『ABYSS』(以下『アビス』)は,山中千尋最大の問題作にして山中千尋唯一の“エレクトリック路線”作。
実際にはスタンダードなピアノ・トリオ編成なのだが,アコースティックは箸休め。この音はどうにもこうにもエレクトリック。電化マイルスならぬ“電化ちーたん参上”なのである。
『アビス』はフュージョンではない。“さわやかな”電化ではない。山中千尋の電化は決まって“混沌のカオス臭”を伴ってやってくる。えげつない音を平然とネジ込んでくるからたまらない。ちーたんはSであろう。
山中千尋の抜群の音使い! アコースティックとエレクトリックのバランスが絶妙で,そうであるがゆえに電化のインパクトが増幅している。鮮烈過ぎるローズ・ピアノのアタックが“真打”アコースティック・ピアノの強烈なアタックへと導いていく。
そう。『アビス』は“異色の”ジャズ・ピアノ作!? ズバリ,山中千尋の口には出せない本音を代弁=『アビス』は“実験作”。ちゃんちゃん。
ヴァーブ移籍の3作目にして,どこぞの虫が疼いた? 過去2作のうっぷんを晴らすかのの如く,やりたいことを詰め込んできた。硬質のピアノ・タッチでハードボイルドでガンガン弾き倒している。でも一気に針は振り切らない。従来のファンにも納得できる珠玉の4ビートもバッチリ。馴染みの客を大切にしながらの新規開拓。いや〜,きれいな顔してしたたかである。
前兆はあった。前作『ラッハ・ドッホ・マール』での【縁は異なもの】におけるダブ。山中千尋は【縁は異なもの】の録音時に『アビス』への構想&手応えを掴んだのではないか? 【ザ・ルート・オブ・ザ・ライト】〜【シング,シング,シング〜ギヴ・ミー・ア・ブレイク】の圧巻の出来には「拍手喝さい」&「お〜お〜お〜」。
とはいえ,管理人の中では『アビス』への予感があった。ゆえに『アビス』を聴いた瞬間,驚きの感情よりも「ついに来た。来るべき時が来た」の感覚が先に立った。“なんじゃこりゃ〜”な衝撃度は『アウト・サイド・バイ・ザ・スウィング』の方が上である。
『アビス』はやっぱり“異色”ジャズ・ピアノ作。巷に流れる,電化ちーたん=フュージョンは誤り。このテンションとスウィング感は「ジャズのそれ」である。読者の皆さんはその辺の違いをしっかりと聴き取るべし!
結果,実験作は冒険作。でもでもメジャー移籍組にしてこれだけ冒険できるとは山中千尋恐るべし!
さて,ここまでは『アビス』が冒険作になった意図的な必然について書いてみたが,本人の想像以上にローズ・ピアノやオルガンが突出した偶然の理由もあると思う。それは山中千尋が有する「共演者に影響されやすい体質」である。
『アビス』での共演者は,ベースのヴィセンテ・アーチャーとドラムのケンドリック・スコット。お二人のファンの皆様には大変失礼だとは思うが無名の小者である。ゆえにレイ・パーカーのベースとラフレェ・オリヴィア・スキィのドラムと共演した『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』以来の山中千尋の「個性推し」である。
ヴィセンテ・アーチャーとケンドリック・スコットと音を合わせる山中千尋の存在感が,炙り出しの如く浮かび上がっている。シンプルなハード・ドライビングでピアノを走らせている。
前作までのラリー・グレナディア,ジェフ・バラード,ジェフ・ワッツは,山中千尋の緩急についてこれていたが『アビス』ではベーシストとドラマーは置いてけぼり? 完全なる脇役扱いにも満足の名サポートを受けた山中千尋が「帰ってきましたセルフ・プロデュース」で…。ああ…。ちーたんはSであろうパート2。
『アビス』で際立つ山中千尋の個性。それは「計算高いのに予測不能」な女の子。
クラシック出身でバークリー首席卒業の理論派エリートのはずなのにジャズの醍醐味がインプロヴィゼーションにあることを心得ている。想定外な演奏を想定しつつ準備している。結果,洗練されているはずなののに新鮮な音が響いている。く〜。どこまでウワテを行ってるんだ〜。
管理人は山中千尋に弄ばれている気がする瞬間がある。『アビス』の想定外な演奏に「騙された」気分になる。きつねにつままれた感じが残る。
この全てが山中千尋の計算通り。山中千尋の術中にハマッているのだろう。したたかでしなやかなのだからグーの音も出やしない。こりゃまた彼女に一杯喰わされた。参りましたの星5つ。
PS1 このまま「電化ちーたん」路線を続けていたら上原ひろみを越えていたかも?
PS2 「ABYSS-3」は販促用のポストカードです。
01. LUCKY SOUTHERN
02. THE ROOT OF THE LIGHT
03. SING,SING,SING - GIVE ME A BREAK
04. TAKE ME IN YOUR ARMS
05. FOR HEAVEN'S SAKE
06. GIANT STEPS
07. I'M GONNA GO FISHIN'
08. FOREST STAR
09. BEING CALLED
10. DOWNTOWN LOOP
実際にはスタンダードなピアノ・トリオ編成なのだが,アコースティックは箸休め。この音はどうにもこうにもエレクトリック。電化マイルスならぬ“電化ちーたん参上”なのである。
『アビス』はフュージョンではない。“さわやかな”電化ではない。山中千尋の電化は決まって“混沌のカオス臭”を伴ってやってくる。えげつない音を平然とネジ込んでくるからたまらない。ちーたんはSであろう。
山中千尋の抜群の音使い! アコースティックとエレクトリックのバランスが絶妙で,そうであるがゆえに電化のインパクトが増幅している。鮮烈過ぎるローズ・ピアノのアタックが“真打”アコースティック・ピアノの強烈なアタックへと導いていく。
そう。『アビス』は“異色の”ジャズ・ピアノ作!? ズバリ,山中千尋の口には出せない本音を代弁=『アビス』は“実験作”。ちゃんちゃん。
ヴァーブ移籍の3作目にして,どこぞの虫が疼いた? 過去2作のうっぷんを晴らすかのの如く,やりたいことを詰め込んできた。硬質のピアノ・タッチでハードボイルドでガンガン弾き倒している。でも一気に針は振り切らない。従来のファンにも納得できる珠玉の4ビートもバッチリ。馴染みの客を大切にしながらの新規開拓。いや〜,きれいな顔してしたたかである。
前兆はあった。前作『ラッハ・ドッホ・マール』での【縁は異なもの】におけるダブ。山中千尋は【縁は異なもの】の録音時に『アビス』への構想&手応えを掴んだのではないか? 【ザ・ルート・オブ・ザ・ライト】〜【シング,シング,シング〜ギヴ・ミー・ア・ブレイク】の圧巻の出来には「拍手喝さい」&「お〜お〜お〜」。
とはいえ,管理人の中では『アビス』への予感があった。ゆえに『アビス』を聴いた瞬間,驚きの感情よりも「ついに来た。来るべき時が来た」の感覚が先に立った。“なんじゃこりゃ〜”な衝撃度は『アウト・サイド・バイ・ザ・スウィング』の方が上である。
『アビス』はやっぱり“異色”ジャズ・ピアノ作。巷に流れる,電化ちーたん=フュージョンは誤り。このテンションとスウィング感は「ジャズのそれ」である。読者の皆さんはその辺の違いをしっかりと聴き取るべし!
結果,実験作は冒険作。でもでもメジャー移籍組にしてこれだけ冒険できるとは山中千尋恐るべし!
さて,ここまでは『アビス』が冒険作になった意図的な必然について書いてみたが,本人の想像以上にローズ・ピアノやオルガンが突出した偶然の理由もあると思う。それは山中千尋が有する「共演者に影響されやすい体質」である。
『アビス』での共演者は,ベースのヴィセンテ・アーチャーとドラムのケンドリック・スコット。お二人のファンの皆様には大変失礼だとは思うが無名の小者である。ゆえにレイ・パーカーのベースとラフレェ・オリヴィア・スキィのドラムと共演した『リヴィング・ウィズアウト・フライデイ』以来の山中千尋の「個性推し」である。
ヴィセンテ・アーチャーとケンドリック・スコットと音を合わせる山中千尋の存在感が,炙り出しの如く浮かび上がっている。シンプルなハード・ドライビングでピアノを走らせている。
前作までのラリー・グレナディア,ジェフ・バラード,ジェフ・ワッツは,山中千尋の緩急についてこれていたが『アビス』ではベーシストとドラマーは置いてけぼり? 完全なる脇役扱いにも満足の名サポートを受けた山中千尋が「帰ってきましたセルフ・プロデュース」で…。ああ…。ちーたんはSであろうパート2。
『アビス』で際立つ山中千尋の個性。それは「計算高いのに予測不能」な女の子。
クラシック出身でバークリー首席卒業の理論派エリートのはずなのにジャズの醍醐味がインプロヴィゼーションにあることを心得ている。想定外な演奏を想定しつつ準備している。結果,洗練されているはずなののに新鮮な音が響いている。く〜。どこまでウワテを行ってるんだ〜。
管理人は山中千尋に弄ばれている気がする瞬間がある。『アビス』の想定外な演奏に「騙された」気分になる。きつねにつままれた感じが残る。
この全てが山中千尋の計算通り。山中千尋の術中にハマッているのだろう。したたかでしなやかなのだからグーの音も出やしない。こりゃまた彼女に一杯喰わされた。参りましたの星5つ。
PS1 このまま「電化ちーたん」路線を続けていたら上原ひろみを越えていたかも?
PS2 「ABYSS-3」は販促用のポストカードです。
01. LUCKY SOUTHERN
02. THE ROOT OF THE LIGHT
03. SING,SING,SING - GIVE ME A BREAK
04. TAKE ME IN YOUR ARMS
05. FOR HEAVEN'S SAKE
06. GIANT STEPS
07. I'M GONNA GO FISHIN'
08. FOREST STAR
09. BEING CALLED
10. DOWNTOWN LOOP
(ヴァーヴ/VERVE 2007年発売/UCCJ-2060)
コメント一覧 (2)
この作品、純粋なアコースティックトリオかと思いきや、何ともエレクトリックで刺激的な一枚でした。
この作品を聴く限り、ちーたんはやはり「S」ですね!
メジャー移籍第一弾が、もしこの作品なら、世間一般のちーたんのイメージも変わっていたかも!?
こんなに刺激的でジャズしてるアルバムって・・最高です(^^)
『ABYSS』を純粋にアコースティック・トリオと捉える方もいて,それは間違いではないのでしょうが,それだと『ABYSS』のおいしい部分を聴き逃すことになると思います。
『ABYSS』は本当に,何とも刺激的なエレクトリックですよね。
風の少年さんが仰るように,メジャー移籍第一弾が『ABYSS』でしたら世界は上原ひろみではなく山中千尋に注目していたかもしれませんね。
ですが山中千尋はCD3枚+DVD1枚周期で変貌するお嬢様。澤野工房と同じパターンでヴァーブを捉えて見ると彼女のメンタリズムが分かるような気がします。← 完全な妄想です。