BY ANY MEANS NECESSARY-1 80年代前半がウイントン・マルサリスブランフォード・マルサリスに代表される「新伝承派」の時代であったとすれば,80年代後半はスティーヴ・コールマンジェリ・アレンに代表される「M−BASE」の時代であった。

 「M−BASE」の音楽理論ははっきり言って新しいのだが,音楽理論以上に新しいのが,新時代を担う若手ジャズメンたちの“感性”であった。変拍子の複雑なリズムを取り入れ,バップやモードというジャズの伝統的な語法を使用しない,そんな高度な演奏形式を見事に消化し,ジャズをプログレッシヴな音楽として再構築する離れ業に,身を乗り出して聴き入ったものだった。

 無機質でテクニカルな演奏の連続に「M−BASE」は聴くと頭が疲れてくるのだが,身体の方は正直で,基本的にはファンキーだしジャズそのものタイム感が感じられて惹き込まれてしまう。
 「M−BASE」のようなジャズが登場した理由こそが「新伝承派」の功績の1つだと考えている。とにかく頭でっかちな音楽のくせして,尻つぼみではなく最新のリズムがドーンと広がっている。

 “筋肉ムキムキ”なジャズ! それが「M−BASE」なのである。
 そして“筋肉ムキムキ”な「M−BASE」の代表格は,管理人にとってはゲイリー・トーマスである。そしてゲイリー・トーマスの中でも『BY ANY MEANS NECESSARY』(以下『バイ・エニー・ミーンズ・ネセサリー』)なのである。
 だ〜ってジャケットが恥ずかしいくらいに“筋肉ムキムキ”しているから! ゲイリー・トーマスって「痛い人」だよなぁ。

 個人的には『バイ・エニー・ミーンズ・ネセサリー』の悪印象が「M−BASE」の悪印象を全て背負った感じがしている。超絶に重い攻撃の連鎖だけで終わっていく。
 良い悪いに関わらず,ゲイリー・トーマスが既存の概念全てを破壊していく様に圧倒されてしまう。これぞ「世紀の問題作」の1つであろう。

 『バイ・エニー・ミーンズ・ネセサリー』での過激さは,今までとは「質」が違う。絶対に檻からは飛び出して来ないのだが,手を伸ばそうとするとすぐに怪我しそうなくらいに危険なジャズである。

 デニス・チェンバースジョン・スコフィールドナナ・ヴァスコンセロスという超ビッグネームがいる。ジェリ・アレンティム・マーフィーアンソニー・コックスという盟友もいる。
 でもそんなスター軍団の存在など関係なしにゲイリー・トーマスが「ワンマンショー」を繰り広げている。そんな「常識外れ」が何事もなかったの如く進行していく。豪華な重量級のジャズメンが,これでもかと押しまくり畳み掛けるメカニカルなフレーズの対決シーンには一聴の価値があると断言する。

BY ANY MEANS NECESSARY-2 『バイ・エニー・ミーンズ・ネセサリー』のハイライトは,デニス・チェンバースジョン・スコフィールドの突進に合わせるでもなく,旋律をアウトし自由に空間を浮遊していくテナーソロ
 ゲイリー・トーマスがたった1人で共演者4人とは違う方向に飛び回る,不協和と変則ファンクなテナーソロ

 管理人は『バイ・エニー・ミーンズ・ネセサリー』を作り上げたゲイリー・トーマスの「度胸」にひれ伏してしまう。
 『バイ・エニー・ミーンズ・ネセサリー』を聴き続けていると次第に息苦しくなる。複雑なテーマを超絶なテクニックで変態フレーズに変換していくゲイリー・トーマスの不愛想なテナーサックスに何度も絶望してみては命の意味を考えさせられる。

 『バイ・エニー・ミーンズ・ネセサリー』でのゲイリー・トーマスとは,全てを破壊し尽くすために生身の肉体一つで「血肉化させた変拍子ジャズ・ファンク」という大砲を装備して走り回る装甲車のようである。

 ただ過剰な音楽がある。ただソリッドな音楽がある。ただシリアスな音楽がある。それが『バイ・エニー・ミーンズ・ネセサリー』である。真にハードボイルドとは,こういう演奏のことをいうのだと思う。

  01. BY ANY MEANS NECESSARY
  02. CONTINUUM
  03. YOU'RE UNDER ARREST
  04. POTENTIAL HAZARD
  05. TO THE VANISHING POINT
  06. SCREEN GEM
  07. JANALA
  08. AT RISK
  09. OUT OF HARM'S WAY

(バンブー/BAMBOO 1989年発売/JOOJ-20352)
(ライナーノーツ/悠雅彦)

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