FRIENDS-1 「リターン・トゥ・フォーエヴァー」を解散し,コンセプトものの「ファンタジー三部作」を完結させたチック・コリアが,本格的なソロ活動のスタートとして選んだのが,腕達者な友人4人とのセッション・アルバム=『FRIENDS』(以下『フレンズ』)である。

 『フレンズ』でのチック・コリアは,前作まで続いた「クリエイティブな音楽実験」から解放されて,何にも考えずに鍵盤の前に座った感じがする。
 ゆえにチック・コリアの“ジャズ・ピアニスト”としての「本能丸出し」で「ストレート・アヘッド」なローズ・ピアノに“天才の凄み”のようなものをいつも以上に感じてしまう。
 チック・コリアが「フィーチャリングエレクトリックピアノ」のスタンスでジャズのフィールドに帰ってきた!

 しかしそうではない。そんな能書きを垂れてはならない。『フレンズ』の本質はそれとは真逆な部分にある。『フレンズ』について語るべきは,もっと抽象的な部分である。『フレンズ』には,何とも言い得ぬ“味わい”がある。

 曲の良さ,アドリブの良さ,以上に,ほのぼのとして,温かみがあって,チック・コリアベストフレンズの4人が自然と笑みをこぼして,音楽で会話できているような雰囲気が全体を支配している。聴いているこちらまでが笑顔になってしまうような…。
 そう。『フレンズ』こそ,音を楽しむと書いて「音楽」と読む,の代表格。音楽を聴く歓びをいつ聴いても何度聴いても味わえるスルメ盤。管理人が魅了されてやまない愛聴の1枚なのである。

 『フレンズ』に心地良く酔いしれる度に「音楽ってコミュニケーションなんだよなぁ」を実感する。
 『フレンズ』はバンド・サウンドではないのだが『フレンズ』が『フレンズ』として成立するのは,不動の4人,チック・コリアジョー・ファレルエディ・ゴメススティーヴ・ガッドの誰一人として欠けてはならなかったと思う。

 4人の濃密なコミュニケーションが生み出した絶妙のブレンド。1人では出せず2人でも出せず…この音色では出せずこのリズムでは出せず…。
 4人が“チーム・ブレンダー”として,ジャズの焙煎&蒸らし時間について,百戦錬磨の豊富なアイディアを持ち寄り,いっせーのせ,でディスカッション!

 互いに信頼を寄せ合うメンバーが,引き出しを出し合ってまとめた最高のパターン! テイクを重ねれば重ねるごとに,一発録りを凌駕するアプローチが次から次へと誕生する! 演れど演れどもアイディアが止まらない! テンションが上がって上がってしょうがない! 音楽でクリエイトするのが楽しくってしょうがない!

 チック・コリアは優れたバンド・リーダーである。自身のキーボードは,洗練された聴き応えたっぷりのフレーズを“軽く一丁弾き飛ばす”ことで「ジャム・セッションっぽい風通しの良さ」を演出している。
 ジョー・ファレル以上のサックス奏者がごまんといる中,チック・コリアの選択はジョー・ファレル一択。ズバリ,ジョー・ファレルが構築した“明確なリテール”と“爽やかな後ノリ”が『フレンズ』最大の成功要因であろう。
 エディ・ゴメスウッドベースが本当に「ハートフル」。スティーヴ・ガッドドラミングは「若気の至り」。ゴメスガッドのリズム隊が“ピョンピョン”跳ねまくっている。フロントを揺り動かしながら「猪突猛進」している。

FRIENDS-2 チック・コリアの大量の名盤群のなかにあって『フレンズ』は本当にヘビロテしたアルバムである。いつでもハッピーな気分になれるし聴き飽きたりしない。

 その理由は『フレンズ』の“ゆったり&ピリカラ”の二本仕立て。【THE ONE STEP】【FRIENDS】の「表・楽園ユートピア路線」と【SAMBA SONG】【CAPPUCINO】の「裏・ゴリゴリ・バッパー爆発路線」。
 この“ゆったり&ピリカラ”の二本仕立てが,どんな気分にも合う合う! この“ゆったり&ピリカラ”の二本仕立てが,多面的で実に様々な表情を見せてくれる!

 『妖精』収録の【妖精の夢】で意気投合し『マッド・ハッター』収録の【ハンプティ・ダンプティ】で大輪の花を咲かせた,チック・コリアジョー・ファレルエディ・ゴメススティーヴ・ガッドカルテットが,息つく暇もなくレコーディングした『フレンズ』。

 この3回のレコーディングを続けて聴き通す時,ベストフレンズの4人が徐々に機能的なバンド・サウンドに近づいていくインタープレイの変化の過程が実に面白い。
 “濃密なコミュニケーション”の産物=『フレンズ』の何とも言い得ぬ“味わい”に舌鼓を打つ。チック・コリアの友人引き立て役を買って出た“懐の深さ”に感嘆する。

  01. THE ONE STEP
  02. WALTSE FOR DAVE
  03. CHILDREN'S SONG #5
  04. SAMBA SONG
  05. FRIENDS
  06. SICILY
  07. CHILDREN'S SONG #15
  08. CAPPUCINO

(ポリドール/POLYDOR 1978年発売/POCJ-1981)
(ライナーノーツ/チック・コリア,熊谷美広)

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