GROOVIN' HIGH-1 『GROOVIN’ HIGH』で矢野沙織が路線変更。「JAZZ QUEEN矢野沙織・第2章の幕開けである。

 なぁに。バードのコピーやめてしまうの? ビ・バップやめてしまうの? “バッパー”矢野沙織・命の管理人は胸中複雑。矢野沙織がビ・バップを始めたのは「ビ・バップが一番かっこよかったから」とのインタビュー記事有り。なぁんだ,次はロックかよ〜。
 いえいえ,そんなことはありません。矢野沙織の次なるマイ・ブームはジェームズ・ムーディー。「運命のお師匠様」との出会いに影響を受けています。受けてしまっています。やはり若い女性には純白が似合います。

 矢野沙織・第2章のテーマはアンサンブル。大編成の分厚い生音とソロ廻し。このように書くと矢野沙織の魅力が薄まったように感じるかもしれないが,アンサンブルの中心は矢野沙織アルト・サックス矢野沙織アルト・サックスが中央に見事に鎮座している。

 とはいえ『GROOVIN’ HIGH』の真実は「ジェームズ・ムーディーフィーチャリング矢野沙織」。そう。矢野沙織は,リード・アルト・サックス奏者として参加している。
 自由奔放にスライド・ハンプトンの書く絶品アレンジに合わせて吹きまくっているのだが,でもどうしてもジェームズ・ムーディーの掌から飛び出すまでには至っていない。完全にジェームズ・ムーディーの“想定内での快演”なのである。

 ゆえに『GROOVIN’ HIGH』の評価は,何を評価の基軸とするかによって大きく異なる。
 純粋にジャズ・サックス・プレイヤー=矢野沙織に重きを置くと,文句なしに矢野沙織の「代表作」に違いない。ジェームズ・ムーディーに感化された「矢野沙織矢野沙織たるジャズ・サックス」が“威風堂々”にテーマを奏でていく。素晴らしい。

 しかし残念なのは矢野沙織アルト・サックスが吹き止んだ瞬間,共演した豪華ゲストに耳ダンボ。ジェームズ・ムーディーテナー・サックスフルートジミー・ヒーステナー・サックスランディ・ブレッカートランペットスライド・ハンプトントロンボーンゲイリー・スマリアンバリトン・サックスが流れ出した瞬間,矢野沙織アルト・サックスの存在感が消えている。

 管理人は矢野沙織・命である。矢野沙織を心底応援している。自分の中での矢野沙織キース・ジャレットパット・メセニーに並ぶ“宝物”のような存在である。
 それで,これは矢野沙織だけではなくキース・ジャレットパット・メセニーに対しても抱いている希望なのだが,管理人が3人に期待するは「目指せ!マイルス・デイビス!」である。

 この「目指せ! マイルス・デイビス!」の真意は「無音で表現するマイルス・デイビスの音」のこと。
 マイルス・デイビスのリーダー・アルバムは(特に電化マイルス時代を指して使われるが)共演者が誰であってもその全員が,さもマイルス・デイビスが吹いているかのような音を出す。ピアニストならマイルスピアノを弾いているかのように,ベーシストならマイルスベースを弾いているかのように…。
 そう。トランペットが鳴っていようが鳴っていまいが,そこにマイルスがいるのである。

 その意味で『GROOVIN’ HIGH』には全編ジェームズ・ムーディーがいる。共演者は皆,矢野沙織ではなくジェームズ・ムーディーの方を向いて演奏している。こうなるのは仕方がない。だって矢野沙織自身もジェームズ・ムーディーの方を向いて演奏しているのだから…。

GROOVIN' HIGH-2 矢野沙織には自分自身と向き合って“バッパー”だった頃の矢野沙織を取り戻して欲しい。自己主張をまげずにトンガリ続けて欲しい。
 『GROOVIN’ HIGH』での路線変更を非難しているのではない。『GROOVIN’ HIGH』は,相当に素晴らしいジャズCDに違いないし,事実マンスリーでヘビロした。第2章のアンサンブルもいいじゃないか!

 しかし“バッパー”矢野沙織目当てに購入した従来のファンからすると欲求不満が残ってしまう。アダルトな雰囲気だけのジャズ,聴きやすいだけのジャズなど要らない。矢野沙織に「完成度」は求めていない。永久に完成してしまっては困るのだ。→ ムーディー師匠,その辺は分かっていると思っています。
 表面はアレンジされたハーモニーであろうとも内面は沸き立つジャズスピリッツ矢野沙織には一生アドリブ一本で勝負し続ける気概を持ってほしい。

 矢野沙織よ,チャーリー・パーカーを越えろ! 矢野沙織よ,キャノンボール・アダレイを越えろ! 矢野沙織よ,目指せ!マイルス・デイビス

PS 『GROOVIN’ HIGH』のジャケット写真が美人で色っぽい。大人だよなぁ。管理人は小林香織を気軽に「かおりん」と呼べますが,矢野沙織を「沙織ちゃん」とはもう呼べません?

  01. Speak Low
  02. Manteca
  03. My Ideal
  04. Greenism
  05. Over The Rainbow
  06. Groovin' High
  07. Corcovado
  08. There Will Never Be Another You
  09. Billie's Bounce
  10. 浜辺の歌

(サヴォイ/SAVOY 2006年発売/COCB-53576)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)

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