
そう。『アワ・マン・イン・パリ』とはデクスター・ゴードンのパリ・セッションのこと。
だから『アワ・マン・イン・パリ』は,いつもの(アメリカの)デクスター・ゴードンの雰囲気とはちょっと違う。
「芸術の都」と呼ばれるパリの空気を吸って,ジャズ・スタンダードを,ヨーロッパ調に?芸術っぽく?カッコヨク?吹き上げている,デクスター・ゴードンが“お上品”なのだ。
デクスター・ゴードン・ファンからすると異色盤の『アワ・マン・イン・パリ』であるが,これがいいのだ。
ジャズメン=アーティスト扱いのスタジオ録音で,生真面目にして弾んだ演奏&意気揚々と屈託のない演奏で,デクスター・ゴードンの「おめかしした演奏」と「リラックスした演奏」の両面が聴けるのは『アワ・マン・イン・パリ』だけである。
良く知られたスタンダード集ゆえに,細かく途切れるように,語尾を伸ばさない“デックス節”が全開。
テナー・サックス本来の“低音の唸り”も迫力満点であるが,大らかな高音部の響きがどこまでも力強く,優しさに溢れた「ダンディな男」デックス。例の「後ノリ」が鳴りだすと「いよっ,待ってました」な「千両役者」の登場であろう。
テナー・サックスの音色についても,いつもと違う「ヨーロピアンな」雰囲気がある。いつもの豪放で男性的で野太いトーンはそのまんまにして,荒々しい感じだけが消えた「ダンディな男」デックスのテナーが「渋い声」で大鳴りしている。
何とも言えない余裕というか大人の貫録というか「大物感」がある。これぞ最大の“PARIS”効果なのであろう。
【チュニジアの夜】が最高である。本来熱いグルーヴが似合う曲なのに,デクスター・ゴードンの“ワンホーン”で延々と歌い上げられるこの演奏には,どこか透き通ったような寂しさを感じる。
狂騒的な熱帯の夜の雰囲気はない。いい意味でムーディーでエキゾチックな夜という感じで,太くてたくましいがまろやかな音で,余裕しゃくしゃくの演奏に“うっとり”してしまう。本当に大好き。

レベル的にはデクスター・ゴードンの,というよりも,ジャズ・サックスを代表する,あるいはモダン・ジャズを代表する名盤の1枚であろう。
しかし『アワ・マン・イン・パリ』での“余所行き感”を知ってしまうと,幸福そうなデクスター・ゴードンの笑顔が見えてくるように感じて,たまらない愛着を感じてしまう。
『OUR MAN』=私たちの大男=アメリカを代表するテナー・サックス奏者=デクスター・ゴードンを知って欲しいし,聴いて欲しい。
そう。管理人が選ぶデクスター・ゴードンの愛聴盤は『GO!』ではなく『アワ・マン・イン・パリ』の方なのである。
PS 『アワ・マン・イン・パリ』に“ピンと来たら”やっぱり映画「ラウンド・ミッドナイト」を見てみないと! “俳優”デクスター・ゴードンが見事に“奇人”バド・パウエルを演じています。ベーシストのピエール・ミシュロも“ちょい役”で出演しています。
01. SCRAPPLE FROM THE APPLE
02. WILLOW WEEP FOR ME
03. BROADWAY
04. STAIRWAY TO THE STARS
05. A NIGHT IN TUNISIA
(ブルーノート/BLUE NOTE 1963年発売/TOCJ-9045)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,小川隆夫)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,小川隆夫)