
変拍子は聴いて面白いだけではない。特に変拍子の中に複雑なキメまで入ってくると,聴く方にも,自然と力が入る,ものであろう。
変拍子を楽しむにはそれなりのパワーを要する。聞き流す音楽に変拍子は向いていない。変拍子をリラックスして楽しむには,キャッチーなメロディーがどうしても必要だ。
めくるめく変拍子とポップなメロディ・ラインが見事に調和したデイヴ・ブルーベックの歴史的な名盤『TIME OUT』(以下『タイム・アウト』)のような…。
『タイム・アウト』とは「変拍子ばかりを集めたアルバム」であるが,世間的には【TAKE FIVE】を収録したアルバムと言った方が通りがよい。
そう。『タイム・アウト』を批評する行為とは【TAKE FIVE】を批評する行為のことなのである。
ズバリ,山中千尋が「新聞紙・しんぶんし」と紹介した,ジャズ史上,最も有名な5拍子ナンバー【TAKE FIVE】!
恐らく世界中で【TAKE FIVE】という曲名は知らずとも,聴いたら知ってる率「NO.1」なジャズ・ナンバー!? それくらい,一度聴いただけで鼻歌を歌えるようなキャッチーさがある。
あたかもベーシストやドラマーがするのと同じように,デイヴ・ブルーベックがピアノで5拍子を刻んでいくのだが,重量感あふれるブロック・コードから叩き鳴らされた5拍子は,他の5拍子とは異なる「デイヴ・ブルーベック独特の5拍子」であって,スキップしていく感じ。
そう。【TAKE FIVE】は,独特のユーモラスなズレを伴う魅惑の5拍子! こんな5拍子なら「理屈抜きに」誰だってノレル!
【TAKE FIVE】のスイング担当は,ベースのジーン・ライトとドラムのジョー・モレロ。
ピチカートで“スイングを生み出す”ジーン・ライトをよそ目に,ジョー・モレロは正確なビートとスリル満点な即興で“ハイライトを生み出す”技ありのドラミング。
中盤のブレイクとして,長めのドラム・ソロを叩くジョー・モレロが「変拍子への敷居」を下げることに成功している。淡々と地味にドラムが鳴っているのだが,あのドラム・ソロだけで「物語を綴っていく」。
ジョー・モレロの音楽的なドラミングが,ズレを楽しむ【TAKE FIVE】に彩りを加えている。

しゃがれがちでどもりがちながらも,乾いた音色に似つかない,小気味のよい“音符が流れ落ちてくるようなフレージング”が「タイム・アウト」とマッチしている。
ポール・デスモンドのアルト・サックスが最高に“コケティッシュ”! 頑固で口数の多い辛口のフレージングながらも“知的でウィットに富んだ”ブロウが最高!
そう。ポール・デスモンドの成功の秘訣は“抑制”である。ポール・デスモンドの無駄の無いインプロヴィゼーションが他を寄せ付けない洗練されたモダンな雰囲気に【TAKE FIVE】を仕立て上げている。
管理人はまるで「禁断症状」であるかのように,無性にポール・デスモンドを聴きたくなる時があるのだが,そんな時は大抵『タイム・アウト』の【TAKE FIVE】を聴いている。大名演である。
01. BLUE RONDO A LA TURK
02. STRANGE MEADOW LARK
03. TAKE FIVE
04. THREE TO GET READY
05. KATHY'S WALTZ
06. EVERYBODY'S JUMPIN'
07. PICK UP STICKS
(CBSソニー/CBS SONY 1959年発売/SRCS-9631)
(ライナーノーツ/中川ヨウ)
(ライナーノーツ/中川ヨウ)