
無論,聴き所は他に多数。何と言っても素晴らしいのが,新生ジャズ・メッセンジャーズに漲る“ジャズメン・スピリッツ”!
この熱気に演られてしまう。往復ビンタを喰らったような衝撃である。しかも42分49秒の間中,何度何度も頬を張られてしまうのである。
しかし,やっぱりウィントン・マルサリス抜きに『アルバム・オブ・ジ・イヤー』を語ることなどできやしない。新生ジャズ・メッセンジャーズを再生させ,熱気を与え張りを与えたのは,間違いなくウィントン・マルサリスの快演に起因している。
トランペットのウィントン・マルサリスが“御大”アート・ブレイキーのハートに火をつけた! アルト・サックスのボビー・ワトソンを,テナー・サックスのビル・ピアースを,ピアノのジェームス・ウィリアムスを,ベースのチャールス・ファンブローを燃え上がらせた!
そりゃそうである。こうなるはずである。いいや,これで燃え上がらないほうがおかしいのである。そう。『アルバム・オブ・ジ・イヤー』の時点でウィントン・マルサリスのトランペットにクリフォード・ブラウンの快演を「見た」からだ。
ジャズ史上最高のトランペッター=クリフォード・ブラウンの後継者,ここに“参上”なのである。
ここで『アルバム・オブ・ジ・イヤー』について,そしてウィントン・マルサリスについて「一気に熱く語りたくなる衝動を抑えて」まずは話を補足しなければならない。そうしなければ管理人のウィントン・マルサリス愛は伝わらない。深く愛するがゆえの空回り?
まず重要なのは,新生ジャズ・メッセンジャーズがウィントン・マルサリスに“白目を剥かされた”のは『アルバム・オブ・ジ・イヤー』が初めてではない,という事実である。
ジャズ・メッセンジャーズへのウィントン・マルサリスの吹き込みは『アルバム・オブ・ジ・イヤー』が「最初で最後」なのであるが,それはスタジオ録音のお話。
(巷に数枚のブートが存在しているが)ニューヨークの「ボトム・ライン」〜スイスはレマン湖の「モントルー・ジャズ・フェスティバル」〜フォート・ローダーデイルの「バッパス」でのライブ録音。ウィントン・マルサリスのジャズ・メッセンジャーズでの公式デビュー作『ジャズ・メッセンジャーズ・ビッグ・バンド』という手もある。
つまり『アルバム・オブ・ジ・イヤー』は,ウィントン・マルサリスがジャズ・メッセンジャーズのメンバーとしてある程度の時間をコンボと共有してからのレコーディング。そう。メンバー全員,ウィントン・マルサリスがすでに“天才”だということを思い知らされた上でのレコーディングであったという事実。
ジャズ・メッセンジャーズの全員が,もはやウィントン・マルサリスとバトルしようなどとは考えない。考えられない。ただただウィントン・マルサリスと共演できる「喜びを噛み締めて」レコーディングに臨んでいる。
それがゆえでのアート・ブレイキーの覚醒されたドラミングであり,ボビー・ワトソンとビル・ピアースのブローであり,丁寧なビルドアップで響かせる伝統と清新のジェームス・ウィリアムスのピアノであり,チャールス・ファンブローのミディアム・バウンスなのである。
行ける! 彼となら行ける! ジャズ・メッセンジャーズが再ブレークできる! 何と『アルバム・オブ・ジ・イヤー』の邦題のコンボ名は「アート・ブレイキー & ジャズ・メッセンジャーズ〜フィーチャリング・ウィントン・マルサリス」! 81年のジャズ・メッセンジャーズの立ち位置を見事に表現できている(定冠詞の「ザ」が抜けているけれども)!

一度注目を集めさえすれば,そこは才能溢れるジャズ・コンボ。3管の2人=ボビー・ワトソンとビル・ピアースは元から素晴らしいサックス・プレイヤーだっただけ〜。
だ・か・ら・ウィントン・マルサリス抜きに『アルバム・オブ・ジ・イヤー』を語ることなど不可能なのだ。
アート・ブレイキーの前面バックアップを受けて,ハツラツとトランペットを鳴らしまくるウィントン・マルサリス。相当なテクニシャンである上に「ジャズとは何か」を理解して吹き上げているから手がつけられない。「新しい響き」「新しい感覚」「新しい音の重ね方」を追求して吹き上げているからお手上げである。
ウィントン・マルサリスを中心に回る『アルバム・オブ・ジ・イヤー』。ウィントン・マルサリスを中心に回るジャズ・メッセンジャーズ。ウィントン・マルサリスを中心に回る「新伝承派」のムーブメント。ウィントン・マルサリスを中心に回るジャズ・シーン。
『アルバム・オブ・ジ・イヤー』から30年。21世紀のジャズ・シーンは未だにウィントン・マルサリスを中心に回っている。
01. Cheryl
02. Ms. B.C.
03. In Case You Missed It
04. Little Man
05. Witch Hunt
06. Soulful Mister Timmons
(タイムレス/TIMELESS 1981年発売/30R2-23)
(ライナーノーツ/安原顕)
(ライナーノーツ/安原顕)
間違っても好きなトランペッターではありませんが、「Album Of The year」のマルサリスは爽快そのもの。
間違っても“時代錯誤の〇〇野郎”と云う悪口は出て来ない訳であります(笑)
それよりも、普段モノラルとステレオの狭間時代のJazzに身を置く者にとって、このalbumは“音”自体に驚きでした。
妙に臨場感があり、あっさりした各楽器の音色が何とも言えない時間の壁でして、フュージョン以降の音の録り方がされている(当前だ)だけで、何処かクールな印象。
スティットとペッパーの「グルーヴィン・ハイ」もほぼ同じ時代のalbumですが、コレも演奏は抜群に面白いけど違和感が(笑)
この二枚、どちらも最初CDで買いましたが、音がどうしても馴染めなかった為LPで買い直し、矢っ張りこんなもんか!と\(☆o☆)/
贔屓目か、LPの方が多少自然な音色で耳馴染みが良い…なんてのはJazz馬鹿の独り言でしょう…。