
CD1枚の出来なら『午後の水平線』が上であろうが,曲一曲一曲の魅力でいけば『夏の旅』が上である。
単純に記すと【田園詩】【夏の旅】【虹のしずく】【廃墟の街】【Uターン】の神曲5トラック。でもこれが残る4トラック=前後の佳曲があるからこそ,神の領域にまで届いているのだ。
管理人にとって松岡直也の『午後の水平線』と『夏の旅』は本田雅人の『イリュージョン』と『リアル・フュージョン』なのである。
『夏の旅』のサウンド・メイクに松岡直也の打算はない。若手メンバーで固めた,新松岡直也・グループの船出である。まだトータル・サウンドは半生。イケイケの勢いを持って臨んだ松岡直也流“ハード・ロック”である。
事実『夏の旅』で王道ラテン・フュージョン“している”のは【日傘の貴婦人】【風のしらべ】ぐらいなもので,リズム隊で目立っているのは広瀬徳志のドラムのみである。広瀬徳志の硬いドラミングが実に素晴らしい。ノリノリに乗せられてしまう。
あっ,ベースの高橋ゲタ夫も【廃墟の街】と【Uターン】で大仕事してくれていま〜す。
Rの斉藤英夫とLの今泉洋の“ガチンコ”ツイン・ギターがギンギンに弾きまくれば,何と!“御大”松岡直也のキーボードまでもが“ラテン・ハード・ロック”している。ジャーニーの【セパレイト・ウェイズ】ばりに“ガッツイテル”松岡直也は生涯唯一。
しかし打算がないのは演奏だけで『夏の旅』の楽曲群は名曲揃いの“夏の歌”のオンパレード。毎年,夏が来るたびに管理人は『夏の旅』を聴いている。無性に聴きたくなる。
その理由は『夏の旅』有するストーリー性にある。特に【日傘の貴婦人】終わりの「ミンミンゼミしぐれ&バスの到着〜降車〜出発」SE。【廃墟の街】終わりの【夏の旅】のリフレインSEがたまらない!
「僕は忘れていた,いつでもここにあったのに。
ここはこんなに変わっていない。昔のままだ。夏の日射しが秋の訪れを拒むように照りつけて,見渡すかぎり影一つ作っていない。そして,陽炎たつ道路の向こうから砂煙りをあげて,ゴトゴトと路面バスがやってくる。やがてバスは,置き忘れていくみたいに,古ぼけたベンチがぽつんとあるだけの停車場に一人の女を残して走り去る。夏の日射しがようやく一つ,影を作った。日傘をさす着物の女の影を…。女はこんな田舎には不似合いなほど,スラリと背が高く,日傘をクルクル廻して停車場に立ち竦んでいる。
そうだ,憶い出した。僕は今日と同じ風景をずっと昔に夢見たんだ。そして今,あの時の夢と同じようにあの停車場に立っている…。
その時,白い日傘が雲の様に空に舞ったような気がして僕は見上げた。虹のかけらが空を走り,夏は一瞬に過ぎ去った。もう一度見た昼下がりの停車場には,ただかすかに秋の匂いのする風が吹いているだけだった。
僕の夏の旅はもうすぐ終わろうとしている。
戻ろう…まだ間に合う,まだ遅くない…」。
どうですか? 『夏の旅』していませんか? イメージとしては高原の田舎への帰省旅。どうにこうにも懐かしい「日本の夏。キンチョウの夏と納涼夏祭り」。そう。「ふるさとの夏」なのです。
ちなみに松岡直也は,ほぼ夏アルバムばかりを作っていますが,管理人が思う松岡直也の夏アルバムは『夏の旅』と『ウォーターメロン・ダンディーズ』の2枚だけなのです。この2枚には松岡さんの“哀愁ロマンティック色”を感じませんので…。

松岡直也のアルバム・ジャケットと来れば,永井博やわたせせいぞうが有名であろうが『夏の旅』は岡本三紀夫。【日傘の貴婦人】【田園詩】の世界にインパクトある入道雲。田園風景,虫の鳴き声,バスのローカル線。日本人が忘れかけている純日本的な風景絵画。
しかし暑い夏の日の昼下がりに和服を着ているのに,このイラストからは不思議と暑さは伝わってきません。左右にシンメトリーに広がる水田の緑を涼しい風が吹き抜けているかのよう。カラッとした気候の「避暑地の夏休み」なのです。
それにしてもバスから降りた日傘の貴婦人はこれからどこへ行くのでしょうね? きっと色白美人なんだろうなぁ?
01. 日傘の貴婦人
02. 田園詩
03. 夏の旅
04. 風のしらべ
05. 虹のしずく
06. 雲のゆくえ
07. <Interlude>
08. 虚栄の街
09. Uターン
(アーント/ANT 1984年発売/ANT-11)
(ライナーノーツ《ポエム》/柏田道夫)
(ライナーノーツ《ポエム》/柏田道夫)
今年は出会えなかった、こんな風景。
なので、夏を過ごした気がしません。
「夏の旅」は夏しか聴かない。
それぐらい“夏”です。
ホントに新生ってメンバーだったけど、ライブのギターは和田アキラだったね。