DEAR OLD STOCKHOLM-1 『DEAR OLD STOCKHOLM』(以下『懐かしのストックホルム』)が実に悩ましい。
 演奏良しの選曲良し。これぞジャズ・ピアノが長年追い求め続けてきた理想の具現化であろう。

 ただし手放しでは喜べないのだ。エディ・ヒギンズ・クラスなら『懐かしのストックホルム』クラスの名盤を放っておいて演奏できる。
 なのにエディ・ヒギンズがやらされてしまっている。スイングジャーナル誌とヴィーナス・レコードにやらさえてしまったのだ。そこがどうにも歯がゆいのだ。

 そう。『懐かしのストックホルム』とは,スイングジャーナル誌の「エディ・ヒギンズ・トリオで聴きたいスタンダード・ベスト10」から産まれた企画盤である。どうやらVENUSの10周年記念企画盤だとか…。

 VENUSエディ・ヒギンズが「持ちつ持たれつの間柄」であることは周知の事実。ゆえに『懐かしのストックホルム』の制作は当然の成り行きだったのかもしれない。
 しかし『懐かしのストックホルム』の中に,エディ・ヒギンズの魂はあるのか?と問われれば,管理人は「ない」と答えよう。

 管理人には『懐かしのストックホルム』でのエディ・ヒギンズは,どうにも「よそ行き」のジャズ・ピアノに聴こえてしまう。「どこぞのカクテル・ピアニスト」のジャズ・ピアノに聴こえてしまう。

 そう。『懐かしのストックホルム』でのエディ・ヒギンズは,いつもより軽めに鍵盤を弾いている。『HAUNTED HEART』や『AGAIN』の頃の硬めのタッチが消えている。

 管理人は『懐かしのストックホルム』の前作までエディ・ヒギンズをずっと支持してきたが,それは“売れ線”を弾いてはみても,心はずっと硬派なジャズメンのままだったからだ。商業主義とは一線を引いた「カクテル・ピアノ」職人のエディ・ヒギンズが大好きだった。

DEAR OLD STOCKHOLM-2 だからこそ『懐かしのストックホルム』で感じた軽めのピアノ・タッチに嫌悪感を覚えてしまった。エディ・ヒギンズが悪魔に魂を売ってしまった気がして嫌気がさした。
 1番期待していたのに,甘い【NARDIS】という音選びの決定的な失敗が『懐かしのストックホルム』全体の不必要な甘さへとつながったように思う。

 ズバリ,管理人の大好きだった“エヴァンス派”のエディ・ヒギンズは『懐かしのストックホルム』という大名盤を残して死んでしまった。
 『懐かしのストックホルム』は「どこぞのカクテル・ピアニスト」による名演集なのである。

 個人的には『懐かしのストックホルム』以降のエディ・ヒギンズは評価していない。批評の対象としてはどうでもいい。

  01. Moonlight Becomes You
  02. More Than You Know
  03. Nardis
  04. Over The Rainbow
  05. Dear Old Stockholm
  06. I Remember Clifford
  07. You And The Night And The Music
  08. If You Could See Me Now
  09. Again
  10. We Will Be Together Again
  11. Witchcraft
  12. It Never Entered My Mind
  13. Stella By Starlight
  14. Blame It On My Youth

(ヴィーナス/VENUS 2002年発売/VHCD-4077)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/児山紀芳)

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