
1つはアルバムの出来の良さに観念してしまった。“ジャズ・ピアニスト”青柳誠が最高に素晴らしい。個人的に青柳誠と来ればピアノというよりテナー・サックスであり,ピアノというよりキーボードである。
どちらにしてもこんなにも“ふくよかで丸く優しい”音を奏でるピアニストというイメージは抱いていない。青柳誠の一番の代名詞は,あのテナー・サックスでの「循環呼吸奏法」である。
ナニワ・エキスプレスのライブを珍しく!TVで放映していたのだが,一番の盛り上がりが青柳誠の「循環呼吸奏法」のシーンであり,それ以外でもバンドのフロントマンとして“猛獣使いの王子様”君臨の印象を持っている。
ナニワ・エキスプレスでのピアノの出番はメロ弾きとバッキングが多かったのだから(ナニワ・エキスプレスにはナニワ・エキスプレスのメイン鍵盤奏者はキーボードの中村建治)青柳誠=ピアニストの印象は薄い。
ズバリ『青柳誠トライフレーム』をブラインド・テストで出されたら100人が100人とも撃沈することだろう。
もう1つは「ああ,これで青柳誠のナニワへの復帰はなくなったなぁ」というあきらめの感情である。ファンとしてはナニワ再始動への淡い期待を抱いていたが,このアルバムを聴いて踏ん切りがついた。もう2度とナニワ・エキスプレスの“完全版”は永遠に見ることが出来なくない,という覚悟が決まった。
『青柳誠トライフレーム』の優しい音世界はそれくらい,ナニワ・エキスプレスの剛球サウンドとは対極に感じた。1999年の時点で青柳誠とナニワ・エキスプレスのサウンドは「水と油」の位置にある。
思うに,2003年の再結成盤『LIFE OF MUSIC』の時点で,青柳誠のナニワへの思いはすでに燃え尽きていたのだろう。
岩見和彦が引き金を引いたナニワ・エキスプレスの解散劇。その後の5人の活躍は目覚ましい。その中で一番ナニワから離れてしまったのが青柳誠ではなかろうか? 「マルチ・サウンド・クリエイター」と名乗るにふさわしい五臓六腑の大活躍である。
そんな「マルチ・サウンド・クリエイター」が青柳誠が自分の中の“ジャズ・ピアニスト”を表に出してきたのが素晴らしい。“ジャズ・ピアニスト”青柳誠の発掘が「マルチ・サウンド・クリエイター」青柳誠の最大の功績である。

『青柳誠トライフレーム』のピアニストは,晩年期のビル・エヴァンスのリリシズムや,一部キース・ジャレットにも影響を受けている。全編を通して叙情的なジャズ・ピアノが様々なスタイルをMIXさせて美しく響いている。
淡いピアノと淡いリズム。そこに打ち込みでヴァーチャル・ストリングスが被ってくる。モノクロの世界が一気にカラーリングされてくる。とろっとろ。
ただし管理人はこの後におよんでも「青柳誠・ナニワ復活」の奇跡を信じている。その根拠こそがソロ・アルバムの制作に「TRIFRAME」というピアノ・トリオ編成を選んだという事実。
ピアノの青柳誠+ベースの水野正敏+ドラムの池長一美による「TRIFRAME」の名コンビネーション。
きっといつかはベースの清水興+ドラムの東原力哉での「NANIWA TRIFRAME」!?
01. Blue One
02. Circle Beeds
03. Sleepwood
04. Enokorogusa
05. Wives and Lovers
06. Eclogue
07. Ill Never Fall in Love Again
08. Third Scene
09. Only Tune
(ダイキサウンド/SUBCONSCIOUS 1999年発売/SUB-1011)