CLIFFORD BROWN WITH STRINGS-1 内容的に『CLIFFORD BROWN WITH STRINGS』(以下『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』)を凌駕する「ウィズ・ストリングス」アルバムは数あれど,聴いて感じる「幸福感」とか「満足感」において『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』を超える「ウィズ・ストリングス」アルバムは永遠に登場しないと思っている。

 それ位に『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』の存在感が大きすぎる。『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』の壁が高すぎる。『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』こそが「ウィズ・ストリングス」の決定盤なのである。

 そんな「ウィズ・ストリングス」アルバムの“代名詞”である『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』であるが,実は管理人にとって「ウィズ・ストリングス」の印象は薄い。「ウィズ・ストリングス」は,おまけ程度の味付け程度にしか感じない。

 そう。『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』は「ウィズ・ストリングス」以上に「バラード集」であり「スタンダード集」である。
 いいや,「バラードの中のバラード集」であり「スタンダード集の中のスタンダード集」の思いがする。

 それというのも『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』におけるクリフォード・ブラウントランペットは,自分を捨てアドリブを捨て,ただ美メロを“慈しむように”吹き鳴らすための道具と化している。
 すなわち『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』におけるクリフォード・ブラウンの役所は,美メロのための「黒子役」。クリフォード・ブラウンの“思い入れたっぷりな”トランペットが鳴り響く。単純にそれだけのアルバムである。

 クリフォード・ブラウンは,己の卓越したトランペッターとしてのテクニックを,基本中の基本であるロングトーン1本で披露している。丁寧にゆったりとしたロングトーンのニュアンスだけで勝負している。
 なんなんだこの“まろやかな”音色は…。なんなんだこの“温かな”音色は…。なんなんだこの“艶やかな”音色は…。なんなんだこの“膨らんだ”音色は…。どの音をとってみてもそも全てが慈愛に満ち溢れている!

 参ってしまう。降参である。クリフォード・ブラウンのロングトーンの表情だけで参ってしまう。何の仕掛けもない素朴で純朴なトランペットストリングスの共演に降参してしまう。

CLIFFORD BROWN WITH STRINGS-2 完成度は高くない。至福のアドリブも登場しない。クリフォード・ブラウンの“天才”を聴くのが目的であれば「クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ」コンボの名盤を聴くべきである。

 『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』を聴く目的は“もう一人のブラウニー”との出会いにある。愛してやまないブラウニーの魅力がギッシリ詰まっている…。ジャズに浸る無上の喜びが感じられる…。

 内容うんぬんではない。「ウィズ・ストリングス」の真髄は,聴いて「幸福感」や「満足感」が得られるかどうか,である。
 その意味で『クリフォード・ブラウン・ウィズ・ストリングス』こそが,永遠に「ウィズ・ストリングス」の決定盤なのである。

  01. Yesterdays
  02. Laura
  03. What's New
  04. Blue Moon
  05. Can't Help Lovin' That Man
  06. Embraceable You
  07. Willow Weep For Me
  08. Memories Of You
  09. Smoke Gets In Your Eyes
  10. Portrait Of Jenny
  11. Where Or When
  12. Stardust

(エマーシー/EMARCY 1955年発売/PHCE-4169)
(ライナーノーツ/岩浪洋三,児山紀芳)

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