LAND DIZZY-1 梅津和時については「ドクトル梅津」を名乗るアルトサックス・プレイヤーという知識しかなかった。実はほとんど聴いたことがなかった。渡辺香津美のサイドメン絡みが数枚ある程度である。
 ビッグネームなのに,ほぼ初対面で聴いた「梅津和時 KIKI BAND」名義の『LAND DIZZY〜眩暈の国』にやられてしまった。さすがにビッグネームだと思った。

 梅津和時って,こんなにもエモーシャナルなアルトサックス・プレイヤーだったんだ。全然似ていないはずなのに『LAND DIZZY〜眩暈の国』を聴いている管理人の脳内は,あのデヴィッド・サンボーンとか,あのケニー・ギャレットを聴いている時と同じ種類のアドレナリンが噴き出てきた。

 もっとフリーっぽい,ジョン・コルトレーンアーチー・シェップの「アグレッシブに吹きまくる系」かと思って手を付けずにいたのに,そうではなかった。ジャズ・ロックかなぁ。
 梅津和時アルトサックスは「歌うたい系」であった。歌心があって,これだけは伝えたいという感情が込められたサビでの絶唱が来る。でも全く重く響かない。メロディーが駆け抜ける感じの「キレイ系」のアルトサックスだった。

 そう。『LAND DIZZY〜眩暈の国』を聴いてアドレナリンが出たのは事実であるが,その要因は梅津和時アルトサックスではなかった。
 『LAND DIZZY〜眩暈の国』の主役は,楽器が違うがジョン・コルトレーンのような鬼怒無月ギターと,楽器が違うがアーチー・シェップのような早川岳晴ベースの方である。鬼怒無月プログレギター早川岳晴のファズ・ベースの「音圧」に負けてしまったのだ。

 「梅津和時 KIKI BAND」が目指しているのは「アヴァンギャルドなジャズ・ロック・バンド」であろう。「梅津和時 KIKI BAND」より激しいジャズ・バンドなんて幾らでもある。でもこんなにも“危うい”ジャズ・バンドは他にそう多くはない。
 ここに梅津和時の素晴らしさがある。梅津和時鬼怒無月早川岳晴の“暴走”を音楽的に受け止めて「つないでまとめてメロディアスに聴かせて」いる。

LAND DIZZY-2 それもこれも最後は梅津和時アルトサックスをスピーディーに吹きまくるためである。
 なんだかんだであやうくも刺激的なアンサンブルを梅津和時が求めている。無骨に,正面からジャズ・ロックを気持ちよく吹きまくっている。

 そんな梅津和時の押し付けがあればこそ,バラバラに空中分解しそうな勢いのギターベースが“やさぐれている”。
 ギリギリでジャズしているし,ギリギリで「梅津和時 KIKI BAND」している。高速ビートなど使っていないのに少しでも油断すると脳内が破壊されそうな勢いの演奏にたじろいでしまう。途切れることなくビートがうねっている。ビートが牙を剥いている。要するに「前衛」なのだろう。

 「前衛」にして「梅津和時 KIKI BAND」の音楽は分かりやすい。そう感じられるのが「歌うたい系」梅津和時の素晴らしいミュージシャンシップに尽きる。
 まとまっているのに危ういアヴァンギャルドな『LAND DIZZY〜眩暈の国』。管理人のような“電化マイルス”好きにはたまらない1枚である。

 
01. IZUMOYA
02. Crawler
03. UNI
04. 玄武
05. 地上の月
06. IZUMOYA

 
KAZUTOKI UMEZU KIKI BAND
KAZUTOKI UMEZU : Alto Saxophone
NATSUKI KIDO : Guitar, Mandlin, Synthesizer
TAKEHARU HAYAKAWA : Bass
KOZO NIIDA : Drums

(イーストワークス・エンタティンメント/EWE 2002年発売/EWCD-0053)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/松山晋也)

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