ENERGY-1 管理人的にはフォープレイのゴールド・ディスクの中ではイマイチの低評価作『ENERGY』(以下『エナジー』)である。
 『エナジー』は本田雅人の『ACROSS THE GROOVE』直後の1枚。幾分贔屓目に聴いた1枚でもある。

 贔屓目に聴いても数年間は低評価なままだった『エナジー』。何年も『エナジー』の中で好きな曲は【THE WHISTLER】1曲しかなかった。( ただしこの【THE WHISTLER】はフォープレイの全楽曲の中でも相当に大好き! )

 『エナジー』に対する評価は『ACROSS THE GROOVE』に対する評価と一体であった。
 またしても,いつものフォープレイの演奏スタイルに安心する反面,ガッカリもする。大概はそこから入って細かな違いを発見してはニンマリするパターンである。
 フォープレイのアルバムは聴く回数を重ねるごとに良くなっていく。明確に「これだっ」と電流が走ることはないのだが,いつの間にか気がついたらハマっている…。

 『エナジー』の第一印象は「あれっ,ラリー・カールトンが元気ないかな」であった。これって『ACROSS THE GROOVE』で「ラリー・カールトン抜きの4分の3」を聴き込んだせいかと思ったのに…。
← 管理人の悪い予想は良く当たると巷で評判でして…。フォープレイの次作にはラリー・カールトン不在の悪夢。今回の『エナジー批評では詳しくは書きません。

( フォープレイギタリストとしては『エナジー』が最終作になったので,この機会に管理人の考えるラリー・カールトンについて記しておく。ラリー・カールトンの魅力とは,フォープレイの“鉄壁な”アンサンブルが破たんするかどうかのギリギリのラインでギターを弾くところにあった。安定したキーボードベースドラムと不安定なギターがひっついたり離れたりする感じが好きだった。「ちょっとクセになる」と表現するのがピッタリのギター・ワーク。そんなラリー・カールトンの「危険な寸止め」! )。

 『エナジー』の底辺に流れる「ソフト&メロー回帰」。『エナジー』にはフォープレイの新たなチャレンジを発見できずにいたのだが,例えばコード進行1つをとっても『エナジー』を聴けば聴くほど,めちゃめちゃ難しいコードワークを用いていることが分かってくる。当たり前の転調などではない。

 シンプルに聴こえて,その実,この4人でなければ余裕たっぷりに演奏できないことが分かってくる。フォープレイの音楽ってかなりマニアックな理論で出来上がっていることが容易に想像できる。
 渋い。流石は本田雅人のハイパーな譜面をGROOVYに演奏できる訳だ。フォープレイの「物の違い」にKOされて,震えが来て,後は「ハハーッ」とひれ伏すだけ…。

 ズバリ『エナジー』はフォープレイの4人が全員同時に行なった「断捨離」作。
 『エナジー』で,新たなチャレンジングが控え目になった理由こそが,過去リリースされた10枚の新作の録音時に,少しづつながら確実に“フォープレイ・サウンド”のフォーマット上に付着してきた,余分な贅肉の「削ぎ落とし」にある。

 フォープレイドラマーハービー・メイソンと「削ぎ落とし」という言葉で思い出すのが,その昔,カシオペアの『EYES OF THE MIND』をプロデュースしたハービー・メイソンによる神保彰への要求=「余分な音を削ぎ落としてシンプルに」である。
 例の“おあずけ”指示による「シンプルでパワフルなビート」&「タイトでダンサブルなグルーヴ」である。“千手観音”神保彰の“超絶技巧”をスカスカになるまで「削ぎ落とし」たことで世界への道筋を示した功績へと繋がっている。

ENERGY-2 そんなハービー・メイソンの超一流の教えを『エナジー』ではラリー・カールトンが実践したのかも? そして嫌になってしまったのかも? ラリー・カールトンのワイルドでブルージーなギターがどうにも元気がないように聴こえてしまったものでして…。

 大物と呼ばれてるジャズメンの多くは,時が経つにつれて音楽的な自我が肥大化してしまい。何を演奏しても自分の刻印をベタベタと刻みこむようなミュージシャンになってしまう傾向が強い。
 しかし,フォープレイが称賛されて然るべき点は,これだけのメンツが揃いながらもメンバー全員が完璧に「4分1」に徹し,フォープレイのバンド・サウンドを鳴らすために献身的に奉仕している点にある。

 その意味でラリー・カールトンは自己犠牲を払い続けることに疲れてしまったのかなぁ。真意は誰にも分からない。
 ただし『エナジー』でのラリー・カールトンギターには興奮を覚えない。それは恐らくリスナーだけではなく当の本人にしても他の3人のメンバーにしても…。

 ラリー・カールトン様。フォープレイからの卒業おめでとうございます。ラリー・カールトン様。12年間お疲れ様でした。

  01. FORTUNE TELLER
  02. THE WHISTLER
  03. ULTRALIGHT
  04. CAPE TOWN
  05. THE YES CLUB
  06. PRELUDE FOR LOVERS
  07. LOOK BOTH WAYS
  08. ARGENTINA
  09. COMFORT ZONE
  10. SEBASTIAN
  11. BLUES ON THE MOON

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