OFF TO THE RACES-1 『OFF TO THE RACES』(以下『オフ・トゥ・ザ・レイシス』)こそが,ドナルド・バードの“最高傑作”である。

 ブルーノートには1500番台でのサイドメンも含めてドナルド・バード名演が数多く残されている。セールス的には後年のファンキー路線の方が成功を収めている。
 でも,それでも,管理人にとってドナルド・バードと来れば,問答無用で『オフ・トゥ・ザ・レイシス』なのだ。とにかくカッコ良い。このカッコ良さは「花形」トランペッターとして活動することを許された,わずか数人だけが醸し出すことのできる“味”なのである。

 そんなジャズ・トランペット特有のカッコ良さがギッシリと詰め込まれているアルバムはブルーノートのコレクションを見渡しても,いいや,ハード・バップの歴史的名演を見回しても『オフ・トゥ・ザ・レイシス』以外には見つからない。

 『オフ・トゥ・ザ・レイシス』は,アルトサックスジャッキー・マクリーンバリトンサックスペッパー・アダムスと組んだ3管フロントによる直球ハード・バップ。
 ことに3管,しかもバリトンサックスと来れば“コテコテの分厚いアンサンブル”をイメージするのだが『オフ・トゥ・ザ・レイシス』にはそれがない。3管なのに暑苦しさのかけらもない。
 ホッとできると言うか,小難しいところなんて皆無だし,軽やかにサクサクとアンサンブルが突き進んでいく。

 ズバリ,この独特なアンサンブルこそが“ジャズ・トランペッタードナルド・バード“特有の味”!
 例えば,同じクリフォード・ブラウン直系のリー・モーガンフレディ・ハバードであれば,熱くなると天井知らずのエモーションというか,トランペッターの本能ともいうべき強烈なエゴイズムを感じずにはいられないのだが,ドナルド・バードの場合は,どんなに熱く盛り上がろうとも,常に全体をクールに見つめている。
 まるでマイルス・デイビスのように…。あたかもウェイン・ショーターのように…。

 そう。ハイノートをビシビシとヒットさせるではなく,中音域を中心に組み立てられたメロディアスなフレーズが「金管」トランペットから連発する。
 感情表現だけではない“カラフルな展開と仕掛け”にこそ,ドナルド・バードの唯一無二の個性を強く感じてしまう。

 1曲目の【LOVER COME BACK TO ME】と2曲目の【WHEN YOUR LOVER HAS GONE】も相当に良い。
 しかし『オフ・トゥ・ザ・レイシス』のハイライトは3曲目の【SUDWEST FUNK】である。特に1分8秒からのハイ上がり! そこからさらにハイ上がる6分22秒からのハーモニーこそが,モダン・ジャズ史上「指折り」の“燃え&萌え”! このアンサンブル,カッコヨスギ!

 管理人は『オフ・トゥ・ザ・レイシス』は3曲目から聴き始める。憂鬱な気分も1曲聴き終える頃には吹き飛んでしまっている。
 CD時代には,3曲目から聴き始めてそのまま6曲目までで聴き終えるのが常だった。しかしリッピングを行なうようになってからは1曲目と2曲目も聴くようになった。
 それまでほとんど聴いてこなかったから急速調の【LOVER COME BACK TO ME】と美しい音色のバラードWHEN YOUR LOVER HAS GONE】がめちゃめちゃ楽しい。
 この個人的な不思議体験が『オフ・トゥ・ザ・レイシス』を「1粒で2度おいしい」“特別な1枚”へと押し上げてくれる。

OFF TO THE RACES-2 管理人の結論。『オフ・トゥ・ザ・レイシス批評

 『オフ・トゥ・ザ・レイシス』は絶対名盤である。【SUDWEST FUNK】は絶対名曲である。
 ドナルド・バードを「しゃぶり尽くしたいのなら」そしてジャズ・トランペットに「酔いしれたいのなら」『オフ・トゥ・ザ・レイシス』で決まりである。

 『オフ・トゥ・ザ・レイシス』の真骨頂を味わいたいのなら【SUDWEST FUNK】からアルバム全体を聴き始めることをお奨めする。
 「ジャズ批評家」セラビーの名とプライドをかけて,絶対に満足することをここに保証する。

  01. LOVER COME BACK TO ME
  02. WHEN YOUR LOVER HAS GONE
  03. SUDWEST FUNK
  04. PAUL'S PAL
  05. OFF TO THE RACES
  06. DOWN TEMPO

(ブルーノート/BLUE NOTE 1959年発売/TOCJ-6465)
(ライナーノーツ/ジョー・ゴールドバーグ,高井信成)

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