HEARTFELT-1 『YES,PLEASE!』で頂点に達してしまったフォープレイ
やるべきことは全てやり尽くしてしまった…。

 …にも関わらずレコード会社からは引き続きセールスの圧力がある。事実『YES,PLEASE!』はグラミー・ノミネーション。続編にも『YES,PLEASE!』路線での好セールスの期待がかかる。
 フォープレイ・ファンの一人として解散という言葉が直感的に脳裏に浮かんだ。もしやボブ・ジェームスの脳裏にも解散の文字が?

 (うれしいことに)フォープレイの4人が選択したのはバンドの解散では継続であった。『REBIRTH』である。そのための手段がレコード会社の移籍である。
 “ウルトラ・スーバー・グループ”フォープレイなのだからレコード会社を移籍するとの噂が立てば引く手あまた。しか〜しフォープレイが選択したのは,大手レコード会社ではなくRCAの子会社に当たる「ブルーバード・レーベル」への移籍である。

 この移籍は素人でも理解できた。よく耳にするメジャーのアーティストがインディーズに行く理由と同じである。そう。フォープレイの第二期とは「本当にやりたい音楽をやる」。ただそれだけなのである。
 キーボードボブ・ジェームスが,ベースネイサン・イーストドラムハービー・メイソンギターラリー・カールトンが,セールス抜きでPOPなスムーズ・ジャズを純粋に演奏したかったがゆえのレコード会社の移籍である。ワォ!

 世界中のフォープレイ・ファン,いいや,純粋にいい音楽のファンのために披露した,第二期フォープレイの始まりを告げる『HEARTFELT』(以下『ハートフェルト』)が素晴らしい。

 とにもかくにも「クラッシュ&ビルド」への意欲が伝わってくる。『ハートフェルト』の売りは「余裕」である。「余裕」があるのは,好きなことを気の向くままに演っても,何を演っても上手くいくという「余裕」。
 この「余裕」こそがフォープレイ10年のバンド活動の賜物。フォープレイの“らしさ”をどんなに壊そうとも,絶対にメンバーが助けてくれるという信頼から生まれる「余裕」があるのだ。

 どんなにアクセルを踏んでも車体の揺れない高級車のような音楽。坂道も楽々と走り続ける大排気量のような音楽。こんなにもフォープレイスムーズ・ジャズがスケールアップしているとは予想していなかった。

HEARTFELT-2 特に毛色が変わったのが“職人仕立てな”ラリー・カールトンギターである。ネイサン・イーストハービー・メイソンの色彩豊かでスカスカなグルーヴの上をラリー・カールトン以外弾けないであろうメロディ・ギターが今まで以上に走りまわっている。
 これまではラリー・カールトンフォープレイに寄せていたのが,第二期フォープレイではフォープレイラリー・カールトンに寄せている感じ。

 そう。第二期フォープレイの真実とは,ブルージーでエモーショナルな「ラリー・カールトン WITH フォープレイ」。懐かしくてベーシックな曲に新しいエッセンスが十二分に盛り込まれている。
 リラックスした雰囲気のなか奏でられる円熟した大人のスムーズ・ジャズ。落ち着いてはいるがきちんと刺激もある。そのシルキーでエモーショナルなサウンドからは,筋肉質にして全身の筋肉が弛緩するような心地良さに満ちている。

 出過ぎず引っ込み過ぎず,相互作用を繰り返しながら曲中で集約されていくフォープレイの真髄はそのままに,ワイドでドラマティックな展開の中,4人がピンポイントで印象的なメロディーをインプロしていく。

 そう。いい曲というより,いいメロディー重視。メジャーにいては決して表現できないミニマルな音楽が『ハートフェルト』にはあると思う。

  01. GALAXIA
  02. THAT'S THE TIME
  03. BREAK IT OUT
  04. ROLLIN'
  05. LET'S MAKE LOVE
  06. HEARTFELT
  07. TALLY HO!
  08. CAFE L'AMOUR
  09. JU-JU
  10. GOIN' BACK HOME
  11. KARMA
  12. MAKING UP
  13. SOFT CARESS

(ブルーバード/BLUEBIRD 2002年発売/BVCJ-31029)
(ライナーノーツ/熊谷美広)

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