UPFRONT-1 ついに“アゲアゲ・サンボーン”の大登場! 「裏名盤」の『UPFRONT』(以下『アップフロント』)批評である。

 デヴィッド・サンボーンファンクグルーヴのウネリに乗って,硬派なアルトを“下品に”吹き散らかす!
 ただそれだけなのだが,ストリートに潜って,ついついコブシが回ってしまった?粘っこい“サンボーン節”は,メイシオ・パーカーとは対極の位置に座す,別種の頂点に達しているように思う。

 良しにつけ悪しきにつけ『アップフロント』は「泥臭い」。骨太でシンプルなビートとメロディー。感情の高まりをストレートに表現したノリ一発のジャズファンクに腰が動いてしまう。
 デヴィッド・サンボーンが,ひたすらファンクグルーヴを追及した演奏スタイルが強烈すぎて,緻密なバック・サウンドにまで耳が追いつき難いのだが,個人的にはデヴィッド・サンボーンの“アゲアゲ”以上に,NYシティ系の典型であったマーカス・ミラーの音楽性の変化が気になってしまった。

 マーカス・ミラーが“白いファンクネス”なら,リッキー・ピーターソンは“黒いファンクネス”である。黒人なのに「白」のマーカス・ミラーと白人なのに「黒」のリッキー・ピーターソンの共演が,南北横断で和洋折衷っぽい,ファンクグルーヴの魅力である。

 完璧主義者のマーカス・ミラーが理性を失ってしまうほど,リッキー・ピーターソンの“黒いファンクネス”にハマッテしまったのか? スティーヴ・ジョーダンSOULに憑りつかれてしまったのか?
 『アップフロント』には,そんなマーカス・ミラーについて初めて不安を感じていた鮮明な思い出がある。

 そう。マーカス・ミラーの「サラサラ」な血液とリッキー・ピーターソンの「ドロドロ」な血液が入り混じる,キレと粘りの“アゲアゲ・サンボーン”が最強! アクセルを踏みっぱなしだから見ることのできた,デヴィッド・サンボーンの「血潮のたぎり」!
 デヴィッド・サンボーンの,イっちゃった感のあるヒリヒリしたテンションのアルトサックスに,一種の腫れ物的な熱気を感じてしまう。

 小難しいことなど考えずに,ただHIPでPOPな『アップフロント』に身を委ねて聴き続けていると…。これが意外にも硬派で複雑なフレーズで埋め尽くされていることに気付くようになる。そう。いつしか,前作のジャズ・アルバム『ANOTHER HAND』からの影響を感じるようになる。

 本能の赴くままにアルトサックスを吹き散らかしても『ANOTHER HAND』に通じるアドリブの世界を感じてしまう。
 JAZZYなメタルが響き渡ることによって,ダンサブルでロマンティック度の高い『アップフロント』=「メイシオ・パーカーへの切り札」が完成したのではないだろうか?

UPFRONT-2 「蛇使い」なアドリブでヒーヒー言わす【SNAKE】。R&Bのソウルが爆発するバラード・ナンバーの【BENNY】。エリック・クラプトンの【FULL HOUSE】よりもリチャード・ティーコーネル・デュプリーの【SOUL SERENADE】。今や沼澤尚の十八番な【BANG BANG】。オーネット・コールマンの【RAMBLIN’】で跳ねまくる“アゲアゲ・サンボーン”こそが「裏名盤」!

 得意の打ち込みを控えてアナログ・メインなジャズ系の生音を可能にしたのが『アップフロント』におけるマーカス・ミラーの“緩さ”にある。
 普段では決して見せることのない「デヴィッド・サンボーンマーカス・ミラー」の“緩さ”に『アップフロント』の価値がある。

 まっ,そうは言っても,マーカス・ミラーのノー・チョッパーの指弾きベースと組んだスティーヴ・ジョーダンのタイトでジャンプするドラムリッキー・ピーターソンのシンプルなハモンドオルガンの低音ビートが“グイグイ”脳内に入って来ますよ〜!

 『アップフロント』『ヒアセイ』での“アゲアゲ・サンボーン”こそが,聴いていて最高に楽しいデヴィッド・サンボーン〜!

  01. snakes
  02. benny
  03. crossfire
  04. full house
  05. soul serenade
  06. hey
  07. bang bang
  08. alcazar
  09. ramblin'

(エレクトラ/ELEKTRA 1992年発売/WMC5-493)
(ライナーノーツ/寒川光一郎)

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