェンソンアドリブは,紛れもなくジャズの“まんま”でうれしくなる。
 エスビョルン・スヴェンソンアドリブこそが,暗く重い『ヴァイアティカム』の中の“希望の光”なのである。

VIATICUM-2 『ヴァイアティカム』におけるエスビョルン・スヴェンソンアドリブを聴いていると,アドリブがすっと心の内に入り込んできては,ここではないどこかに連れ去られるような気分がする。
 具体的などこかの場所でもなく過去でも未来でもない。2次元,3次元ではなく異次元な見知らぬ場所のような気がしている。

 そんな『ヴァイアティカム』が導いた場所の答えが分かったのは,次作『TUESDAY WONDERLAND』を聴いた後のことである。
 『TUESDAY WONDERLAND』で「e.s.t.」は,ジャズ・ピアノからの,そしてピアノ・トリオからの決別を宣言している。

 そう。超絶技巧を抑え,余計な抑揚を抑え,楽曲の調和とアルバム全体の調和を目指した『ヴァイアティカム』は「e.s.t.」という最高峰のピアノ・トリオジャズの世界に存在していたことの記録であり,ジャズの世界に最後に残した「爪痕」である。

 エスビョルン・スヴェンソンの亡き今『ヴァイアティカム』の「爪痕」が『TUESDAY WONDERLAND』『LIVE IN HAMBURG』『LEUCOCYTE』『301』以上に“疼いている”。

  01. Tide Of Trepidation
  02. Eighty-eight Days In My Veins
  03. The Well-wisher
  04. The Unstable Table & The Infamous Fable
  05. Viaticum
  06. In The Tail Of Her Eye
  07. Letter From The Leviathan
  08. A Picture Of Doris Travelling With Boris
  09. What Though The Way May Be Long

(ソニー/SUPER STUDIO GUL 2005年発売/SICP-764)
(ライナーノーツ/児山紀芳)

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ヒューマン・ソウル / ラブ・ベルズ4

LOVE BELLS-1 「ナニワ・エキスプレス」の解散後,ベーシスト清水興ドラマー東原力哉は行動を共にする。
 解散後すぐに「ナニワ・エキスプレス」の後継バンド→「ソウル・エキスプレス」を結成する。ズバリ,歌ものバンドである。

 この流れ,誰かと似ていない? 管理人にはカシオペア脱退後,ベーシスト櫻井哲夫ドラマー神保彰が結成した「シャンバラ」をイメージしてしまう。こちらもズバリ,歌ものバンドなのである。

 …ということで,人気フュージョン・バンドのベーシストドラマーが歌ものをやるという共通項で「ソウル・エキスプレス」と「シャンバラ」に注目し,比較していたのだが…。
 この両グループの活動は離陸間もなく頓挫してしまった。

 櫻井哲夫神保彰の「シャンバラ」の後継バンドは「ジンサク」というフュージョン・ユニットへと流れたが,清水興東原力哉の「ソウル・エキスプレス」の後継バンドが「ヒューマン・ソウル」。
 まさかの歌もの継続なのだが「ヒューマン・ソウル」に東原力哉は不参加。「ヒューマン・ソウル」は清水興のワンマン・バンドとして始動する。

 櫻井哲夫神保彰東原力哉が飽きてしまった?歌ものを継続させた清水興の大選択。
 大方の予想は失敗するとお思いでしょうが個人的には悪くはない。好みかと聞かれれば好みとは言わないが,これはこれでフュージョン名盤に肩を並べていると思う。

 『LOVE BELLS』(以下『ラブ・ベルズ』)が実に上質である。ジェイ&シルキーをヴォーカルに迎えて,甘いファンキー?の百花繚乱である。往年のモータウン・サウンドに似ていると思う。
 日本人がやるソウルとしては最高レベル,という音楽業界の評判にも頷ける。

LOVE BELLS-2 『ラブ・ベルズ』でのお洒落なツイン・ヴォーカルが,ぶつかり合ってハーモニーを生み出し,息を揃えてゴスペル系のコーラスを付けていく。
 「ヒューマン・ソウル」の“売り”である清水興の甘いファンキーグルーヴがブラック・ソウル・モータウン。

 ソウルであろうとフュージョンであろうと音楽はリズムなんだなぁ。リズムがクリエイトする音楽はインストでも歌ものでも面白いんだなぁ。

 櫻井哲夫さん,神保彰さん,東原力哉さん,清水興の音楽眼を侮ってはなりませんよ〜。誰も侮ってはいませんけど〜。

  01. THE CHRISTMAS SHUFFLE
  02. JEALOUS GUY
  03. LUV BELLS
  04. ROSE
  05. BABY, IT'S COLD OUTSIDE
  06. SPECIAL CLIMB

(フォーライフ/FOR LIFE 1993年発売/FLCF-25229)

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e.s.t. (エスビョルン・スヴェンソン・トリオ) / セヴン・デイズ・オブ・フォーリング5

SEVEN DAYS OF FALLING-1 『FROM GAGARIN’S POINT OF VIEW』→『GOOD MORNING SUSIE SOHO』→『STRANGE PLACE FOR SNOW』の「怒涛の三部作」で“世界を獲った”「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)」。

 しかし「怒涛の三部作」は,今振り返ると『SEVEN DAYS OF FALLING』(以下『セヴン・デイズ・オブ・フォーリング』)で幕開けする「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)第二章」の序章にすぎなかった。

 “最後にして最高の”ジャズ・アルバムの『FROM GAGARIN’S POINT OF VIEW』→「ロックするピアノ・トリオ」革命の『GOOD MORNING SUSIE SOHO』→時代の最先端を行く非ジャズ・ピアノの『STRANGE PLACE FOR SNOW』。
 それら「怒涛の三部作」で築き上げた1枚1枚の特長を全ての面で包含し,凌駕している。まさか『セヴン・デイズ・オブ・フォーリング』のようなアルバムが誕生するとは思ってもいなかった。

 そう。『セヴン・デイズ・オブ・フォーリング』における「e.s.t.」UPDATEの要因とは,トリオの中で一人突出していたエスビョルン・スヴェンソンピアノに,ベースダン・ベルグルンドドラムマグヌス・オストラムが追いつき覚醒した,3人が3人とも主役を張れる,バランスの取れたトリオ・ミュージック
 言ってみれば「e.s.t.」がSMAPのようなキャラクターを発揮し始めた新次元のグループ・サウンドへと変化したと思う。

 ただし,多分,事実ではない。ベースダン・ベルグルンドドラムマグヌス・オストラムの素晴らしさは『E.S.T. LIVE』を聴き直せばすぐに分かる。
 単純に「キース・ジャレット命」の管理人がエスビョルン・スヴェンソンだけを偏重してきたにすぎない。

 ダン・ベルグルンドのディストーションをかけたウッドベースはノイジーなロック・ギターのような演奏である。そのくせアルコが抜群に上手で正確無比な音取りは驚異のジャズ・ベースそのものである。
 マグヌス・オストラムドラムは,繊細なジャズであり大胆なテクノでもある。非常にドライで硬いビートを生み出している。

SEVEN DAYS OF FALLING-2 そう。「e.s.t.」の本当の魅力とは「最先端のリズム処理」にある。ベースドラムの演奏の幅の広さと連動性が素晴らしい。
 そのエキサイティングなリズム隊の上に,エスビョルン・スヴェンソンの「詩的でミニマルでアンビエントな」ピアノを重ねるのが「e.s.t.」のアイデンティティなのである。

 『セヴン・デイズ・オブ・フォーリング』を聴けば聴くほど「e.s.t.」のメンバーはこの3人でなければならないと強く思うようになった。
 『セヴン・デイズ・オブ・フォーリング』がきっかけとなり,自分の中の「e.s.t.」への印象が変化したと思う。エスビョルン・スヴェンソンの斬新なピアノを聴くという態度から「e.s.t.」というピアノ・トリオと向き合うようになった。

 ズバリ,管理にとって『セヴン・デイズ・オブ・フォーリング』とは「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)」の“ピアノ・トリオ”胎動作なのである。

  01. Ballad For The Unborn
  02. Seven Days Of Falling
  03. Mingle In The Mincing-Machine
  04. Evening In Atlantis
  05. Did They Ever Tell Consteau?
  06. Believe Beleft Below
  07. Elevation Of Love
  08. In My Garage
  09. Why She Couldn't Come?
  10. O.D.R.I.P./Love Is Real

(ソニー/SUPER STUDIO GUL 2003年発売/SICP-436)
(ライナーノーツ/渡辺亨)

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e.s.t. (エスビョルン・スヴェンソン・トリオ) / ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ5

STRANGE PLACE FOR SNOW-1 管理人が初めて「e.s.t.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)」を聴いたのは「怒涛の三部作」の第一作『STRANGE PLACE FOR SNOW』(以下『ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ』)であった。

 エスビョルン・スヴェンソンピアノが,一般的なジャズ・ピアノとは言い難く,ロックやポップスの心地よいラップトップ・サウンドを聴いているような感じがした。
 理由は主にうっすらとバックで流れているキーボードが大インパクト。サンプリングされているようでいて“生っぽい”アコースティックキーボードの“鳴り”にジャズピアニストとしての“誇り”を感じてしまう。

 軽い衝撃が持続する中『ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ』を聴き続けたある日のこと,ふとジャズ弾きでもフュージョン弾きでもない,エスビョルン・スヴェンソンの中のキース・ジャレットとつながった。

 今となっては信じられないかもしれないが,キース・ジャレットはかつてフォーク・ロックを積極的に採り入れたポップかつ前衛的な演奏をしていたことがある。ジャズ・ピアノに当時の流行を取り入れ,ジャズ・ピアノの新たな表現に挑戦したのだった。

 エスビョルン・スヴェンソンキーボードでエレクトロニックを,ドラムンベースでクラブ系を表現する「ジャズを越えていくための実験的な試み」は,かつてのキース・ジャレットが探求していた,新しいジャズ・ピアノの模索と同じなのでは?

 そう。キース・ジャレット・フォロワーを公言するエスビョルン・スヴェンソンは,新しいジャズ・ピアノの探求,その音楽性の実験という意味において,キース・ジャレットの精神性を継承したジャズピアニストなのである。

 『ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ』の時点で完成を迎えた「e.s.t.」の先進的なリズム・アプローチ,メロディックで多彩な曲調が“生っぽい”アコースティックキーボードで際立っている。
 『ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ』を聴いて,ピアノ・トリオの既成概念が幾らか崩されたと思う。初めは嫌いだった上原ひろみが好きになったのも『ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ』と同時期だったかなぁ。

 かつて,ピアノエスビョルン・スヴェンソンベースダン・ベルグルンドドラムマグヌス・オストラムの3人は「e.s.t.」について「『e.s.t.』はジャズ・バンドではなく,ジャズも演奏するポップ・バンドだ」と述べたことがある。

 管理人が『ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ』を聴いて感じた,非ジャズ・ピアノのニュアンスは当たっていたことになる。「ポピュラー音楽としてのジャズ」が,北欧のパラレルな視線でシームレスなジャズを照射している。

STRANGE PLACE FOR SNOW-2 しかしながら「e.s.t.」の考えるポップ・バンドとは,一般的なポップ・バンドではない。アルコとエレクトロックが映える複雑なリズムに,これ以上ないぐらいに見事なプリペアード・ピアノを織り交ぜたリリシズムが織りなす,奥深さに光り輝く新しいジャズ・ピアノに他ならない。

 『ストレンジ・プレイス・フォー・スノウ』から始まる「e.s.t.」の新しいジャズ・ピアノは,様々な音楽を聴き続けている人だけが辿り着ける「オアシス」のような音楽だと思う。サウンドに込められたエモーションを拾い出して聴くことのできる人だけが,多くの愉しみを得ることができる音楽だと思う。

 プログレッシヴと評される通り,まさに時代の最先端を行くジャズ・ピアノ。単純にエスビョルン・スヴェンソンのヨーロッパ的で詩的なメロディ・センスだけが突出しているわけではない。
 3人の織りなすインタープレイジャズ以外の様々な要素を取り入れたグルーヴ,エフェクティヴな仕掛けの全てが時代の最先端を行く非ジャズ・ピアノを示している。「鳥肌もの」の思い出の1枚である。

  01. The Message
  02. Serenade For The Renegade
  03. Strange Place For Snow
  04. Behind The Yashmak
  05. Bound For The Beauty Of The South
  06. Years Of Yearning
  07. When God Created The Coffeebreak
  08. Spunky Sprawl
  09. Carcrash - September

(ソニー/SUPER STUDIO GUL 2002年発売/SICP-159)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)

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