
ジャズ・テナー奏者と来れば「マイケル・ブレッカー1強時代」が存在したように思えるが,それは大きな誤りである。
“巨星”マイケル・ブレッカーの影に隠れてしまいがちだがマイケル・ブレッカーと同時代のコルトレーン派のテナー奏者は秀逸揃い。
名前を列挙するならスティーヴ・グロスマン,デイヴ・リーブマン,ボブ・ミンツァー,トム・スコット,ゲイリー・トーマス…。
ただし,上記のテナー奏者は皆マイケル・ブレッカーと比較すると明らかに分が悪い。そんな中,唯一,マイケル・ブレッカーとがっぷり四つで勝負できるテナー奏者がいた。ボブ・バーグである。
「マイケル・ブレッカー1強時代」なのだから,実力が伯仲しようとも,ボブ・バーグが劣勢である。ボブ・バーグのことをマイケル・ブレッカーのモノマネだと揶揄する不届き者さえ存在する。
断じてボブ・バーグはマイケル・ブレッカーのコピーなどではない。かつてマイケル・ブレッカーがボブ・バーグについて語った記事を覚えているが,マイケル・ブレッカーとボブ・バーグのスタイルが似ているのは,2人で共に音楽について語り合い,サックスを練習する機会が多かったからだそうだ。
そう。マイケル・ブレッカーのスタイルもボブ・バーグのスタイルも,自分一人の研究・努力で確立したものではなく,互いが互いに影響し合い構築した結果としての「圧巻の超絶の饒舌」なのであった。
ボブ・バーグの4枚目のソロ・アルバム『CYCLES』(以下『サイクル』)は,実際にはボブ・バーグのテナー・サックスというよりもマイク・スターンのギターを聴くためのアルバムなのだが(ボブ・バーグがダメなのではなくマイク・スターンが絶好調すぎて凄すぎる!)ちょうどマイケル・ブレッカーのライバルとしてボブ・バーグが注目を集め始めていた時期のアルバムであって,個人的にはボブ・バーグの魅力を聴き漁った時期の思い入れの強い名盤である。
『サイクル』はとにかく6曲目の【マユミ】である。管理人は【マユミ】だけを100回は聴いているが一向に飽きることはない。
なぜならばマイク・スターンとのユニゾンで盛り上がり続けるボブ・バーグに,あのブチギレ・マイケル・ブレッカーのド迫力とは違う種類の凄みに打たれて最高に気持ち良くなってしまうのだ。
特に4分38秒からのクライマックスである。【マユミ】におけるボブ・バーグの凄みは「タネも仕掛けなし」でハッタリなし」のド迫力にこそある。
ただ単純に一本調子のストレートなのではなく,深い音楽的素養と極めて高度な技術に裏打ちされた“マッスラな”ストレートに心が震わされてしまう。感情が見事に表現されている。この表現力には高い技術力が必要なのである。
曲の進行と共に感情が高まっていく様がこれほどリアルに伝わってくる秘訣こそがボブ・バーグの「圧巻の超絶の饒舌」なのである。

同じ言語表現を持つボブ・バーグなのだがボブ・バーグは曲の世界に完全没入している。ボブ・バーグの強みはいつでも人情味を伝えられるところである。
そう。ボブ・バーグは,役に入れば一瞬で涙を流せる女優さんのようなテナー奏者なのである。
マイルス・デイビスやチック・コリアやマイク・スターンに愛された女優・ボブ・バーグ。その芸名は【マユミ】であった?
01. BRUZE
02. BACK HOME
03. PIPES
04. THE DIAMOND METHOD
05. COMPANY B
06. MAYUMI
07. SO FAR SO
08. SOMEONE TO WATCH OVER ME
(デンオン/DENON 1988年発売/32CY-2745)
(ライナーノーツ/中原仁)
(ライナーノーツ/中原仁)