'DISTANT STAR-1 ビル・チャーラップビル・シャーラップ。両名とも英語では「BILL CHARLAP」と書く。そう。同一人物である。
 こんなパターンはたくさんあって,思いつくままに書くと,ジャック・デジョネットジャック・ディジョネットとか,デヴィッド・サンボーンデイヴィッド・サンボーンとか,マイルス・デイビスマイルス・デイヴィスとか,その多くはレーベルとかレコード会社が変わると日本語表記が変わったりする。

 まっ,普段は“馴染みの”ビル・チャーラップ表記がビル・シャーラップ表記になっていたとしてもスルーするのだが,今回のビル・シャーラップ名義の『DISTANT STAR』(以下『ディスタント・スター』)はスルーできなかった。
 ビル・チャーラップと同一人物のビル・シャーラップが明らかに別人として響いてしまう。ここでも(よせばいいのに)書いておくとピアノビル・エヴァンスサックスビル・エヴァンスくらいに?別人として響いてしまったのだ。

 そう。ビル・シャーラップ名義の『ディスタント・スター』には,オーソドックスで“趣味の良さ”を直感させるビル・チャーラップの個性的なピアノがいない。
 ビル・シャーラップピアノベースショーン・スミスドラムビル・スチュワートを挑発している。ゆえにリスナーをも挑発している。

 あの「優等生」なビル・チャーラップが,もう1人の自分=ビル・シャーラップと対峙している。「ハードボイルド」なジャズ・ピアノの創造にチャレンジしている。
 ニューヨークトリオビル・チャーラップトリオを聴いてきた耳にはビックリである! ← 管理人のビル・チャーラップの順番はニューヨークトリオビル・チャーラップトリオビル・シャーラップトリオのROUND TRIP。

 こんなにもエキサイトしたビル・チャーラップを聴いたのは初めてである。悠々と拍を伸縮してグルーヴするショーン・スミスベース,チキリチキリとおかずを加えるビル・スチュワートのシャープなドラミングとのインタープレイが最高に素晴らしい。
 ビル・チャーラップのめちゃめちゃタイトなリズム感。そのタイミングでその音を置くのか,としか表現しようのない“ジャスト”タイプの個性炸裂の大名演

DISTANT STAR-2  丁寧なソフト・タッチで美メロを紡ぎあげさせたら当代随一のビル・チャーラップ。本当にこの人の弾くピアノは嫌味がない。
 だ・か・ら・ニューヨークトリオ名演の秘訣は,そしてビル・シャーラップトリオ名演の秘訣は,ひとえにビル・スチュワートの“やり過ぎる”ドラミングとの相性の良さにある。この2人にしか通じ合えない「調和の妙」がお見事である。

 「ソフト」なビル・チャーラップと「ハード」なビル・シャーラップの違いは,ビル・スチュワートドラムを「受けるか,攻めるか」の違いである。
 ジャズメンの個性は1つとは限らないのだから,たまには「硬派」なビル・シャーラップとしての“顔”も見せてほしいと思う。

  01. ALONG THE WAY
  02. WHILE WE'RE YOUNG
  03. LAST NIGHT WHEN WE WERE YOUNG
  04. HERE I'LL STAY
  05. DISTANT STAR
  06. BON AMI
  07. '39 WORLDS FAIR
  08. STARLIGHT
  09. THE HEATHER ON THE HILL

(クリスクロス/CRISS CROSS JAZZ 1997年発売/CRISS 1131 CD)
(☆直輸入盤仕様)
(ライナーノーツ/ビル・チャーラップ)

人気ブログランキング − 音楽(ジャズ)