TO FAZIOLI-1 オーディオ・システムを再び組むことが許されるのなら,アンプマッキントッシュアキュフェーズスピーカーJBLBOSEで悩むことだろう。そしてSACDプレーヤーは…。
 しかしオーディオ・チェック用CDだけは悩まない。山本英次ゴールドCD仕様盤『TO FAZIOLI』(以下『トゥーファツィオリ』)である。

 ズバリ『トゥーファツィオリ』こそが,山本英次の「超高音質盤中の超高音質盤」。ピアノの音色を聴いて,心が震えるほど感動した経験は,後にも先にも『トゥーファツィオリ』の1回きり。
 『トゥーファツィオリ』こそが,管理人の心の中の“良い音の基準”となっている。『トゥーファツィオリ』が良い音で鳴らなければ,それは良いオーディオ・システムではないのだと思う。『トゥーファツィオリ』が「“良い音の基準”のその基準」となっているのだ。

 そんな『トゥーファツィオリ』の“絶対基準”を可能としたのが,ピアニスト山本英次のテクニック,レコーディング・エンジニアの「赤坂工芸音研」の石渡義夫の「匠の技」,そして今回の主役であるイタリアの名器=ファツィオリのフルコンサート・グランド・ピアノ,F278の並外れた能力,その三大要素の「プロフェッショナルすぎる融合」にある。

 ピアノは打楽器である。右手と左手が時に別々に,時に同時に鍵盤を鳴らす。問題となるのは鍵盤を押すタイミングと押す力加減である。
 純粋にピアノの音色が美しいと思う最右翼はミシェル・ペトルチアーニである。こう書けば納得されるだろうが,ハーモニーの是非を瞬時に判断できるのが,神が授けたミシェル・ペトルチアーニの「特殊能力」の1つである。

 ミシェル・ペトルチアーニが“天賦の才”なら,山本英次は“ピアノへの愛”である。
 山本英次ピアノを聴いていると,時折,セロニアス・モンクをイメージしてしまうことがある。セロニアス・モンクは真面目にユニークな音楽を追及した巨人の1人であるが,特にピアノの響きを一日中研究していた,というエピソードが山本英次とダブルことがある。

 こんな風に叩けばこんな音が出る。こんな角度で,こんなタイミングで,こんな強さで…。
 そう。山本英次の“ピアノへの愛”が,ピアノをいかに美しく鳴らすか,のモチベーションなのであろう。ピアノの響きというか,低音だけでなく,高い音を弾いても,低音弦が共鳴してピアノのボディに響く音が伝わってくる。まるで目の前でピアノを弾いてもらっているかのような錯覚に陥る瞬間もしばしば…。
 ただし山本英次が「調律師」で決定的に異なるのは,ピアノの音は音楽となって初めて輝くことをわきまえているからと思う。大好きなジャズを表現するための道具としての「ピアノ職人」。これが“ジャズ・ピアニスト山本英次の真髄なのである。

 山本英次の「きれいなピアノ」の音を録りたい。最高の音質で記録しておきたい。そんな自然の欲求につき動かされた人物が,レコーディング・エンジニア界の「神7」の1人,石渡義夫であった。
 高音質録音といっても,単にクリアーで抜けが良く, 鮮度が高ければ高音質録音であるとは言い切れない。対象は音楽。演奏されているサウンドは最も大切な要素,そして音楽的なバランスも重要だ。アンバランスな要素は音楽を台無しにしてしまう。

 そこで石渡義夫がこだわったのが“ホールの響き”である。石渡義夫は,音の気配,空気感をどれほどに忠実に録音するか,に命を懸けている。
 ピアノという楽器は,発音体に弦と反射板とがあり,直接音は弦から,間接音は反射板から生じる。当然微妙な位相差があり,マイクセッティングによっては濁った音になる。ゆえに,一本一本のマイクの位相を念入りに確認したとのこと。左右の定位だけではなく,前後の定位をも正確に記録することで,彫りの深い音になっていると思う。

 そう。レコーディング・エンジニア=石渡義夫の24BITデジタルHDDレコーディンの“入魂の音”が『トゥーファツィオリ』のソロ・ピアノに記録されているのだ。

TO FAZIOLI-2 そんな山本英次石渡義夫の熱心な仕事ぶりに素直に反応するのが,肝心要なフルコンサート・グランド・ピアノのF278。恐らくは有名なピアノ・コンテストでしかお耳にかかれない超高級ピアノが秘められた能力を大開放。
 チェンバロのように響版に伝わる弦のハーモニーがうまく混ざり合った音色がファツィオリの特長だと思うが,この華麗な響きと余韻の芳醇さの何と豊かなことであろう。いつ果てるとも知れぬ残響にファツィオリのハイ・ポテンシャルを聴いている気分がする。

 またファツィオリの別の特徴として,本当にピアニストや調律師の手に敏感に反応してしまうようでして,15曲目と16曲目の【不思議の国のアリス(テイク1)】【不思議の国のアリス(テイク2)】は,調律だけを変えた全く同じ演奏が録音されているのだが,調律の変化が演奏に与える影響の大きさを感じとれるのも聴いていて面白いと思う。

 『トゥーファツィオリ』の「超高音質」の保証とは「STEREO」誌1998年度「最優秀録音賞」受賞のゴールドCD盤。
 ジャズはやっぱり難しい,と感じている読者の皆さん。どうですか? オーディオからジャズに入ってみませんか?

  01. Softly As In A Morning Sunrise
  02. Am Ha Arets "SUGA"
  03. Summer Time in VENICE
  04. St. Louis Blues
  05. Stella By Starlight
  06. Alice In My Dream
  07. Lullaby Of Bay YOKOHAMA
  08. Autumn Leaves
  09. If I Had You
  10. Someone To Watch Over Me
  11. Mood Indigo
  12. Sweet Georgia Brown
  13. Alice And Flowers
  14. Dinah
  15. Alice In Wonderland (take 1)
  16. Alice In Wonderland (take 2)
  17. To FAZIOLI

(YPM/YPM 1998年発売/YPM-007)
(ゴールドCD仕様)

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