『BRAIN』の4曲目は【BRAIN】(以下【ブレイン】)。

 【ブレイン】は,上原ひろみ作曲“荘厳な組曲”である。テーマは「迸る感情と冷徹な理性とのせめぎあい」である。

 イントロでの“おもちゃっぽい”シンセ・サウンドに面喰った読者の皆さんは,きっと【ブレイン】好きだと思う。この後に続く,まさかの裏切りの展開,に欠かせない“計算されつくした機械音”。この機械音があとあと,じんわり,効いてくる。

 1分30秒から始まるピアノによるテーマが重い。いきなり眼前に表われた高くそびえ立つ音の大壁がクラシック的な“荘厳な組曲”の理由である。上原ひろみピアノに合わせ,徐々に激しく大地が揺れ動いていく。
 その音の大壁を2分47秒からのシンセサイザーが,する〜り,すり抜けると,辿り着いたは“地上のパラダイス”。全てが平安ムードに包まれた音楽のユートピアであった。

 しかし,3分47秒から【ブレイン】のテーマが再び流れ出す。今度の波動はさらに大きい。辺り一面暴風雨で音の高波が襲ってくる。そう。作曲家の鎧を脱ぎ捨てた“ジャズ・ピアニスト上原ひろみアドリブの世界である。
 上原ひろみ・ファンとしては,このピアノのソロ・パートだけは事前に書き上げられたものでなかったことを願う。そう。【ブレイン】は“荘厳な組曲”であって,そこには上原ひろみの予想を超えた,トニー・グレイベースマーティン・ヴァリホラドラムによる見事な熱演が加味されている。管理人が口にする「迸る感情と冷徹な理性とのせめぎあい」とは,上原ひろみの内と外に存在する「ピアノ・トリオに課せられた自由度の幅」のことである。トリオはいつも考える。もっと自由に,いや,完璧に書き上げられた楽曲どおりに…。

 上原ひろみが抱える高尚な内面の葛藤は,アウトロでの“壊れかかったおもちゃ”サウンドで現実の世界へと引き戻される。

 
HIROMI UEHARA : Piano, Keyboards
TONY GREY : Bass
MARTIN VALIHORA : Drums

BRAIN-1
ブレイン
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