THE ART TATUM GROUP MASTERPIECES-1 アート・テイタムの代名詞の1つが“超絶技巧”である。しかし,残念ながら管理人はそうは思わない。
 やはりピアノ界の“超絶技巧”と来ればバド・パウエルでありオスカー・ピーターソンである。アート・テイタムの場合はそうではない。同じテクニシャン系で部類分けするならば“印象派”なエロール・ガーナーが最も近いように思う。

 そう。アート・テイタムは「芸能系」のピアニストである。とめどなく湧き出る流麗なフレージングこそがアート・テイタム最大の魅力である。「1人ハーモニー」の世界である。

 アート・テイタムと同世代のピアニストは「ピアニストベーシスト」が当たり前。現在のようにベーシストに低音域を任せることはなかったし,ましてベーシストに自分より上の音域を弾かせることはなかった。なのにアート・テイタムベースの下を自ら弾いた。

 そう。ピアノは「楽器の王様」であり「小さなオーケストラ」。ピアノ1台でオーケストラのような表現ができる。アート・テイタムが追い求めていたテクニックとは「1人オーケストラ」。全ては「1人ハーモニー」を実現させるためである。

 『THE ART TATUM GROUP MASTERPIECES』(以下『ジ・アート・テイタム・トリオ』)は,アート・テイタム唯一となるピアノトリオ盤。
 『ジ・アート・テイタム・トリオ』でのアート・テイタムピアノが実に“優雅”に鳴り響いている。ピアノの88弦全体で“ハモッテいる”。アート・テイタムの「匠の業」が炸裂している。

 モダン以前の“ジャズ・ジャイアント”であるアート・テイタムが『ジ・アート・テイタム・トリオ』ではビ・バップではなく,ビ・バップの次のハード・バップを演奏している。
 その点もかなりの衝撃であるが,それ以上に衝撃なのは『ジ・アート・テイタム・トリオ』のアレンジに,アート・テイタムピアノがハマッテいることである。

THE ART TATUM GROUP MASTERPIECES-2 もしや,これが「1人ハーモニー」アート・テイタムが生涯目指していた音楽なのではなかろうか? ベースドラムのビートをジャストで捉えたアート・テイタムピアノが,終始アドリブを決めまくる音楽は,正しく“芸術”である。
 アート・テイタムが感じたインプロヴィゼーションの波は,楽曲の良さを再構築しながら,スムーズに展開するものだから,逆に凄みすら感じてしまう。

 真にアート・テイタムピアノには,チラチラと1つ1つの音が転がっているように聞こえて,それぞれの音には1音1音絶大な説得力があって,メロディの1つ1つには芯がある。アート・テイタムの「類稀れな歌心」が堪能できる。

 『ジ・アート・テイタム・トリオ』こそが“究極のアート・テイタム”なのだろう。『ジ・アート・テイタム・トリオ』はガツンとではなくジワジワと来る。

 
01. JUST ONE OF THOSE THINGS
02. MORE THAN YOU KNOW
03. SOME OTHER SPRING
04. IF
05. BLUE LOU
06. LOVE FOR SALE
07. ISN'T IT ROMANTIC
08. I'LL NEVER BE THE SAME
09. I GUESS I'LL HAVE TO CHANGE MY PLANS
10. TRIO BLUES

 
ART TATUM : Piano
RED CALLENDER : Bass
JO JONES : Drums

(ヴァーヴ/VERVE 1957年発売/VICJ-2057)
(ライナーノーツ/ベニー・グリーン,小川隆夫)

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