SMILE-1 ドミニク・ ファリナッチの存在を知ったのは市原ひかりの『SARA SMILE』だった。
 『SARA SMILE』でのドミニク・ ファリナッチはゲスト参加ゆえに,ドミニク・ ファリナッチの演奏は「控え目で端正でストレートな」生真面目なトランペットだった。

 気持ちとしては市原ひかりを立てる“恋女房役”を全うしていた。でもでもドミニク・ ファリナッチの“並外れた実力”は隠せない。サイドメンとして軽く吹いたつもりが剛速球。日本ハムの大谷翔平が軽く投げても140km出す感じ? 他の投手が全力で投げる147kmのストレートをフォーク・ボールで出す感じ? 
 その“並外れた実力”で市原ひかり2ndへと追いやり,リード・トランペットを吹くドミニク・ ファリナッチに一発で惹かれてしまった。

 『SMILE』(以下『スマイル』)を買ってみた。なになに。ライナーノーツを読むと,あのウイントン・マルサリスに「神童」と言わせた“お墨付き”の最高ランクと書かれている。
 やはりそうだった。ドミニク・ ファリナッチは「只者」ではなかった。ドミニク・ ファリナッチウイントン派だったとは,ちょっとイメージとは違ったのだが,とにかく素のドミニク・ ファリナッチとは“音色良しでテクニック良し”な「超正統派の本格派」であった。

 サイドメンでは感じなかった“風格”を感じる。スレート・アヘッドなジャズ・トランペットの世界観が深く,徹頭徹尾ふくよかな美しい音色と端正なフレージングでリスナーを酔わせてしまう&狂わせてしまう,ドミニク・ ファリナッチを絶賛せずにはいられない!
 「CTI時代のフレディ・ハバード」へのオマージュである【COME RAIN OR COME SHINE】が「イナセな」イナタイ8ビート。ヴィブラートの周波数がフレディ・ハバードへのオマージュである。

 サイドメンでは感じなかった“品格”を感じる。スレート・アヘッドなジャズ・トランペットの世界観が深く,こんな感じにアレンジされると「江戸っ子だねぇ。粋だねぇ」とドミニク・ ファリナッチを絶賛せずにはいられない!
 ウイントン派のルーツはクリフォード・ブラウンにあるのだが【I REMEMBER CLIFFORD】での叙情性が「イナセ」である。エレガントなバラードTHE NEARNESS OF YOU】と【SMILE】での歌心が「イナセ」である。

SMILE-2 ドミニク・ ファリナッチのポリシーとは,ギミック排除のウルトラ・オーソドックス。フレージングの個性に頼ろうとしない,さりげなく小粋な佇まいのジャズ・トランペッター

 『スマイル』でのドミニク・ ファリナッチトランペットは相当に「渋い」。クールでまろやかな音色のトランペットが決して熱くならずに美旋律を吹き切っている。

 そう。「神童」ドミニク・ ファリナッチ・クラスともなれば,ガツガツした自己主張など不要なのであろう。
 ただし,ウイントン・マルサリスには食指は伸びるが,ドミニク・ ファリナッチには食指は伸びない。ジャズ・トランペットの世界では「オール5の優等生」でも個性の差異は大きいものなのだ。

  01. WHO CARES
  02. THE NEARNESS OF YOU
  03. ESTATE
  04. JUST ONE OF THOSE THINGS
  05. I REMEMBER CLIFFORD
  06. COME RAIN OR COME SHINE
  07. THE GREY GOOSE
  08. RELAXIN' AT PETER'S
  09. SMILE

(M&I/M&I 2005年発売/MYCJ-30330)
(ライナーノーツ/都並清史)

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