MOON BEAMS-1 管理人は新ベーシストとしてチャック・イスラエルを迎えた,新生ビル・エヴァンストリオの2枚の姉妹盤『MOON BEAMS』(以下『ムーンビームス』)と『HOW MY HEART SINGS!』(以下『ハウ・マイ・ハート・シングス』)を同時期には聴かなかった。

 先に買ったのは『ハウ・マイ・ハート・シングス』。『ハウ・マイ・ハート・シングス』の“酸いも甘いも”に関しては,後日UP『ハウ・マイ・ハート・シングス批評で語ることにするが,アップテンポ集の『ハウ・マイ・ハート・シングス』は大注目のチャック・イスラエルインタープレイを中心に聴き漁り,多くのジャズ本を読み漁ったものだ。
 新ベーシストの結論としては,世評に違わず「スコット・ラファロ命」を実感するのだが,ではチャック・イスラエルがダメかというとトンデモナイ。チャック・イスラエルがいたからこそエヴァンスは新たな表現手法に足を踏み入れることが可能となったのだ。うん。

 そのように管理人の『ハウ・マイ・ハート・シングス』の評価が定着した頃に時間差で入手した,姉妹盤のバラード集=『ムーンビームス』。『ムーンビームス』を聴いて,管理人のチャック・イスラエル熱が燃え上がった。ビル・エヴァンスが“嬉々として”スコット・ラファロの死で途絶えたピアノ・トリオを再スタートさせたのも分かる気がした。
 『ムーンビームス』を聴き漁っていた頃の管理人は「スコット・ラファロ命」→「チャック・イスラエル命」へと“推し変”していた甘い思い出(ただし,現在は再び「スコット・ラファロ命」です!)。

 そう。『ムーンビームス』でのビル・エヴァンスピアノは,低重心で落ち着きのあるチャック・イスラエルの“名伴奏”を得て,真に内省的な自己との対話を表現するようになったと思う。
 事実『ムーンビームス』を聴いていると,ベーシストラファロなのか,イスラエルなのか,などどうでもよくなってくる。チャック・イスラエル名演ビル・エヴァンススコット・ラファロへの郷愁を忘れさせてしまっている。

 スコット・ラファロへの思いを断ち切ったビル・エヴァンスピアノ・タッチが鮮烈に変化している。脱硬派である。『ムーンビームス』全編フィーチャー=高音怒涛のキラキラ感。一瞬,エレピかと思う瞬間が幾度となくある。
 そしてスコット・ラファロを亡くしたのはポール・モチアンも同じ。ポール・モチアンブラッシングによるチャック・イスラエルへの賛歌がこれまたいいんだっ!

MOON BEAMS-2 管理人の結論。『ムーンビームス批評

 『ムーンビームス』をビル・エヴァンスの入門者に薦めてはいけない。ましてBGMなど論外である。
 バラード集にして,相当に甘口な『ムーンビームス』は曲を聴いてはならない。メロディを追いかけてはならない。これが管理人の『ムーンビームス』を楽しむための極意にして“正しいテーブルマナー”だと思っている。

 『ムーンビームス』は,ただただビル・エヴァンスの個性に意識を集中して聴くべきアルバムの最右翼。そうすれば繊細で豊かなビル・エヴァンスだけが有するハーモニーの世界が味わえる。
 『ムーンビームス』は,手間暇を惜しんでは楽しめない,実は骨が折れるアルバムなのである。

  01. RE:PERSON I KNEW
  02. POLKA DOTS AND MOONBEAMS
  03. I FALL IN LOVE TOO EASILY
  04. STAIRWAY TO THE STARS
  05. IF YOU COULD SEE ME NOW
  06. IT MIGHT AS WELL BE SPRING
  07. IN LOVE IN VAIN
  08. VERY EARLY

(リバーサイド/RIVERSIDE 1962年発売/VICJ-60214)
(ライナーノーツ/オリン・キープニュース,小西啓一)
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