HANK MOBLEY WITH DONALD BYRD AND LEE MORGAN-1 ハンク・モブレーは“お人好し”である。こう書くと,首を縦に振る人がいることは分かっている。
 首を縦に振る人の多くはハンク・モブレーの代表作『ソウル・ステーション』の愛聴家であろう。ソフトで控え目で繊細で心温まる“アンニュイ”なハンク・モブレー! これぞジャズ・ファンにとっての“癒やし”の名盤である。

 ハンク・モブレーは“お人好し”である。こう書くと,首を横に振る人がいることも分かっている。
 首を横に振る人の多くは「B級ハード・バッパー」としてのハンク・モブレー・ファンであろう。アグレッシブなブルース調で“ブイブイ”吹きまくる! 確かに“強面”のハンク・モブレーこそ,ハード・バップ・テナーの大スター! 生涯ハード・バッパーであり続け,自己の音楽スタイルを貫き等した“姿勢”においても“ハード”な人に違いない。

 さて,ここで再度宣言する。ハンク・モブレーは“お人好し”である。この宣言はハンク・モブレー=“強面”ハード・バッパーと“思い込んでいる”読者に向けての言葉である。
 今夜はハンク・モブレー=“強面”支持者が,その持論の根拠とする『HANK MOBLEY WITH DONALD BYRD AND LEE MORGAN』(以下『ハンク・モブレー・セクステット』)を例に,管理人の思う“お人好し”持論を展開してみよう。

 『ハンク・モブレー・セクステット』は,ハンク・モブレーにとってブルーノートでの第2作となる。第1作は10インチ盤の『ハンク・モブレー・カルテット』であるが,実に1年半ぶりのレコーディングである。
 ほぼ無名に近かった『ハンク・モブレー・カルテット』の録音から1年半。ハンク・モブレーの名声は,アート・ブレイキージャズ・メッセンジャーズホレス・シルヴァーのレギュラー・バンドでの活動を通して大いに高まっていた。
 そう。『ハンク・モブレー・セクステット』とは,ハンク・モブレーが“世界を獲る”ための「大事な時期」に録音されたリーダー作である。

 「大事な時期」のリーダー作と来れば“自分がいかに目立つか”が相場であろう。しか〜し『ハンク・モブレー・セクステット』の“売り”とは,当時のハンク・モブレー以上に注目されていた,ドナルド・バードリー・モーガンの豪華な共演にある。

 “ポスト・ブラウニー”を狙う,若き2人の天才トランペッターが“火花散らした”アドリブ合戦を繰り広げている。「この2人のどちらが凄いか?」論議が沸騰している最中での起用である。
 当然,話題は2人のトランペッターに集中し,肝心のリーダー=ハンク・モブレーは“ついで&おまけ”扱いである。全ては予想通りの霞ヶ関…。

 ドナルド・バードリー・モーガンの参加については,アルフレッド・ライオンの意向も働いたのであろうが,それでも自分以外に世間の注目が集まることが「見・え・見・え」の中,打診を快く受け入れ,3管セクステット用の新曲まで書き下ろした“奇特な人”。
 恐らくレコーディング中は,自分の両脇にいる“年下タレント”の熱演に“ニンマリ笑顔”だったに違いない。ねっ,ハンク・モブレーって“お人好し”でしょ? メチャいい人でしょ?
 
HANK MOBLEY WITH DONALD BYRD AND LEE MORGAN-2 加えて,ハンク・モブレー=“お人好し”説にはもう一つ理由がある。ハンク・モブレー=“強面”説の根拠とされているように『ハンク・モブレー・セクステット』でのハンク・モブレーの演奏が強い! 敬愛するソニー・スティットばりのストレートなフレージングが“乱舞”する!

 管理人は『ハンク・モブレー・セクステット』を一聴した時,正直,ハンク・モブレーテナーサックスに戸惑いを覚えた。『ソウル・ステーション』と同じテナー奏者の演奏とは思えなかったからだ。

 『ハンク・モブレー・セクステット』の中に,あのソフトで控え目で繊細で心温まる“アンニュイ”なハンク・モブレーの姿はない。そこにいるのは,周りの人に嫌でも自分を合わせてしまう“お人好し”のテナーマン。
 一人きりだと静かなのに,共演者が“ワッ”といくと,行く気がないのについて行ってしまう。周りにつられて心にもない強面フレーズを繰り出してしまう。自分の個性を押し殺し,ついつい周りに合わせてしまうテナーマン。あれれ,どこか管理人自身のことを書いている?

 『ハンク・モブレー・セクステット』でのハンク・モブレーは“強面”ハード・バッパーに聴こえて,実は“お人好し”の裏返し。 
 アルバム・リーダーにして3番手格のハンク・モブレーが,1番手のドナルド・バードと2番手のリー・モーガンアドリブ合戦への「ナイス・アシスト」を決めている! ハンク・モブレーが頑張っている!

 
01. TOUCH AND GO
02. DOUBLE WHAMMY
03. BARREL OF FUNK
04. MOBLEYMANIA

 
HANK MOBLEY : Tenor Sax
DONALD BYRD : Trumpet
LEE MORGAN : Trumpet
HORACE SILVER : Piano
PAUL CHAMBERS : Bass
CHARLIE PERSIP : Drums

(ブルーノート/BLUE NOTE 1957年発売/TOCJ-1540)
(ライナーノーツ/レナード・フェザー,上条直之,高橋徹)

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