LAST DATE-1 長らくエリック・ドルフィーの「遺作」として知られた『LAST DATE』(以下『ラスト・デイト』)を管理人は「遺作」だとは思っていない。

 それって遅れてやってきた『LAST RECORDING』に遺作の立場を乗っ取られたという意味ではなくて『ラスト・デイト』の演奏内容が素晴らしすぎるからである。
 『ラスト・デイト』で最高に躍動しているエリック・ドルフィーが,死の病魔に侵されているなど微塵も感じさせない,熱のこもった演奏が繰り広げられている。
 (改変できるものならば)アルバム・タイトルは『ラスト・デイト』ではなく『ファースト・デイト』の方が似合っている。

 そう。『ラスト・デイト』のエリック・ドルフィーアルトサックスが,フルートが,バスクラリネットには「生命力が漲っている」。
 こちらは世評も正しく,エリック・ドルフィーの吹き上げた音が翼を着けて,今にも空中に羽ばたき舞い回るように感じられる。
 ん? 例の死の直前の輝きなのかっ? あれれっ? 矛盾?

 『ラスト・デイト』のエリック・ドルフィーが特別なのは,エリック・ドルフィー1人が突出したセッションではなく,エリック・ドルフィーが生涯恵まれることのなかった,エリック・ドルフィー・レギュラー・コンボの音になっていることが大きい。 
 『アット・ザ・ファイブ・スポット』がそうであるように,エリック・ドルフィーアドリブの人であると同時に,本当はセッションではなくコンボの方がハマル人だと思っている。

 『ラスト・デイト』のメンバーは,ワンホーンのエリック・ドルフィーピアノミッシャ・メンゲルベルクベースジャック・ショールスドラムハン・ベニンク
 そう。全員が名立たるヨーロピアン・ジャズの実力者であって,単なるサイドメンとしての参加ではないし『ラスト・デイト』でのテンションはエリック・ドルフィーとの共演に触発されてか,ヨーロピアンの白人のノリがエリック・ドルフィーの「軽いノリ」と絶妙なマッチングを聴かせてくれる。

 そんなお気に入りの自分のコンボをバックに従え(事実,エリック・ドルフィーはこのメンバーでコンボ結成の話を進めていた!)エリック・ドルフィーの奇抜なアドリブが大いに冴えわたる。
 一聴,調子っぱずれと聴こえてしまう特クネクネと飛躍する異なジャンピング・フレージングが理知的に構築されていく。長尺のソロを聴いても,定型を避けよう,常に違う地平へ,違う次元へ向かおうとする気概が伝わってくる。

LAST DATE-2 伝統的なコード進行を崩すことなく即興の新しい可能性を探求する『ラスト・デイト』の演奏内容に「遺作」の言葉は似合わない。
 『ラスト・デイト』のラストに「音楽は演奏と共に空に消え去ってしまい,2度とそれを取り戻すことはできない」と語るエリック・ドルフィーの肉声が収録されている。

 しかし空に消え去ってしまったのはエリック・ドルフィーの方であって,エリック・ドルフィーの音楽は,永遠に耳を傾ける者の心を揺さぶり続けている。
 音楽の99%はライブ演奏などメディアに記録されることなく消え去ってしまう儚さを指して語られたものだろうが,ほんの1フレーズであっても最高のアドリブ芸術は人々の心の書き板に刻まれ色褪せることはない。
 エリック・ドルフィーの最高のアドリブは永遠に消え去ることはない。

  01. HAT AND BEARD
  02. SOMETHING SWEET, SOMETHING TENDER
  03. GAZZELLONI
  04. OUT TO LUNCH
  05. STRAIGHT UP AND DOWN

(フォンタナ/FONTANA 1964年発売/UCCU-5034)
(ライナーノーツ/成田正,児山紀芳)

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