アドリブログ 〜JAZZ/FUSION批評〜

ジャズ/フュージョン批評ブログ CD, DVD, ALBUM REVIEW, TRACK REVIEW and more

CD批評:ゲイリー・ピーコック

ゲイリー・ピーコック&ビル・フリゼール / 峠の我が家4

JUST SO HAPPENS-1 ゲイリー・ピーコックビル・フリゼールによる『JUST SO HAPPENS』(以下『峠の我が家』)を購入したのは2000年のことである。
 1994年リリースの本盤。購入が遅れたつもりはない。何度も書いているのだが管理人は(今のところは)パッケージングされた国内盤のCDしか買わない。理由は輸入盤を買い出したら最後,途方もない大海原の底なし沼の世界に身を置くことになる。国内盤だけに購入候補を絞っても死ぬまでに聴き終えることが出来ない質と量。あぁ。

 …でっ,なんで改めてこんなことを書いているのかというと,2000年に『峠の我が家』を聴いたから,このCDの良さが味わえたということ。本当にラッキーだったということ。そんな“手触りの実感”があるからだ。
 『峠の我が家批評を書くとなると,内容の良さうんぬんよりも,まずこのタイミングの良さを神に感謝する。この点を語らねば!

 …というのも“ジャズ・ギタリストビル・フリゼールは『NASHVILLE』以前で終了している。現在のビル・フリゼールは“アメリカン・ギタリスト”と表現した方がよい。
 ビル・フリゼールが本当に面白いのは「狂気から目覚めた」『NASHVILLE』以後であるが,それは『NASHVILLE』以後のビル・フリゼールの“アメリカンで牧歌的なジャズ”の素晴らしさを知ればこそ!

 仮に1994年に『峠の我が家』を聴いていたとしたら,ビル・フリゼールのことを「腑抜けで短調なギタリスト」と思い込んで嫌いになっていた気がしてならない。
 『NASHVILLE』以降の「ニュー・スタイル」と出会うことはなかったかもしれないし,恐らく受け入れることもできなかったかもしれない。

 それ位に『峠の我が家』でのビル・フリゼールが大人しい。というよりはゲイリー・ピーコックの最高のベースに絡みつくギターが軟弱で腰抜け。悪意ある書き方をすればゲイリー・ピーコックが主張したい音楽観を弱めている,という聴き方もある。
 これってデュオ・アルバムにとっては致命傷だと思う。

 しか〜し『NASHVILLE』で聴いたビル・フリゼールの「穏やかな変態」フレージングの素晴らしさが『峠の我が家』でのビル・フリゼールの柔らかさをすんなりと受け入れられさせてくれる。いいや,ビル・フリゼールの今後の変化の予兆が感じられてワクワクしてしまう。
 特にアメリカ民謡のタイトル曲,4曲目の【峠の我が家1】と5曲目の【峠の我が家2】での演奏は,もしや『NASHVILLE』の元ネタになったかも?

JUST SO HAPPENS-2 ビル・フリゼールがこんなだからか?ゲイリー・ピーコックの超攻撃的なベースがうなりまくっている。凄い骨太でベースの一音だけでゲイリー・ピーコックの指し示す音風景が見えてくる思いがする。

 それにしてもソロ名義のゲイリー・ピーコックは,いつでもとガラリと性格を変えてくる。ベースベースベースの三重奏なのかと思えるくらいの重厚さと繊細さとメロディアスの三点攻め!
 ゲイリー・ピーコックの「狂気のベース」がビル・フリゼールの“毒抜き”に一役買ったのかもしれない。

 そんな,あることないこと,を空想し妄想して楽しんでしまえる音空間が『峠の我が家』にはある。

  01. Only Now
  02. In Walked Po
  03. Wapitis Dream
  04. Home on the Range 1
  05. Home on the Range 2
  06. Trough The Sky
  07. Red River Valley
  08. Reciprocity
  09. Good Morning Heartache
  10. N.O.M.B.
  11. Just So Happens

(ポストカーズ/POSTCARDS 1994年発売/TKCB-71870)
(ライナーノーツ/佐藤英輔)

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ゲイリー・ピーコック / ヴォイセズ5

VOICES-1 1st『イーストワード』は,ミュージシャンとしての成長や刺激のためなど関係なく,1人の人間として東洋の思想や禅の世界に興味を抱き来日していたゲイリー・ピーコックの情報を聞きつけた伊藤潔と菊地雅章がセッティングしたレコーディング。。
 ゆえに出来上がりは,純粋なジャズ・アルバムのそれであった。アメリカ方面のジャズとして通用する。

 対して,2ndとなる『VOICES』(以下『ヴォイセズ』)は『イーストワード』の延長なのに,全く雰囲気の違う音が飛び出してくる。
 『ヴォイセズ』とは,東洋ジャズであり禅ジャズである。純日本的なメロディーがジャズしている。

 『イーストワード』と『ヴォイセズ』の大きな違いは“人間”ゲイリー・ピーコックの奥深さや陰影の音楽投影にある。ヒッピー・ムーブメントのさなか,東洋思想に精神の救済を求めたゲイリー・ピーコックの「スピリチュアル・ジャズ」の完成にある。

 だからキース・ジャレットトリオの原型を見つけた気がした『イーストワード』でのオーソドックスな演奏の続編をイメージすると大怪我をしてしまう。
 ズバリ『ヴォイセズ』は,ゲイリー・ピーコックの本気のフリージャズ。本気の『イーストワードジャズの完成である。

 『ヴォイセズ』とは「ゲイリー・ピーコック WITH 日本の精鋭3名」の構図である。あの菊地雅章が,あの村上寛が,あの富樫雅彦をしても「無敵の」ゲイリー・ピーコックには敵わない。
 こんなにも色の付いたベースを弾けるベーシストってどれくらいいるのだろう。こんなにも“荒々しくて色気がある”ベースを弾けるのはゲイリー・ピーコックぐらいのものだろう。深みが凄い。

 ゲイリー・ピーコックの型式に縛られない自由なベースソロが“歌いまくる”。実にいかがわしい。弦を掻きむしるように痙攣的な激しいパッセージで,苦悶をそのまま音にしたかのようなベースソロを前にして,管理人はただ悶絶するだけである。

 メンバーも音楽性も『イーストワード』より拡大しているのだが,印象としてはより内省的になり,シンプルなコード使いを多用したミニマル。ギュッとメッセージが凝縮された,それでいてフリーならではの未完成な楽曲群。メンバーが入れ替わり立ち代わり音を重ねるスタイルが見事に昇華している。

 これぞゲイリー・ピーコックの東京〜京都生活で体感した日本の文化や食がスタティックに影響しているように思う。ゲイリー・ピーコックベースが楽曲で重要な句読点を打っている。

VOICES-2 とにもかくにも『ヴォイセズ』のハイライトはゲイリー・ピーコックベースである。隙間の多い響きながらも隙は無い。弛緩せず緊張感が漂う,本気のフリージャズを演奏しながらも,柔らかい空気感が漂よっている。

 フレージングは小節線や拍から解放され,自由で鮮やかな譜割が続く。フレーズやコード進行ではない。音の流れそのもの。掴みどころの無さは前作を軽く超え,不定形でつるつると滑らかな世界観を作り上げている。

 『ヴォイセズ』については大好きな菊地雅章富樫雅彦の演奏について語りたいとは思わない。
 「東洋のマインド」を違和感なく“崇高な”ジャズとして表現しつつ,抑制と葛藤とをストイックに語り尽くすゲイリー・ピーコックの力が「圧倒的」。

 『ヴォイセズ』を聴くと,いつでも心が大きく揺さぶられる。
 ゲイリー・ピーコックのスリリングな音楽眼がコンパクトなサウンドで描かれた大名盤である。

  01. ISHI
  02. BONSHO
  03. HOLLOWS
  04. VOICE FROM THE PAST
  05. REQUIEM
  06. AE. AY.

(CBSソニー/CBS/SONY 1971年発売/SICP-10046)
(☆SACDハイブリッド盤仕様)
(紙ジャケット仕様)

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ゲイリー・ピーコック / イーストワード4

EASTWARD-1 ジャズベース界のレジェンド=ゲイリー・ピーコックの記念すべき初リーダー作はアメリカではなく日本のCBSソニーからのリリースであった。
 あのビル・エヴァンストリオベーシストを務め,フリージャズ・シーンでも大活躍してきたゲイリー・ピーコックとしては,ちょっと淋しい感じがする。

 でもこの時点ではそんなもん。『EASTWARD』(以下『イーストワード』)発売前のゲイリー・ピーコックフリージャズ・シーン以外では「知る人ぞ知る」存在にすぎなかった。
 ゲイリー・ピーコックが世界的に名を挙げたのが,この『イーストワード』以降であって,ピアノ菊地雅章にしても,ドラム村上寛にしても,この『イーストワード』が一つの転機になっている。

 真に『イーストワード』が重要なのは,菊地雅章ではなくゲイリー・ピーコックがリーダーとしてピアノ・トリオを操っている点に尽きる。
 そう。『イーストワード』での成功があっての『テイルズ・オブ・アナザー』なのであろうし,だからキース・ジャレットの「スタンダーズトリオ」へとつながったのだろう。そしてキース・ジャレットを経由したからこそ菊地雅章との「テザード・ムーン」へとつながったのだろう。

 とにもかくにも『イーストワード』でのゲイリー・ピーコックが凄いのは「説得力」であろう。管理人なんかはゲイリー・ピーコックの強靭なベース・ワークに“ねじ伏せられてしまう”思いがする。
 ゲイリー・ピーコックの力強いベース・ランニングが正確なビートを刻みながら,ピアノドラムを引っ張っていく。
 『イーストワード』の音世界は「100%ゲイリー・ピーコック」していて,菊地雅章は完全にサイドメン扱いである。超強力なリーダー・シップである。

 好むと好まざるに関わらず,スコット・ラファロの衣鉢を継ぐ演奏スタイルが出発点だったゲイリー・ピーコックがオフ・ビートを発展させようとすれば,先鋭的なフリー・フォームの領域に足を踏み入れるのも必然の結果。
 フリージャズの荒波を経験してきたからこそ,新進気鋭のフロント・ランナーとして,こちらも当代気鋭のJ−ジャズの若手であるピアノ菊地雅章ドラム村上寛と対峙している。

 ゲイリー・ピーコックの提示するアトーナルなオフ・ビート空間に手探り風のアンサンブルにトライしていく。恐らくはゲイリー・ピーコックのイメージを上回る音を発するピアノドラムの刺激を聴き分けては,ゲイリー・ピーコックベースがあたかも「道案内」でもするかのように先回りしてピアノドラムの突進を止めている。

EASTWARD-2 例えば1曲目の【LESSONING】。定型ビートで演奏の骨格を伝え終わったゲイリー・ピーコックは次第に小節内でビートのアクセントをずらし,小節と小節の境界を曖昧にぼかし始めてフリー・フォームの展開に誘い込もうとするが,菊地雅章村上寛は頑なにコードと規則的なリズム・パターンを固守し続ける。
 不規則なベースに合わせるようにドラムがくっついてみたり離れてみたり…。菊地雅章村上寛の当惑とためらいが,いつもより多弁な音数に現れている。

 同様な展開は全編にわたって随所に散見されるのだが,このような局面では殆どの場合,ゲイリー・ピーコックがオン・ビートの定型リズムに軌道修正することでバンドの整合性が収束していく。
 用いるイディオムが三者三様なのでトリオとしての一体感にはやや欠けるが音楽を生み出す情動の高まりには波長の一致が聴こえる。

 音楽の土台を何層も異なる色で重ねていくベースの詩人。それがゲイリー・ピーコックの音楽の本質である。

  01. LESSONING
  02. NANSHI
  03. CHANGING
  04. ONE UP
  05. EASTWARD
  06. LITTLE ABI
  07. MOOR

(CBSソニー/CBS/SONY 1970年発売/SRCS 9333)
(ライナーノーツ/ゲイリー・ピーコック,小川隆夫)

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ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー / TRILOGY 4

 『TALES OF ANOTHER』の4曲目は【TRILOGY 機曄憤焚次撻肇螢蹈検辞機曄法


 【トリロジー】に,ゲイリー・ピーコックが『テイルズ・オブ・アナザー』で“狙った”コンセプトが如実に表現されている。ゲイリー・ピーコックは『テイルズ・オブ・アナザー』で,三者対等=正三角形のトリオ・ミュージックを作り上げたかったに違いない。

 【トリロジー】は,全編濃密なインタープレイで構成されている。通常聴き手は,演奏の中から自分の好きなジャズメン(または楽器)だけを抜きとって追いかけることができるのだが【トリロジー】は,そうはいかない。と言うか,そんなことしたらもったいない。
 “シッポのつかみ合い”のごとく,3人のソロ・パートには必ず前後の繋がりが“仕掛けられている”。これは凄い。

 3人共に自分の演奏“そっちのけで”他のメンバーの音を聴いている。ゲイリー・ピーコックが,キース・ジャレット・トリオの活動時に常々口にする“勝手に指が動いた”最初のセッションが【トリロジー】ではなかろうか?

 【トリロジー】の主役は時に,ゲイリー・ピーコックベースであり,キース・ジャレットピアノであり,ジャック・デジョネットドラムである。【トリロジー】は“聴けば聴くほど味が出る”例のアレである。

GARY PEACOCK : Bass
KEITHJARRETT : Piano
JACK DeJOHNETTE : Drums

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー / MAJOR MAJOR5

 『TALES OF ANOTHER』の3曲目は【MAJOR MAJOR】(以下【メイジャー・メイジャー】)。


 【メイジャー・メイジャー】こそ,キース・ジャレット・トリオによるフリー・インプロヴィゼーションのようなインタープレイの“象徴”である。
 しかし【メイジャー・メイジャー】は,後の『チェンジズ』『チェンジレス』『インサイド・アウト』『オールウェイズ・レット・ミー・ゴー』の原型ではない。

 そう。『テイルズ・オブ・アナザー』録音時のゲイリー・ピーコックベースは,ポール・ブレイ菊地雅章と日本で座禅組んでいた頃の“シリアスなフリー・ジャズ”度が濃厚であって『スタンダーズ』のゲイリー・ピーコックとは別人である。

 【メイジャー・メイジャー】は“シリアスなフリー・ジャズ・ベーシストゲイリー・ピーコックが,ピアノ・トリオのリーダーとしてキース・ジャレットを主導している!
 このゲイリー・ピーコックの“お膳立て”にキース・ジャレットが飛びついた! キース・ジャレットの好みに完璧にハマッタのである。

 【メイジャー・メイジャー】のシンプルなメロディが,キース・ジャレットの好む“反復を繰り返しながら頂点に達する演奏手法”によって想定外の大爆発を生んでいる。ここでのキース・ジャレットの喜びようといったら…。ファンながら恥ずかしい。2分8秒から始まり中盤までずっとあえいでいる。これは子供が大好きなおもちゃを与えられた時の反応そのものである。

 このキース・ジャレットの大爆発が,3分15秒からのジャック・デジョネットの大爆発を導き,それがまた6分19秒からのゲイリー・ピーコックの“キース・ジャレットばりの”反復の連弾で構成されるベースソロへと導いている。

 キース・ジャレットゲイリー・ピーコックジャック・デジョネットの3人が好き放題にやりながらも,ピアノ・トリオを組みながら同じゴールを目指しパスを出し合う,これぞ完璧なインタープレイである。

GARY PEACOCK : Bass
KEITHJARRETT : Piano
JACK DeJOHNETTE : Drums

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー / TONE FIELD4

 『TALES OF ANOTHER』の2曲目は【TONE FIELD】(以下【トーン・フィールド】)。


 【トーン・フィールド】には気をつけろ! まだ大丈夫,と思っていると,気付けばいつのまにか,それは深い,スタンダーズ・トリオの“樹海の森”へと迷い込んでしまっているから…。

 【トーン・フィールド】は,本当にゲイリー・ピーコックの書き下ろしであろうか? だとしたらゲイリー・ピーコックは名作曲家である。何度聴いても,直感とインスピレーションによる恐ろしいほど高次元のインタープレイにしか聴こえやしない!

 ところで40秒からのゲイリー・ピーコックベースソロは(自分でも理由が分からないのだが)ジャコ・パストリアスの【コンティニューム】をイメージしてしまう。
 もしや,と思い【コンティニューム】と聴き比べてみたが,管理人の思い過ごしのようである。

 富士の樹海に七不思議があるように「似ても似つかぬ」ゲイリー・ピーコックジャコ・パストリアスの両巨頭がイメージの中でシンクロする! これぞジャズフュージョンの七不思議である。

GARY PEACOCK : Bass
KEITHJARRETT : Piano
JACK DeJOHNETTE : Drums

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー / TRILOGY 5

 『TALES OF ANOTHER』の6曲目は【TRILOGY 掘曄憤焚次撻肇螢蹈検辞掘曄法


 【トリロジー】を朝一の“寝ボケ眼”で聴く。一時期,それが管理人の出勤前の習慣であった。あの脳を叩き起こす“ガツン”とかますインパクト! あのメガトン級の衝撃度は分かる人には分かるはず! 大体,毎朝聴いていると飽きがくるはずなのに,衝撃波が日増しに増大するとは何事か?

 大袈裟ではなく【トリロジー】を,モダン・ジャズ史上屈指の名演に上げる友人をなんと2人も知っている。いいですか,モダン・ジャズ史上でですよ? 管理人が語らずとも,もうこの事実だけで【トリロジー】の凄さが伝わるというものです。
 …が,やっぱりやりますよ(2人の友人にはないしょで)。以下は管理人の独善的【トリロジー批評で〜す。

 ゲイリー・ピーコックベースソロとシンクロする,41秒からのキース・ジャレットピアノが,実にポップでキャッチー! これぞキース・ジャレットの“地”であろう。

 54秒からの3人が前進する強烈なスイング感が【トリロジー】の聴き所である。キース・ジャレットを突進へと導くゲイリー・ピーコックと,キース・ジャレットの暴走を防ぐジャック・デジョネットの変幻自在のビートは世界一である。
 キース・ジャレットのあえぎ声が聞こえ出すと,そこにはフリー・ジャズスピリッツが宿っている。フリー・ジャズの演奏も偽らざるキース・ジャレットの“地”の一つに違いない。

 【トリロジー】のハイライトが,3分41秒からの狂気のピアノ! 執拗なピアノ連打の異常すぎるハイ・テンション! これは凄すぎる。恐すぎるくらいの“圧巻”の大熱演! 意識をしっかり保っていないと「もう毎日がどうなっても構わなくなる」危険をはらんだ演奏である。

 しかし【トリロジー】の本当のクライマックはまだ先である。5分36秒からの,波が一気に引いていくかのように“滑り込む”ジャック・デジョネットドラミングが肝! 場面を一気に打ち破る爽快感! あのポップでキャッチーなテーマが戻ってきた時の快感と言えば…。
 【トリロジー】の全ては,このラスト・テーマを演奏するためだけに存在する“産みの苦しみ”である。

GARY PEACOCK : Bass
KEITHJARRETT : Piano
JACK DeJOHNETTE : Drums

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー / VIGNETTE4

 『TALES OF ANOTHER』の1曲目は【VIGNETTE】(以下【ヴィネット】)。


 【ヴィネット】を聴いてイメージするのは“嵐の前の静けさ”である。いや,ジャック・デジョネットの叩き出すパーカッションが,すでに暴風雨を予感させる“風の音”である。
 そう。まだ窓を打ち叩く風音だけで雨は降り出していない。【ヴィネット】は“ただならぬ何かを”予感させる静けさに包まれている。

 全編“たんたんと”演奏が流れていく。この最大要因こそ,超硬質なレガートを静かに刻み続けるジャック・デジョネットの職人的なドラミング! ゲイリー・ピーコックキース・ジャレットの“平然と歌う”コード進行の後ろで“コツコツと”いい仕事をこなしている。この抜群のセンスがキース・ジャレットの“お気に入り”の所以であろう。

 4分15秒からのゲイリー・ピーコックベースソロは“スカスカ”で軽すぎ。ここはチャーリー・ヘイデンばりに奥深く潜ってほしかった。
 【ヴィネット】では100%サイドメンとしての役割に徹したキース・ジャレットピアノに“ケルン”を感じてしまうのは,私だけ?

GARY PEACOCK : Bass
KEITHJARRETT : Piano
JACK DeJOHNETTE : Drums

ゲイリー・ピーコック,キース・ジャレット,ジャック・ディジョネット / テイルズ・オブ・アナザー5

TALES OF ANOTHER-1 耳が悪すぎるのか? それともジャズが全く分かっていないのか? 「現代ピアノ・トリオの最高峰キース・ジャレット・トリオを揶揄する人々がいる。
 それらアンチが発するダメ出しの常套句の一つが「ベースがヘボイ」である。「これでベースエディ・ゴメスなら,クリスチャン・マクブライドなら最高なのに」と尾ひれがつく。

 これは明らかな的外れである。ゲイリー・ピーコックへの“いちゃもん”である。
 ズバリ,ゲイリー・ピーコックとは超一流のベーシスト。現代ベースのマイスターの一人なのだから…。

 『TALES OF ANOTHER』(以下『テイルズ・オブ・アナザー』)を聴いてみてほしい。『テイルズ・オブ・アナザー』は,ベースゲイリー・ピーコックに,ピアノキース・ジャレットドラムスジャック・デジョネットによる,キース・ジャレット・トリオスタンダーズ・トリオ)結成6年前の演奏である。

 “阿吽の呼吸”で連動するキース・ジャレット・トリオが大好きだが,まだまだ手探り状態のこの演奏も,今となっては最高にスリリング!
 年齢を重ねることで失われるものが若さであるとすれば,現キース・ジャレット・トリオが失ったものは『テイルズ・オブ・アナザー』での“荒削りの無鉄砲”であろう。

 そう。『テイルズ・オブ・アナザー』が残した“忘れ難いインパクト”がキース・ジャレットスタンダーズ・トリオ結成へと突き動かた“大興奮”の歴史的名盤である。ゲロゲロなフリー・ジャズである。

 全曲ゲイリー・ピーコックの自作曲で固められた『テイルズ・オブ・アナザー』は,6曲中4曲でゲイリー・ピーコックがイントロでベースソロを取り,そこへキース・ジャレットジャック・デジョネットが加わってくるという,現キース・ジャレット・トリオにおける,キースゲイリーの役割が交代した構成がゲイリー・ピーコック名義の証し!

 最高のサイドメンを従えたゲイリー・ピーコックベースがフロント楽器のように歌う歌う!
 どうしてもキース・ジャレットの絶頂のピアノとあえぎ声に耳が行ってしまうのだが(この記事は「ゲイリー・ピーコック批評」なのでキース・ジャレットについては多くを語りません)そこを堪えてゲイリー・ピーコックベース・ラインに意識を集中してみると,この演奏の凄さが浮かび上がってくる。

 そう。ゲイリー・ピーコックは,バッキングに回った時でさえ“無意味なタイム・キープ”をやっちゃいない。ハーモニスクによるフィルでさえ歌うのである。あの“じゃじゃ馬”キースの奔放なのに構成美溢れるピアノゲイリーが美しくも重厚なベースで受け止めていく。
 いや,ジャック・デジョネットが生み出すリズムの渦へ,一気呵成に切れ込むゲイリー・ピーコックが,ジャズ・ピアニストキース・ジャレットを“覚醒”へと導いていく!

 そう。キース・ジャレット・トリオベーシストは,エディ・ゴメスでもクリスチャン・マクブライドでもなく,ゲイリー・ピーコックその人! ゲイリー・ピーコックでなければ黄金のキース・ジャレット・トリオベーシストは務まらない。

TALES OF ANOTHER-2 …と,ここまで書いてみたが,ゲイリー・ピーコックの主戦場=管理人が思う近年のキース・ジャレット・トリオについて一言。

 「ベースがヘボイ」は敵ながらあっぱれ? 正直,管理人も過去にそう思った日々もあった。しかしそれはゲイリー・ピーコックへの不満から来るものではなく「マンネリ感」から来るものである。
 高級レストランのフルコースのごとき美音に“もうお腹いっぱい”なのである。たまには違う味も食べてみたい。そう考えると即効性があるベーシストの交代が脳裏をよぎってしまうことも…。ゲイリー・ピーコック・ファンの皆さん,本当にごめんなさい。

 でもそれでも,まだまだ食べさせてくれるんだよなぁ。満腹中枢が刺激されているはずなのに毎作買ってしまう。そしておいしく食べてしまう。さらにおかわりまでしたくなる。最新作『イエスタデイズ』もその口だった。こうくると分かっちゃいるのに“おおっ”と思う。
 期待通りなのに期待以上。最高なんだよなぁ。好きなんだよなぁ。なんだかなぁ。

  01. Vignette
  02. Tone Field
  03. Major Major
  04. Trilogy I
  05. Trilogy II
  06. Trilogy III

(ECM/ECM 1977年発売/UCCU-5281)
(ライナーノーツ/杉田宏樹,油井正一)

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