

制作発表での小日向文世のエピソードがいかしている。関西テレビからの主演オファーに対する第一声が「なんで? 本当に?」。その後も「大丈夫なの? 僕でいいの? 成立するの? この企画つぶれない?」と聞き返したとか…。役者デビュー30年でついに手にした連ドラ主演の座。なのに,ニンマリ笑ってバンザーイ,と叫ばないのが,実にこの人らしい。
さて,ジャズ界にも“名脇役”小日向文世がいる。それが“名脇役”トミー・フラナガン!
「名盤の影にフラナガン有り」と謳われたように,これは!と思ってライナーノーツをめくると,十中八九,トミー・フラナガンの名前がある! そう。ジャズ・ピアニスト=トミー・フラナガンは“サイドメン”として,多くのジャズ・ジャイアントと共に「歴史に残る伝説の名盤」を創り上げてきた“最強の名脇役”なのである!
そんな“名脇役”トミー・フラナガンが主役を演じるようになったのが,1975年のパブロやエンヤへの連続録音以降のこと。トミー・フラナガンのデビューは1945年のことだから,やっぱりこちらも「苦節30年」なのには驚いた。
しかし2人の経歴を比べてみるとさらなる共通点に驚くばかり。ここが今回のCD批評の“肝”であるが,実は小日向さん,TVや映画に出まくる前の劇団員時代に,串田和美演出「魔人遁走曲」と佐藤信演出「ハムレット」の2本で舞台の主役を演じているそうな。ほほぉ。
かたやトミー・フラナガンも“最強の名脇役”として多忙を極めていた時代に,こっそり?リーダーCDを2枚録音した。それが『OVERSEAS』(以下『オーヴァーシーズ』)と『THE TOMMY FLANAGAN TRIO』(以下『ザ・トミー・フラナガン・トリオ』)!( ← この2枚はジャズ・ファンにはすっかりお馴染み。こちらは極秘情報ではありませんでした )
「最強の名脇役=苦節30年のいぶし銀」の2人共,メジャー・デビュー前にマイナー・レーベルで2作主演しているなんてねぇ。
さてさて,トミー・フラナガンについて書きたいことは山ほどあるが,今回は『ザ・トミー・フラナガン・トリオ』批評! 『オーヴァーシーズ』批評ではないことに特別な意味はありません。何となく2008年のお正月なら『ザ・トミー・フラナガン・トリオ』気分に思えたもので…。
「論戦好き」のジャズ・ファンなら,管理人が下す,この2枚の優劣に関心をお持ちかもしれません。でも幾ら聞いても無駄ですよ。管理人にこの2枚の優劣などつけられません。つけきれません。答えるとしたら,どちらも超名盤であるという事実だけです。
『ザ・トミー・フラナガン・トリオ』は「非常に趣味のいい」CDだと思う。この選曲にこのメンバー。めちゃめちゃソフトで温もりある音。目の前ではなくどこか遠くで輝いているような…。
(書き初めをした人など皆無であろうが)お正月つながりで例えれば,真白な半紙に原液のまま=薄めの墨汁で一筆書き! 決して硯に添加用墨を擦ってはならない。淡い黒の芸術である。イメージとしては水墨画に近いかなぁ。
そう。『ザ・トミー・フラナガン・トリオ』は,ピアノ・トリオのリーダーとしてではなく,サイドメン時代のトミー・フラナガン好きにはたまらない,名脇役チックな“トミフラ”の代表作である。
PS 管理人が「あしたの喜多善男〜世界一不運な男の,奇跡の11日間〜」に注目した本当の理由は,小曽根真が オリジナル・サウンドトラック を担当したからでした。さてどんな音楽に仕上がっていることやら…。目と耳で「あしたの喜多善男〜世界一不運な男の,奇跡の11日間〜」を楽しもうと思っています。
(1960年録音/VICJ-41094)
