アドリブログ 〜JAZZ/FUSION批評〜

ジャズ/フュージョン批評ブログ CD, DVD, ALBUM REVIEW, TRACK REVIEW and more

CD

ブリジット・フォンテーヌ / ラジオのように5

COMME A LA RADIO-1 ブリジット・フォンテーヌの『COMME A LA RADIO』(以下『ラジオのように』)は,バックを務めるアート・アンサンブル・オブ・シカゴ目当てで買ったのだが,このアルバムは,ブリジット・フォンテーヌがどうとか,アート・アンサンブル・オブ・シカゴがどうとか,で計れるアルバムではない。

 『ラジオのように』とは,フレンチ・ポップスとフリージャズ・ミックスの形をとった,これが混沌とは真反対の理路整然とした“前衛”にして,絶対に掴むことのできない“底なしの前衛”である。則ち,何らかのキーワードで計れるアルバムではない。

 “底なしの前衛”『ラジオのように』の最大の魅力とは,ポエムであって,音楽というよりも文学に近いということである。
 『ラジオのように』は,リアルな世界観を描いたフィクションの読み物のようなのである。文章で誘う空想の世界であり“非日常の空気感”が描かれているように思う。「サブカルの走り」のような音楽の1つだと思lっている。

 ブリジット・フォンテーヌアート・アンサンブル・オブ・シカゴが,再現不可能な時代を背景に,危険極まりない“非日常の音世界感”を構築している。
 都市の大通りから一本中に入った“路地裏の日常”こそが「社会の歪み」であり「社会の裏側」が音楽で見事に構築されている。だからこそ『ラジオのように』は,あの時代が産み出した“前衛”であり,サブカルなのである。

 ウィスパー・ヴォイスで呪文を唱えるかのように歌うブリジット・フォンテーヌが殺気立っている。不気味で奇怪な歌であることは頭では理解していても,その場を立ち去ることができず,意に反して「立ち尽くして」最後まで聞いてしまうような恐ろしさがある。
 フランス女性のイメージから来るものなのか,あるいはフリージャズのイメージから来るものなのかもしれないが,絶対に見てはいけない闇の世界へとどんどん引き込まれてしまう,いいや,引きずり込まれてしまう危険な感覚…。

 管理人は『ラジオのように』を初めて聴いた時に,成人してからでないと経験することが許されない,未成年では絶対に目隠しされてしまう事柄を見てしまったドキドキする感覚を抱いたことを覚えている。
 だからなのだろう。『ラジオのように』というアルバム・タイトルを耳にすると,今でも音楽というよりも読み物の感覚の方が強い。絵のない「官能小説」の類をイメージしてしまう。

COMME A LA RADIO-2 アート・アンサンブル・オブ・シカゴのバックサウンドが真に素晴らしい。「集団即興集団」であるアート・アンサンブル・オブ・シカゴが,完成度の高いフレンチ・ポップスとフリージャズ・ミックスを演奏している。
 そこで詩を朗読するように歌うブリジット・フォンテーヌの存在が,管理人の中の『ラジオのように』=音楽ではなく文学のイメージにつながっているのだろう。

 いいや,何となくカッコ付けて書いてしまった。ぶっちゃけて書くと,フレンチ・ポップスも知らなかったし,フリージャズもまだ詳しく知らない時分に出会った,管理人にとっての「カルチャー・ショック」の1枚が,たまたま『ラジオのように』だっただけ。
 おフランスへの憧れがあったし,自分の知らない世界への憧れも強かった。「広く浅く」も好きだったし「狭く深く」も好きだった。好奇心旺盛な若者が“底なしの前衛”『ラジオのように』にたまたま出会っただけ。

 今のサブカル世代にとっても『ラジオのように』は“底なしの前衛”と受け止められるのではなかろうか? 『ラジオのように』には,それくらいの破壊力がある。
 恐らく,初めて聴いた人には,何が何だか分からない,で終わると思う。それでいいんです。“前衛”とはそういうものだし『ラジオのように』は“サブカルの走り”の1枚なのだから…。

 
01. COMME A LA RADIO
02. TANKA II
03. LE BROUILLARD
04. J'AI 26 ANS
05. L'ETE L'ETE
06. ENCORE
07. LEO
08. LES PETITS CHEVAUX
09. TANKA I
10. LETTRE A MONSIEUR LE CHEF DE GARE DE LA TOUR DE CAROL
11. LE GOUDRON
12. LE NOIR C'EST MIEUX CHOISI

 
BRIGITTE FONTAINE : Vocals, Spoken Word
ARESKI : Percussion, Vocals

ART ENSEMBLE OF CHICAGO
LESTER BOWIE : Trumpet
JOSEPH JARMAN : Saxophone, Oboe
ROSCOE MITCHELL : Saxophone, Flute
MALACHI FAVORS MAGMOSTUS : Bass

LEO SMITH : Trumpet
JACQUES HIGELIN : Guitar
JEAN-CHARLES CAPON : Cello
ALBERT GUEZ : Lute
KAKINO DE PAZ : Zither

(サラヴァ/SARAVAH 1969年発売/OMCX-1006)
(ライナーノーツ/葉山ゆかり)

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菊池 ひみこ / ウーマン4

WOMAN-1 廃盤になった『WOMAN』(以下『ウーマン』)をずっと探していた。正確には【MAKE UP IN THE MORNING】を探していた。
 なぜなら【MAKE UP IN THE MORNING】こそが「菊池ひみこの音楽」そのものであり,管理人の「青春時代の音楽」のTOP10に入るくらいに聴きまくった「フュージョンと来れば」的な名曲だからである。

 とにかくメロディーが美しい。実にエレガントで,実にドラマティックで,実にロマンティックで,なぜか哀愁さえも感じてしまう。そのクセして聴き所は美メロ以上にリズム隊である。ラテンのノリでギンギンにエレピを押しまくってくる。
 そう。当時,中学生だった管理人には畑中葉子の擬似「後から前から」とシンクロしてしまうくらいに刺激的で官能的だったのが【MAKE UP IN THE MORNING】。いろいろな意味で,一生忘れられない名曲なのである。

 …とここまで書いたが,管理人は【MAKE UP IN THE MORNING】を一度も購入したことはない。ずっとエアチェック・テープで聴いていた。
 …だから上京の際にカセットテープを持参しなかったので十数年【MAKE UP IN THE MORNING】を聴いてはいない。しかし,その間も頭の中で鳴り続けていたし,近年はユーチューブに誰かがUPしてくれたおかげで無料で繰り返し聴いていた。

 しかし,ユーチューブでは満たされないのだ。コレクターの所有欲は満たされないのだ。ずっと頭の片隅に残っている【MAKE UP IN THE MORNING】というか,この曲が入っているアルバム『ウーマン』への思いが募る。
 アマゾンで5000円出せば買える。でもプレミア価格では買いたくない。ヤフオクでも3000円までで何度か入札したが落札できず。それで,ここ数年間は,菊池ひみこチャック・ローブメゾフォルテアル・ヘイグアート・アンサンブル・オブ・シカゴ等のお目当ての中古CD屋巡りが毎週の日課であった。→ 最近は中古CD屋巡りが減ってネットを徘徊するようになってしまいました。

WOMAN-2 そこへ今回の菊池ひみこの再発企画である。もうそりゃあ,即効で買うでしょう! ということでまとめて4枚の大人買いをして『ドント・ビー・ステューピッド』『フラッシング』『オーライ』『ウーマン』をついに手に入れた! ヤッター! タワーレコード!

 【MAKE UP IN THE MORNING】1曲のために購入した『ウーマン』であるが,これまでアルバムの他の曲は聞いたことがなかった。『ウーマン』の中に第二の【MAKE UP IN THE MORNING】が収録されていることを期待していたのだが…。

 う〜む。『ウーマン』は“大振りスイングのアルバム”である。つまりは三振かホームランのアルバムである。
 …と書いたのは,菊池ひみこを贔屓してのこと。正直『ウーマン』は【MAKE UP IN THE MORNING】1曲だけがホームランで,残りの7曲は全部空振りであった。

 
01. Make up in The Morning
02. Sunburned Hip
03. Darling, I'm on your side
04. Funky Panty Girdle
05. Fat ma Cooking
06. 5 PM Red Pumps
07. My Lost Pierce
08. Nursery Song

 
HIMIKO KIKUCHI : Piano, Keyboards, Vocal
SHIGEO SUZUKI : Alto Saxophone
HIROFUMI KINJOH : Tenor Saxophone
MASAMI NAKAGAWA : Flute
SHIN KAZUHARA : Trumpet
MASATSUGU MATSUMOTO : Electric Guitar, Acoustic Guitar
KAZUYA SUGIMOTO : Electric Bass
NAOKI WATANABE : Electric Bass
HIROSHI HOHINO : Acoustic Bass
KAZUAKI MISAGO : Drums
ATSUO OKAMOTO : Drums
HIDEO YAMAKI : Drums
YASUSHI ICHIHARA : Drums
YOSHINORI NOHMI : Percussion
EVE : Chorus

JOE STRINGS : Strings
KAZUHARA SECTION : Brass
GAICHI ISHIBASHI : Oboe
YUKIHIKO NISHIZAWA : Flute, Piccolo
MOTOE MIYAJIMA : Clarinet
HIROYUKI MINAMI : Horn

(テイチク/TEICHIKU 1983年発売/TEH-16)
(ライナーノーツ/金澤寿和)

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アーマッド・ジャマル / バット・ノット・フォー・ミー5

BUT NOT FOR ME-1 アーマッド・ジャマルの“最高傑作”が『BUT NOT FOR ME』(以下『バット・ノット・フォー・ミー』)である。

 “ジャズの帝王”マイルス・デイビスが演奏を聴くためにクラブに通い詰めた唯一のピアニストであり,マイルス・デイビスが自分のバンドにどうしても迎え入れたかったピアニストであり,それが叶わず,レッド・ガーランドに「彼のように弾いてくれ」と命令したピアニスト,それがアーマッド・ジャマルであった。

 マイルス・デイビスアーマッド・ジャマルの何に魅了されたのだろうか? それが『バット・ノット・フォー・ミー』で聴かせる,叙情性とアンサンブルの重ね方にあると思う。マイルス・デイビスも追求した“リリシズム”である。
 とにかく上品なのだ。とにかく優雅なのだ。ホテルのラウンジで生演奏を聴きたい第一位こそがアーマッド・ジャマルであろう。

 アーマッド・ジャマルピアノと来ればピアノ・トリオである。イスラエル・クロスビーベースバーネル・フォーニアドラムと組んで「3人で役割分担して1曲を仕上げるスタイル」は,アーマッド・ジャマルが開祖であろう。

 つまり,ベースドラムは一切ソロを取ることがない。ベースドラムアーマッド・ジャマルソロを取らせるためのスペース作りに専念している。
 ベースドラムの2人が曲の骨組みを組立てている。どのような外装にするか,どのような内装にするかは3人で決めている。

 そしてここがアーマッド・ジャマルの凄いところだと思うのだが,普通なら空いた空間を埋めるためにピアノを目立たせようと考えるものだろうが,アーマッド・ジャマルピアノを決して弾きすぎない。

BUT NOT FOR ME-2 そう。アーマッド・ジャマルは,弾く音を必要最低な音数に厳選し,シンプルな右手のフレーズと合いの手の様に入る左手のブロックコードで聴かせたいフレーズだけを浮かび上がらせる。
 「ピアノピアノの邪魔をしないピアノ」。アーマッド・ジャマルとはこれなのである。

 則ち,アーマッド・ジャマルの『バット・ノット・フォー・ミー』とは,後にマイルス・デイビスがやったモードの「さきがけ」のような演奏である。

 モードジャズを完成させたのは,マイルス・デイビスビル・エヴァンスギル・エヴァンスの3人に違いないが,アーマッド・ジャマルがいなければ,そもそもモードジャズは生まれなかった。
 ピアノ・トリオの「3人で役割分担して1曲を仕上げる」アーマッド・ジャマルの音楽こそが,マイルス・デイビスが愛した“リリシズム”なのである。

PS アーマッド・ジャマルはとにかく素晴らしい。そのアーマッド・ジャマルのスタイルを消化させたレッド・ガーランドも素晴らしい。しかし日本においてアーマッド・ジャマルの人気もレッド・ガーランドの人気もイマイチである。全てはビル・エヴァンスである。ビル・エヴァンスの登場がアーマッド・ジャマルレッド・ガーランドを無き者にしてしまった。この事実だけでもビル・エヴァンスの凄さが分かる。ビル・エヴァンスが圧倒的!

 
01. BUT NOT FOR ME
02. SURREY WITH THE FRINGE ON TOP
03. MOONLIGHT IN VERMONT
04. MUSIC, MUSIC, MUSIC
05. NO GREATER LOVE
06. POINCIANA
07. WOODY'N YOU
08. WHAT'S NEW

 
AHMAD JAMAL : Piano
ISRAEL CROSBY : Bass
BERNELL FOURNIER : Drums

(アルゴ/ARGO 1958年発売/UCCU-5128)
(ライナーノーツ/小川隆夫,児山紀芳)

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菊池 ひみこ / オーライ4

ALL RIGHT-1 「菊池ひみこ,海を渡る」。それが『ALL RIGHT』(以下『オーライ』)失速の最大要因である。

 『ドント・ビー・ステューピッド』でホップして『フラッシング』でステップして『オーライ』でジャンプを決める。
 そんなシナリオが立てられた中?菊池ひみこが向かったのは,アメリカはLAの「マッド・ハッター・スタジオ」。則ちチック・コリアのお膝元である。

 1982年当時のチック・コリアは「リターン・トゥ・フォーエヴァー」を解散しアコースティックジャズに燃えていた時期である。
 菊池ひみことしては,ブラジリアン・フュージョンで「天下を獲った」チック・コリアに,それもジャズを志向中のチック・コリアに感じるものがあったのだろう。

 しかし『オーライ』は“中途半端な”チック・コリアとの共同制作。これが『オーライ』の敗因であろう。
 『オーライ』のプロデューサーは「マッド・ハッター・スタジオ」を使用するのにチック・コリアではなく松本正嗣であった。共演者もチック・コリアの人脈としてはアル・ビズッティくらい。他はアーニー・ワッツにしてもジョン・ロビンソンにしてもスティーヴ・フォアマンにしてもリー・リトナー関連の色合いが強い。

 『オーライ』のレコーディングの様子をチック・コリアがのぞきに来たそうであるが,総指揮を取ったは松本正嗣
 保険として杉本和弥を引き連れて渡米した松本正嗣であったが,自身にとっても初体験となる海外レコーディングリー・リトナー組を思い通りに操るにはまだまだ経験が不足していたように思う。
 『オーライ』の音はLAらしくカラッとしているようでいて,実はポップではないし,重くタイトなリズムはどちらかというとNYのイメージに近いと思う。

ALL RIGHT-2 個人的には世界TOPのジョン・ロビンソンよりも風間幹也ドラミングの方が菊池ひみこの音楽性には合っている。もっと言えばバンドのメンバー全員「デッド・エンド」の方が良かった。
 それだけではなく菊池ひみこオリジナルも,変にブラジリアン・フュージョンに寄せた『オーライ』よりも『ドント・ビー・ステューピッド』や『フラッシング』の「全力日本」タイプの方が良かった。

 アメリカ制作は完全に無駄金だった。高い授業料を払わされたものだ。つまり国内制作の方が良かった。「菊池ひみこデッド・エンド」で録音した『ドント・ビー・ステューピッド』〜『フラッシング』路線の続編が良かった。

 『オーライ』で“狙った”ブライトなタッチのグルーヴィなフュージョンが得意なのは,菊池ひみこの方ではなくチック・コリアの方なのでした。

 
01. CALLING WAVES
02. ROLLING 40TH
03. THE POLESTAR
04. CRAZY MOON
05. PANCAKE ICE
06. HARD MEDITATION
07. BUNGER'S OASIS

 
HIMIKO KIKUCHI : Acoustic Piano, Keyboards, Vocal
ERNIE WATTS : Tenor Saxophone, Soprano Saxophone, Synthesizer Saxophone
AL VIZZUTTI : Trumpet
MASATSUGU MATSUMOTO : Electric Guitar
KAZUYA SUGIMOTO : Electric Bass
JOHN ROBINSON : Drums
STEVE FORMAN : Percussion

BRASS SECTION
AL VIZZUTTI : Trumpet
CHARLES DAVIS : Trumpet
JIM COWGER : Tenor Saxophone, Alto Saxophone
ALAN KAPLAN : Trombone

(テイチク/TEICHIKU 1982年発売/TEH-15)
(ライナーノーツ/油井正一,金澤寿和)

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ビル・エヴァンス / トリオ '644

TRIO '64-1 管理人はビル・エヴァンスが大好き。でもそれ以上にキース・ジャレットが大好き。
 ゆえにキース・ジャレットトリオベーシストゲイリー・ピーコックビル・エヴァンスと共演した『TRIO ’64』(以下『トリオ ’64』)のお目当てはビル・エヴァンスではなくゲイリー・ピーコックのはずであった。

 ところがどうだろう。あのゲイリー・ピーコックが霞んでいる。あのポール・モチアンが霞んでいる。
 ズバリ『トリオ ’64』とは「ビル・エヴァンス100%」のアルバムである。
 暴言を吐けばベーシストドラマーはリズム・キープが出来れば誰でも良かった。それくらい“圧倒的に”ビル・エヴァンスなアルバムである。

 ビル・エヴァンスの新鮮でハーモニー豊かなアイディア,独特のデリカシー,それは決して女性的な柔らかさではなく,生き届いた繊細さ,あるいはバランスのとれた美しさがまばゆい!
 この美しさの秘訣は「美人薄命」である。ベースゲイリー・ピーコックドラムポール・モチアンとの『トリオ ’64』のピアノ・トリオは結成当初から「期間限定」の約束であった。
 新進気鋭のゲイリー・ピーコック,待望の復帰が叶ったポール・モチアンを迎えて,ビル・エヴァンスが燃えたのだった。


 そう。『トリオ ’64』の聴き所はビル・エヴァンスの美しいピアノだけにある。
 『トリオ ’64』の中にビル・エヴァンスの代名詞である「インタープレイ」的要素は含まれていない。演奏が“ぬるい”のだ。
 仮に「期間限定」でなかったなら“奇跡の”超大物3人の揃い踏みなのだから,もっともっと&ずっとずっと良くなって,果てはスコット・ラファロを超えたかも?

 事実『トリオ ’64トリオライブ会場にキース・ジャレットの姿があったらしい。後にキース・ジャレットトリオで共演することとなるゲイリー・ピーコックベースポール・モチアンドラムに,自身のピアノを思い重ねていたりして…。

 それにしてもゲイリー・ピーコックベースが普通すぎる。ゲイリー・ピーコックとしてもビル・エヴァンストリオベーシストを務めるとなるとスコット・ラファロの遺灰を意識せざるを得なかったであろうに…。

 この全ては選曲の難に負うところが大きいと思う。管理人の大好きな【エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー】でさえ“荒削りな”ベースが響いている。【サンタが街にやってくる】なんて“愛らしい”ベース・ウォーキング。
 どうですか? 読者の皆さんはこの選曲とゲイリー・ピーコックがダイレクトに結びつきますか?

TRIO '64-2 そう。『トリオ ’64』には,ゲイリー・ピーコックの“破天荒”な真骨頂が発揮されるシリアスなパートが少なすぎるのだ。
 全てはプロデューサーを務めるクリード・テイラーが仕掛けた,ビル・エヴァンスの美しさを際立たせるためのセッティングが,世紀の共演の魅力を半減してしまっている。

 ここに,例えば【枯葉】などのスコット・ラファロの有名曲をぶつけていたら,こんなにも軟弱なゲイリー・ピーコックで終わるはずはなかった。心からそう思う! → 心からそう願う?

 管理人の結論。『トリオ ’64批評

 ゲイリー・ピーコックの演奏が悪いわけではないし,調子が悪いわけではないのだが『トリオ ’64』はゲイリー・ピーコック目当てで聴くアルバムではない。
 いいや,ここでどんでん返し! 是非ともゲイリー・ピーコック目線で聴いてみてほしい。あのゲイリー・ピーコックが隅に追いやられるレベルで“圧倒的に”ビル・エヴァンスピアノが迫ってくる。

 キース・ジャレットトリオが好きでゲイリー・ピーコックベースが好きなファンがビル・エヴァンスを強烈に意識することになるアルバムとして『トリオ ’64』をお奨めする。

 
01. LITTLE LULU
02. A SLEEPING BEE
03. ALWAYS
04. SANTA CLAUS IS COMING TO TOWN
05. I'LL SEE YOU AGAIN
06. FOR HEAVEN'S SAKE
07. DANCING IN THE DARK
08. EVERYTHING HAPPENS TO ME

 
BILL EVANS : Piano
GARY PEACOCK : Bass
PAUL MOTIAN : Drums

(ヴァーヴ/VERVE 1964年発売/UCCU-5077)
(ライナーノーツ/ジャック・マハー,杉田宏樹,藤井肇)

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エヴァレット・ハープ / 君への想い4

EVERETTE HARP-1 1991年の「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」の大トリは「ザ・マーカス・ミラー・プロジェクト」。フィーチャリングレイラ・ハサウェイヴォーカルであったが,とにかくメンバーが凄い!
 ベースマーカス・ミラードラムプージー・ベルピアノジョー・サンプルキーボードフィリップ・セスギターディーン・ブラウントランペットマイケル・パッチェス・スチュワート。こんな至高のバックを引き連れて,一人フロントに立ったのがアルトサックスエヴァレット・ハープであった。

 馴染みのメンバーの中にあって,エヴァレット・ハープって誰? 圧巻のアルトサックスを聴き終えて,エヴァレット・ハープって誰?
 全くのノーマークにやられてしまったわけだが,管理人は悪くない。エヴァレット・ハープアルトサックスマーカス・ミラーからの“サプライズ”であった。

 だ〜って,エヴァレット・ハープは未だCDデビュー前であった。当時はネットも利用できなかったしCDショップをハシゴするしかなかったので,どこかに出かけた際は必ずCDショップに立ち寄って,エヴァレット・ハープを捜す日々…。

 そんな強烈な記憶が薄れかけていた時に,持つべきは友である。某ラジオ局に努める友人が郵送で送ってくれたのが,管理人が所有するサンプル盤の『EVERETTE HARP』(以下『君への想い』)である。

 『君への想い』は1992年のエヴァレット・ハープデビューCD。正に“満を持しての”ワールド・デビュー。プロデューサーからしてジョージ・デュークなのであります。

EVERETTE HARP-2  でっ,マーカス・ミラーなしで【RUN FOR COVER】なしのエヴァレット・ハープが何とも普通。
 おいおい,デヴィッド・サンボーンの後継者じゃなかったのかよう?

君への想い』でのエヴァレット・ハープフュージョンサックスではなくてスムーズジャズ
 まっ,たまにあるでしょ? ほら,デビュー前は「こうだった」のに,デビューしたら「ああだった」ってパターン。大抵はデビュー前の方が好きだった,っていうパターンが…。

 そんな中【FREE FALL】だけは“鉄板”です。これ相当に好き!
 【FREE FALL】でのエヴァレット・ハープは,フュージョンサックス界の「天使」です!

 
01. FULL CIRCLE
02. MORE THAN YOU'LL EVER KNOW
03. THERE'S STILL HOPE
04. THANK YOU FOR ALL YOUR LOVE
05. LET'S WAIT A WHILE
06. REMEMBER MY LOVE
07. FUNK A LE GONK
08. WHEN I THINK OF YOU
09. HE'LL NEVER LEAVE
10. IF I HAD YO LIVE MY LIFE WITHOUT YOU (WITHOUT YOU)
11. YOU MADE IT BETTER
12. FREE FALL
13. TOMORROW

 
EVERETTE HARP : Alto Saxophone, Soprano Saxophone, Tenor Saxophone, Flute, EWI, Keyboards, Additional Keyboards, Drum Programming, Lead Vocals, Backing Vocals
GEORGE DUKE : Keyboards, Piano, Synthesizer, Additional Keyboards, Additional Percussion, Drum Programming, Synclavier Programming
DARRELL SMITH : Main Keyboards
MORRIS PLEASURE : Keyboards
BRIAN SIMPSON : Keyboards, Drum Programming
LARRY KIMPEL : Bass
FREDDIE WASHINGTON : Bass
HERMAN MATHEWS : Drums
RAYFORD GRIFFIN : Drums
PAULINHO DA COSTA : Percussion
MICHAEL LANDAU : Lead Guitar
PAUL JACKSON JR. : Guitar
ALAN HINDS : Guitar
DWIGHT SILLS : Guitar
"DOC" POWELL : Guitar
RAY FULLER : Guitar, Acoustic Guitar
RAYFORD GRIFFIN : Drum Programming
STEVE TAVAGLIONE : EWI Programming
OSCAR BRASHEAR : Trumpet
GEORGE BOHANON : Trombone
CARL CARWELL : Backing Vocals
PHIL PERRY : Backing Vocals
CAROLYN PERRY : Backing Vocals
DARLENE PERRY : Backing Vocals
LORI PERRY : Backing Vocals
SHARON PERRY : Backing Vocals
RACHELLE FERRELL : Backing Vocals
JOSIE JAMES : Backing Vocals
CHANTE MOORE : Backing Vocals

(マンハッタン/MANHATTAN 1992年発売/TOCJ-5722)
(ライナーノーツ/松永紀代美)
(サンプル盤)

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デイヴ・リーブマン・アンサンブル / コルトレーンズ・メディテーションズ4

JOHN COLTRANE'S MEDITATIONS-1 『JOHN COLTRANE’S MEDITATIONS』(以下『コルトレーンズ・メディテーションズ』)とは,デイヴ・リーブマンによるジョン・コルトレーンの『MEDITATIONS』の完コピ・アルバムである。

 ジョン・コルトレーンの曲をデディケイションとして演奏するテナー奏者は多いが,デイヴ・リーブマンの場合は行き過ぎている。
 ジョン・コルトレーンのアルバムを1枚丸々,しかも選んだのが後期コルトレーンフリージャズMEDITATIONS』全曲の完コピときた。

 『コルトレーンズ・メディテーションズ』って,デイヴ・リーブマンのファンであれば買うのかなぁ? デイヴ・リーブマンのファンであってもスルーされることが多い? コルトレーン信者しか買わないのでは?
 管理人はかろうじてデイヴ・リーブマンのアンテナに引っ掛かったが,正直,辛い。

 本家ジョン・コルトレーンの『MEDITATIONS』も所有してはいるが,未だに最後まで聴き通すとしんどくなる。ファラオ・サンダースが救世主として活躍してくれているから“もっている”アルバムの1枚だと思っている。
 だから本当は『MEDITATIONS』VS『JOHN COLTRANE’S MEDITATIONS』の対比を軸に批評するのが“筋”というものなのだろうが,昨晩から聴き比べしたが,ごめんなさい。
 『MEDITATIONS』は問題作なのだから『JOHN COLTRANE’S MEDITATIONS』も問題作。だから,どうコメントして良いかも問題で,ここまで書き始めてはみたものの本当に困っております。はい。

 『MEDITATIONS』というアルバムは,ジョン・コルトレーンの「精神世界の音楽の権化」である。
 昨今「音楽に政治を持ち込むな」というわけのわからない議論があって,チャールス・ミンガスとかマックス・ローチの例をあげるまでもなく,そんな馬鹿な……という話なのだが「宗教を持ち込んだらダメ」という話は,ジョン・コルトレーンからだろう。それくらいに『MEDITATIONS』の「精神世界」は超・強烈!

 そんな,ぐちゃぐちゃでドロドロの『MEDITATIONS』をよくも再現しようと思ったよなぁ。流石はコルトレーン・マニアのデイヴ・リーブマンだけのことはある。デイヴ・リーブマンの“男気”を見直した。

JOHN COLTRANE'S MEDITATIONS-2 尤もデイヴ・リーブマンジョン・コルトレーンの再演にチャレンジするにあたり,数ある名盤の中から『MEDITATIONS』を選んだ理由が,ボヤっとではあるが伝わってくる。
 デイヴ・リーブマンは『コルトレーンズ・メディテーションズ』の素材に良さに注目しているのだろう。

 ジョン・コルトレーンの『MEDITATIONS』と来れば,ファラオ・サンダースのギャーギャーと鳴るスクリームの嵐や,ラシッド・アリのバタバタしたドラム,やや滑稽な朗誦などに耳を引っ張られてしまうのだが,ジョン・コルトレーンはおそらく真剣にキリスト教的な瞑想を音楽でやってみようと思っていたのだろう。

 デイヴ・リーブマンは(多少の宗教的な意味合いは残っていたとしても)『MEDITATIONS』を純粋な「音楽の素材」として取り出すことで我々の耳の曇りを取っ払ってくれている。
 実は『MEDITATIONS』の中では,こんなにも素晴らしいメロディーが展開していたんですよ,と語りかけられているように思える。透明感と凛とした芯がある曲ばかりではありませんか!? 

 
01. INTRODUCTION
02. THE FATHER AND THE SON AND THE HOLY GHOST
03. COMPASSION
04. LOVE
05. CONSEQUENCES
06. SERENITY

 
DAVE LIEBMAN : Tenor Saxophone
VIC JURIS : Guitar
JAMEY HADDAD : Drums, Percussion
PHIL MARKOWITZ : Piano, Keyboards
TONY MARINO : Bass

BILLY HART : Drums
CECIL McBEE : Bass
TIGER OKOSHI : Trumpet
CARIS VISENTIN : Oboe

(アルカディア・ジャズ/ARKADIA JAZZ 1998年発売/TKCB-71462)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,デイヴ・リーブマン)

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武田 和命 / ジェントル・ノヴェンバー5

GENTLE NOVEMBER-1 『GENTLE NOVEMBER』(以下『ジェントル・ノヴェンバー』)からは,武田和命の“魂のテナーサックス”がフォーマットを超えてこぼれ落ちている。内から内から漏れ出している。武田和命の“生命の音”が聴こえてくる。

 『ジェントル・ノヴェンバー』のレコーディング・メンバーは,テナーサックス武田和命ピアノ山下洋輔ドラム森山威男ベース国仲勝男
 そう。武田和命も参加していた山下洋輔ゆかりのカルテット編成。山下洋輔のコンボでバリバリのフリージャズを演奏していた武田和命にとっての「最強の面々」が全員揃っている。がっ,しかし…。

 『ジェントル・ノヴェンバー』は武田和命の“一人舞台”。管理人は『ジェントル・ノヴェンバー』を武田和命テナーソロ・アルバムだと言い切ってしまおう。
 あの山下洋輔が,あの森山威男が,あの国仲勝男が,自己主張をやめて完全なるサイドメンに徹している。演奏から見事に消えてみせている。

 この全ては意図的な結果である。『ジェントル・ノヴェンバー』は,最強のフリージャズ軍団が作り上げたフリージャズの真逆を行く音楽であった。
 過剰になることを極力排除した,しかし強烈なテンションのまま紡いでみせた,ストレート・アヘットでエモーショナルな,それはそれは美しいジャズバラード集。『ジェントル・ノヴェンバー』の真実とは「根性の静寂」なるアルバムだと思う。

 あの山下洋輔が,あの森山威男が,あの国仲勝男が,武田和命バラードに心底惚れ込んでいる。全員で武田和命を“男”として立てることだけに集中している。
 『ジェントル・ノヴェンバー』での武田和命が“男”である。だから『ジェントル・ノヴェンバー』“男のバラッド”なのである。

 真に名盤である。管理人をして名盤と信じて疑わない1枚である。こんなにも“男らしい”ジャズバラードはそうそう無い。
 普段寡黙なのに酔うと饒舌になる人を思わせる武田和命の“男のダンディズム”に一発でやられてしまう。
 管理人は『ジェントル・ノヴェンバー』をJ−ジャズの聴くべき10枚の1枚に選定する。とにかく全てが「圧倒的」なのである。

 『ジェントル・ノヴェンバー』のモチーフは,ジョン・コルトレーンの「不朽の名盤」『BALLADS』にある。
 『BALLADS』のモノマネでもいいじゃないか! 『BALLADS』の世界観をここまで“自分のものとした”テナー奏者など武田和命の他にはいない。日本人テナー奏者がここまでのビター・スウィートを生み出している事実を素直に喜ぶべきではないかと思う。

 とにかく『ジェントル・ノヴェンバー』における武田和命の吹きっぷりが堂々たるもので,フリーの「ふ」の字も感じられないのに,タフで厚いリードから響いてくるストイックなまでに清澄な音色の響きに武田和命を感じ取ることができる。
 敢えてフリーキーさや速いフレーズを選ばずに,淡々とスケールの大きなアドリブを紡いでいく熱く切ないテナーに,胸をかきむしりたくなってしまう。

 武田和命の伸びやかに吹くテナーの音色はしなやかで柔らかくほんのり末尾にサブ・トーンが混じっている。しっかりタンギングをする武田和命テナーは凛々しくも明瞭だ。一音をしっかりと区切り大切にそっと音を宙に舞わせている。

GENTLE NOVEMBER-2 やるせなさや哀しみの感情をどう表現するかはそれぞれの文化によって異なる。大げさな表現を好む民族もいれば,抑えた控えめな表現を好む民族もいて日本人は後者である。
 武田和命は『ジェントル・ノヴェンバー』の中で,日本的悲哀の情をジャズというユニヴァーサルな音楽フォーマットの中で,深く繊細に表現している。つまり日本人の男にしか吹けない哀切さと抒情を『ジェントル・ノヴェンバー』の中に散りばめている。
 最初から最後の一音がやるせない余韻を残して消えてゆくまで,どの瞬間もうっとりするような深い陰影が呼吸をしているかのような,完全に別次元の音楽がここにはある。

 武田和命アドリブに身体の奥がじわりとえぐられる。心を揺さぶるアドリブとはテクニックやけれんみなどではない。聴き手を泣かそうと小細工や演出によるものではない。
 武田和命は,ただ真摯にふくよかにジャズと向かい合い,非フリーなのにフリーキーして物悲しい。管理人は武田和命の感情表現のこの部分に“男のロマン”を感じてしまう。武田和命の“生命の音”が聴こえてくる。

 そう。武田和命という“男”は,真の日本男子にして真にジェントルテナーマンなのである。
 武田和命という“男”は自分を演奏できる人である。武田和命という“男”は自分を演奏する人である。武田和命という“男”は本音で演奏できる人である。

 その艶やかでメロディアスで,思いの丈が詰まったような,しかもそれを剥き出しにするのではなく,魂に青白い焔を灯しながら噛みしめるように表現していくその演奏姿勢に,深く心打たれる自分がいる。
 全部とは言わない。トータルではとんでもない。しかし「叙情的な潤い」という部分においては“軽々と”武田和命ジョン・コルトレーンを超えている。

 武田和命が吹き上げるテナーサックスの「根性の静寂」がどこまでも優しく“男らしい”。
 『ジェントル・ノヴェンバー』は,女性の皆さんもきっと泣ける“男のバラッド”である。とにかく「圧倒的」なのである。

 
01. Soul Train
02. Theme For Ernie
03. Aisha
04. It's Easy To Remember
05. Once I Talk
06. Our Days
07. Little Dream
08. Gentle November

 
KAZUNORI TAKEDA : Tenor Saxophone
YOSUKE YAMASHITA : Piano
TAKEO MORIYAMA : Drums
KATSUO KUNINAKA : Bass

(フラスコ/FRASCO 1979年発売/SC-7104)
(ライナーノーツ/山下洋輔,工藤金作)

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バート・シーガー・トリオ / オープン・ブック5

OPEN BOOK-1 管理人はCDコレクターの1人である。確かに所有CD3000枚越えは,普通のジャズ・ファンとしては立派な数字だと思っている。
 しかしこの世界は「CD1000枚,2000枚は当たり前」とされる世界である。「上には上」がいる。しかも相当の人数がいる。決して軽口などたたけるレベルではないのだ。

 おおっと,何だか書きたいことから逸れてしまった。管理人が本当に書きたかったのは「セラビー,よくぞ3000枚越えで踏みとどまっている」の方なのだ。本当はもっともっと上限枚数にいっているはず。
 ではなぜ3000枚くらいで抑えられているのか? それは輸入盤は買わないルールを定めているから。セラビーは国内盤しか買わないことに決めている。

 本当は輸入盤も購入したい。難くせ付けて「輸入盤の国内盤仕様」は自分の中でOKにしてきたが,大好きなMMWとかは国内盤仕様ですら発売させる雰囲気がない。これは非常にまずい状況なので,今後配信が始まったら海外サイトからダウンロードして買うつもりである。ただしCD盤としての輸入盤は買わない。一旦買い始めたら底なし沼にハマッテ生計が成り立たなくなる危険大…。

 そう。輸入盤は破産防止のための自主規制。本当の管理人は「輸入盤ウォッチャー」である。だから話題の輸入盤が1年遅れで国内盤になって発売されることが決まれば大はしゃぎ。
 そんな管理人が,国内盤初リリースのニュースに飛びついたのが「輸入盤界隈の隠れエース」こと?エヴァンス派バート・シーガーの『OPEN BOOK』(以下『オープン・ブック』)である。

 管理人が思うバート・シーガーの特徴とは,情緒豊かな美しいメロディーの創造者であって,アメリカ人なのに日本人っぽい親しみやすさを有するところである。優しいタッチのクセして,心のツボをズボズボ突いてくる。

 安定したスタンスと精確な歩運びで,輪郭も明瞭にキレのある軌跡を描いてゆく。透明感に満ちた硬質で端正でリリカルなピアノがモノトーン調のクール・ジェントルな絵を描いていくニュアンスである。
 詩的情緒性やメロディーの美を何より重んじるオーソドックスでスインギー奏演なので,一聴,平易で明快な演奏に思えるが,聴けば聴くほど,ある種の几帳面さ・精巧さが備わった「匠の業」で構成されている。ピリッとしたビターで格式めいた余韻が残る。音楽の広がりが深遠に増してゆく。

 どうですか? エヴァンス派の中の正統エヴァンス派バート・シーガーピアノ・トリオの素晴らしさは!

OPEN BOOK-2 さて,ここまではバート・シーガーピアノの響きについて書いてきたが,バート・シーガーの真の魅力とは,含蓄豊かなインタープレイに尽きる。

 『オープン・ブック』を繰り返し聴いていると,いつしかバート・シーガーピアノが消え去り,ホルヘ・ローダーベース池長一美ドラムだけが鳴っているように感じるようになった。

 ホルヘ・ローダーベースピアノが鳴り出す前に「猪突猛進」してピアノの進むべき空間を開けていく。池長一美ドラムが実に繊細であって,ピアノが鳴り出す前にキャンバス全体に構図をデッサンする。

 これってつまり,ホルヘ・ローダー池長一美も,バート・シーガーピアノを弾き始めると同時にバート・シーガーの意図を掴んで反応するということ。

 バート・シーガーの仕事はここでほとんど終わっている。だからピアノの音は消え去ろうとも,つまりベースドラムの後ろでピアノがそっと鳴ろうとも,俄然ピアノの音が鳴っている。

 「IT’S A PIANO TRIO」! 「IT’S A BERT SEAGER’S PIANO TRIO」!

 
01. Bach's Lunch
02. Bunny Dune
03. Snow Sprite
04. Everything I Love
05. Open Book
06. The Raft
07. I Loves You Porgy
08. My Funny Valentine
09. Wisteria

 
BERT SEAGER : Piano
JORGE ROEDER : Bass
KAZUMI IKENAGA : Drums

(クラウド/CLOUD 2012年発売/DDCJ-4008)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/バート・シーガー,杉田宏樹,夢枕獏)

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中川 昌三 / ポエジィ4

POESY-1 フルート奏者の「世界的権威」である中川昌三は2種類の「アーティスト表記」を持っている。
 中川昌三とはジャズフルート奏者としての名前であり,それ以外のクラシックや現代音楽のフルート奏者の場合は中川昌巳表記となる。活動内容によって「アーティスト表記」を変えることで,自分の中の「別人格」へのスイッチが入るのだろう。

 さて,この2種類の「アーティスト表記」に中川昌三の音楽性の秘密がある。
 つまり中川昌三あるいは中川昌巳というミュージシャンは,フルート界の大家でありながらもフルートをメインに吹き上げることを目的とした演奏をしてはいない人。

 そう。フルートの音色がどうとか,フルートの響きが先にあるのではなく,中川昌三の時にはフルートの前にジャズという音楽があり,中川昌巳の時にはフルートの前にクラシック音楽があるのだ。

 そんな中川昌三ジャズメン魂の記録が『POESY』(以下『ポエジィ』)にある。
 『ポエジィ』は,ジャズフルート奏者に扮した中川昌三が,ピアノリッチー・バイラークベースジョージ・ムラーツドラムルイス・ナッシュという“大御所”ががっぷり四つに組んだ名盤である。

 それまでの中川昌三のイメージとしては,確かにジャズフルートを演奏しているのだが,どことなく中川昌巳の一面が顔を出す感じの“爽やか”ジャズフルートであったのだが『ポエジィ』の中川昌三は,真にジャズ中川昌三を名乗っている。
 いや〜,ジャズメンに徹した中川昌三さんがカッコイイのです。

POESY-2 そもそもがECMのカラーで名を売ってきたリッチー・バイラークなのだから,フルートとの相性はチリバツである。そして『ポエジィ』の楽曲はリッチー・バイラークが得意とする有名ジャズスタンダード集。
 そう。『ポエジィ』は,完全にリッチー・バイラークに“寄せた”企画盤なのである。

 そんなリッチー・バイラークのホームに乗り込んだ形の中川昌三の「匠の技」が真に凄い。
 フルートという楽器はその特性上,音色が霞がちで音量も小さい。“やったもん勝ち”なジャズ界において,連戦連勝で勝ち残ってきたツワモノ3人組。クラシックを兼務している中川昌三なんかコテンパだ…,と管理人は勝手に想像していたものだ。

 ところがどうだろう。中川昌三リッチー・バイラークピアノ・トリオを押している。その結果として,手垢のついたジャズスタンダードが“気品高き”名曲へと昇華している。柔らかく深遠なトーンが“格調を帯びている”。

 そんな中川昌三がリードするリッチー・バイラークピアノ・トリオが“湿度高め”でまったりと楽しめますよっ。

 
01. ALL THE THINGS YOU ARE
02. BEAUTIFUL LOVE
03. MILESTONES
04. ELM
05. ROUND MIDNIGHT
06. ORIENTAL FOLK SONG
07. ALL BLUES
08. SOME OTHER TIME
09. AUTUMN LEAVES

 
MASAMI NAKAGAWA : Flute, Alto Flute, Bass Flute
RICHIE BEIRACH : Acoustic Piano
GEORGE MRAZ : Acoustic Bass
LEWIS NASH : Drums

(ビクター/JVC 1992年発売/VICJ-95)

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ブラッド・メルドー / ファインディング・ガブリエル4

FINDING GABRIEL-1 現代のジャズ界を代表する“ジャズ・ピアニスト”であるブラッド・メルドーグラミー初受賞作は“非ジャズ・ピアニスト”なブラッド・メルドーであった。
 この事実が何とも悔しい。それが管理人にとっては『FINDING GABRIEL』(以下『ファインディング・ガブリエル』)の全てである。

 『ファインディング・ガブリエル』はブラッド・メルドーの「問題作」として“未来永劫”語り継がれる1枚になると思う。
 『ファインディング・ガブリエル』以前にもブラッド・メルドーは度々「問題作」をリリースしている。だから『ファインディング・ガブリエル』も“ジャズ・ピアニスト”である前に,ミュージシャンでありアーティストである“天才”ブラッド・メルドーのほんの一面にすぎない。

 でもどうしてもブラッド・メルドーの“天才”を知るファンとしては“ジャズ・ピアニスト”としてのブラッド・メルドーの音楽でグラミー賞受賞してほしかった。
 周りの評価もそうだが,何よりもブラッド・メルドー本人が非ジャズ系の音楽に色気を出して欲しくないからである。

 『ファインディング・ガブリエル』とは,聖書をモチーフとしたコンセプト・アルバムである。ゆえにパイプ・オルガン風のシンセサイザーが出てきたり,合唱隊のようなコーラストランペットも鳴っているが,正直これをもって,聖書をモチーフにしたアルバムと語ることには無理がある。
 そう。『ファインディング・ガブリエル』の裏テーマとは,ブラッド・メルドーの「怒り」なのだと思う。

FINDING GABRIEL-2 管理人の大好きな“ジャズ・ピアニスト”のブラッド・メルドーは,内面では怒ることもあるだろうが,音楽表現においては決して怒ってこなかったし,何があっても動揺しない「懐の深さ」を感じさせるスケールの大きなピアニストである。

 そんなブラッド・メルドーが,聖書という壮大なテーマに取り組んだと知ってフラゲして買った『ファインディング・ガブリエル』。
 1曲目の【THE GARDEN】は,強い物語性が豊かな音楽として展開されたお気に入りなのであるが,それでも聖書の壮大なスケール感を表現するまでには至らなかったという印象が拭えない。

 『ファインディング・ガブリエル』の音楽パートナーとして指名したマーク・ジュリアナ独特のドラミングは,ビート・マシンを血肉化したような,聖書の表現を借りればいかにもネフィリム的だと感じてしまう。つまりは演奏云々の前に曲想が個人的に好みではない。

 ブラッド・メルドー得意のハーモニーが,実験的な音楽表現の楔として見え隠れしているが,結局のところ最後に残るは「怒り」のみ。罪である「音の歪み」がこの上なく美しいということなのだろう。

 
01. The Garden
02. Born to Trouble
03. Striving After Wind
04. O Ephraim
05. St. Mark is Howling in the City of Night
06. The Prophet is a FOOL
07. Make It All Go Away
08. Deep Water
09. Proverb of Ashes
10. Finding Gabriel

 
BRAD MEHLDAU : Steinway C Grand Piano, Yamaha upright Piano, Fender Rhodes, Mellotron, Hammond B-3 organ, OB-6 Polyphonic Synthesizer, Therevox, Moog Little Phatty Synthesizer, Yamaha CS-60 synthesizer, Musser Ampli-Celeste, Morfbeats Gamelan Strips, Shaker, Handclaps, Voice, Drums
MARK GUILIANA : Drums, Electric Drums
AMBROSE AKINMUSIRE : Trumpet
MICHAEL THOMAS : Flute, Alto Saxophone
CHARLES PILLOW : Soprano Saxophone, Alto Saxophone, Bass Clarinet
JOEL FRAHM : Tenor Saxophone
CHRIS CHEEK : Tenor Saxophone, Baritone Saxophone
BECCA STEVENS : Voice
GABRIEL KAHANE : Voice
KURT ELLING : Voice
SARA CASWELL : Violin
LOIS MARTIN : Viola
NOAH HOFFELD : Cello

(ノンサッチ/NONESUCH 2019年発売/WPCR-18208)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/柳樂光隆,ブラッド・メルドー)

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渡辺 貞夫 / バーズ・オブ・パッセージ5

BIRDS OF PASSAGE-1 『BIRD OF PASSAGE』(以下『バード・オブ・パッセージ』)は超・名盤である。渡辺貞夫のこの辺の音楽はそのどれもが最高レベル。渡辺貞夫の絶頂期の名盤群については,とやかく語るのはヤボだと思っている。

 だから管理人が『バード・オブ・パッセージ』の“最高”について語ろうと思うと,いつでも『バード・オブ・パッセージ』単体の話から反れて,渡辺貞夫のセルフ・セレクテッド盤の話になってしまう。今回もご勘弁いただきたい。

 そう。『バード・オブ・パッセージ』の“最高”とは『SELECTED』の中にある!
 渡辺貞夫の代表曲を選ぶのは至極困難な作業であるが,世間的には【マイ・ディア・ライフ】【カリフォルニア・シャワー】【オレンジ・エクスプレス】【ランデブー】といったヒット曲に落ち着くと思う。
 その4曲が漏れることなく入っている『SELECTED』の全15曲中『バード・オブ・パッセージ』から3曲もランクインしているのだ。どうですかっ!

 しかも『バード・オブ・パッセージ』の1曲目【ラウンド・トリップ】〜2曲目【パストラル】〜3曲目【サルヴァドール】が『SELECTED』では8曲目【ラウンド・トリップ】〜9曲目【パストラル】〜10曲目【サルヴァドール】と曲順通りにそのまんま入っている。

 そう。『SELECTED』の中盤は完全なる『バード・オブ・パッセージ』のショータイム!
 この印象が余りにも強すぎて『バード・オブ・パッセージ』のアルバム名を聞くと『バード・オブ・パッセージ』単体ではなく『SELECTED』の「黄金の中盤」の方を先にイメージしてしまう。我ながら困ったものだ。

 渡辺貞夫の『BIRD OF〜』と来れば『BIRD OF PASSAGE』ではなく,ハンク・ジョーンズグレイト・ジャズ・トリオと共演した『BIRD OF PARADISE』の方が先に来てしまうし…。 

BIRDS OF PASSAGE-2 『バード・オブ・パッセージ』の4曲目以降も「オール5つ星の名演中の名演」に違いないのに,頭からの3曲立て続けだけがとにかく印象に残っている。
 だから総合力では落ちるのかなぁ。個人的にナベサダの代表作は?と聞かれたら『バード・オブ・パッセージ』はとっさに出て来ない。ゆっくりとディスコグラフィーを見回す時間があれば「BEST5」入りする名盤なのにねぇ。

 おおっと,こんな口調で書いていると,読者の皆さんにセラビーは本当に『バード・オブ・パッセージ』を「BEST5」入りすると考えているのか?と疑われてしまいそう?
 ハッキリと書く。『バード・オブ・パッセージ』は,イエロージャケッツカリズマコイノニアの合体バンド+ジョージ・デュークナベサダのバックを務めるLAフュージョンのいいとこどり〜。

 ナベサダの個人的な好みが管理人の個人的な好みと一致した素晴らしい音楽。それが『バード・オブ・パッセージ』「BEST5」入りの確かな根拠なのである。

 
01. ROUND TRIP
02. PASTORAL
03. SALVADOR
04. JUST A TOUCH
05. BURUNG BURUNG "BIRDS"
06. BIRDS OF PASSAGE
07. CHASER
08. TANZA NIGHT

 
SADAO WATANABE : Saxophone, Background Vacal
GEORGE DUKE : Synclavier
RUSSELL FERRANTE : Keyboards
DAN HUFF : Guitar
PAUL JACKSON JR. : Guitar
ABRAHAM LABORIEL : Bass
VINNIE COLAIUTA : Drums
CARLOS VEGA : Drums
JOHN ROBINSON : Drums
ALEX ACUNA : Percussion, Background Vacal
HUBERT LAWS : Flute
FREDDIE HUBBARD : Flugel Horn
PAULINHO DA COSTA : Percussion, Background Vacal
CARL CARWELL : Background Vacal
MARIA LEPORACE : Background Vacal
LYNN DAVIS : Background Vacal
ALEXANDRIA : Background Vacal
DIANA ACUNA : Background Vacal
REGINA ACUNA : Background Vacal
DANIEL ACUNA : Background Vacal
PETSYE POWELL : Background Vacal
JIMMY HASLIP : Background Vacal

(エレクトラ/ELEKTRA 1987年発売/32XD-810)

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クリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテット / モア・スタディ・イン・ブラウン5

MORE STUDY IN BROWN-1 新たな音楽メディアとしてCDが発売され始めた時代のこと,CDレコードが併売される時代があった。その場合の値段はCDの方が高くて,最初の頃はずっとCDが1枚一律3800円だった。
 音楽業界はCDが「夢のメディア」であることは認めつつも,一斉にCD優先に舵を切ることはせず,CDはまだレコードの補完。主役はLPであってCDLPの「CDバージョン」という感じ。

 だからCDを売るために“おまけ”を付けることになった。この流れから未発表音源とか別テイクとかの「発掘作業」が始まった。
 …出るは,出るは…。管理人はお小遣いの関係でちまちまと集めていたぐらいだが,おじさんジャズ・ファンの多くが,既にLPで所有していた同じアルバムを,高音質+ノイズレス+保管が簡単&別テイク目当てでCDへと買い替えていたことを覚えている。

 …で,ついに本命が出た! 既存のアルバムに1曲か2曲が追加される流れを断ち切る,アルバム1枚丸ごとが「未発表音源集」の発売である。それもすでに存命していないジャズ・ジャイアンツたちの「未発表音源集」の発売である。
 そう。セールスアップのために“おまけ”付きで売り出したCDの発売が,時間を遡ってジャズ・ジャイアンツたちの「擬似ニュー・アルバム」発売へとつながったのだから,真に「棚から牡丹餅」である。

 そんな「未発表音源集」の“本命中の本命”が“天才”クリフォード・ブラウンの『MORE STUDY IN BROWN』(以下『モア・スタディ・イン・ブラウン』)!
 1983年と言う,録音から27年後に“陽の目を見た”『モア・スタディ・イン・ブラウン』の発売は,ウイントンマルサリスの登場と相まって,ジャズ・ファンの間ではちょっとした「事件」だったんだぜぃ,ベイビー!

 『モア・スタディ・イン・ブラウン』とは,名盤STUDY IN BROWN』の続編というわけではない。正確には『STUDY IN BROWN』の別テイクだけでなく『CLIFFORD BROWN=MAX ROACH』『BROWN AND ROACH INCORPORATED』『CLIFFORD BROWN AND MAX ROACH AT BASIN STREET』の別テイクが加えられた全8トラックの「未発表音源集」。

MORE STUDY IN BROWN-2 『モア・スタディ・イン・ブラウン』の発売によって,特に4枚のアルバム音源の混在によって,いよいよクリフォード・ブラウンの“天才”ぶりが明らかになった。

 『モア・スタディ・イン・ブラウン』の演奏は,要するにボツ音源なのだが,お蔵の理由は恐らくやソロの長さだけの問題にすぎない。全てが完璧で,これぞ“正真正銘の別テイク”。
 演奏はどれも完璧であって,トラックによっては『モア・スタディ・イン・ブラウン』収録のトラックの方がオリジナル盤より好きだったりする。単純に編集上の問題で外されただけだという事が理解できるはずである。

 そう。クリフォード・ブラウンの残した音源は,その全てがモダン・ジャズ名演である。その全てがモダン・ジャズの世界遺産なのである。

 
01. I'LL REMEMBER APRIL
02. JUNIOR'S ARRIVAL
03. FLOSSIE LOU
04. MILDAMA
05. JORDU
06. THESE FOOLISH THINGS
07. LANDS END
08. THE BLUES WALK

 
CLIFFORD BROWN=MAX ROACH QUINTET
CLIFFORD BROWN : Trumpet
MAX ROACH : Drums
SONNY ROLLINS : Tenor Saxophone
HAROLD LAND : Tenor Saxophone
RICHIE POWELL : Piano
GEORGE MORROW : Bass

(エマーシー/EMARCY 1983年発売/UCCU-5255)
(ライナーノーツ/皸羶成,児山紀芳)

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T-SQUARE / クレム・デュ・ラ・クレム5

CREME DE LA CREME-1 『CREME DE LA CREME』(以下『クレム・デュ・ラ・クレム』)をもって,16年間続いた「河野坂東」時代が終わった。大団円のフィナーレである。

 メンバー・チェンジの激しいバンド史上“最長不倒”となった「河野坂東」時代の終焉に,今でも頭が混乱しているし,心の奥底から痛みを感じる。頭の中では,河野啓三の健康上の理由だから致し方ない,と理解しているが,心が付いてこないのだ。

 河野啓三が病で倒れて「河野啓三不在」のライブも,それはそれで楽しめたのだったが,それって「いつかは河野啓三が復帰する」という前提があってのこと。「河野啓三不在」が現実となった今,余裕がなくなってしまった。いつの日か河野啓三の復帰ってないのかな? それって白井アキトがサポートのままなら可能性がある? でも河野啓三の脱退を機に,このどさくさに紛れて田中普吾白井アキトの正式メンバー格上げの大チャンス? こんな感じでいろいろと余計なことを考えてしまう。

 管理人はずっとスクェアは「本田期」こそが最高だと言い続けてきた。いつ頃のことだろう。思うに『NINE STORIES』辺りからだったと想像するが,スクェアを聴いていて,自分の中から本田雅人和泉宏隆の“残像”が消えていった。
 スクェアと聞いて,真っ先に思い浮かべるメンバーが,現「河野坂東」時代の5人になった。「河野坂東」時代のスクェアこそが,真のスクェアのイメージとなった。

 ここまで来るには「Mr.T−SQUARE」である坂東慧さまさまなのだが,河野啓三の存在感もこれまた大きい。
 是非是非『クレム・デュ・ラ・クレム』の特典DVDをご覧ください。河野啓三の“仕切り”の凄さが記録されていますから…。
 それからもう1つ。『クレム・デュ・ラ・クレム』の特典CD河野啓三WORKS』の「本人による楽曲紹介&コメント」もお読みください。この解説を読みながら1曲1曲に耳を傾けてみると,河野啓三の偉大さ,そしてバンドへの計り知れない貢献度に感謝の気持ちが湧き上げること請け合いですから…。

CREME DE LA CREME-2 さて,感情だが爆発して紹介が遅れてしまったが『クレム・デュ・ラ・クレム』とは『REFRESHEST』『MISS YOU IN NEW YORK』『T COMES BACK』のラインとは別の『宝曲(たからのうた) 〜T−SQUARE PLAYS THE SQUARE〜』『夢曲(ゆめのうた) 〜T−SQUARE PLAYS THE SQUARE〜』『虹曲(にじのうた) 〜T−SQUARE PLAYS T & THE SQUARE SPECIAL〜』のラインに位置するスクェアセルフカヴァー・アルバムの第4弾である。

 そして「河野坂東」時代のセルフカヴァー・アルバムとしては最良の1枚である。これまでの「隠れ名曲集」の趣きとは異なり,本当に最後の最後にふさわしい大ヒット・チューン連続のセルフカヴァーベストの選曲である。

 【TAKARAJIMA】である。【DANS SA CHAMBRE】である。【UNEXPETED LOVER】である。【OMENS OF LOVE】である。【CROWN AND ROSES】である。【FACES】である。【TRUTH】である。そして【NEXT2000】である。これ最高!

 個人的に【NEXT2000】が一番である。何を隠そう,管理人が選ぶ「河野坂東」時代の最高の1曲とは『NEXT』の【NEXT】である。管理人は【NEXT】を指名する。その【NEXT】がアルトサックス・バージョンからEWIバージョンにリアレンジされている。

 管理人が『NEXT』の【NEXT】を推す一番の理由は伊東たけしアルトサックスである。こんなにも“キュート”なサックス・ナンバーはそうそう聴けるものではない。
 そんな【NEXT】の“売り”であるアルトサックスが削られて,EWIへと持ち替えられた【NEXT2000】もすんなりと受け入れることができた。それにも奇跡的な?理由がある。

CREME DE LA CREME-3 実は【NEXT2000】を初めて聴いたのは,公式サイトの先行配信ではなかった。クロスFMから何の予告もなく流れてきた。ラジオだからBGMを真剣には聞いていない。でもその時は,一瞬で耳に留まった。「これって,スクェアの新曲だ」と思った。

 聴き間違うはずもない伊東たけしEWIの音色と個性的なフレージング。そこに聴き覚えのあるメロディー。いや〜,うれしかったのなんの! 在宅ワークの全部の作業をストップして,その日はスクェアを聴き漁りましたよ。テッケテテ〜。

 “音楽監督”河野啓三の置き土産である『クレム・デュ・ラ・クレム』。そのアルバムの「顔」である見事にイメチェンした【NEXT2000】を楽しみながら,しみじみと泣いております。河野くん,本当にありがとうございました。今はこれしか書けません。

PS 「CREME DE LA CREME-3」は販促用のクリアファイルです。

 
DISC 1
01. NEXT2020
02. Takarajima
03. Dans Sa Chambre
04. Unexpected Lover
05. Omens Of Love
06. Crown And Roses
07. Faces
08. Forgotten Saga
09. TRUTH

DISC 2 『河野啓三WORKS』
01. Fantastic Story 〜時間旅行〜
02. Across From The Sky
03. Future Maze
04. First Impression
05. かわらぬ想い
06. Rondo
07. Eagle Spear
08. Through The Thunderhead
09. はやぶさ 〜The Great Journey:奇跡の帰還〜

DISC 3 DVD
01. レコーディングドキュメント映像『Thanks a million! 河野啓三』

 
T-SQUARE
MASAHIRO ANDOH : Guitars
TAKESHI ITO : Alto Sax, EWI
KEIZO KAWANO : Keyboards
SATOSHI BANDOH : Drums

Special Support:
SHINGO TANAKA : Bass
AKITO SHIRAI : Keyboards

(オレンジレディ/ORANGE LADY 2020年発売/OLCH 100019〜20)
(☆SACDハイブリッド盤仕様)
(ライナーノーツ/河野啓三)
★【初回生産限定盤】ボーナスDVD付 3枚組
★音匠仕様レーベルコート

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アイアート・モレイラ / アイデンティティー4

IDENTITY-1 1970年代のフュージョン・シーンの台頭を切り開いた3グループがある。それが“電化”マイルスウェザー・リポートリターン・トゥ・フォーエヴァーである。

 この3グループは「マイルス・スクール」のメンバーが重なり合い,互いに刺激し合い,それぞれが異なるアイディアを形にするために別の道を歩むことになったわけだが,そんな3グループ全てに在籍した“唯一の”ジャズメンがいる。それがブラジリアン・パーカッショニストアイアート・モレイラである。

 アイアート・モレイラマイルス・デイビスによるフュージョン立ち上げの1枚である『ビッチェズ・ブリュー』から参加し,その後の“電化”マイルスの黄金期を駆け抜けた人物である。
 ウェザー・リポートにしてもリターン・トゥ・フォーエヴァーにしても,立ち上げメンバーとして名を連ねた人物である。つまりはマイルス・デイビスジョー・ザビヌルウェイン・ショーターチック・コリアたちと同列に位置するフュージョンの創生に深く関与した重要人物の1人なのである。

 マイルス・デイビスジョー・ザビヌルウェイン・ショーターチック・コリアアイアート・モレイラをなぜ必要としたのか? それこそがアイアート・モレイラの「アイデンティテイー」である。アイアート・モレイラの放つ,本物のブラジルのリズムなのだ。

 暴言を承知で書くならば,本物のブラジリアン・パーカッションは日本人には演奏できないし,アメリカ人にも演奏できない。本物のブラジリアン・パーカッションを演奏できるのは本場のブラジル人だけなのである。
 ここでいうブラジリアン・パーカッションとはリズム・キープ役としてのドラマーではなく,音楽に奥行きと色彩,果ては香りさえをも与える「空間構成家」としてのパーカッショニストのことである。

 この能力を欲していたマイルス・デイビスジョー・ザビヌルウェイン・ショーターチック・コリアにとってアイアート・モレイラが「抜きん出ていた」というわけである。それがゆえの3大グループへの“オリジナル・メンバー”入り!

 そんなアイアート・モレイラの「アイデンティテイー」がストレートに表現されたのが,ブラジリアン・クロスオーヴァーの名盤として名高い『IDENTITY』(以下『アイデンティテイー』)である。

IDENTITY-2 「キワモノ」一歩手前の雰囲気で,躍動的なメロディーが連続する“ブラジリアン・フレーバー推し”が徹底された『アイデンティテイー』で,アイアート・モレイラの「アイデンティテイー」であるブラジリアン・パーカッショニストの妙技が爆発している。

 ただし,そこは“スーパー・パーカッショニスト”のアイアート・モレイラである。マイルス・デイビスジョー・ザビヌルウェイン・ショーターチック・コリアのように1人では主役は張れない。
 「盟友」エグベルト・ジスモンチとの共作でメロディーをしたためている。

 最後に『アイデンティテイー』のジャケット写真の表面には,アイアート・モレイラの指紋が黒塗りされた写真が用いられ,ジャケット写真の裏面には,アイアート・モレイラのIDカード,証明書,パスポート写真が用いられている。
 このジャケット写真には「自分はブラジル人であり,どの国にも属さない」と言うアイアート・モレイラの主張であり「この音楽こそが自分自身であり,アイデンティテイーそのものだ」というメッセージなのであろう。

 いいや,アイアート・モレイラの“ハンドパワー”ポージング!? アイアート・モレイラが「きてます!」。

 
01. THE MAGICIANS (BRUXOS)
02. TALES FROM HOME (LENDAS)
03. IDENTITY
04. ENCOUNTER (ENCONTRO NO BAR)
05. WAKE UP SONG (BAIAO DO ACORDAR/CAFE)
06. MAE CAMBINA
07. FLORA ON MY MIND

 
AIRTO MOREIRA : Drums, Percussion, Vocals
WAYNE SHORTER : Soprano Saxophone
HERBIE HANCOCK : Synthesizer
FLORA PURIM : Vocals
DAVID AMARO : Guitar
EGBERTO GISMONTI : Piano
RAUL DESOUZA : Trombone
ROBERT : Drums, Percussion
TED LO : Organ
JOHN HEARD : Bass
JOHN WILLIAMS : Bass
LOUIS JOHNSON : Bass

(アリスタ/ARISTA 1975年発売/BVCJ-37116)
(ライナーノーツ/中原仁)

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タイガー 大越 / フェイス・トゥ・フェイス4

FACE TO FACE-1 1970〜1980年代のこと,TVCMをJ−フュージョンが席巻した時期があった。
 資生堂の渡辺貞夫やサントリーの伊東たけしはスターになった。しかし,数あるCM群の中でも語られるべきはJTであろう。
 マイルドセブン系のPRISM角松敏生,ピース系の天野清継中川昌三,そしてキャビン系のMALTAである。
 MALTAの時代は長く【SCRAMBLE AVENUE】【HIGH PRESSURE】【ZOOM】が流されていた。

 管理人は特にMALTAのCMが大好きだった。MALTAのTVCMはBVDとかでも流れていたが,松本恵二や星野一義というレーシング・ドライバーと組んだもので,同時期のF−1の大ヒット・テーマであるザ・スクェアの【TRUTH】と張り合っていた。

 そんな“カッコイイ”MALTAのCMが終わった。タイガー大越に変わった。…でっ,タイガー大越って誰?

 タイガー大越のことはCMで初めて知った。そしてCM曲【FACE TO FACE】が気に入った。あのMALTAの後釜なのだからカッコ良くて当然なのだ。
 待望久しいJ−フュージョンの人気トランぺッターの誕生であった。

 …でっ,2。【FACE TO FACE】収録のアルバム『FACE TO FACE』(以下『フェイス・トゥ・フェイス』)を購入した。

 タイガー大越トランぺットの個性とはセクシー将軍の響きであろう。金管特有のいやらしさでなく木管のそれである。タイガー大越もその点を自覚しているのか,トランぺットシンセサイザーを組み合わせた楽曲が多い。個人的には【WHO CAN I TURN TO】が白眉である。

 ただし『フェイス・トゥ・フェイス』は,清水興ベース東原力哉ドラムというナニワ・エキスプレス勢が引っ張っているアルバムである。
 MALTAのところにも元ナニワ・エキスプレス岩見和彦がいるが,そこはあくまで「MALTAMALTA」。タイガー大越はまだその域までは届いていない。

FACE TO FACE-2 ズバリ『フェイス・トゥ・フェイス』は,トランぺットではなくベースドラムを聴くべきアルバムである。タイガー大越がテクニカルなトランぺットで脇を固めて,クリエイティブなリズム隊がドーンと“歌っている”。

 そういうことでナニワ・エキスプレスに引っ張られた“バブル人気”のタイガー大越のTVCMは【FACE TO FACE】の1曲で終わった。
 ただし【FACE TO FACE】の大インパクトは,バブル末期の“打ち上げ花火”だ〜。

PS 【FACE TO FACE】という楽曲名はMALTAにもありますし,何ならMALTAの【FACE TO FACE】の方が有名なのでは? MALTAタイガー大越はなぞの共通点多すぎです。

 
01. FACE TO FACE
02. ONE NOTE SAMBA
03. SUMMERTIME
04. A MAN WITH 20 FACES
05. WHEN THE MOON GOES DEEP
06. DON'T TELL ME NOW
07. SENTIMENTAL JOURNEY
08. WHO CAN I TURN TO
09. BUBBLE DANCE
10. EYES
11. FISHERMAN'S SONG
12. OVER THE RAINBOW

 
TIGER OKOSHI : Trumpet, Voices
GERRY ETKINS : All Keyboards, Synthesizer Programings, Acoustic Piano
TAKAYUKI HIJIKATA : Electric Guitar, Acoustic Guitar
KOH SHIMIZU : Electric Bass, Synthesizer Bass
RIKIYA HIGASHIHARA : Drums

(ビクター/JVC 1989年発売/VDJ-1198)

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アーニー・ワッツ / アイ・ヒア・ア・ラプソディ4

REACHING UP-1 アーニー・ワッツと来ればリー・リトナーの「ジェントル・ソウツ」や菊池ひみことのコラボレーションで活躍した「フュージョンサックスの巨人」のイメージが強かったのだが,実はアーニー・ワッツというテナー奏者は“ゴリゴリのジャズの人”である。
 アーニー・ワッツソロ・アルバムはそのほとんどがジャズ・アルバムである。

 管理人がアーニー・ワッツを“ジャズサックスの人”として捉えるようになったのは,チャーリー・ヘイデンの「カルテット・ウエスト」から。
 「カルテット・ウエスト」でのアーニー・ワッツの演奏は,フリージャズ以前のジョン・コルトレーンっぽさが感じられるいい演奏で,チャーリー・ヘイデンが自分のバンドのフロントマンとして,よくぞ指名してくれた,と感心したものだった。

 それでアーニー・ワッツジャズサックスを求めて,ジョン・コルトレーン所縁のストレートなジャズ・アルバム『REACHING UP』(以下『アイ・ヒア・ア・ラプソディ』)を買ってみた。
 『アイ・ヒア・ア・ラプソディ』のアーニー・ワッツに驚いた。やっぱりコルトレーン・チルドレン!

 この時受けた衝撃は「ジェントル・ソウツ」から「カルテット・ウエスト」への隔たり以上! ゲ・ゲ・ゲ!
 その最大の理由は,ピアノマルグリュー・ミラーベースチャールス・ファンブロードラムジャック・デジョネットとのセッションなのに「アーニー・ワッツの音」が鳴っているからであり,アーニー・ワッツのリーダー・バンドのようなまとまりを感じたからである。

 アーニー・ワッツにとって『アイ・ヒア・ア・ラプソディ』は,一介のレコーディング・セッションなどではなかった。
 もう何年もジャズサックスに専念してきたかのようなグループ・サウンドが展開されている。頭の中は「ジャズジャズジャズ」であってフュージョンなんかは片隅にもない感じ。アーニー・ワッツが,どっぷりと“ジャズに浸かっている”様子に心底驚いてしまった。

REACHING UP-2 ただし『アイ・ヒア・ア・ラプソディ』のサウンド・スケッチの中にアーニー・ワッツテナーサックスだけが溶け込めていない。サックスだけがゴスペル系の鳴りで軽い。
 ピアノマルグリュー・ミラーベースチャールス・ファンブロードラムジャック・デジョネットのリズム隊はしなやかで重い。だから余計にアーニー・ワッツテナーサックスの軽さに「物足りなさ」を覚えてしまう。

 個人的にアーニー・ワッツを“ゴリゴリのジャズの人”として認めることはやぶさかではないが,アーニー・ワッツの個性が色濃いのはフュージョンサックスの方だと思う。
 アーニー・ワッツの個性である,独特の軽さ,に向いている音楽はフュージョンサックスの方であると,アーニー・ワッツジャズ・アルバムを聴いたからこそ断言できる。

 チャーリー・ヘイデンの人選力って凄いよなぁ。“フュージョン以上ジャズ未満”なアーニー・ワッツジャズサックスは「カルテット・ウエスト」ぐらいがちょうどよい。
 ジャズに力を入れすぎると,モーダルなフレーズに隠れて「ゴスペル・アーニー・ワッツ」の顔がどうしても出てしまう。

 
01. REACHING UP
02. MR. SYMS
03. I HEAR A RHAPSODY
04. TRANSPARENT SEA
05. THE HIGH ROAD
06. INWARD GLANCE
07. YOU LEAVE ME BREATHLESS
08. SWEET LUCY
09. ANGEL'S FLIGHT
10. SWEET SOLITUDE
11. SWEET SOLITUDE (ALTERNATE TAKE)

 
ERNIE WATTS : Saxophones
JACK DeJOHNETTE : Drums
CHARLES FAMBROUGH : Acoustic Bass
MULLGREW MILLER : Piano
ARTURO SANDOVAL : Trumpet

(ビクター/JVC 1994年発売/VICJ-188)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,小川隆夫)

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松岡 直也 feat. トゥーツ・シールマンス & 松木 恒秀 / カレイドスコープ5

KALEIDOSCOPE-1 出発が他社に対抗するためのワーナー・グループによる「高音質盤」の作成のためにあった『KALEIDOSCOPE』(以下『カレイドスコープ』)だが,当の松岡直也にとって「高音質盤」なんて眼中なし。目指したのは,ただただお盛り上がりのセッション大会!

 『カレイドスコープセッションにおいて,プロデューサーより“フィーリング”として指名されたのがハーモニカトゥーツ・シールマンスギター松木恒秀であった。
 この主役の2人をサポートするために“御大”松岡直也が招集したメンバーが,ギター安川ひろし杉本喜代志土方隆行ドラム村上“ポンタ”秀一ベース高橋ゲタ夫長岡道夫パーカッションペッカーソプラノサックス土岐英史
テナーサックス清水靖晃トロンボーン向井滋春シンセサイザー助川宏という超豪華な面々である。

 そんな「WESING」と「KYLYN」が合体したような凄腕メンバーたちが「デジタル2トラック1発録り」という最高にシビレル演奏で燃え上がらないわけがない!
 『カレイドスコープ』の全5トラックは松岡直也作編曲の,本来はロック色やエレクトリック色を抑えた,すこぶるスムースでメロウなナチュラル・フュージョンであるが,そこに「デジタル2トラック1発録り」の興奮なのか,出来上がったのは“ジャズ寄りのフュージョン”である。

 ジャズの醍醐味であるインプロヴィゼーションが“生々しく”記録されている。特に主役格であるトゥーツ・シールマンス松木恒秀ソロ・パートが長めで,燃えに燃えたアドリブが“生々しく”記録されている。

 これは後日談であるが“御大”松岡直也トゥーツ・シールマンスと共演する前までは「大のハーモニカ嫌い」だったようで,実はトゥーツ・シールマンスソロ・パートはそれなりにしか準備していなかった。ただしリハーサルで聴いたトゥーツ・シールマンスハーモニカが“圧巻”で,松岡直也が急遽スコアを書き直してソロ・パートを伸ばしたとのこと。

 でも【FALL FOREVER】と【FANCY PRANCE】を聴き終わった感想は,もっとトゥーツ・シールマンスハーモニカを聴きた〜い,であった。
 全ての楽器がトゥーツ・シールマンスハーモニカと有機的に絡み合い,音楽の最も美味しい部分を抽出されたような明るく楽しい演奏に仕上がっている。実に素晴らしい。

 もう1人の“フィーリング”である松木恒秀ギターもいい。マイルドでありながらスパイシーなギターの独創的なリフが素晴らしく個人的に色香を感じる。
 『カレイドスコープ』で共演する4人のギタリスト松木恒秀安川ひろし杉本喜代志土方隆行は「横並び」かと思いきや,この4人の演奏を聴き比べてみると確かに松木恒秀ギターが“抜きん出ている”。
 松岡直也松木恒秀に合わせたのか,それとも松木恒秀松岡直也に合わせたのかは不明であるが,松岡直也フィーリング松木恒秀の音楽性が即興なのに充実感で満ちている。

KALEIDOSCOPE-2 多重録音で失われたフュージョン即興性を取り戻すべく,当時の最新技術「デジタル2トラック1発録り」が企画されたのだったが「高音質」企画の産物である“生々しさ”が臨場感を伝えている。
 でも大切なのは音楽性である。「デジタル2トラック1発録り」だから実現したライブ感。これである。

 『カレイドスコープ』とは,ただただお盛り上がりのセッション大会! 管理人が選ぶ“勝者”は村上“ポンタ”秀一だと思う。村上“ポンタ”秀一ドラムを耳で追いかけながら聴くのが最高に楽しい!

 最後に,1回限りの『カレイドスコープセッションだったはずが『LIVE AT MONTREUX FESTIVAL』でのトゥーツ・シールマンスとの再演が実現した。
 松岡直也トゥーツ・シールマンスを気に入ったばかりか,トゥーツ・シールマンス松岡直也を気に入ったという事実が『カレイドスコープセッションの成功を裏付けている。

 
01. FALL FOREVER
02. DRIED FLOWER & DRIED LOVE
03. IVORY ISLANDS
04. CADILLAC
05. FANCY PRANCE

 
NAOYA MATSUOKA : Piano, Keyboards
TOOTS THIELEMANS : harmonica
TSUNEHIDE MATSUKI : Guitar
HIROSHI YASUKAWA : Guitar
KIYOSHI SUGIMOTO : Guitar
TAKAYUKI HIJIKATA : Guitar
SHUICHI "PONTA" MURAKAMI : Drums
MICHIO NAGAOKA : Bass
GETAO TAKAHASHI : Bass
PECKER : Percussion
HIDEFUMI TOKI : Soprano Saxophone
YASUAKI SHIMIZU : Tenor Saxophone
SHIGEHARU MUKAI : Trombone
HIROSHI SUKEGAWA : Synthesizer

(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1979年発売/32XL-55)
(ライナーノーツ/山口弘滋)

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ボビー・ハッチャーソン / エンジョイ・ザ・ビュー5

ENJOY THE VIEW-1 ボビー・ハッチャーソンが37年振りにブルーノートへ復帰したことが話題となった『ENJOY THE VIEW』(以下『エンジョイ・ザ・ビュー』)であるが,管理人にはボビー・ハッチャーソンではなく“デヴィッド・サンボーン買い”であった。

 『TIMEAGAIN』の再演となる【DELIA】と【LITTLE FLOWER】収録。『TIMEAGAIN』のヴィブラフォン奏者がマイク・マイニエリだったから,別のヴィブラフォン奏者との共演を聴いてみたくなった。
 そのヴィブラフォン奏者が「たまたま」ボビー・ハッチャーソンだったというわけで,個人的にボビー・ハッチャーソンに有難みは感じていない。

 加えて“デヴィッド・サンボーン買い”2つ目の理由は,オルガン奏者のジョーイ・デフランセスコである。
 デヴィッド・サンボーンジョーイ・デフランセスコは『ONLY EVERYTHING』で共演済だし『HEARSAY』『CLOSER』『HERE & GONE』でのオルガン奏者との共演盤も脳裏によぎる。
 しばらくデヴィッド・サンボーンソロ・アルバムも出ていないことだし,これは絶対に買いでしょう…。

 でっ,ヴィブラフォンボビー・ハッチャーソンオルガンジョーイ・デフランセスコと組んだジャズサックスデヴィッド・サンボーンが素晴らしい。
 最近の不調がウソのようなデヴィッド・サンボーンの野太い鳴り! その秘密こそがセッション・リーダーであるボビー・ハッチャーソンの硬質なヴィブラフォンにあると思う。

 特に期待などしていなかったボビー・ハッチャーソンの存在感がとてつもなく大きいと思う。休止の時間帯でも「重し」として利いている。あれだけ騒がれるだけのことはある。
 ボビー・ハッチャーソンの“クールな”ヴィブラフォンが,デヴィッド・サンボーンの闘志に火をつけている。ボビー・ハッチャーソンと来れば「新主流派」の人であるが,どうしてどうして。
 ブルーノートボビー・ハッチャーソンと来れば『HAPPENINGS』ともう1枚が『OUT TO LUNCH』。そう。あのエリック・ドルフィーを“喰った”人だったのだ。

ENJOY THE VIEW-2 ボビー・ハッチャーソンの表情を伺いながら,デヴィッド・サンボーンジョーイ・デフランセスコが素晴らしいソロを取っている。ボビー・ハッチャーソンの音を聴き,ヴィブラフォンを邪魔することなく,きっちりと自分の音を鳴らしている。そんなデヴィッド・サンボーンの姿勢がいつになく野太い音色につながっているように思う。  

 『エンジョイ・ザ・ビュー』の聴き所とは,デヴィッド・サンボーンの「完全復活」! 「フュージョン界のスーパー・スター」としての看板を降ろして久しいが,ジャズを吹いてもブルースを吹いてもR&Bを吹いてもデヴィッド・サンボーンデヴィッド・サンボーン

 ジャズ・ファンにとっての『エンジョイ・ザ・ビュー』とは,ボビー・ハッチャーソンブルーノート・アゲインの記念碑的アルバムであるが“サンボーン・キッズ”にとっての『エンジョイ・ザ・ビュー』とは“エモーショナル”なデヴィッド・サンボーン・アゲインの記念碑的アルバムである。

 
01. Delia
02. Don Is
03. Hey Harold
04. Little Flower
05. Montara
06. Teddy
07. You

 
BOBBY HUTCHERSON : Vibes
DAVID SANBORN : Saxophone
JOEY DeFRANCESCO : Organ, Trumpet
BILLY HART : Drums

(ブルーノート/BLUE NOTE 2014年発売/UCCQ-1009)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/熊谷美広)

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スガダイロー / スガダイローの肖像・弐5

スガダイローの肖像・弐-1 スガダイローという人は,単なる“ジャズ・ピアニスト”ではない。「新しい音楽の発明家」だと思う。
 『スガダイローの肖像・弐』の斬新な音楽性は,フリージャズからはみ出ただけでなく,ジャズというカテゴリーをも超えてしまっている。

 『スガダイローの肖像・弐』がジャズというカテゴリーを超えてしまった最大要因は,スガダイローの全く個人的な「好き」という感情が「これでもか!」と詰め込まれているがゆえであろう。
 【山下洋輔】の名前を筆頭に,スガダイローの好きなものの名前がズラリとメニュー表に並べられた感じ? ゆえに『スガダイローの肖像・弐』は「スガダイローの音楽」としか呼びようのないアルバムに仕上げられている。

 『スガダイローの肖像・弐』での演奏は相当に激しい。スガダイローの“伝えたい”が伝わってくる。
 その伝え方がいいんだよなぁ,これが。強引に「耳の穴をかっぽじって聞け」と圧をかけるスタイルではない。そうではなく,スガダイローの主張を分かってもらいたいという気持ちはあるんだけど,分かってもらえない人が大勢いることを前提に“分かりやすい”演奏に徹している。激しいけども厳しくない。初心者でも“ついていける”渾身のメロディー集だと思う。

 『スガダイローの肖像・弐』の印象は,フリージャズではなくピアノ・トリオを聴いていることを強く意識してしまう。ピアノ・トリオって,こんな音楽が作れるんだ,という印象である。
 う〜ん。ちょっと違うな。ピアノ・トリオではなくピアノなのだ。「ピアノを超えたピアノ」。これである。

 ピアノの鍵盤の数は88と決まっている。ビル・エヴァンスキース・ジャレットも,他のどんなピアニストであっても88の鍵盤の中で勝負している。
 しかし,この『スガダイローの肖像・弐』の中で,スガダイローは「88の鍵盤の呪縛」を超える音楽を創造している。
 そう。東保光ベースを89番目の鍵盤として,服部正嗣ドラムを90番目の鍵盤として扱っている。ねっ「ピアノを超えたピアノ」でしょ? ねっ「新しい音楽の発明家」でしょ?

スガダイローの肖像・弐-2  勿論,東保光ベースには東保光の音を感じる。服部正嗣ドラムには服部正嗣の音を感じる。
 つまりスガダイローは「王様」などではない。そうではなく東保光ベースの特徴をピアノ・トリオに取り入れる術を知っている。服部正嗣ドラムの特徴をピアノ・トリオに取り入れる術を心得ている。
 そう。一心同体=スガダイロー隊! ← このクダリ,分かりますかぁ?

 88の鍵盤の表現を超えた90の鍵盤だからできる表現が『スガダイローの肖像・弐』の中にある。新しいメロディーが鳴っている。こんな凄い音楽そう滅多に聴けるものではありませんよっ!

 
01.
02. 蒸気機関の発明
03. 山下洋輔
04. BLUE SKIES
05. さやか雨
06. 春風
07. 無宿鉄蔵毒団子で死なず
08. 寿限無
09. 戦国
10. 時計遊戯
11. 最後のニュース
12. ALL THE THINGS YOU ARE

 
DAIRO SUGA : Piano
HIKARU TOHO : Bass
MASATSUGU HATTORI : Drums

TONY CHANTY : Vocal
CHIZURU ISHI : Hand Drums

(ポニーキャニオン/PONY CANYON 2011年発売/PCCY-30194)

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サイラス・チェスナット / ビフォー・ザ・ドーン3

THE DARK BEFORE THE DAWN-1 管理人がサイラス・チェスナットを知ったのはマンハッタン・トリニティ以後のことである。
 マンハッタン・トリニティにおけるサイラス・チェスナットピアノが素晴らしい。繊細なピアノ・タッチで美メロのツボを確実に突いていく。カクテルっぽい部分が前面に出てはいるが,サイラス・チェスナットの“根っこ”にあるブルール・フィーリングが絶妙のバランスで“見え隠れする”のだから一瞬も聴き逃せない。さぁ,次はサイラス・チェスナットソロ・アルバムの番である。

 最初に手に取ったのが『THE DARK BEFORE THE DAWN』(以下『ビフォー・ザ・ドーン』)である。
 マンハッタン・トリニティを聴いて,恐らくはサイラス・チェスナットをたくさんコレクションすることになると思ったので,どうせなら古いものから順番に時系列で聴いていきたい,と『ビフォー・ザ・ドーン』の購入は先を見据えてのものであった。…が,しかし…。

 『ビフォー・ザ・ドーン』がハマラなかった。こんなにもゴリゴリでペラペラのピアノだったっけ? 全くスマートなジャズピアノではないし,かといってアーシーなジャズピアノでもない。
 サイラス・チェスナットの「地黒」って,管理人の嫌いなゴスペル専門系の「黒」だったのか?

 『ビフォー・ザ・ドーン』のサイラス・チェスナットは表情が沈んでいる。というか窮屈そうに奥まって,背中を丸めてピアノを弾いている。
 マンハッタン・トリニティの“看板”という立場から離れた途端,自分が本当に演奏したい音楽を見失ってしまった感じ?

 要はマンハッタン・トリニティにおけるサイラス・チェスナットの繊細なピアノ・タッチは,ベースジョージ・ムラーツドラムルイス・ナッシュに引っ張られての演奏なのだろう。
 そう。マンハッタン・トリニティの真実とは,サイラス・チェスナットの個性に合わせて“老練”2人が完璧にお膳立てしたフォーマット。後は
サイラス・チェスナットが譜面通りに演奏すれば成立する「美メロのジャズピアノ」。

 サイラス・チェスナットピアノを鳴らす「腕」には確かなものがある。緩急を付けた表現力には耳を奪われる。しかしジャズメン足るもの,そのテクニックを“どう使うか”が勝負である。何を“どう訴えかけるか”が勝負である。

 要はあのキラキラとした輝きはサイラス・チェスナット主導の音楽ではなかったということ。ジョージ・ムラーツルイス・ナッシュによって作られたサイラス・チェスナットの“虚像”であったのが残念でならない。

THE DARK BEFORE THE DAWN-2 サイラス・チェスナットの輝く場所とはメインではなくサイドメンとしてであろう。事実,サイラス・チェスナットはファースト・コールのサイドメンとして引っ張りだこ。リーダーからのリクエストを一瞬で掴む能力には類まれなものがある。

 超一流のジャズメンのすぐ側で弾くサイラス・チェスナットピアノはいつでもゴキゲンである。特に実際にヴォーカルが入るかどうかは関係なく,例えインストであっても「歌ものの伴奏」を演らせたら当代随一のピアニストである。

 だからこそサイラス・チェスナットの資質を見極めたジョージ・ムラーツルイス・ナッシュの凄さが分かる。
 管理人はもう2度とサイラス・チェスナットソロ・アルバムは購入しないが,サイラス・チェスナットの名前がサイドメンとしてクレジットされているだけで俄然聴いてみたくなる。

 ソロでも化けろ! 化けてみろ! サイラス・チェスナット

 
01. Sentimentalia
02. Steps Of Trane
03. The Mirrored Window
04. Baroque Impressions
05. A Rare Gem
06. Call Me Later
07. Wright's Rolls And Butter
08. It Is Well (With My Soul)
09. Kattin'
10. Lovers' Paradise
11. My Funny Valentine
12. The Dark Before The Dawn
13. Sometimes I'm Happy

 
CYRUS CHESTNUT : Piano
STEVE KIRBY : Bass
CLARENCE PENN : Drums

(アトランティック・ジャズ/ATLANTIC JAZZ 1995年発売/AMCY-1130)
(ライナーノーツ/リアンダー・ウィリアムズ,岩浪洋三)

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スガダイロー / スガダイローの肖像3

スガダイローの肖像-1 『スガダイローの肖像』を買ったのは『スガダイローの肖像・弐』の後だった。『スガダイローの肖像・弐』が超。お気に入りで,これはと“一匹目のドジョウ?”を狙って買った。

 結果は「…が,しかし」。でも『スガダイローの肖像』を買って良かった。なぜなら『スガダイローの肖像・弐』がもっともっと大好きになったから! 『スガダイローの肖像・弐』の有り難みが増したから!( ← 本当は強がりです )

 そう。“鬼才”スガダイローの腕をもってしても『スガダイローの肖像・弐』のような名盤を作るチャンスは,生涯を作じて1枚か2枚。管理人はスガダイローと同じ時代に生まれた幸運を音楽の神に心から感謝している。

 さて,そんな“期待外れ”の『スガダイローの肖像批評なのだが,実は『スガダイローの肖像』には2曲だけ超・名演が収められている。それが1曲目の【】と2曲目の【キアズマ】である。

 【】の輝きが眩しすぎる。キラキラとエメラルド色に輝いている。これはメルヘン作品である。スガダイローの“お花畑”へようこそいらっしゃ〜いの構図。
 パッションと狂気あふれる“ピアノの花束”の中から,1本1本取り出されては次々と手渡されていく感覚があって,すぐに手元が満杯になってはこぼれ落ちていく〜。

 続く【キアズマ】は“御存知”山下洋輔トリオの衝撃の代表曲。山下洋輔の【キアズマ】も何十回と聴いたが理解できなかったのだが,スガダイローの【キアズマ】も何回聴いても理解不能。ただし,同じ匂いがすることだけは確認できた。いつの日かスガダイローがバカ売れした時,この【キアズマ】について語られる日が来ることだろう。

 しか〜し『スガダイローの肖像』が決定的にダメなのは,イロモノ感とキワモノ感が強いということ。『スガダイローの肖像』の問題は残りの9トラック。これがいけない。要は下品で卑猥でゲスイ。品位がない。
 特に二階堂和美ヴォーカル入りトラックについては,一生涯,もう2度と自分の意志で聴くことはないだろう。

 元来,スガダイローという人はその人物像が危ない。管理人がスガダイローと初めて接した『坂本龍馬の拳銃 −須賀大郎短編集−(上)』と『黒船・ビギニング −須賀大郎短編集−(下)』の2枚が最高に素晴らしかったので,他のアルバムをチェックしていたのだが,そのタイトルとは,やれ『ジャズ・テロリズム』『ジャズ・テロリズム<豪快篇>』『ジャズ無宿』なるものがズラリ。果ては『秘宝感』なるものまであった。

 管理人はMALTAの名言=「その人の人間性が音に出る」の支持者である。管理人の2トップであるキース・ジャレットパット・メセニーもその正しさを証明してくれている。ゆえに上述したアルバムに手を出すことは絶対にしない。たとえ内容が良くてもそんなタイトルが付けられた音楽など聞かなくても良い。後悔しない。
 ダークサイドの音楽などなくても人生は大いに楽しめる。死ぬまでに一度は聞かなければならない優良なジャズ・アルバムが五万とある。人生は短い。限られた時間しか残されていない。

スガダイローの肖像-2 『スガダイローの肖像』の9トラックを聴いて,上記のようなことを考えていたことを思い出した。そして『スガダイローの肖像』を聴いて,やっぱりこんな感想が頭をかすめた。

 スガダイローとは「ハマル人ならとことんハマル」ワールド・クラスのフリージャズピアニストである。でもいつでも,どんな曲でもハマルほど間口は広くない。
 ズバリ,スガダイローの音楽の特徴とは「演者側が聴き手を選ぶ」音楽なのである。

 悪魔の『スガダイローの肖像』と天使の『スガダイローの肖像・弐』。
 管理人はスガダイローに『スガダイローの肖像』で嫌われ『スガダイローの肖像・弐』で愛されたように思う。

 そんな“変態アウトロー野郎”スガダイローに「選ばれし者」となるのはかなり難しい。「本当は好きなのに嫌い」→「本当は嫌いなのに好き」→「本当は好きなのに嫌い」の繰り返しで気持ちが揺れ動く。スガダイローに“入れ込む”加減が実に難しい。

 
01.
02. キアズマ
03. ゲットー
04. 墮天使ロック
05. 蘇る闘争
06. 季節のない街
07. マリアンヌ
08. スカイラーク
09. レイジーボーン
10. 慶応三年十一月十五日
11. リアルブルー

 
DAIRO SUGA : Piano
KAZUMI NIKAIDO : Vocal
TAKASHI MATSUMOTO : Alto Saxophone
NOISE NAKAMURA : Alto Saxophone
YOICHIRO KITA : Trumpet
MASATSUGU HATTORI : Drums

(ポニーキャニオン/PONY CANYON 2011年発売/DLCP-2090)

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フライ・トリオ / イヤー・オブ・ザ・スネイク5

YEAR OF THE SNAKE-1 ベースラリー・グレナディアドラムジェフ・バラードの組み合わせが,現在考えられる最良のリズム隊の1つに違いない。
 現にブラッド・メルドーチック・コリアパット・メセニー,そして山中千尋までもが,ラリー・グレナディアジェフ・バラードが創造するリズムを必要としたという事実がある。

 では逆に,ラリー・グレナディアジェフ・バラードの2人が本当に必要とするフロントマンとは一体誰なのだろう?
 その答えが「FLY」にある。マーク・ターナー“その人”である。

 カチッとした鍵盤とは異なり,マーク・ターナーテナーサックスが,時にルーズに,また時に急がされるかの如く,変幻自在に楽曲を組み立てていく。
 そんなマーク・ターナーの“呼吸”に合わせるかのように,ラリー・グレナディアジェフ・バラードがいつも以上に自由度の高い演奏を展開する。

 ラリー・グレナディアジェフ・バラード組の,こんなにも堅実で重心の下がったリズム・キープが聴けるのは「FLY」だけ! いいや,ベースドラムサックスと対等に渡り合う音楽を聴けるのは「FLY」だけ!

 ラリー・グレナディアベース・ラインが,常にマーク・ターナーサックスの動きに反応してはカウンターでメロディーを強調していく。ピアノの打音のようにベースが響く瞬間があるし,時にはアルコでサックスとユニゾンしてみせる。
 「FLY」におけるラリー・グレナディアの演奏楽器とはベース+“仮想”ピアノの様相である。

 「FLY」の推進力とは,ジェフ・バラードが叩き出す“常に替わり続けるリズム・パターン”にある。空間を自由に行き来しつつ,カラフルな音を敷き詰めていくジェフ・バラードのハードなドラミングが,サックストリオにおける“正しいドラムの在り方”なのだろう。
 「FLY」におけるジェフ・バラードの演奏楽器とはドラム+“仮想”ピアノの様相である。

 そう。ラリー・グレナディアジェフ・バラードの2人がリーダーとして演奏したいバンドとはピアノレス。
 ラリー・グレナディアジェフ・バラードも,自分自身がピアニスト気分で演奏できる癒しの場所。それがサックストリオの「FLY」であり,マーク・ターナーのような「何でもできる」フロントマンなのである。

 ただし,そこは世界最高峰のリズム隊。ラリー・グレナディアジェフ・バラードも,音楽そのもののバランスを絶対に崩すことはしない。
 「FLY」の構図とは,マーク・ターナーテナーサックスを常に中心に置いて,ベースが前に出る時はドラムが下がり,ドラムが前に出る時はベースが下がる,というもの。
 則ちサックス奏者からすると,サックスが音楽の「体幹」のような位置を占めるということ。バンドの要がサックスという異例のパワーバランスから来る重圧が半端ないということ。

YEAR OF THE SNAKE-2 だからこそマーク・ターナーなのである。ラリー・グレナディアジェフ・バラードマーク・ターナーを指名した理由こそがマーク・ターナーの最大の武器=ホーン・レンジの広さである。

 マーク・ターナーサックスが,革新的で冒険的なアイデアを数多く盛り込んでいるように聞こえるのは,ラリー・グレナディアジェフ・バラードの2台の“仮想”ピアノの音域を広げるための工夫であろう。

 所詮,ピアノの音を出そうとしてもベースは単体ではベースでありドラムは単体ではドラムである。しかしベースであってもドラムであっても,常に楽曲の組み立て役であるホーン・レンジの広いサックスとハモればピアノのように響くことができる。

 こんなにもテナーサックスを生かし,こんなにもテナーサックスを殺すことができる,マーク・ターナーって凄いよなぁ。

 
01. The Western Lands I
02. Festival Tune
03. The Western Lands II
04. Brothersister
05. Diorite
06. Kingston
07. Salt And Pepper
08. The Western Lands III
09. Benj
10. Year Of The Snake
11. The Western Lands IV
12. The Western Lands V

 
FLY
MARK TURNER : Tenor Saxophone
LARRY GRENADIER : Double-Bass
JEFF BALLARD : Drums

(ECM/ECM 2012年発売/UCCE-9312)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)

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渡辺 貞夫 / リバップ4

RE-BOP-1 『RE−BOP』(以下『リバップ』)の聴き所は,渡辺貞夫ブライアン・ブレイドの共演にある。
 これって則ち,ブライアン・ブレイドの躍動するドラミングが,あの渡辺貞夫と音を交えてどう反応するかを楽しむアルバムである。

 そう。『リバップ』の主役は渡辺貞夫アルトサックスではなくブライアン・ブレイドドラム
 『リバップ』のアルバム・コンセプトである「現代のビバップ」なる息吹きは特に感じられない。ナベサダに負担のかからないミディアム・テンポの王道ソング集である。

 要は渡辺貞夫が“ニュアンス勝負”に持ち込んだ上で,テクニカルでリズミカルなコード進行をサイラス・チェスナットに託し,躍動感とコード・チェンジをクリス・トーマスに託し,生き物のようなバケモノのドラミングブライアン・ブレイドにメロディックな山場を作らせていく。

 ブライアン・ブレイドからすると『リバップ』における渡辺貞夫のオーダーなんてお手の物。ウェイン・ショーターとの共演を通じて“御大”を輝かせるドラミングは何百通りと習得済。
 仮に『リバップ』を高く評価するナベサダ・ファンがいるとすれば,それは天下のブライアン・ブレイドナベサダがリードしているように聞こえての事? いやいや,わざとそのように聞かせているブライアン・ブレイドの凄さなんだってばぁ。

 個人的に『リバップ』というアルバムは「渡辺貞夫愛の本気度」が試される1枚だと思う。
 ピアノサイラス・チェスナットベースクリス・トーマスブライアン・ブレイドの“歌うリズム”を掴んでいる。そんな中,渡辺貞夫だけは本気でブライアン・ブレイドの“大波”にチャレンジしている。全力で“最新”のリズムと格闘している。

 思えば「世界のナベサダ」と呼ばれるようになってからも,渡辺貞夫は共演者に対して「自分についてこい」的な扱いをしたことはない。渡辺貞夫の音楽に対する真摯な姿勢が共演者に伝わって,自然とリスペクトを受けていたと思う。

 その意味では『リバップ』も同じである。ブライアン・ブレイド渡辺貞夫の新しい魅力を上手に引き出してくれたと思うし,サイラス・チェスナットクリス・トーマスにしても同じである。
 ただし,ブライアン・ブレイド渡辺貞夫の本質に光を当てれば当てるほど(4Kや8Kテレビがそうであるように)渡辺貞夫の老いの部分もクッキリと目立ってしまう。

 正直,寄る年波からは逃れられない。管理人は『リバップ』を聴いて初めて,渡辺貞夫の老いを感じてしまった。これはアルトサックスのミストーンのことではない。そうではなく音楽家としての感性,音楽全体を1つの方向にまとめ上げる能力が衰えてきたと書かざるを得ない。

 今後のアルバム制作については,ちゃちゃっと音を合わせただけの外国のビッグネームではいけない。毎月音を合わせているレギュラー・バンドのサポートが必要である。オール日本人でのスタジオ・アルバムが必要な時期に差し掛かっているように思う。

RE-BOP-2 『リバップ』を聴き終えて,次のように自問した。管理人は渡辺貞夫が好きなのだろうか? それともジャズが好きなのだろうか? 

 管理人の答えはこうである。渡辺貞夫アルトサックスが鳴っていれば,それがジャズだろうとブラジルだろうとアフリカだろうと関係ない。全部が好き。だから渡辺貞夫の老いの部分もひっくるめて『リバップ』もまた最高のアルバムの1枚だと思う。

 管理人はこれからも,未来永劫,渡辺貞夫の新作に耳を傾けていく所存である。共演者の力を借りるのはカッコ悪いことではない。渡辺貞夫はそうする権利を持っている数少ないマイスターの1人なのである。
 渡辺貞夫には1枚でも多く良質のアルバムを作り続けてほしいと心から願っている。

 【花は咲く】。いつ聴いても感動します。この曲は渡辺貞夫でないとダメなんです。絶対に渡辺貞夫でないと…。

 
01. Re-Bop
02. Look Ahead
03. I Miss You When I Think of You
04. Little Wind
05. Not Before Long
06. 8.15/2015
07. While You're Away
08. Call to Mind
09. Monica
10. Give Me a Que
11. Hanawa Saku

 
SADAO WATANABE : Alto Saxophone
CYRUS CHESTNUT : Piano
CHRIS THOMAS : Bass
BRIAN BLADE : Drums

(ビクター/JVC 2017年発売/VICJ-61765)

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チック・コリア / ザ・スパニッシュ・ハート・バンド4

ANTIDOTE-1 『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』の原題は『ANTIDOTE』である。
 日本盤のタイトルが『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』なので,1976年リリースの「ファンタジー三部作」の第二弾『マイ・スパニッシュ・ハート』のリメイク盤と捉えられがちであるがそうではない。

 『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』での『マイ・スパニッシュ・ハート』からの選曲は【MY SPANISH HEART】と【ARMANDO’S RHUMBA】の2曲。
 その一方でチック・コリアが共演を熱望したパコ・デ・ルシアとの『タッチストーン』からも【DUENDE】と【THE YELLOW NIMBUS】の2曲。イーブンである。いいや【ZYRYAB】はパコ・デ・ルシア作曲なので実質3曲である。

 加えて『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』の共演者を見ていくと,パコ・デ・ルシアのバンド・メンバーであるホルへ・パルドフルートサックスで参加している。
 そう。『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』は『マイ・スパニッシュ・ハート』のリメイク盤というよりも『タッチストーン』の続編の意味合いの方が深いのだった。

 ズバリ『ANTIDOTE』の真実とは『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』ではなく『ザ・タッチストーン・バンド』である。
 『ザ・タッチストーン・バンド』ではなく『ザ・スパニッシュ・ハート・バンド』になったのは,多分にレコード会社のセールス上の問題であろう。久々にストレッチではなくコンコードだし…。

 …って,御託を並べてもしょうがない。『ANTIDOTE』の音を聴いてほしい。管理人が『ANTIDOTE』を『ザ・タッチストーン・バンド』だと唱える最大の答えは「スパニッシュ路線」のサウンドにこそある。
 『ANTIDOTE』の肝はギターである。『タッチストーン』ではパコ・デ・ルシアアル・ディ・メオラが舞い踊っていたが『ANTIDOTE』では“ニュー・フラメンコ”のニーニョ・ホセレが舞い踊っている。

 ニーニョ・ホセレギターは今回で初めて聴いたのだが,評判通りの“超絶技巧”の継承者であった。ニーニョ・ホセレが舞い踊るのはスパニッシュギターのハイ・テクニックだけではない。チック・コリアの「スパニッシュ路線」を完全に理解した“味付け”が最高にニクイのだ。

 ニーニョ・ホセレのサウンド・メイクは,フラメンコ・ギターというよりもジャズギターとしても十分に楽しめる重さがあるし,時折顔を覗かせるフュージョン・チックな展開は「エレクトリック・バンド」のフランク・ギャンバレがフラメンコを弾いた感じ?
 フラメンコ・ダンスのニノ・デ・ロス・レジェスの参加は意味不明であるが,きっとニーニョ・ホセレギターを盛り上げる「燃料」としての役割があるのかも?

ANTIDOTE-2 聴けば聴くほど『ザ・タッチストーン・バンド』の本性剥き出しの『ANTIDOTE』。
 『タッチストーン』をチック・コリアの「最重要作」と公言してきた管理人なのだから『タッチストーン』の続編に位置する『ANTIDOTE』を高評価と思うなかれ。
 実は管理人。『ANTIDOTE』にはガッカリさせられた。「最後の綱」であったリメイク系での失敗は,現役チック・コリア・ファンにとって痛い。痛すぎる。勝ちゲームで負けてしまったのだからいつも以上の大ショックである。

 チック・コリアは「リメイクの達人」である。リメイク物をやらせたらチック・コリアの右に出る者は1人もいないと断言する。
 そんなチック・コリアが,あの『マイ・スパニッシュ・ハート』のリメイク盤を手掛けたと聞いたらチック・コリア・ファンは全員即買いしたことであろう。

 でも正直,あれから44年は長すぎた。「ファンタジー三部作」の頃の興奮を期待したのが間違いだった。
 う〜む。チック・コリアにイノベーターなど鼻から期待してはいない。でも正直,アイディアが古い。『ANTIDOTE』に過去のチック・コリアは感じても2019年のチック・コリアは感じなかった。「リメイクの達人」としてのアイディアまでもが枯渇してきたのか?

 どうする,チック・コリア。どうした,チック・コリア。頑張れ,チック・コリア。ラテンで踏ん張れ,チック・コリア。管理人の「裏・マイ・フェイバリット」なチック・コリア〜。

 
01. Antidote
02. Duende
03. The Yellow Nimbus - Part 1
04. The Yellow Nimbus - Part 2
05. Prelude to My Spanish Heart
06. My Spanish Heart
07. Armando's Rhumba
08. Desafinado
09. Zyryab
10. Pas De Deux
11. Admiration

 
CHICK COREA : Piano, Keyboards
MARCUS GILMORE : Drums
CARLITOS DEL PUERTO : Bass
JORGE PARDO : Flute, Sax
NINO JOSELE : Guitar
STEVE DAVIS : Trombone
MICHAEL RODRIGUES : Trumpet
LUISITO QUINTERO : Percussion
MINO DE LOS REYES : Dancer

RUBEN BLADES : Vocal
GAYLE MORAN COREA : Vocal Choir
MARIA BIANCA : Vocal

(コンコード/CONCORD 2019年発売/UCCO-1209)
(☆SHM−CD仕様)
(ライナーノーツ/チック・コリア,ロビン・D.G.ケリー,熊谷美広)

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渡辺 貞夫 / ランデブー5

RENDEZVOUS-1 『RENDEZVOUS』(以下『ランデブー』)は,プロデューサー兼パーカッションラルフ・マクドナルドドラムスティーヴ・ガットドラムスティーヴ・ガットベースマーカス・ミラーキーボードリチャード・ティーギターエリック・ゲイル,そこへアルトサックス渡辺貞夫…。

 そう。『ランデブー』の真実とは,同じエレクトラ・レーベルの大ヒット,グローヴァー・ワシントン・ジュニアの『ワインライト』を,メインのサックス奏者をグローヴァー・ワシントン・ジュニアから渡辺貞夫に変えただけの「続編」なのである。

 このドリーム企画を渡辺貞夫本人が望んだのかどうかは分からない。しかし結果は大当たり。『ワインライト』に負けず劣らず『ランデブー』もアメリカのジャズ・チャート2位を記録する大ヒットとなった。管理人もモロ『ランデブー』世代である。

 『ランデブー』が好きだ。これって管理人だけではない。その昔,FM東京系「渡辺貞夫マイ・ディア・ライフ」の番組企画で,渡辺貞夫の好きな曲の人気投票が行なわれていたが『ランデブー』のタイトル・トラック【RENDEZVOUS】が,年々順位を上げていき,ついには1位を記録したのだった。
 物凄い人気である。ラルフ・マクドナルド繋がりでロバータ・フラッグとのお付き合いも始まったわけだし,これぞラルフ・マクドナルドとのコラボレーションの成果であろう。

 ただし,この『ランデブー』。『ワインライト』の続編だけあって,ジャズともフュージョンとも呼べないアルバムである。
 ズバリ『ランデブー』の真実とは,ブラコンであり,上質なAORとしてアメリカで評価されたアルバムだと思うし,渡辺貞夫もその辺は承知の上でのヴォーカル2曲入りだと思う。

 あれほどの音を持つグローヴァー・ワシントン・ジュニアが【クリスタルの恋人たち】を演った。『ワインライト』がきっかけとなりグローヴァー・ワシントン・ジュニアスムーズジャズを切り開いた。
 管理人的にはグローヴァー・ワシントン・ジュニアアルトサックスが大好きだっただけにジャズ/フュージョンから離れたことを残念に思うが,ウェス・モンゴメリーの前例もあるわけだし,広く世間に美しいサックスが流れるようになったのだから,それはそれで良い選択をしたと思うことにしている。

RENDEZVOUS-2 その点でスムーズジャズへの誘惑を断ち切り「フュージョン止まり」の渡辺貞夫は,やはりバッパーであった。
 『ランデブー』の次作『マイシャ』では「頼んでも引き受けてくれない」ラルフ・マクドナルドとの蜜月関係を解消してのセルフ・プロデュース。往年のLAフュージョン路線に返り咲いたのだが,内容は実にPOPなジャズであって『ランデブー』の名残を感じる。

 そう。ジャズを演奏していてもフュージョンを演奏していても『ランデブー』での経験は,その後の渡辺貞夫の活動の糧となった。
 『ランデブー』での経験が,今でも渡辺貞夫の血となり肉となっている。そう。『ランデブー』は,渡辺貞夫の中で生き続けている。

 【RENDEZVOUS】が人気投票第1位なのには理由がある。【RENDEZVOUS】を避けて“ジャズメン”渡辺貞夫は語れやしない。

 
01. RENDEZVOUS
02. FIRE FLY
03. IF I'M STILL AROUND TOMORROW
04. COOL BREEZE
05. HERE’S TO LOVE
06. MARAVAL
07. LOVE ME AS I AM
08. I'M YOURS

 
SADAO WATANABE : Alto Saxophone
STEVE GADD : Drums
MARCUS MILLER : Bass. Synthesizer
RICHARD TEE : Fender Rhodes
RALPH MAcDONALD : Percussion
ERIC GALE : Guitar
ANTHONY MAcDONALD : Percussion
BARRY EASTMOND : Synthesizer
ROBERTA FLACK : Vocal

(エレクトラ/ELEKTRA 1984年発売/32XD-342)

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チック・コリア・アコースティック・バンド / LIVE5

LIVE-1 「チック・コリア・エレクトリック・バンド」の再結成から遅れること14年。ついに「チック・コリア・アコースティック・バンド」が再始動した。
 「アコースティック・バンド」名義としては実に27年振りのライブ・レコーディングとなったのが『LIVE』である。

 「エレクトリック・バンド」の再結成時は“2004年最高の話題作”と謳われたものだったが,今回の「アコースティック・バンド」の再始動は静かなもの。寂しいよなぁ。
 でも『LIVE』は日本限定発売とのこと。いつも熱狂するのは日本のジャズ・ファンだけのようである。
 まっ,そんな世間の無関心など気にしないし気にもならない。とにかく『LIVE』の演奏が物凄い。ここにあるのは紛れもなくピアノ・トリオ史上屈指の大名演集である。

 『LIVE』のせいで久しぶりにやって来たチック・コリアのマイブーム。『LIVE』はCDだから良いのだ。これが映像作品となると,画面から時を感じてしまっていけない。
 音を聴いている限りではチック・コリアが,ジョン・パティトゥッチが,デイブ・ウェックルが,一向に歳を取っていない。30年前の当時のまんまだ。何なら若返った気さえする。だから感情移入してしまったのだろう。「静かな熱狂」が『LIVE』に当てはまる。

 今回の「アコースティック・バンド」の再始動は,チック・コリアにとってどんな意味を持つのだろう。セットリストは往年のレパートリーばかりで新曲はない。単純に同窓会を開いてみたかっただけなのだろうが,その動機とは,離れ離れになった3人の27年間の歩みを確かめたくなったのだろう。

 チック・コリアは自分のバンドから独立した後もジョン・パティトゥッチデイブ・ウェックルの演奏をチェックし続けてきた。最初に「みーつけた」と思ったあの頃の感動が,近年甦ってきたのかもしれない。
 回り回って再び「みーつけた」とガッツポーズ。チック・コリアピアノ・トリオを組んできたベーシストドラマーは数多くいるが,これほどまでスムーズに連動するリズム隊は「ジョン・パティトゥッチデイブ・ウェックル組」しかない,と断言する。

 そう。「アコースティック・バンド」と来れば「余裕しゃくしゃくで息ぴったり」がトレードマークであったのだが,27年間“超絶技巧”を維持し発展させてきたという「テクニックへの更なる自信」が,最高のチームを組んで一層の高みでの連動を実現させた最大の理由であろう。
 とにかくチック・コリアの最良の部分だけを聴かせてくれる“ピアノ・トリオの雄”に違いない。

 管理人は思う。「アコースティック・バンド」解散後のチック・コリアピアノ・トリオって一体何だったのだろう? その答えとは「アコースティック・バンド」を超えるためのチャレンジではなかったのか?

 チック・コリアとしては「アコースティック・バンド」を超えた瞬間を何度も感じたはずである。『ライヴ・フロム・ザ・ブルーノート東京』でのジョン・パティトゥッチヴィニー・カリウタ組。『過去,現在,未来』でのアヴィシャイ・コーエンジェフ・バラード組。『ランデヴー・イン・ニューヨーク』でのミロスラフ・ヴィトウスロイ・ヘインズ組。『スーパー・トリオ』でのクリスチャン・マクブライドスティーヴ・ガッド組。『ドクター・ジョー〜ジョー・ヘンダーソンに捧ぐ』でのジョン・パティトゥッチアントニオ・サンチェス組。『マイルストーンズ〜マイルス・デイヴィスに捧ぐ』でのエディ・ゴメスジャック・デジョネット組。『モンクス・ムード〜セロニアス・モンクに捧ぐ』でのクリスチャン・マクブライドジェフ・バラード組。『ワルツ・フォー・デビイ〜ビル・エヴァンスに捧ぐ』でのエディ・ゴメスアイアート・モレイラ。『ブルックリン・パリ・トゥ・クリアウォーター』でのアドリアン・フェローリッチー・バーシェイ組。『フォーエヴァー』でのスタンリー・クラークレニー・ホワイト組。『ファーザー・エクスプロレイションズ〜ビル・エヴァンスに捧ぐ』でのエディ・ゴメスポール・モチアン組。『トリロジー』『トリロジー2』でのクリスチャン・マクブライドブライアン・ブレイド組。

LIVE-2 その全ての組み合わせが最高で文句のつけようがない高水準のピアノ・トリオだったのだが「アコースティック・バンド」での「ジョン・パティトゥッチデイブ・ウェックル組」のしなやかで機械的なアプローチこそが,チック・コリアの10本の指を20本に変えることのできる唯一のリズム隊だと断言する。

 チック・コリアはこれからも浮気を繰り返すことだろう。ただしチック・コリアの中での“正妻”は決まっている。チック・コリアが,どこをどう切っても間違いを犯すことのない絶対的に信頼を寄せる絶対服従の“正妻”は決まっている。
 そう。チック・コリアピアノ・トリオを組むに当たって,もう2度と手放したくない,離れることなど考えられない“正妻”ベーシストとはジョン・パティトゥッチであり“正妻”ドラマーとはデイブ・ウェックルである。

 ついでに書くと,ジョン・パティトゥッチデイブ・ウェックルが演奏すればこそ一際輝く【MORNING SPRITE】と【HUMPTY DUMPTY】。この2トラックも「アコースティック・バンド」の“正妻”である。
 『LIVE』での【MORNING SPRITE】と【HUMPTY DUMPTY】こそが「アコースティック・バンド」史上最高峰! このピアノ・トリオ,一体どこまで上り詰めるねん!

 
CD1
01. Morning Sprite
02. Japanese Waltz
03. That Old Feeling
04. In a Sentimental Mood
05. Rhumba Flamenco
06. Summer Night
07. Humpty Dumpty (Set 1)

CD2
01. On Green Dolphin Street
02. Eternal Child
03. You and the Night and the Music
04. Monk's Mood
05. Humpty Dumpty (Set 2)
06. You're Everything (featuring Gayle Moran Corea)

 
CHICK COREA AKOUSTIC BAND
CHICK COREA : Piano
JOHN PATITUCCI : Bass
DAVE WECKL : Drums

(ストレッチ・レコード/STRETCH RECORDS 2018年発売/UCCJ-3040/1)
(☆SHM−CD2仕様)
(CD2枚組)
(ライナーノーツ/チック・コリア,ジョン・パティトゥッチ,デイヴ・ウェックル,ロビン・D.G.ケリー)

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小沼 ようすけ / ジャム・カ・ドゥ4

JAM KA DEUX-1 “衝撃”の『JAM KA』から6年。続編となる『JAM KA DEUX』(以下『ジャム・カ・ドゥ』)は,従来の小沼ようすけギター・サウンドだけではなく,あの『JAM KA』からも遠く離れてしまっている。

 小沼ようすけは,一体どこまで走り続けるつもりなのか? 『ジャム・カ・ドゥ』は,もはやテクニカルなギターでもグルーヴィーギターでもなく,というか『ジャム・カ・ドゥ』はギター・メインのアルバムではない。
 主役はカリブのリズム「グオッカ」である。小沼ようすけが凄腕のギターを捨てて,リズムの妙で勝負している。

 そう。小沼ようすけが『ジャム・カ・ドゥ』で表現したのはギターではなく“前人未到の”ジャズなのだ。
 『3, 2 & 1』までは,ジャズ・ギターの可能性にとことんこだわってきた小沼ようすけだったが『BEAUTIFUL DAY』での「ナチュラル・オーガニック」ときて『ジャム・カ』での「グオッカ」推し!

 この変わり身は小沼ようすけがピックから指弾きへ転向した時と似ている。ギター・コンテストで優勝するくらいの最高のピック使いだったのに,それをリチャード・ボナと出会ったがばかりに,あっさりと捨てた。
 小沼ようすけは,もう2度とピックでギターを弾いてはくれない。小沼ようすけは,もう2度と『NU JAZZ』『SUMMER MADNESS』『JAZZ’N’POP』のような音楽はやってくれない。

 だ〜って『JAM KA』でも激変だったのに『JAM KA DEUX』はその上を行っている。小沼ようすけの場合,アルバムをリリースする度にキレイ目だったスタイルが段々と崩れた「グランジ系」ジャズ・ギター。『JAM KA DEUX』では原型を辛うじてとどめているだけで,出来上がりはぐっちゃぐちゃ〜。

 いいや,書きすぎた。申し訳ない。実はぐちゃぐちゃのようで『ジャム・カ・ドゥ』の中身は,しっかりと整っている。スタイルは変われど小沼ようすけ小沼ようすけである。
 『ジャム・カ・ドゥ』は,全部の音の中心に小沼ようすけが鎮座している。“行き過ぎた”『ジャム・カ・ドゥ』ではあるが,小沼ようすけの“突然変異”などではなく,キャリアの延長線上で“行き過ぎた”1枚だと思っている。

JAM KA DEUX-2 イメージとしては『JAM KA』と『JAM KA DEUX』に関しては「小沼ようすけ・特別編」である。
 今まで一度も聴いたことのないジャズ・ギターが聴こえてくる。何だかワクワクして,見たことも聞いたこともない“新しい世界”に連れていってもらったような感覚がする。

 【FLOWING】が実に泣ける。笑顔なのに涙が流れ落ちてくる。真に感動する。【TI’ PUNCH】では「小沼ようすけ流・フレンチ・グラント・グリーン」が登場する。
 「グランジ系」ジャズ・ギターとは身体が自然と反応する音楽である。薄汚れ役の小沼ようすけが超カッコイイ。

 果たして『JAM KA』路線は小沼ようすけにとって,定住なのかお出かけなのか…。次作が本当に楽しみである。

 
01. Moai's Tihai
02. Flowing
03. Terre
04. The Elements
05. Ka Interlude
06. Ti' Punch
07. Duo Ka
08. Dlo Pann
09. Fellows
10. Gradation Part 3 : Heartbeat
11. Pourquoi
12. Beyond The Sea
13. Songe Mwen

 
YOSUKE ONUMA : Electric Guitar, Acoustic Guitar, Fretless Guitar
REGGIE WASHINGTON : Electric Bass
ARNAUD DOLMEN : Ka, Drums, Vocal
OLIVIER JUSTE : Ka
GREGORY PRIVAT : Piano, Fender Rhodes
SONNY TROUPE : Ka
HERVE SAMB : Steel Strings Acoustic Guitar
JOE POWERS : Harmonica
SIMONE SCHWARZ-BART : Poetry Reading
JACQUES SCHWARZ-BART : Acoustic Guitar

(フライウェイ/FLYWAY 2016年発売/DDCZ-2126)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/松永誠一郎)

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チック・コリア / チック・コリア・ソロ Vol.25

PIANO IMPROVISATIONS VOL.2-1 ECMソロ・ピアノと来れば,キース・ジャレット一連のソロ・ピアノが有名であるが,キース・ジャレットに先立つこと半年,レーベル・オーナー兼プロデューサーのマンフレート・アイヒャーが最初に白羽の矢を当てたのは,キース・ジャレットではなくチック・コリアの方であった。

 マンフレート・アイヒャーが「いの一番」でオファーしたのはチック・コリアであって,チック・コリアの成功があってのキース・ジャレットの大成功へと繋がる構図。
 つまりソロ・ピアノにおけるマンフレート・アイヒャーの評価としては“天才”キース・ジャレットよりもチック・コリアの方が上だったということだ。

 この評価はキース・ジャレット・マニアの管理人をして正しいのかもしれない。『PIANO IMPROVISATION VOL.2』(以下『チック・コリア・ソロ VOL.2』)におけるチック・コリアの煌めきが最高に素晴らしい。

 今でこそソロ・ピアノと来れば,キース・ジャレットの独壇場となっているが,管理人の評価ではドローである。
 キース・ジャレットチック・コリアより評価されている理由は単純に作品数の多さ,圧倒的なボリュームにある。加えてチック・コリアは多作家であり,興味を抱いたものに次々と手を出してはその全てを見事にまとめてくる。その点で自分の音楽人生の主軸をソロ・ピアノに捧げてきたキース・ジャレットとはソロ・ピアノへの評価が異なって当然であろう。

 「長編小説」としてはキース・ジャレットの圧勝であるが「短編小説」としての破壊力ではチック・コリアに分があるように思う。
 と言うのもキース・ジャレットの「短編小説」,例えば『FACING YOU』と『STAIRCASE』の美しさは,牧歌的でゴスペルチックでありつつも,毒である“電化マイルス”の大ヒーロー=キース・ジャレットまでも堪能できる良さがある。
 対するチック・コリアソロ・ピアノは,真にクリスタルな美しさが身体全身に満ちている。超絶な演奏テクニックと相まって高度にロマンティックな音楽がフリージャズの文脈で置き換えられている。「その手があったか〜」な感じがするのだ。

 そう。『PIANO IMPROVISATION』の『VOL.1』『VOL.2』を聴けば聴くほど,この全てが完全即興演奏とはにわかに信じられない。
 どれもこれもがチック・コリアの「生命の息吹き」であり,新しいジャズ・ピアノの「創造」であった。

 ECMソロ・ピアノの何がそこまで素晴らしいのか? 一言で書けば「未完成」だから素晴らしい。
 『チック・コリア・ソロ VOL.1』『チック・コリア・ソロ VOL.2』の真実とは,チック・コリアの「デッサン集」である。
 事実『チック・コリア・ソロ VOL.1』『チック・コリア・ソロ VOL.2』に詰め込まれたアイディアの中から,後のチック・コリア名盤群が発展した跡が残されている。

PIANO IMPROVISATIONS VOL.2-2 完全即興なのだから「デッサン集」で十分だし,発展途上の曲だからこそ,骨格が丸分かりだし,何をモチーフとしているかが感覚として近い。様々なアイディアが詰め込まれた「音の玉手箱(←古い)」だからこそ,オークションにかければ完成品以上の値打ちが付く。そんなアルバムだと思う。

 それでこそチック・コリアである。チック・コリアの音楽は,いつでもスタイリッシュだし,目に見える部分で最高に美しい。絵画と表現するよりも写真と表現した方がしっくりくる。カメラとレンズを通して見るジャズ・ピアノの「ミニマルな新世界」なのだ。

 管理人の結論。『チック・コリア・ソロ VOL.2批評

 『チック・コリア・ソロ VOL.1』の1年後に発売された『チック・コリア・ソロ VOL.2』は『チック・コリア・ソロ VOL.1』の高評価を受けて制作された続編ではない。これ重要!

 個人的に『チック・コリア・ソロ VOL.2』のアルバム名を耳にすれば,条件反射的に【AFTER NOON SONG】が頭の中で鳴り始めてしまう。
 【AFTER NOON SONG】に関しては2つの解釈が可能である。1つは『チック・コリア・ソロ VOL.1』収録の【NOON SONG】の「次の」曲なのかもしれないし,単純に「午後の曲」という新曲パターン。管理人の予想では,本当は何の関連もないのに,ジョーク好きのチック・コリアの後付け【NOON SONG】→【AFTER NOON SONG】の出来上がりぃ!

 『チック・コリア・ソロ VOL.1』にも【ホエア・アー・ユー・ナウ? 〜8つの絵の組曲】があったが『チック・コリア・ソロ VOL.2』にも【ア・ニュー・プレイス】という組曲がある。
 この2つの組曲を聴いていると,後のキース・ジャレットの「短編小説」の原型のように思えてくる。チック・コリアキース・ジャレット。後に2人で連弾をしたこともある仲。互いに互いのピアノが大好き。ソロ・ピアノの2大巨匠は相互に影響を及ぼしあっていた。

 
01. After Noon Song
02. Song For Lee Lee
03. Song For Thad
04. Trinkle Tinkle
05. Masqualero
06. Preparation 1
07. Preparation 2
08. Departure from Planet Earth
09. A New Place
1). Arrival
2). Scenery
3). Imps Walk
4). Rest

 
CHICK COREA : Piano

(ECM/ECM 1972年発売/POCJ-2017)
(ライナーノーツ/野口久光)

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チック・コリア / チック・コリア・ソロ Vol.15

PIANO IMPROVISATIONS VOL.1-1 ECMソロ・ピアノと来れば,キース・ジャレット一連のソロ・ピアノが有名であるが,キース・ジャレットに先立つこと半年,レーベル・オーナー兼プロデューサーのマンフレート・アイヒャーが最初に白羽の矢を当てたのは,キース・ジャレットではなくチック・コリアの方であった。

 マンフレート・アイヒャーが「いの一番」でオファーしたのはチック・コリアであって,チック・コリアの成功があってのキース・ジャレットの大成功へと繋がる構図。
 つまりソロ・ピアノにおけるマンフレート・アイヒャーの評価としては“天才”キース・ジャレットよりもチック・コリアの方が上だったということだ。

 この評価はキース・ジャレット・マニアの管理人をして正しいのかもしれない。『PIANO IMPROVISATION VOL.1』(以下『チック・コリア・ソロ VOL.1』)におけるチック・コリアの煌めきが最高に素晴らしい。

 今でこそソロ・ピアノと来れば,キース・ジャレットの独壇場となっているが,管理人の評価ではドローである。
 キース・ジャレットチック・コリアより評価されている理由は単純に作品数の多さ,圧倒的なボリュームにある。加えてチック・コリアは多作家であり,興味を抱いたものに次々と手を出してはその全てを見事にまとめてくる。その点で自分の音楽人生の主軸をソロ・ピアノに捧げてきたキース・ジャレットとはソロ・ピアノへの評価が異なって当然であろう。

 「長編小説」としてはキース・ジャレットの圧勝であるが「短編小説」としての破壊力ではチック・コリアに分があるように思う。
 と言うのもキース・ジャレットの「短編小説」,例えば『FACING YOU』と『STAIRCASE』の美しさは,牧歌的でゴスペルチックでありつつも,毒である“電化マイルス”の大ヒーロー=キース・ジャレットまでも堪能できる良さがある。
 対するチック・コリアソロ・ピアノは,真にクリスタルな美しさが身体全身に満ちている。超絶な演奏テクニックと相まって高度にロマンティックな音楽がフリージャズの文脈で置き換えられている。「その手があったか〜」な感じがするのだ。

 そう。『PIANO IMPROVISATION』の『VOL.1』『VOL.2』を聴けば聴くほど,この全てが完全即興演奏とはにわかに信じられない。
 どれもこれもがチック・コリアの「生命の息吹き」であり,新しいジャズ・ピアノの「創造」であった。

 ECMソロ・ピアノの何がそこまで素晴らしいのか? 一言で書けば「未完成」だから素晴らしい。
 『チック・コリア・ソロ VOL.1』『チック・コリア・ソロ VOL.2』の真実とは,チック・コリアの「デッサン集」である。
 事実『チック・コリア・ソロ VOL.1』『チック・コリア・ソロ VOL.2』に詰め込まれたアイディアの中から,後のチック・コリア名盤群が発展した跡が残されている。

PIANO IMPROVISATIONS VOL.1-2 完全即興なのだから「デッサン集」で十分だし,発展途上の曲だからこそ,骨格が丸分かりだし,何をモチーフとしているかが感覚として近い。様々なアイディアが詰め込まれた「音の玉手箱(←古い)」だからこそ,オークションにかければ完成品以上の値打ちが付く。そんなアルバムだと思う。

 それでこそチック・コリアである。チック・コリアの音楽は,いつでもスタイリッシュだし,目に見える部分で最高に美しい。絵画と表現するよりも写真と表現した方がしっくりくる。カメラとレンズを通して見るジャズ・ピアノの「ミニマルな新世界」なのだ。

 管理人の結論。『チック・コリア・ソロ VOL.1批評

 『チック・コリア・ソロ VOL.1』は,前半5曲がメジャー・ヒット・チューン,後半8曲は印象派風の【ホエア・アー・ユー・ナウ? 〜8つの絵の組曲】で構成されている。
 個人的に『チック・コリア・ソロ VOL.1』のアルバム名を耳にすれば,条件反射的に【NOON SONG】が頭の中で鳴り始めてしまう。【NOON SONG】を聴いて感じる「クリティカルな人肌の清涼感と滑らかな肌触り」と「何回聴いても暗譜の途中で意識が飛んでいく美しさ」。ああ〜!

 チック・コリアを愛するファンならば【SOMETIME AGO】の初演は必聴である。“荒削りの”【SOMETIME AGO】にドキドキしてしまう。
 後のフュージョン史を彩る大名曲【SOMETIME AGO】が世に産れ出た瞬間を見届けよ!

 
01. Noon Song
02. Song For Sally
03. Ballad For Anna
04. Song Of The Wind
05. Sometime Ago
  Where Are You Now? −A Suite Of Eight Pictures−
06. Picture 1
07. Picture 2
08. Picture 3
09. Picture 4
10. Picture 5
11. Picture 6
12. Picture 7
13. Picture 8

 
CHICK COREA : Piano

(ECM/ECM 1971年発売/J25J 20325)
(ライナーノーツ/野口久光)

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デイヴ・リーブマン / ドゥーイン・イット・アゲイン5

DOIN' IT AGAIN-2 変な質問とお思いでしょうが,読者の皆さんは,どのデイヴ・リーブマンがお好きですか?
 マイルス・デイビスのバンドにいた頃の「元気印」のデイヴ・リーブマンですか? それとも今ではこちらが「定番」として定着した感のある「内省的で叙情的な」デイヴ・リーブマンですか?

 デイヴ・リーブマンというサックス奏者は,アルバムのコンセプトやレコーディング時期によって演奏スタイルが大きく異なる代表格。成長しているとか円熟しているという言葉は,ある音楽スタイルを追求してきた場合の評価だろう。「クラッシュ・アンド・ビルド」は,壊したスタイルに戻らないのが前提となるだろう。

 まっ,デイヴ・リーブマンという人は,幸か不幸か,マイルス・デイビスに人格までも破壊された人。
 管理人はマイルス・デイビスのバンドを去った後のデイヴ・リーブマンの音楽は,自分探しの「武者修行」だと思っている。

 『DOIN’ IT AGAIN』(以下『ドゥーイン・イット・アゲイン』)は「元気印」のデイヴ・リーブマンの“最高傑作”である。
 ここまでグイグイとストレートにサックスを吹きまくるデイヴ・リーブマンを知ってしまうと,現在の「耽美主義的な」演奏に不満を感じてしまうだろう。

 とにかく“何でも出来てしまう”デイヴ・リーブマンジャズメンとしてのレベル高さを感じてしまうのだ。共演者の発したメッセージへの瞬時の対応力がハンパない。
 『ドゥーイン・イット・アゲイン』を聴く限り,デイヴ・リーブマンはスタジオ・ミュージシャンと対等に対峙できる数少ない“アーティスト”の1人に違いない。もしあのまま「元気印」のデイヴ・リーブマンを続けていたならマイケル・ブレッカーのライバルとして認められる存在になっていたことと思う。まっ,ゲイリー・バーツにしてもソニー・フォーチュンにしても然り…。

 さて,ボスの要求に答え応じ続けるうちに,どんな注文にも即時に対応できる術を身に着けたデイヴ・リーブマンの真骨頂が『ドゥーイン・イット・アゲイン』で爆発している。
 『ドゥーイン・イット・アゲイン』は,デイヴ・リーブマンのレギュラー・バンドのメンバーである,ベースロン・マクルーアドラムアダム・ナスバウムの凄腕に,トランペット日野皓正ギタージョン・スコフィールドが参加した,スペシャル・スーパー・セッション

 5人が5人とも超キレッキレ! 5人が5人とも尖がっている! 本当の意味で“丁々発止”の音楽的やりとりに興奮しまくり&アドレナリンでまくり〜!
 『ドゥーイン・イット・アゲイン』のフロントである,デイヴ・リーブマン日野皓正組は,マイケル・ブレッカーランディ・ブレッカー組が考え抜いたフレーズでそれまでより一段上の音楽を表現しようとしているのに対して,もうちょっと自由でその場勝負なジャズ・ライン! ニューヨーク時代に“ジャズトランペッター”を張っていた日野皓正は,大袈裟ではなく真に「世界一」に王手をかけていたと思っている。

DOIN' IT AGAIN-2 そ・こ・へ“キーマン”ジョン・スコフィールドが“ロック・ギター・ブルース”の乱れ打ち!
 ジョン・スコフィールドギタージャズがベースにあってのロック的な演奏と,時々,フリーに走る塩梅がちょうどよい!

 後の「ファンキーへたうまアウト」ではなく(これももちろん素晴らしいのだが)ヒステリックかつスリリングで攻撃的な,それはそれはカッコいいソロとハイテンションなコードワークに痺れまくる。
 こんな“ロック・ギター・ブルース”は世界中を探してもジョン・スコフィールド以外に見つからない。それくらい斬新な解釈のドロッとしたフレージングが神レベルである。

 とにかく素晴らしい。読者の皆さんにも,こんなにも「元気印」なデイヴ・リーブマンを,こんなにも“ジャズトランペッター”な日野皓正を,こんなにも“ロック・ギター・ブルース”のジョン・スコフィールドを知ってほしいと思う。絶対いいから!

 
01. DOIN' IT AGAIN
02. LADY
03. STARDUST
04. CRIFF'S VIBES

 
DAVE LIEBMAN : Tenor Saxophone, Soprano Saxophone
TERUMASA HINO : Trumpet, Flugelhorn, Percussion
JOHN SCOFIELD : Guitar
RON McCLURE : Acoustic Bass, Electric Bass
ADAM NUSSBAUM : Drums

(タイムレス/TIMELESS 1979年発売/ABCJ-123)
(ライナーノーツ/小西啓一)

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林 栄一 / モナ・リザ4

MONA LISA-1 林栄一ジャズスタンダード集である『MONA LISA』(以下『モナ・リザ』)は,大多数のジャズ・ファンにとって極上のアルバムである。

 余計な装飾を排除したストレートなアレンジと相まって,林栄一が丁寧にのジャズスタンダードを吹き上げている。林栄一が“歌”を歌うことに集中している。
 内容の濃い,それでいてべたつきのない,さらりとしたアルトサックス特有の趣きは『モナ・リザ』でしか楽しむことができないものだろう。

 しかし,フリージャズの第一人者の視点から,あるいは林栄一のファンの視点から見ると『モナ・リザ』は失敗作ということになるだろう。
 なぜなら林栄一の本当の良さが全く感じられない。林栄一とは,のほほんとメロディーを噛みしめながら吹くサックス奏者ではない。美メロに溺れるタイプのサックス奏者ではない。

 全ての元凶はプロデューサーの山下洋輔にある。聞けば『モナ・リザ』は,林栄一ジャズスタンダードを聴きたいという,山下洋輔のたっての個人的希望が「鶴の一声」となって制作されたという。

 林栄一にとって山下洋輔は“恩人”である。断ることなどできないし,もしや自分中の知らない引き出しを開けられるのではという淡い期待のようなものもあったかもしれない。
 全体のサウンド・メイクも林栄一アルトサックスは斜に構えた位置に置かれている。ハッキリ書けば加藤崇之ギターの方が目立っている。

MONA LISA-2 それでも『モナ・リザ』は,大多数のジャズ・ファンにとって極上のアルバムであろうし,林栄一にとっても代表作の1枚となったのだから,こうした世間の高評価を疑問視するレヴューなどゴミであろう。

 でもそれでも今回は書かないわけにはいけないのだ。林栄一のフォロワーを公言する管理人としては『モナ・リザ』を認めるわけにはいかない。『モナ・リザ』が林栄一の代表作と語られることに嫌悪感を覚えてしまうし,いつだって反論したくなる衝動を必死で抑えてきた。

 とにかく『モナ・リザ』が「愚の骨頂」。それは林栄一アルトサックスに音の表情がないことである。『モナ・リザ』での林栄一は「のっぺらぼう」。
 レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』が無表情であるのと同じように…。

 
01. MONA LISA
02. WALKING SHOES
03. SOME OTHER SPRING
04. IF YOU COULD SEE ME NOW
05. ALL OF ME
06. YOU DON'T KNOW WHAT LOVE IS
07. I REMEMBER YOU
08. MY BLUE HEAVEN
09. SOUTH OF THE BORDER
10. I'M A FOOL TO WANT YOU
11. IN A SENTIMENTAL MOOD
12. LINE FOR LYONS
13. TEA FOR TWO
14. SMOKE GETS IN YOUR EYES
15. WHAT IS THIS THING CALLED LOVE?

 
EIICHI HAYASHI : Alto Saxophone
TAKAYUKI KATOH : Guitar
NORIKATSU KOREYASU : Bass
AKIRA SOTOYAMA : Drums
YOSUKE YAMASHITA : Piano

(オーマガトキ/OMAGATOKI 1997年発売/OMCZ-1014)
(ライナーノーツ/山下洋輔,村上寛)

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ブラッド・メルドー・トリオ / ブルース・アンド・バラッド5

BLUES AND BALLADS-1 ブラッド・メルドーを聴かなくなったのは,一体いつ頃のことだろう。
 あっ,正確には聴かなくなったのではなく,パタリとニュー・アルバムを買わなくなってしまった。

 理由は単純である。ブラッド・メルドージャズを演奏しなくなってしまった。
 2010年代に入ってからのブラッド・メルドーは,やれヴォーカル・アルバム,やれクラシック・アルバム,やれコラボレーション企画の大連発!
 かろうじてソロ・アルバムのリリースは続いていたが,ベースラリー・グレナディアドラムジェフ・バラードと組んだブラッド・メルドートリオ名義での活動は実質的にSTOPしてしまった。

 『BLUES AND BALLADS』(以下『ブルース・アンド・バラッド』)は,ブラッド・メルドートリオ名義として実に3年半ぶりとなる新作である。
 管理人はブラッド・メルドートリオの音に“飢えていた”のだと思う。ブラッド・メルドーのサイケなピアノが体内の渇きを癒してくれる。『ブルース・アンド・バラッド』のピアノが,ベースが,ドラムが瑞々しい。

 『ブルース・アンド・バラッド』の特長とは,ブルースバラードを題材とした有名曲のカバー・アルバム。だから管理人の性格を知っている方は分かるはずだが『ブルース・アンド・バラッド』も連発しているコンセプト・アルバムの流れっぽくて,初めはスルーしようかと思ったのだが,普通に有名曲を弾くブラッド・メルドーに『ANYTHING GOES』や『DAY IS DONE』路線の再現を連想した…。

 この狙いが大当たり! ブラッド・メルドーが“流し”のジャズ・ピアニストとしてビンビンである。特にハマルのがジェフ・バラードドラミングである。超絶のドラミングが,メロディーのツボを押さえリズムのツボを抑えている。素晴らしい。

 “主役”であるブラッド・メルドーの“天才”の業が浮いていない。美メロと融合するためのアイディアが『ANYTHING GOES』『DAY IS DONE』以上に良くできているのが,積み重ねてきた経験の成せる業である。
 つまり,管理人としては『ANYTHING GOES』『DAY IS DONE』以上の“傑作”として認定できる。普通に聴いているだけでジャズ・ピアノの良さを味わうことができる名盤だと思う。

 そう。ブラッド・メルドートリオの上級向けで,複雑なことを簡単にやってのけてしまうテクニカルな演奏を楽しむと言うよりも,淡い表現力で勝負する感じの慈しみ深い演奏に身も心がまどろんでしまう。
 あのラリー・グレナディアとあのジェフ・バラードさえも,静かにリズム・キープすることに集中しながら,曲の盛り上がりと共に自分をちょっと出す感じ。

BLUES AND BALLADS-2 管理人の結論。『ブルース・アンド・バラッド批評

 『ブルース・アンド・バラッド』は,斬新さを“売り”にしてきたブラッド・メルドートリオの特徴的な不思議な音がほとんど鳴らない,大人の「王道」ジャズ・アルバム。
 名曲の良さを再確認しながら,名曲の甘さに酔いしれた,シンプルで優しい展開の演奏が気持ち良い。実に「さっぱり」とした清々しい演奏集である。

 ブラッド・メルドートリオが『ブルース・アンド・バラッド』で「円熟期」に入ってきた。

 
01. Since I Fell for You
02. I Concentrate on You
03. Little Person
04. Cheryl
05. These Foolish Things (Remind Me of You)
06. And I Love Her
07. My Valentine

 
BRAD MEHLDAU : Piano
LARRY GRENADIER : Bass
JEFF BALLARD : Drums

(ノンサッチ/NONESUCH 2016年発売/WPCR-17274)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/柳樂光隆)

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多田 誠司・スガダイロー Duo / WE SEE!!5

WE SEE!!-1 うわぁ。多田誠司がいいよなぁ。スガダイローがいいよなぁ。素晴らしいデュオ・アルバムだよなぁ。

 『WE SEE!!』というアルバムは,多田誠司についての薀蓄やスガダイローについての含蓄など抜きにして,音を追いかけているだけで楽しくなる。うれしくなる。手放しで喜びたくなる。そんなアルバムである。

 スガダイローの強靭なリズムとコード・ワークに乗せて,骨太でフォーカスした多田誠司アルトサックスが響きまくる。
 多田誠司アルトサックスは,ともすると男らしい豪快なブロウに気を取られがちだが,時折見せるスイート・サウンドは古き良き時代の素朴さと優しさをそなえた実に美しい響き。

 多田誠司アルトサックスは,メインストリームだろうがフリーだろうが何をやっても「THE 多田誠司」。
 だ・か・ら・こんなにも優しい多田誠司アルトが聴けるとは,ただそれだけで「うっとり」してしまう。ピアノとのデュエットだからこそ実現できたアルトサックスの繊細な響きが真に極上である。

 もっともスガダイローピアノは甘くない。超ガンガンにプッシュしてくる。しかもピンポイントで多田誠司の大好きなツボを突きまくっている。
 こんなにも全身快感で満たされた多田誠司が,かつていただろうか? 多田誠司が“蛇口”をスガダイローにひねられている。

WE SEE!!-2 多田誠司がついに巡り会った,スガダイローという最高の音楽パートナー。絶好調の多田誠司が満足気に吹くジャズスタンダードが最高である。

 「丁々発止」という言葉などでは足りない,真に豊かな音楽性で繋がったデュエット。緩急の波とアドリブの応酬がスリリングなのに,ピタッと気持ちいいくらいにハマっている。

 ピアノサックスの組み合わせ。その相性の良さで評価するなら『WE SEE!!』はハービー・ハンコックウェイン・ショーターによるデュエット1+1』を超えたと思う。名盤である。

 
01. Nostalgia In Times Square
02. Jayne
03. You Taught My Heart To Sing
04. Alone Together
05. Sweet And Lovely
06. We See
07. ゆきゆきて円環
08. Lala! Lala!
09. All The Things You Are
10. Wig Wise

 
SEIJI TADA : Alto Saxophone
DAIRO SUGA : Piano

(スタジオトライブレコーズ/STUDIO TLIVE RECORDS 2014発売/STLR-010)
(紙ジャケット仕様)

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ボブ・ジェームス/アール・クルー / クール5

COOL-1 ボブ・ジェームス最大の「問題作」と書くと語弊があるよなぁ。言葉を選ぶと「衝撃作」と表現した方がピッタリくる。そんな「衝撃作」が『COOL』(以下『クール』)である。

 何が「衝撃」だったのか? ここは黙って『FOURPLAY』に続けて『クール』を聴いてみてください。これが今や「伝説」である『FOURPLAY』の次にボブ・ジェームスが作り上げた音楽なのか〜,とブッタマゲルはずである。

 『クール』のドラマーハービー・メイソンのままだから尚更「衝撃」を感じてしまう。ギターリー・リトナーからアール・クルーに変わっただけで,こんなにもボブ・ジェームスの音楽が変わるなんて〜。
 それも快心作の『FOURPLAY』をバッサリと捨て,アール・クルーとの「懐古趣味」に走るなんて〜。

 どう考えても『クール』のリリースの意味が理解できなかった。ボブ・ジェームスも好き。アール・クルーも好き。『クール』が悪いはずもない。
 しかし時代はバブルである。『FOURPLAY』はバブリーな音がする。一方の『クール』はチープな音が売りである。アール・クルーの「爪弾き+ナイロン・ストリングス」が素朴すぎて,バブルの時は正直,居心地が良くなかった。
 テンションが上げるどころか,聞けば聞くほどに“COOL DOWN”。だからタイトルが『クール』なのだろう。「時代の熱を冷ます」音楽が必要とされていたのだろう。

 そう。管理人は『クール』を購入した当時はほとんど聴かなかった。『クール』を聴くようになったのは30歳を過ぎてから,つまり若者ではなくなったという自覚を抱いた頃からである。30歳を過ぎてからジワジワと身体の深い部分に浸透してきた音楽の1枚である。

 実は『クール』は「COOL」ではない。妙にテンションの高い演奏が続いている。なのに聴いているリスナーは徐々に意識が遠のいていく…。
 そう。実はボブ・ジェームスが『クール』で演っていることは,基本的に『FOURPLAY』と同じ。『FOURPLAY』の続編としての『クール』に違和感はないのだった。

 ここまで来ると後は一気! リー・リトナーの個性とアール・クルーの個性の違いを,そしてその2人に合わせるボブ・ジェームスのメロディー・ラインと音楽構造の違いを楽しむだけ!

COOL-2 ボブ・ジェームス自身がリー・リトナーの個性とアール・クルーの個性の違いを楽しんでいる。両方どちらも優劣なしに楽しんでいる。間違いない。
 しか〜し『クール』でのアール・クルーの“味”を一番楽しんでいるのはハービー・メイソン! ハービー・メイソンがこんなにも前に出てドラムを叩いているのは『クール』以外に有りません。

 ははーん。ボブ・ジェームスさん。実は「懐古趣味」な『クール』での真の狙いは,リー・リトナーアール・クルーの個性の違いを表現することではなく,リー・リトナーアール・クルーと共演した時の「ハービー・メイソンの違い」を録音するのが目的だったりして…。

 ハービー・メイソンドラミングがとにかくカッコイイ! ハービー・メイソンの“味”を知ってしまったが最期,もう『クール』で寝落ちなど絶対にできなくなりますよっ。

 
01. Movin' On
02. As It hppens
03. So Much In Common
04. Fugitive Lite
05. The Night That Love Came Back
06. Secret Wishes
07. New York Samba
08. Handara
09. The Sponge
10. Terpsichore
11. San Diego Stomp
12. Miniature

 
EARL KLUGH : Guitars
BOB JAMES : Keyboards
HARVEY MASON : Drums
GARY KING : Bass
RON CARTER : Bass
LEONARD "DOC" GIBBS : Percussion
PAUL PESCO : Rhythm Guitar

(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1992年発売/WPCP-4853)
(ライナーノーツ/上田力)

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チック・コリア / サンダンス4

SUNDANCE-1 通称「ロスト・クインテット」への参加で,あのハービー・ハンコックを“出し抜いた”チック・コリアが,アコースティックピアノで綴った「電化チック“マイルス”コリア」が『SUNDANCE』(以下『サンダンス』)である。

 『サンダンス』には“電化マイルス”からの影響がクッキリ。特に「ロスト・クインテット」から,そのまんまデイヴ・ホランドベースジャック・デジョネットドラムを譲り受けた,ヒタヒタと迫りくるアコースティック・セットの4ビートが爆発している。

 そんなイケイケのリズム隊をメロディアスにリードするのが,チック・コリアアコースティックピアノウディ・ショウトランペットヒューバート・ロウズフルートという大物3人の揃い踏み!

 この3人の個性が絶妙に混ざり合い『サンダンス』独自の色が楽しめる。楽曲のクセはチック・コリアの「そのものズバリ」であるのだが「電化チック“マイルス”コリア」の“売り”は,やはり「集団即興演奏」である。
 100%チック・コリアのテイストの中に,ウディ・ショウの切れ味とヒューバート・ロウズの妖しさが同居している。「電化チック“マイルス”コリア」のエレクトリックな表現をアコースティックピアノで「やり切った」実験なのであった。

 【THE BRAIN】の異常なほどのテンションの高さは「ビ・バップ」の再来を狙っているようにも聴こえるし【SONG OF WIND】では「新主流派」の再来を狙ったようにも聴こえるし【SUNDANCE】はキャッチーなテーマをモードで押し切った,後の「RETRUN TO FOREVER」の原型とも捉えることのできる名演である。

 さて,ここで『サンダンス』の問題児である【CONVERGE】の扱いである。
 マイルス・デイビスジャズの全てを作り出してきたことは間違いない。マイルス・デイビスが演ったからこそ,クールがあるわけだしモードがあるわけだしフュージョンが存在するのだ。
 そんなマイルス・デイビスが唯一手を出さなかったジャズ・スタイルがフリーであった。

 ズバリ【CONVERGE】は「電化チック“マイルス”コリア」によるフリージャズである。
 何と!【CONVERGE】で,マイルス・デイビスが唯一手を出さなかったフリージャズが“疑似体験”できる。

 要するにチック・コリアが“電化マイルス”をアコースティックで表現した理由は「集団即興演奏」が当時の流行だったいう1点のみ。
 チック・コリアマイルス・デイビスのアイディアである「ロスト・クインテット」の可能性を探っていたわけではない。それはチック・コリアにとっての“褒め殺し”と同じである。

SUNDANCE-2 チック・コリアは,人一倍流行に敏感なジャズメンである。それでシーンを席巻していたフリージャズチック・コリアも手を染めた。

 「ロスト・クインテット」のリズム隊がフリージャズを奏でるためには,トランペットマイルス・デイビスではダメだ。前衛も行けるウディ・ショウだったからこそ「ロスト・クインテット」もフリージャズにチャレンジできた。ここが【CONVERGE】を視聴する際のポイントである。

 「サークル」のフロントにウディ・ショウが加わっていたなら「サークル」の未来もフリージャズの未来もまた違ったものになったことだろう…。

 
01. The Brain
02. Song Of Wind
03. Converge
04. Sundance

 
CHICK COREA : Piano
HUBERT LAWS : Flute Piccolo
JACK DE JOHNETTE : Drums
DAVE HOLLAND : Bass
WOODY SHAW : Trumpet
HORACE ARNOLD : Drums

(グルーヴ・マーチャント/GROOVE MERCHANT 1972年発売/CDSOL-45947)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)

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ボビー・マクファーリン&チック・コリア・スーパー・コンサート / スペイン5

PLAY-1 デュエット・アルバムが数十枚も存在するチック・コリア。そんなチック・コリアデュエット・アルバムの中で,チック・コリアの名前が後から出ているのは,後にも先にもボビー・マクファーリンとのデュエット・アルバム『PLAY』(以下『スペイン』)以外には存在しない。

( ハービー・ハンコックチック・コリア名義の『IN CONCERT』はチック・コリアハービー・ハンコック名義『AN EVENING WITH CHICK COREA AND HERBIE HANCOCK』の裏。その他はサイドメンとして参加した『THE BENNIE WALLACE TRIO & CHICK COREA』の例があるくらい )

 この事実こそがチック・コリアボビー・マクファーリンに対する「最上級の尊敬の気持ち」の表われである。
 そう。ボビー・マクファーリンだけはチック・コリアにとって「別格中の別格」。ボビー・マクファーリンはミュージシャンというよりも“大道芸人”のそれである。

 『スペイン』でのボビー・マクファーリンが“七色の声”を使って“百色の声”を出している。もはやこの音は声でもない。楽器の音のそれである。
 とはいえ,これこそがチック・コリアの凄さである。ボビー・マクファーリンが自由自在に表現出来るように,ボビー・マクファーリンの声の調子に即座に反応する“天才”チック・コリアの凄業!
 
 チック・コリアボビー・マクファーリンに反応すれば,そのチック・コリアボビー・マクファーリンが更に反応する。そんな“丁々発止”のやり取りがレイコンマ何秒の世界で展開する“瞬間芸術”。一瞬の閃きのセンスの何という素晴らしさ。

 音楽的な会話だけはない。そこにはユニークな笑いの要素もある。実に“チャーミング”な会話であって,2人だけの会話のはずが,会場の中から1人が加わり,またそこに2人3人と加わり,何だか自分もその会話に加わっているような不思議な気分になる。

PLAY-2 表向きは,そんなリラックスした「大道芸大会」を進行させながらも,ボビー・マクファーリンチック・コリアは大真面目である。
 今後共演できるチャンスはそう滅多にない。2人でタッグを組みながらジャズヴォーカルジャズピアノの可能性を探っている。

 ボビー・マクファーリンヴォーカルは,よくあるスキャットの類を越えている。真に超絶なヴォイスの連続であって,チック・コリアが旋律を弾けば,ボビー・マクファーリンヴォイスベース・ラインを担当する。

 そんなボビー・マクファーリンだからこそ,チック・コリアが自ら退いて,後方の名義を名乗っている。
 そう。『スペイン』のテーマとは「チック・コリア・プレゼンツ・ボビー・マクファーリン」なのである。

 インスト好きのジャズ・マニアの読者の皆さん。インストしか聴かないと決心するのは何とも勿体ないですぞ。

 
01. SPAIN
02. EVEN FROM ME
03. AUTUMN LEAVES
04. BLUES CONNOTATION
05. 'ROUND MIDNIGHT
06. BLUE BOSSA

 
BOBBY McFERRIN : Vocal
CHICK COREA : Piano

(ブルーノート/BLUE NOTE 1992年発売/TOCJ-5690)
(ライナーノーツ/市川正二,ボビー・マクファーリン,チック・コリア)

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山中 千尋 / ランニング・ワイルド〜トリビュート・トゥ・ベニー・グッドマン4

RUNNIN' WILD-1 『RUNNIN’ WILD』(以下『ランニング・ワイルド〜トリビュート・トゥ・ベニー・グッドマン』)とは,山中千尋による“キング・オブ・スイングベニー・グッドマントリビュート集。

 山中千尋が『ランニング・ワイルド〜トリビュート・トゥ・ベニー・グッドマン』で「ククッタ」のはベニー・グッドマンのスモール・コンボ。
 ジャネル・ライヒマンクラリネットベニー・グッドマンに見立てて“本邦初公開”となる木管楽器との大共演。

 そう。『ランニング・ワイルド〜トリビュート・トゥ・ベニー・グッドマン』の聴き所は“変態”アレンジャー=山中千尋が,あのベニー・グッドマンを「どう料理するか,しないか」ではない。山中千尋と「管楽器との相性がどうか」の1点のみ!

 管理人の評価はイマイチである。せっかくクラリネットヴィブラフォンを従えたのに,基本的にはピアノ・トリオの延長のまんま。
 流石にベニー・グッドマンは題材としては手強かった。なんてったってスイングジャズなのです。楽曲もアレンジも完成してしまっているし,編曲やビートのアイディアも大抵出尽くしている。

 山中千尋が,ベニー・グッドマンを演奏するには,地に足のついたピアノ・トリオが一番だったのだろう。クラリネットヴィブラフォンはセオリー通りに演奏させといて,ガンガン勝負するのはピアノ・トリオという図式が見える。

 うん。別所哲也が「ハムの人」であるように,山中千尋は「ピアノ・トリオの人」だった。
 山中千尋名義にて,幾枚ものコンパイル盤をリリースしているから,勝手に山中千尋=“雑食系”と勘違いしていただけのことである。

 とにかく個人的に『ランニング・ワイルド〜トリビュート・トゥ・ベニー・グッドマン』に対する期待値が高かったので,見事に裏切られてしまった? 『ランニング・ワイルド〜トリビュート・トゥ・ベニー・グッドマン』が個人的に好みでないのは,単純にベニー・グッドマンが,そしてスイングジャズが好きではないことが影響しているのかも?
 ジャズを聴き始めた頃はベニー・グッドマンをよく聴いていたというのに,ある時期から全く聴かなくなったんだもんなぁ。

RUNNIN' WILD-2 もしや『ランニング・ワイルド〜トリビュート・トゥ・ベニー・グッドマン』は今後の「しこり」として残る。山中千尋本人はダメージ受けていないのかなぁ。
 今後は山中千尋の非ピアノ・トリオ作,例えばトランペットサックスとの共演盤も期待薄? もしや待望のソロ・ピアノ集も期待薄?

 『ランニング・ワイルド〜トリビュート・トゥ・ベニー・グッドマン』を聴いて決心しました。管理人はジャズメンとしてではなく“ジャズ・ピアニスト山中千尋を全力で応援していきます。

 『ランニング・ワイルド〜トリビュート・トゥ・ベニー・グッドマン』のジャケット写真は超超クールビューティー!

 
01. If I Had You
02. Airmail Special
03. B.G.(Bad Girl)
04. G.B.(Good Boy)
05. Slipped Disc
06. Medley: Stompin' At The Savoy/Last Call
07. Get Happy
08. Smoke Gets In Your Eyes
09. Tico Tico No Fuba
10. Rose Room
11. Rachel's Dream
12. These Foolish Things
13. Rnnin' Wild
14. If I Had You

 
CHIHIRO YAMANAKA : Piano
JANELLE REICHMAN : Clarinet
TIM COLLINS : Vibraphone
AVI ROTHBARD : Guitar
YOSHI WAKI : Bass
LUCA SANTANIELLO : Drums

(ヴァーヴ/VERVE 2009年発売/UCCJ-2077)

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ドン・グルーシン / ゼファー4

ZEPHYR-1 普通なら「お兄ちゃんが習っているから僕も〜」と弟がお兄ちゃんの真似をしそうに思えるが,殊更,ジャズメンにおいては,肉の兄弟で同じ楽器を演奏するパターンは少ない。
 ランディー・ブレッカートランペットマイケル・ブレッカーテナーサックスブランフォード・マルサリステナーサックスウイントン・マルサリストランペットキャノンボール・アダレイアルトサックスナット・アダレイトランペット日野皓正トランペット日野元彦ドラム…。

 そう。兄弟ジャズメンはみんな揃って仲がいい。それって同じ楽器を演奏していないことが理由として寄与している? だって肉の兄弟がライバルになってしまうわけだし,一家に一台の楽器を兄弟ゲンカで「我先に!」と奪い合うこともなくなるから?

 そんな中,デイヴ・グルーシンドン・グルーシングルーシン兄弟は仲がいい。同じ楽器で同じジャンル。兄弟揃って同じ音楽性を追い求めている。趣味が一致した兄弟は最強なのである。

 デイヴ・グルーシンドン・グルーシンの違いを書けば,デイヴ・グルーシンが一般に受けているのに対しドン・グルーシンは玄人に受けている。ドン・グルーシンはスーパーなスタジオ・ミュージシャンが主戦場である。

 そんな「裏方稼業」の仕事が多いドン・グルーシンが,自ら前に出たソロ・アルバムが『ZEPHYR』(以下『ゼファー』)である。
 『ゼファー』の主役はドン・グルーシンピアノであるが,何となく主役のピアノが控え目に響いている。ハイライトとなるアドリブは共演者に任せきりでピアノはとにかくメロディー・ラインを弾き上げている。その部分が実にドン・グルーシンらしい!

 それどころか『ゼファー』では共演していないはずのデイヴ・グルーシンの演奏のようにも聴こえてしまう。自然とではなく“敢えて”ドン・グルーシンデイヴ・グルーシンに“寄せて”いるように聴こえてしまう。

 ここが最強の兄を持つ弟のサガなのか? ドン・グルーシンはいつの時代でもシーンの1.5列目に位置している。デイヴ・グルーシンリー・リトナー渡辺貞夫と,いい位置で目立っている人なのです。

ZEPHYR-2 管理人の結論。『ゼファー批評

 『ゼファー』とはドン・グルーシンがスーパー・サポートの傍らでコツコツと書き上げてきた作品の佳作集。
 演奏同様,上品で地味な『ゼファー』の中にあって【アニョランザ】だけは名曲中の名曲です。そしていつか詳しく書きますが【アニョランザ】は,後のデイヴ・グルーシンのスムーズ・ジャズ路線につながる名曲。弟が偉大な兄をリードすることもあるのです。

 最後にぶっちゃけ。管理人の中で『ゼファー』と来ればドン・グルーシンではなくラッセル・モカシン社のブーツのことです。

 
01. ZEPHYR
02. TONIGHT, PURE LOVE
03. STILL GOOD LOOKIN'
04. ANORANZA
05. HARDWOOD
06. STORYTELLER
07. CHICO
08. TRIBE
09. THE LAST TRAIN
10. HATTIE-MAE (DANCE ALL DAY)

 
DON GRUSIN : Synthesizers, Acoustic Piano, Electric Piano, Background Vocal, Vocal Chant
ABRAHAM LABORIEL : Bass
MARCUS MILLER : Bass
TOM BRECHTLEIN : Drums
ALEX ACUNIA : Drums, Percussion, Cymbals, Hi-Hat, Congas
CARLOS RIOS : Guitar
DORI CAYMMI : Voice, Acoustic Guitar
ERNIE WATTS : Alto Saxophone, Tenor Saxophone
ERIC MARIENTHAL : Soprano Saxophone
GARY HERBING : Tenor Saxophone
GARY GRANT : Trumpet
JERRY HEY : Trumpet
JERRY GOODMAN : Violin, Electric Violin
CARL ANDERSON : Lead Vocal, Background Vocal, Vocal Chant
LOU PARDINI : Lead Vocal, Background Vocal, Vocal Chant
KATE MARKOWITZ : Background Vocal, Vocal Chant
MARILYN SCOTT : Background Vocal, Vocal Chant

(ビクター/JVC 1991年発売/VICJ-73)
(ライナーノーツ/ドン・グルーシン)

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山中 千尋 / ローザ4

ROSA-1 山中千尋に(ビジュアル面を含めて)入れ込んでいる管理人。山中千尋のアルバムは全部持っている。だから『ROSA』(以下『ローザ』)も買うのは当然の儀式。でも本音を書くと今回ばかりは「ためらい」があった。

 『ローザ』の“売り”は「ピアノベースギター」のドラムレス・トリオの「アフター・アワーズ」の第3弾という触れ込みなのに,実際にはドラム入りのカルテット編成である。

 加えて『ローザ』の並びが?である。「ベートーヴェン生誕250周年,チャーリー・パーカー生誕100周年,さらに山中千尋デビュー15周年のトリプル記念盤」と来ている。
 1枚のアルバムの中に“極右と極左の代表のような”ベートーヴェンチャーリー・パーカーを同列でアレンジしてよいものなのか? その2人と同格扱いで自分を紹介してよいものか?」 ← いいんです。山中千尋ならそれが許されてしまうんです。

 ただし,すでに企画が破綻しております。もはや企画段階から年1ペースのお約束でしょ? お願いだから何でもいいからリリースして!の匂いがプンプン。ねっ,あなたも買うのを「ためらった」でしょ?

 そんな『ローザ』だったから,山中千尋お得意の“エグすぎる”アレンジは【交響曲 第5番】=【運命】での「カッコウの輪唱風」だけだったかなぁ。
 でも「カッコウの輪唱風」の【運命】が凄い! こんな【運命】は山中千尋の頭の中でないと絶対に成立しない! 超エグイ!

ROSA-2 「ザ・山中千尋」の代名詞である「異端のアレンジ」が爆発していない分,オリジナルに力が入っている。特に“跳ねに跳ね回っている”【ローザ】が超お気に入り!

 『ローザ』の発売日以降,管理人の2020年7月は【ローザ】と共にあります。新型コロナ=【ローザ】が記憶に刻まれそうで恐いです。パンデミックで暗いニュースのイメージだったのに【ローザ】の底抜けの明るさに励まされる毎日です。家の外では戦争が起こっているのに家の中だけは能天気な平和ボケなのが恐いです。こんな思い出を口にしようものなら全員から袋叩きで恐いのです。

 だから管理人は【ローザ】を5回聴きたいことろを4回に我慢して,その1回で【サムディ・サムウェア】を聴くようにしています。このローテーションがウルウル来ます。1人でド感傷に浸ってしまいます。
 山中千尋のメロディー・ラインと管理人の心がシンクロし始めています。こんな体験は初めてです。これがかの有名な「パーカー・ショック」なのか? いいや,これこそ「ちーたん・ショック」なのでしょう!?

 いえいえ,理由は分かっております。【ローザ】のサビの部分でピアノギターがユニゾンしているせいなのです。アヴィ・ロスバードギターがとっても気持ちよい。【ローザ】の名脇役改め影の主役はアヴィ・ロスバード“この人”なのでした。

ROSA-3 「アフター・アワーズ」の第3弾である『ローザ』を聴き終えて,アヴィ・ロスバードギターを主役と認めることができて,初めて「アフター・アワーズ」シリーズの真の面白さに接することができた気がしている。
 こうなったら勢いで『アフター・アワーズ〜オスカー・ピーターソンへのオマージュ』と『アフター・アワーズ2』を聴き直すモードかと思いきやそれはまだまだ。

 本日,管理人は「アフター・アワーズ」シリーズの第1弾と第2弾ではなくDVDリーニング・フォワード』を見ております。
 なぜって? それこそ【サムディ・サムウェア】! 恐らく【サムディ・サムウェア】がCDで音源化されたのは今回が初めてのことなのでは? そう言えば【サムディ・サムウェア】目当てで『リーニング・フォワード』を何回も見ていたよなぁ。
 『リーニング・フォワード』を見ていると,こちらもCD未収録の【MELO】と【SEJO】の存在が気になってきた〜。

PS 「ROSA-3」は販促用のクリアファイルです。

 
CD
01. My Favorite Things
02. Falling Grace
03. Sonata No.8 Third movement
04. Donna Lee
05. Old Folks
06. Rosa
07. Take Love Easy
08. Symphony No. 5
09. Yardbird Suite
10. Someday Somewhere

DVD
01. My Favorite Things
02. So Long
03. Take Love Easy

 
CHIHIRO YAMANAKA : Piano, Fender Rhodes
AVI ROTHBARD : Guitar
YOSHI WAKI : Bass
JOHN DAVIS : Drums

(ブルーノート/BLUE NOTE 2020年発売/UCCJ-9223)
★【初回限定盤】 UHQCD+DVD

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デイヴ・グルーシン / マイグレーション5

MIGRATION-1 フォープレイの前身がボブ・ジェームスソロ・アルバム『GRAND PIANO CANYON』にあったことは以前に書いたが,実は『GRAND PIANO CANYON』にも前身があった。つまりはフォープレイの元ネタの元ネタに当たる。

 それが何と!ボブ・ジェームスのライバルであるデイヴ・グルーシングラミー受賞作MIGRATION』(以下『マイグレーション』)である。
 そう。『マイグレーション』には,ライバルさえも魅了させる音,あのボブ・ジェームスさえも振り向かせる音がある。本当にいいアルバムだ。『マイグレーション』の音に,何年経っても憧れる自分が,いいや“恋焦がれる”自分がいる。

 『マイグレーション』の基本的な編成は,デイヴ・グルーシンキーボード(そこにドン・グルーシンプログラミングで多重録音を加えている),エイブラハム・ラボリエルマーカス・ミラーベースハーヴィー・メイソンオマー・ハキムドラムマイク・フィッシャーパーカッション。そこにサックスギターが数曲ゲストで参加している。ピアノ・トリオ+1。

 こんなにも小さな編成なのに,実に「艶やかな」演奏である。これ以上の音の厚みは『マイグレーション』には必要ない。
 『マイグレーション』で実証されたデイヴ・グルーシンのアイディアが『GRAND PIANO CANYON』でも実証されて,あのフォープレイの出発点に繋がったのだった。

 いいものはいい。ボブ・ジェームスだろうとデイヴ・グルーシンだろうと関係ない。
 かつて2人は「東のボブ・ジェームス。西のデイヴ・グルーシン」と呼ばれていた。しかしフォープレイは「東のボブ・ジェームス」に西海岸のリズム隊。
 そうなったのは『マイグレーション』で「西のデイヴ・グルーシン」が東海岸のマーカス・ミラーオマー・ハキムと組んでみせたから。

MIGRATION-2 やっぱり『マイグレーション』と来れば【FIRST−TIME LOVE】である。
 元々“素の”【FIRST−TIME LOVE】が大好きだったのだが,超最高に好きになったのには理由があった。

 それがTOKYO FM系「SELECT LIVE UNDER THE SKY」の生中継終わりで,ナジャが語るバックで流れるエンディング曲。あのシチュエーションが本当に素晴らしかった! 盛り上がりすぎた真夏の大興奮LIVEをCOOLに冷ます。
 自分の大好きな曲がラジオから流れ出した瞬間の,あのジンワリと来るうれしさは格別だった。その曲があの番組のあの余韻を語り合う最良の部分のシメを飾るうれしさ。

 【FIRST−TIME LOVE】のイントロが流れ出すと,あの時代の「最高の人生」の記憶が一気に甦る。ここは「ジャパフュー」ではなくデイヴ・グルーシンでなければならない。ボブ・ジェームスデイヴ・グルーシンと同時代に生まれてきて良かった。心からそう思う。

 
01. PUNTA DEL SOL
02. SOUTHWEST PASSAGE
03. FIRST-TIME LOVE
04. WESTERN WOMEN
05. DANCING IN THE TOWNSHIP
06. OLD BONES
07. IN THE MIDDLE OF THE NIGHT
08. T.K.O.
09. POLINA
10. SUITE FROM MILAGRO BEANFIELD WAR
  a. LUPITA
  b. COYOTE ANGEL
  c. PISTOLERO
  d. MILAGRO
  e. LITTLE DRUMMER GIRL EPILOGUE

 
DAVE GRUSIN : Keyboards
ABRAHAM LABORIEL : Bass
MARCUS MILLER : Bass
HARVEY MASON : Drums
OMAR HAKIM : Drums
MICHAEL FISHER : Percussion
CARLOS RIOS : Guitar
HUGH MASEKELA : Flugelhorn
BRANFORD MARSALIS : Soprano Saxophone, Tenor Saxophone
DON GRUSIN : Additional Synthesizer Programming
GERALD VINCI : Concertmaster

(GRP/GRP 1989年発売/VDJ-1221)
(ライナーノーツ/上田力)

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大西 順子 / バロック4

BAROQUE-1 『BAROQUE』(以下『バロック』)の大西順子が重い! 『バロック』の大西順子が強い! いや〜“女帝”大西順子が重くて強い! 大西順子がキビシーイッ!

 トランペットニコラス・ペイトンテナーサックスアルトサックスバスクラリネットフルートジェームス・カータートロンボーンワイクリフ・ゴードンベースレジナルド・ビールロドニー・ウィテカードラムハーリン・ライリーコンガローランド・ゲレロ

 このビッグネームが横並びする圧! 大西順子って,もしやウイントン・マルサリスご用達のピアニストだったのか?
 いやいやそんなことはない,と一旦は否定してみたが『バロック』を聴き進めるにつれ,大西順子が本当にウイントン・マルサリス級に感じてしまう。

 大西順子に信念を感じる。その信念のもとに「やるべきことをメンバーに強制させる」パワーを感じる。
 『バロック』なんて聴くんじゃなかった。もはや手放しで上原ひろみ山中千尋を称賛することなどできなくなった。
 大西順子こそが,J−ジャズの女性ピアニストの頂点にいる。この事実を再認識させられてしまった気分がした。

 まぁ,単純に大西順子上原ひろみ山中千尋を比較するのは無意味であろう。
 基本,上原ひろみは作曲家だし,山中千尋は編曲家である。そして大西順子ジャズの人である。それもセロニアス・モンクチャールス・ミンガスの人である。音楽的な「生まれも育ちも」全然違っている。

 そんな大西順子のアルバム・タイトルが『バロック』と来た。
 芸術の世界では「バロック的である」という言い方は,かなりの褒め言葉として通っている。芸術に造詣の深い大西順子のこと,そう軽々しく『バロック』を名乗れないことは承知している。
 その大西順子が自ら,アルバム・タイトルとして『バロック』と名付けたのは,かなりの自信作なのであろう。

 ズバリ『バロック』の真髄とは,2010年版「フルカラーのビ・バップ」である。話題となった蜷川実花撮影によるジャケット写真通りの「多色刷りの音楽」である。大西順子が,覚悟を決めて“百花繚乱”舞い踊っている。一曲一曲が強烈な原色カラーを放っている。
 『バロック』の楽曲のモチーフ,それは2010年のセロニアス・モンクであり2010年のチャールス・ミンガスであり2010年のウイントン・マルサリスである。
 そして,その光源こそが2010年版「フルカラーのビ・バップ」であり,2010年版の大西順子の“ジャズピアノ”なのである。

 『バロック』からは,生半可な気持ちでは弾けない,高度なビ・バップ理論が聞こえてくる。ビ・バップは手強い。聴いて楽しいのはハード・バップの方である。
 『バロック』で大西順子がチャンジした音楽とは“傾聴に値する”類まれなジャズの1枚だと思う。
 ただし,凄いことは分かるが,ちょっと意味が分からず,取り残される自分もいる。置いてけぼりな管理人は,ぶったまげて,腰を抜かして,お口ポカーン。

 だから管理人。『バロック』を1枚聴き通すのに10回はチャンジした。音楽に集中しようと思っても,何だか訳の分からない外国語口座を聴いている感じ? 冗談などではなく過去9回は途中で意識が飛んでしまった。

BAROQUE-2 事実『バロック』を聴いて楽しむには,ジャズについてのそれなりの知識や経験が必要とされる。仮にジャズについての知識や経験があったとしても,相当なエネルギーを必要とする。1回完走するのが「やっと」なのでヘビロテするのは難しい。
 そう。『バロック』は“聴き手を選ぶ”名盤である。管理人は愛聴できていないから,残念ながら「選に洩れた」口である。

 ここまで“高尚な”アルバムを作った大西順子のメンタルの強さに改めて圧倒されてしまう。1つの目標?理想?に向かって驀進している。
 『バロック』は,現代社会,ジャズも含めて小手先の技術に翻弄されてる世界に対して,何か啓示を突きつけたような重さを持つアルバムである。
 大西順子の重さと強さに,原始的な太古の昔からある力,生命力のような強さを感じてしまう。

 
01. Tutti
02. The Mother's
03. The Threepenny Opera
04. Stardust
05. Meditations for a Pair of Wire Cutters
06. Flamingo
07. The Street Beat/52nd Street Theme
08. Memories of You

 
JUNKO ONISHI : Piano
NICHOLAS PAYTON : Trumpet
JAMES CARTER : Tenor Saxophone, Bass Clarinet, Alto Saxophone, Flute
WYCLIFFE GORDON : Trombone
REGINALD VEAL : Bass
RODNEY WHITAKER : Bass
HERLIN RILEY : Drums
ROLAND GUERRERO : Conga

(ヴァーヴ/VERVE 2010年発売/UCCJ-2081)

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T-SQUARE / AI FACTORY4

AI FACTORY-1 『AI FACTORY』は『REBIRTH』〜『CITY COASTER』の延長線上で評価されるべきアルバムである。

 『AI FACTORY』の中に,所謂“キラー・チューン”は入っていない。『AI FACTORY』は楽曲単位で聴くアルバムではない。アルバム1枚,全9曲を聴き通して「どうですか?」と問われている感じのアルバムである。『REBIRTH』の最大の功績はその部分にある。

 CDが発売されて曲の選択と頭出しが一発でできるようになった。そしてアイポッドが発売されてシャッフル再生ができるようになった。
 ジャズなんてLPの時代はアルバム単位で評価されるのが普通だったというのに,デジタル時代になって,特に配信とダウンロードが1曲幾らになってからは,気に入った曲しか聴かなくなった。管理人もその1人になってしまった。

 『REBIRTH』と『CITY COASTER』の収録時間も短かったが『AI FACTORY』の収録時間は44分58秒。LP時代に舞い戻ったかのような短さである。潔い。
 ファンとしては「もう1曲入れて欲しい」なのだが,スクェアとしては「楽曲単位ではなくアルバム1枚を聞かせたい」。そんな狙いがあるのかも?

 思うに,T−スクェアがアルバム単位に戻ったのは【TRUTH】頼みという“コンプレックス”を乗り越えた自信から来ていると思う。
 勿論,今でもライブのラスト・ナンバーは【TRUTH】が定番である。でもそれは「お決まり」なだけであって,仮に【TRUTH】を演奏してくれなくても,観客の誰1人として何の不満も感じないと思う。

 事実,今は【RONDO】が【TRUTH】に取って変わっている。でも【RONDO】の一択で確定しているわけではない。【THE BIRD OF WONDER】にしても【THROUGH THE THUNDERHEAD】にしてもしかり。【RONDO】に変わる曲が何曲もストックされている。

 そう。現「河野坂東」時代のT−スクェアは,バンド史上初めて“キラー・チューン”不要の時代に入っている。
 メロディ・メイカーとしての安藤正容がいる。そこに坂東慧がいる。河野啓三もいる。信頼して待っていれば,何曲もいい曲が集まっている。それも“T−スクェアらしい”新曲がゴロゴロである。そのどれもが没に出来ない“スクェア印”が押されている。

 オープナーである【AI FACTORY】は,坂東チューンらしい,メカニックな実験作。近未来な「グイッグイッ」4ビートの手強いリズムが鳴っている。これぞ正しく“FACTORY”な楽曲である。
 続く【GEISYA】は,河野啓三の得意とする「胸に迫るマイナー調の佳曲」と思わせといて,ラスト一発でメジャーへとハジケルて終わる! 「お帰りなさい,河野啓三」!
 過去の自分を捨て去った安藤正容の【DAYLIGHT】が,新境地と思わせて,聞けば聞くほど安藤メロディー。伊東たけしがよく歌っているんだよなぁ,これがっ!

 この出だしの3曲で『AI FACTORY』のヘビロテ入りが決まったわけだが(管理人は『AI FACTORY』のハイライトとして6曲目と7曲目で連続するミディアム・バラードでの盛り上がりを指名します!)聞けば聞くほど“味わい深い”全9曲。そこには2年振りのレコーディングとなる「音楽監督」河野啓三の存在がある。

AI FACTORY-2 河野啓三不在の『HORIZON』は真にスペシャルなアルバムであった。LAのフュージョン・バンドを思わせる“キラキラした爽やかさ”が大好物だった。

 でもどこかが違う。何かが違う。いつもの,例えそれが名盤だろうが駄盤だろうが,現在進行形のスクェア・サウンドの変化をキチンと受け止めるべく,一心にスクェアと向き合うのとはちょっと気分が違っていた。客観的に『HORIZON』を聴いている自分に気付くことがあった。

 『HORIZON』の主役はフィリップ・セスだった。フィリップ・セスはサポートに徹してくれていたのだが,細かな最後の“塩加減”が河野啓三のそれとは明らかに違っていた。

 『AI FACTORY』には白井アキトが全面参加。フィリップ・セスばりの大活躍である。でもでもフィリップ・セスの場合とは違う。
 そう。『AI FACTORY』のキーボードの音は白井アキトではなく河野啓三の音なのだ。T−スクェアの音が鳴っている。河野啓三の音がT−スクェアの音なのだ。そう感じられた自分自身が好きになった。

 「ポップ・インストゥルメンタル」としか表現のしようがない「オール佳曲」集の『AI FACTORY』。河野啓三白井アキトの「豪華絢爛」ツイン・キーボードがこれからも続くとうれしいなぁ。

 
DISC 1
01. AI Factory
02. Geisha
03. Daylight
04. Rising Scope
05. 88/200
06. 残照
07. Colors Of The Smile
08. Darwin
09. Over The Border

DISC 2 DVD
01. HORIZONからAI Factoryへ! 〜激動の軌跡〜
  来日したPhilippe Saisse〜河野啓三・復帰ステージ〜新作レコーディング風景まで

 
T-SQUARE
MASAHIRO ANDOH : Guitars
TAKESHI ITO : Alto Sax, EWI, Flute
KEIZO KAWANO : Keyboards
SATOSHI BANDOH : Drums

Special Support:
SHINGO TANAKA : Bass
AKITO SHIRAI : Keyboards

(オレンジレディ/ORANGE LADY 2020年発売/OLCH 100017〜18)
(☆SACDハイブリッド盤仕様)
★【初回生産限定盤】ボーナスDVD付 2枚組
★【初回生産限定盤】三方背BOX仕様
★音匠仕様レーベルコート

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クラーク・テリー / ザ・セカンド・セット〜ライヴ・アット・ヴィレッジゲート4

THE SECOND SET - RECORDED LIVE AT THE VILLAGE GATE-1 クラーク・テリーとはマイルス・デイビスオスカー・ピーターソンからベタボメされた「偉大なるトランペッター」である。
 しかし,管理人がクラーク・テリーを聴こうと思う時,それはクラーク・テリートランペットを聴きたいからではない。管理人の中でクラーク・テリーとば“トランペッター”という認識は薄い。

 そう。クラーク・テリーと来れば“音楽家”である。クラーク・テリートランペットからは,様々な優れた音楽的要素が同時に鳴り響いている。
 決して最先端の音楽ではない。しかし,クラーク・テリーから発せられた音からは,いつでも「教養の高さや深み」を感じて幸福感で満たされてしまう。マイルス・デイビスオスカー・ピーターソンが目を付けていたのはその部分なのだろう。

 同じ「教養の高さや深み」を感じるとしても,クラーク・テリーを聴いて感じるのはウイントン・マルサリスのそれとは異なる。ウイントン・マルサリスの場合は,本当の「英才教育」であり“本物”感がバリバリである。ウイントン・マルサリスジャズトランペッターに必要な全ての要素を身に着けている。完全無欠であり,史上最高のトランペッターウイントン・マルサリスのことだと信じている。

 一方のクラーク・テリーの場合,これは長年の現場を経験してきたからこそ語ることのできる「説得力」。これである。
 酸いも甘いも,成功も挫折も幾度となく経験してきたからこそ理解できる真実がある。ウイントン・マルサリスが1年で学んだことをクラーク・テリーは10年かけて学んだのかもしれない。
 ある問題点の解決策としてウイントン・マルサリスクラーク・テリーも同じ答えを提出するかもしれない。出した答えは同じであっても,真実の答えは同一ではない。やはり経験を通して学んできた者の発言は重い。
 たった一音だけなのに,その簡潔な一音に込められた意味を察することができた時,参らされることがある。経験がお金では決して買うことのできない「生涯の宝物」と呼ばれる所以である。

 『THE SECOND SET−RECORDED LIVE AT THE VILLAGE GATE』(以下『ザ・セカンド・セット〜ライヴ・アット・ヴィレッジゲート』)は,単純に「聴いて楽しい」演奏である。普通に聴くと“平凡な1枚”である。そして“平凡な1枚”という評価のまま終わってしまうことがある。別にそれが悪いことだとは思わない。

 だが,偶然にも『ザ・セカンド・セット〜ライヴ・アット・ヴィレッジゲート』の「楽しさの理由」に気付いてしまうと,それから先は「耳が止まってしまう」ことだろう。
 クラーク・テリーの一音一音にKOされるようになる。ビ・バップがあるしスイングさえも混ざっている。そんなジャズトランペットの歴史を聞かせつつも,結局最後は“エンターテイメント”である。アドリブ芸術からは最も離れた場所で,紛れもないジャズを感じることができるのだ。これぞクラーク・テリーのオリジナリティであろう。

THE SECOND SET - RECORDED LIVE AT THE VILLAGE GATE-2 『ザ・セカンド・セット〜ライヴ・アット・ヴィレッジゲート』はライブ盤である。会場の雰囲気が最高で演奏も大いに盛り上がっているのだが,クラーク・テリーはどんなに盛り上がろうとも勢いだけで押し切ろうとはしていない。常にクールにスイングしている。

 世間一般ではクラーク・テリートランペットの特徴について“口笛を鳴らすように”と表現されているのだが,その表現に納得の,こちらも名うてのベテラン陣,ジミー・ヒーステナーサックスドン・フリードマンピアノマーカス・マクラーレンベースケニー・ワシントンドラムに“口笛の”ニュアンス1つで全体へ指示を飛ばしている。

 バンド全体がクラーク・テリーのフレーズをなぞるかのように演奏している。これってマイルス・バンドの運営手法?
 そう。マイルス・デイビスの「憧れのトランペッター」。それがクラーク・テリーという“音楽家”なのである。

 
01. One Foot in the Gutter
02. Opus Ocean
03. Michelle
04. Serenade to a Bus Seat
05. Joonji
06. Ode to a Fuglehorn
07. Funky Mama
08. "Interview"

 
CLARK TERRY : Trumpet, Flugelhorn
JIMMY HEATH : Tenor Saxophone
DON FRIEDMAN : Piano
MARCUS McLAUREN : Bass
KENNY WASHINGTON : Drums

(チェスキー・レコーズ/CHESKY RECORDS 1995発売/SSCJ-1010)
(ライナーノーツ/三崎光人)

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DIMENSION / 314

31-1 カシオペアからの神保彰櫻井哲夫が脱退した時のような無力感に襲われた。あの時,これからどうやってカシオペアと接していけばよいかが分からなくなった。カシオペアこそが,管理人の「ヒーロー」だったのだから…。

 バンドたるもの。メンバー・チェンジがいつかは必らず訪れる。あの鉄壁の4人組=カシオペアの分裂を目の当たりにして「理想と現実」について学ばされたように思っている。
 その後もメンバー・チェンジのニュースが次々と飛び込んで来たが,大好きな本田雅人スクェア脱退のショックさえも乗り越えてきた。管理人は「雨に濡れながら大人になって」きたのだ(by 山下達郎【さよなら夏の日】)。

 しか〜し,超久々に大ショック。世間的には不謹慎極まりないのを承知で,ここは敢えて比較として書いておく。本年,実の父を亡くしたのだが(父の命はGW前までと宣告されていたため心の準備は出来ていた)それ以上の大ショックだった。
 それこそが,大好きなDIMENSIONキーボード・プレイヤー=小野塚晃の脱退であった。

 『30』から『31』のリリースまで2年半。年に1枚以上のハイペースで新作を作り続けてきたDIMENSIONとしては異例の事だった。内部で何かが起きていることは容易に想像できた。管理人はてっきりソロ活動を加速させた勝田一樹に原因があると読んでいた。それがまさかの小野塚晃…。

 カシオペアの場合はジンサクの「以前以後」で割り切った。第2期の暗黒期には見放してみた。
 本田雅人の場合は本田雅人ソロ活動を追えばいい。却って伊東たけし復帰後のスクェアのメロディーが大好きだから「一挙両得」であった。

 ただし今回はダメ。小野塚晃の脱退は絶対にダメ。DIMENSIONこそが,大人となった管理人のアイドルの一番手だった。
 浮き沈みのあるカシオペアスクェアとは異なり,DIMENSIONは20年前と10年前と2年前との変化を純粋に測ることのできる「指標」のようなフュージョン・バンドであった。
 則ち,J−フュージョンの変化を,時代の変化を,音楽の流行を,メンバー3人の心境の変化を,一番体感できたのがDIMENSIONであった。「盤石な」DIMENSION王国の崩壊により,もはや「安定」という言葉が死語になる。

 それ以上に小野塚晃の脱退が絶対にダメな理由はサウンド面。小野塚晃の別名とは「DIMENSIONの頭脳」。
 増崎孝司勝田一樹小野塚晃の「完璧なトライアングル」とは演奏面に限ってのことであって,DIMENSIONサウンドの骨格は小野塚晃抜きには成り立たない。
 恐らくは,増崎孝司勝田一樹の2人だけではDIMENSIONの活動は長くはもたない。これならいっそ解散してくれた方が…。

 実に長い,曇りの日々が続いていた。4ヶ月間かかってやっと曇りが晴れた。無論,快晴ではない。でもとにかくホッとしたのだ。最悪の内容も覚悟していた。予想以上にまとまっている。新生DIMENSIONの“上々の船出”に拍手喝采である。

 DIMENSIONが完全に若返っている。DIMENSIONは“超絶技巧”で名を馳せてきたバンドであるが,特に『26』以降は壮大系で難解系なアーティスト・グループの色が濃くなっていた。きっと小野塚さんの好みだったのだろう。
 そんな小野塚さんがいなくなって,直感のイメージとしては『21』とか『23』の頃のサウンドを彷彿とさせてくれた。あの直線的でパワー系でメロディアスなDIMENSION! 『31』はいい曲ばかり!

 以前から情報がダダ洩れで,誰の曲かは大体察しがついていたのだが,二人体制のDIMENSIONになって,再び作曲者名がクレジットされるようになった。
 どうやら管理人。自分では気付いていなかっただけで増崎孝司小野塚晃以上に勝田一樹のメロディー・ラインが好きだったことが判明。勝田一樹は「とっておきのいい曲」を自分のソロのためではなくDIMENSIONのために提供し続けてきたことが判明。勝田一樹は“男”であります。

31-2 そういうことで小野塚さん,本当にお疲れ様でした。ラストの2年間,苦しみを抱えながらも,それをおくびにも出さず,全部のツアーを全力で盛り上げてくださったことに心から感謝いたします。

 そしてマスヤンカツオにも心から感謝いたします。大きくなりすぎたDIMENSIONの看板を2人で背負い続けることをよくぞ決断してくれました。
 それから安部潤さん。小野塚さんの後釜はあなたにしか務まりません。これからは則竹さんばりに末永いサポートをお願いできれば幸いです。

 『31』を聴いて管理人が思うこと。DIMENSIONって,増崎孝司勝田一樹小野塚晃が前面に出たバンドだとばかり思っていたが,実はそうではなかった。
 そう。DIMENSIONって,ギターサックスキーボードが前面に出たバンドであった。

 『31』の新生DIMENSIONがいいですねっ。小野塚晃の脱退を感じさせないくらいに,安部潤キーボードをフィーチャリングしているところが最高に好きッス!

 
01. Soul Jam
02. Loop
03. Change The Game
04. ZEBRA
05. Up From The Skies
06. Just For Now
07. Destination
08. Brand New Emotion
09. Silver Shell
10. Are You Ready?

 
DIMENSION
TAKASHI MASUZAKI : Guitar
KAZUKI KATSUTA : Saxophone

GUEST MUSICIANS
JUN ABE : Keyboard, Synthesizer, Programming
KOHSUKE OSHIMA : Keyboard, Synthesizer, Programming
HIROYUKI NORITAKE : Drums
TEPPEI KAWASAKI : Bass
RYOSUKE NIKAMOTO : Bass

(ザイン/ZAIN RECORDS 2020年発売/ZACL-9117)
(☆BLU−SPEC CD2仕様)
(☆スリップ・ケース仕様)

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ゲイリー・トーマス / ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ4

FOUND ON SORDID STREETS-1 『エグザイルズ・ゲイト』からここまで変わって来るか!? これがゲイリー・トーマスの「M−BASE」オルガンジャズの2枚目『FOUND ON SORDID STREETS』(以下『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』)を初めて聴いた時の感想である。

 悪い意味ではない。とにかく「黒い」のだ。所謂,黒人のファンキーオルガンジャズではない。今回のオルガニストジョージ・コリガン。白人である。
 にも関わらずジョージ・コリガンオルガンが,とことん「黒い」。ラップにも負けない,気合いとパッション漲るストレートアヘッドなオルガンが『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』の音場を支配している。
 ゲイリー・トーマスの目指す,最高のオルガンジャズジョージ・コリガンの手によって完成したように思う。

 ベース入りとベースレスの2つのセットが互いの魅力を引き立てていたのが『エグザイルズ・ゲイト』の魅力であったが『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』はベースレス編成のみ。
 つまりはギタリスト! つまりはポール・ボーレンバックである。ちなみにポール・ボーレンバックも白人にして,黒いツボを押してくる。1990時代のオルガンジャズギタリストって,ジョン・スコフィールドにしてもジョン・マクラフリンにしても,オルガンに合わせるのが「黒人以上に」実に上手い!

 そういう訳で?『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』の主役は,ジョージ・コリガンオルガンポール・ボーレンバックギターである。

 ゲイリー・トーマスの魅力とは,激しくもメカニックなフレージングだと思っている。「黒い」テナーサックスゲイリー・トーマスにとっては分が悪いのか?不器用でフリー・フォームしていないゲイリー・トーマスの演奏に何を思い浮かべるかと問われれば,答えは「特に印象に残っていない」となる。

 ズバリ『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』の聴き所は,ロング・ソロではない。ゲイリー・トーマスジョージ・コリガンポール・ボーレンバックの短いながらも何度も繰り返されるユニゾンにある。
 3人でテーマを重ね合わせた時の“快感”の余韻に浸りながら,やがて1人2人と朽ち果てていく男たち…。

FOUND ON SORDID STREETS-2 管理人の結論。『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ批評

 『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』とは「落ち目となった」ゲイリー・トーマス自身にとっての“癒しのアルバム”である。
 前へ前への革新作業に疲れを覚えていたのだろう。一旦立ち止まり,一歩退いたからこそ見せることのできたゲイリー・トーマスのバックボーン。

 そう。『ファウンド・オン・ソーディッド・ストリーツ』とは,ゲイリー・トーマスが思い描く「故郷ボルティモアの音楽伝記」のコンセプト・アルバムである。
 『エグザイルズ・ゲイト』から“バック・トゥ・ザ・フューチャー”してきた,ゲイリー・トーマス初めてとなる,非「M−BASE」で脱「M−BASE」なジャズ・アルバムなのである。

  01. Spellbound
  02. Treason
  03. The Eternal Present
  04. Exile's Gate
  05. Hyper Space
  06. Found On Sordid Streets
  07. Peace Of The Korridor

(ウィンター&ウィンター/WINTER & WINTER 1997年発売/BOM-22005)
(☆直輸入盤仕様 ライナーノーツ/松永紀代美)

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ゲイリー・トーマス / エグザイルズ・ゲイト5

EXILE'S GATE-1 ゲイリー・トーマスがリードする「M−BASE」のオルガンジャズが超カッコイイ。これぞ「新しいオルガンジャズ」の誕生である。

 『EXILE’S GATE』(以下『エグザイルズ・ゲイト』)には,タイプの異なる2つのオルガン・コンボが収められている。
 オルガニストで語ればティム・マーフィーチャールス・コヴィントンの違いであるし,ギタリストで語ればマーヴィン・スウェルエド・ハワードの違いであろうが,それ以上にベース入りか?ベースレスか?の違いの方が大きい。

 すなわち,ベース入りのオルガンを「M−BASE」の文脈で鳴らすトラックと,新しいジャズサウンドの1つの核としてベースオルガンで色付したトラックの違いである。

 その点でゲイリー・トーマスの“盟友”であるティム・マーフィーが本職であるオルガニストとして参加した意義は大きい。ティム・マーフィーのイマジネーションが,そのまんま「M−BASE」の文脈で鳴り響くオルガンジャズ
 ベースラインは,これまたエド・ハワードが最高のベースラインを弾いている。「M−BASE」のティム・マーフィーだからできた“ベースが主役を張れる”オルガンジャズが超カッコイイ。

 一方のチャールス・コヴィントンオルガンは「王道」である。こちらにはゲイリー・トーマスが加入している「スペシャル・エディション」のジャック・デジョネットとの共演である。
 ジャック・デジョネットゲイリー・トーマスが組めば,それだけで「スペシャル・エディション」の音が鳴るのだが,チャールス・コヴィントンオルガンが「スペシャル・エディション」を“オルガンジャズの深み”へと誘っていく。

EXILE'S GATE-2 ゲイリー・トーマスの狙いこそが,チャールス・コヴィントンの「舵取り」を期待してのことだったと思うが,大ベテランのチャールス・コヴィントンが「M−BASE」の音選びに興味津々であって,従来のオルガンジャズの壁を「スペシャル・エディション」のパワーによってブレイクスルーできたと思う。

 ちょうど『エグザイルズ・ゲイト』の発売と同じ時期,管理人は「メデスキ,マーティン・アンド・ウッド」にハマッテいた。「メデスキ,マーティン・アンド・ウッド」の,どこからともなく“降ってきた”ジャムに相当衝撃を受けていた。
 きっとゲイリー・トーマスもその1人だったのだろう。そして「M−BASE」のオルガンジャズに可能性を感じたことだろう。

 管理人は思う。「M−BASE」の雄であるゲイリー・トーマスが,当時のオルガン・リイバイバル・ブームから外れた「新しいオルガンジャズ」を演ったからこそ,後の「メデスキ,マーティン・アンド・ウッド」「ソウライヴ」がブレイクする道筋が開けたのだと…。

  01. Exile's Gate
  02. Like Someone In Love
  03. Kulture Bandits
  04. Blues On The Corner
  05. Night And Day
  06. No Mercy Rule
  07. A Brilliant Madness

(バンブー/BAMBOO 1993年発売/POCJ-1191)
(ライナーノーツ/成田正)

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OTOMO YOSHIHIDE'S NEW JAZZ ORCHESTRA / ONJOプレイズ・エリック・ドルフィーズ・アウト・トゥ・ランチ4

ONJO PLAYS ERIC DOLPHY'S“OUT TO LUNCH”-1 エリック・ドルフィーの『OUT TO LUNCH』の“痛快”全曲カヴァー集。それが大友良英ONJO」拡大路線の集大成となる『ONJO PLAYS ERIC DOLPHY’S “OUT TO LUNCH”』(以下『ONJOプレイズ・エリック・ドルフィーズ・アウト・トゥ・ランチ』である。

 個人的にエリック・ドルフィーの『OUT TO LUNCH』はイマイチだと思っているからなのか,痛快パロディー盤とは認めつつも『ONJOプレイズ・エリック・ドルフィーズ・アウト・トゥ・ランチ』も聴いていて楽しい演奏ではない。

 そもそも大友良英の側に『OUT TO LUNCH』完コピする気など更々なかったように思う。大友良英にとって『ONJOプレイズ・エリック・ドルフィーズ・アウト・トゥ・ランチ』とは,大友良英流・エリック・ドルフィーへのリスペクトではなくネタの1つにしかすぎない。

 「DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN(DCPRG)」脱退後,活動の中心となった「ONJO」の自慢の音。この音で菊地成孔と勝負してみたい。そして「DCPRG」を見返してみたい。
 菊地成孔が電化マイルスでいくのなら,大友良英エリック・ドルフィーでいく。エリック・ドルフィーの奇抜な音なら,電化マイルスとも十二分に戦える。あくまでもノリでありネタなのである。

 エリック・ドルフィー大友良英の『OUT TO LUNCH』の違いは,ボビー・ハッチャーソンが,いるかいないか,の違いである。
 それくらいに本家『OUT TO LUNCH』の個性の半分はボビー・ハッチャーソンの硬質で幾何学的なヴァイブが担当していた。

 大友良英が指名した『OUT TO LUNCH』のキーマンとは,SACHIKO Mの「サイン波」であろう。
 エリック・ドルフィーよりも大袈裟にアウトしてく「ONJO」の中にあって,SACHIKO Mの「サイン波」と大友良英の「ノイズ」がサウンドの核を担っている。

ONJO PLAYS ERIC DOLPHY'S“OUT TO LUNCH”-2 そう。大友良英ONJO」の個性とは「毒を以て毒を制す」音楽である。
 大友良英が意図的にチューニングを狂わせれば,バンドが一斉に補正をかけてくる。そこに複雑なアンサンブルが完成する。緊張感のあるインプロが続くが,そこにはいつでも知性を感じる。
 結果,本家『OUT TO LUNCH』で描かれていた音世界のスケール感が増している。なるほどね〜。

 菊地成孔にしても大友良英にしても,マイルス・デイビスにしてもエリック・ドルフィーにしても,適当に即興演奏しているわけではない。言わば「計算ずくめの即興演奏」なのである。

  01. Hat And Beard
  02. Something Sweet, Something Tender
  03. Gazzelloni
  04. Out To Lunch
  05. Straight Up And Down 〜 Will Be Back

(ダウトミュージック/DOUBTMUSIC 2005年発売/DMF-108)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/大友良英,殿山康司,カヒミ・カリィ)

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ゲイリー・トーマス / ゲイリー・トーマス&パット・メセニー・プレイ・スタンダーズ4

TILL WE HAVE FACES-1 『TILL WE HAVE FACES』(以下『ゲイリー・トーマス&パット・メセニー・プレイ・スタンダーズ』)の真実とは『ゲイリー・トーマス&パット・メセニー・プレイ・スタンダーズ』ではない。『ゲイリー・トーマス&テリ・リン・キャリントン・プレイ・“過激”スタンダーズ』である。

 そう。ハッキリ言って「目玉」であろうパット・メセニーは存在感なし。個人的にはあのゲイリー・トーマスとあのパット・メセニーの共演とあって超楽しみにしていたが『ゲイリー・トーマス&パット・メセニー・プレイ・スタンダーズパット・メセニーに“たまにある”ハズレ盤となった。

 古くはオーネット・コールマンジョン・スコフィールド,最近でもブラッド・メルドーとの共演がそうであったように,当代随一の名前が並ぶ時に限ってパット・メセニーがコケル。これって共演者に惑わされているとしか思えない。

 パット・メセニーにとって,敵はゲイリー・トーマスだけでなかった。テリ・リン・キャリントンである。彼女のドラミングがエゲツナイ。テリ・リン・キャリントンパット・メセニーギターを切り刻んでいる。みじん切りである。

 冒頭の【ANGEL EYES】で今回の企画が終わりを迎えている。超美メロが崩壊している。これは【ANGEL EYES】ではない。【ANGEL EYES】とは認められない。
 このトラックはゲイリー・トーマステリ・リン・キャリントンの肉体派の大バトル。管理人には“拳銃の打ち合い”にしか聞こえない。

 前々作の『WHILE THE GATE IS OPEN』は素晴らしいスタンダード集であったが,その続編にあたる『ゲイリー・トーマス&パット・メセニー・プレイ・スタンダーズ』は,非スタンダード集であり“過激”スタンダード集である。

TILL WE HAVE FACES-2 本当はそこまで悪い演奏ではないのだろう。ゲイリー・トーマステナーサックスはテクニカルでバッキバキ。いい音で鳴っている事実は認める。

 しかし「目玉」であるパット・メセニーの良さが死んでいる。「目玉」であるスタンダードの美メロが死んでいる。これではゲイリー・トーマス1人が元気であっても何ら意味がない。

 期待値が異常に高かった分,この企画はマイナスでしかない。やらない方が良かった。大物2人のキャリアに傷が付いてしまった。『ゲイリー・トーマス&パット・メセニー・プレイ・スタンダーズ』の収穫はテリ・リン・キャリントンの大爆発だけである。

 大好きなゲイリー・トーマスと大好きなパット・メセニーの音が耳まで届いてはいるのだが,心は「上の空」状態。
 マイルス・デイビスの所のマリリン・マズールといい,女性ドラマー解放の時代到来,を感じたというのが『ゲイリー・トーマス&パット・メセニー・プレイ・スタンダーズ』を聴いた一番の感想である。

  01. Angel Eyes
  02. The Best Thing For You
  03. Lush Life
  04. Bye Bye Baby
  05. Lament
  06. Peace
  07. It's You Or No One
  08. You Don't Know What Love Is

(バンブー/BAMBOO 1992年発売/POCJ-1130)
(ライナーノーツ/成田正)

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峰 厚介−菊地 雅章 / DUO4

DUO-1 峰厚介菊地雅章によるデュエット・アルバムが『DUO』(以下『デュオ』)である。

 このデュエットは,峰厚介主導で聴くか? 菊地雅章主導で聴くか? によって印象が随分変わるように思っている。
 管理人は『MAJOR TO MINOR』が気に入ったので,その流れで『デュオ』を聴いた口。なので,何とも口寂しい印象を受けた。

 『デュオ』の基本はメイン・テーマを拠り所として,互いに互いの胸の内を探り合いながらアドリブに興じていくアルバムである。
 ズバリ『デュオ』の聴き所とは,アドリブに到達するまでの“過程を聴く”ことにある。

 全5曲が5曲とも未完成のままで終わっている。どの曲を聴いても今一歩である。盛り上がれそうで盛り上がれていない。正直『MAJOR TO MINOR』でジャズ・サックスの王道を披露した峰厚介の「中途半端」な演奏にガッカリしたことを覚えている。

 峰厚介の不調の原因は「スロー・テンポしごき」にある。静かに始まりそのまま大して盛り上がらずに終了していく。どうにも間延びした時間帯が長すぎる。
 おいおい,こんな約束じゃなかっただろう。峰厚介ジャズ・サックスってこの程度のものだったのか? そう感じてしまったが最後。峰厚介菊地雅章というビッグネーム2人の『デュオ』が「タンスの肥やし」の1枚となった。

 しかし,これがある日突然,ヘビロテとなるのだから人生分からない。その理由は菊地雅章名演にある。
 菊地雅章は管理人のフェイバリットの1人であるが,ある時期,猛烈に菊地雅章に狂っていた時期があって,菊地雅章を追いかけていたら『デュオ』の存在を思い出し,久しぶりに手に取ったらというパターン。
 あら不思議,全然いけるじゃん。…っていうか『デュオ』でのプーさん凄くねぇ?

 ノープランで“盟友”とのデュオに臨んだプーさんピアノが実に興味深い動きを聴かせている。「自然発生的なインプロヴィゼーション」への対応力が最高に素晴らしい。

 管理人は『デュオ』を当初,峰厚介がメインで菊地雅章がサブとして聴いていた。菊地雅章ピアノは終始寡黙であって,ブツブツ言いながらもメロディアスに攻めてくるテナーサックスの受け皿として,常に着地点を探っているように感じていた。

 …がっ,しかし,そうではなかったのだ。菊地雅章ピアノ峰厚介テナーサックスを音楽の中に浮かせているし,書き譜のテーマの中に飛ばしている。
 テナーサックスの落下点に先回りしていたのではなく,テナーサックスの起点をピアノが先回りして準備している。

DUO-2 菊地雅章アドリブを受けて峰厚介がジャンプしている。ただし,どこにどのように飛ぶかは峰厚介に任されている。
 菊地雅章からのお題が絶妙すぎて,峰厚介に頭の中には選択肢が何通りも浮かぶのだろう。どう飛び上がるかに迷っている節がある。だから反応が遅れて口寂しくなる。『デュオ』の構図は,この繰り返しの図式で間違いない。

 ジャズとは本来,頭とか知識とかではなく,感性とか経験とかで反応する音楽である。しかし,共演者にここまで胸の内を読まれてしまってはどうしようもない。菊地雅章の「スロー・テンポ」なライン取りに,たじたじの峰厚介は「一介のテナーマン」。前に押し出されているだけで,頭の中は終始混乱しっぱなしのようでして…。

 峰厚介さん,10年後にまた“恩師”プーさんの胸を借りましょう。今回の『デュオ』では,相手が一枚上手でした。

  01. MR.MONSTER
  02. DJANGO
  03. LITTLE ABI
  04. I REMEMBER GOKO
  05. REMEMBER

(ヴァーヴ/VERVE 1994年発売/POCJ-1240)
(ライナーノーツ/清水俊彦)

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