DANCE YOUR HEART-1 実に清々しい。瑞々しい。(毎日聴いても何年聴いても)“真っ白な”ジャズ・ピアノ
 管理人はとうとう,Sayaの『DANCE YOUR HEART』(以下『ダンス・ユア・ハート』)に“魂を抜かれてしまった”思いがする。

 世間には音楽療法なるものがあるが,管理人はきっと『ダンス・ユア・ハート』で音楽療法を受けている。
 『ダンス・ユア・ハート』が流れると,無の自分に戻ることができる。明日の自分へリセットできる。この表現にウソ偽りはない。Sayaのエレガントなジャズ・ピアノは“真の癒し系”なのである。

 あっ,誤解のありませんように。Sayaの“癒し”はヒーリングではない。エステではなく針ツボ指向である。
 美しいものにはトゲがある。Sayaのエレガントなジャズ・ピアノにも,聴いて痛みを感じる瞬間がある。押してほしくないツボを押されたような…。
 恐らく,自分では無意識のうちにしまいこんだ,絶対に押されたくないツボ=幾重にもバリケートで囲い込んだ最悪な自分,が刺激される。“VENUSSayaの余りの美しさに羞恥心を感じてクリーンな自分を取り戻すことができるのだと思う( 我ながら冷静な自己分析。分かってるじゃん。でもどこかで外れているんだろうなぁ )。

 『ダンス・ユア・ハート』で,Sayaの指先が,管理人の深い部分にスーッと入ってくる。本当は抵抗したいはずなのに。優しく優しく撫でられるのが気持ちよい。こうなったら全てをさらけだしてしまおう。Sayaの指先に身を任せよう。指の次は口でしてもらおう。もう何度でも絶頂に達してしまう。ああ…。今夜もSayaに“魂を抜かれてしまいた〜い”!?

 『ダンス・ユア・ハート』は,全体に“ゆったりグルーヴ”。奇をてらう部分は一切ない。予定調和でスタンダードジャズ・ピアノが美しい。原曲のイメージを“崩しすぎない絶妙な崩し”がクセになるなる。
 Sayaアドリブは,ここぞという瞬間でスパークする,おいしいとこ取りのアドリブが構成美。この“白っぽい美しさ”でSayaも今後,耽美主義のエヴァンス派として鳴らすであろう。

 Sayaの個性は美しいアドリブだけではない。その1つが崩しの手法で感じる“ブルージなノリ”である。
 ソウルフルな【CHICKEN】や【WAITING IN VAIN】は勿論,ジャズ・スタンダードの【SUMMERTIME】がブルースしている。さすがは元ネヴィル・ブラザーズである。全てが「あっさり味」ではない。

 そしてもう1つ。Sayaの最大の魅力は“トータル・ミュージシャンの才”にある。
 例えばピアノのバッキング。Sayaの奏でる左手のコードのセンスが抜群である。【MY ONE AND ONLY LOVE】や【HOW MY HEART SINGS】での左指。ベーススタン・ギルバートドラムの“大御所”ハービー・メイソンの演奏をよく聴き分けた,的確なインタープレイが実に素晴らしい。

 ピアノの演奏だけではない。“トータル・ミュージシャン”Sayaの個性は,彼女の名作編曲家ぶりから窺い知れる。ハービー・ハンコックの大名曲【CHAN’S SONG(NEVER SAID)】のアレンジは,間違いなくSayaの【CHAN’S SONG(NEVER SAID)】がベストである。本家=ハービー・ハンコックを超えたSayaは世界最高峰のアレンジャーの一人だと思う。

 そしてミディアム・バラードの2曲のオリジナル。【DANCE YOUR HEART】【BELIEVE】の美メロにしばしば涙してしまう。管理人の大好きな「小さな日常の幸せ」を歌った感動系の逸品である。間違いない。

DANCE YOUR HEART-2 骨抜きにされ“魂を抜かれてしまう”程にメロメロな“Sayaの最高傑作”『ダンス・ユア・ハート』。上品な白無垢で身をまとった,清々しく瑞々しい『ダンス・ユア・ハート』。毎日「ピッカピカ」に輝いている『ダンス・ユア・ハート』。

 しかし『ダンス・ユア・ハート』の“真っ白な美しさ”は,純度100%の水ではない。異物がバリバリに混入している。Sayaの“ジャズ・ピアノへの情熱”が『ダンス・ユア・ハート』に混入した異物を全て溶解しろ過してしまった。
 『ダンス・ユア・ハート』は“美しいピアノ・トリオの典型”であるが,それだけではない。魅力的な美人にはどこか陰があるものだ。陰のない美人は3日で飽きるが,陰のある美人は男性を一生惹きつける。

 『ダンス・ユア・ハート』には陰がある。しかし今ではその跡形しか残っていない。Sayaが『ダンス・ユア・ハート』のレコーディングで何を燃やしたのか,今となっては想像することしかできない。Sayaジャズ・ピアノを聴いてあげることしかできない。
 『ダンス・ユア・ハート』の中に残された,極々わずかな負の陰影。これがはかなくも美しいクリスタル。

  01. SUMMERTIME
  02. FRAGILE
  03. MY ONE AND ONLY LOVE
  04. DANCE YOUR HEART
  05. NORWEGIAN WOOD
  06. CHAN'S SONG (NEVER SAID)
  07. HOW MY HEART SINGS
  08. BELEIVE
  09. CHICKEN
  10. WAITING IN VAIN

(ポニーキャニオン/LEAFAGE JAZZ 2001年発売/PCCY-30008)
(ライナーノーツ/高井信成)

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