THIS IS THIS-1 音楽の世界にバンドの解散やメンバーの脱退はツキモノ。終了直前の音源を聴くと「あぁ,やっぱりな」と,もろ音に出ていることも少なくない。しかし中には「何でこれが解散なの? 今までで最高の出来なのに」と思えるものもある。

 ウェザー・リポートの最終作である『THIS IS THIS』(以下『ジス・イズ・ジズ』)は正しく後者である。
 家庭の事情に首をはさむわけにはいかないが,いつ聴き返しても,もうウェザー・リポートの新作を聴けないことが残念でならない。それ程,充実した内容。今後に期待を抱かせる“快心の出来”なのである。
 
 ウェザー・リポートの一押しとして『ジス・イズ・ジズ』を挙げる人を管理人は未だ知らない。しかしこのアルバムは後期ウェザー・リポートを語る上で外せない。
 ジャコ・パストリアス脱退後のウェザー・リポートは確かに低迷していた。しかし多くの試行錯誤を重ねた結果,彼ら特有の“瑞々しいサウンド”が戻っていた。後期ウェザー・リポートを否定する人もいるが,それは『ドミノ・セオリー』『スポーティン・ライフ』『ジス・イズ・ジズ』の名盤群を鼻から聴いていないからではないのか?

 ビクター・ベイリーオマー・ハキムの持ち味を生かす音造りを展開して,完全に全盛期のパワーを取り戻している!
 管理人がリアルに体感したのはフュージョン・シーンのウェザー・リポートフュージョンウェザー・リポートから漏れ出ているジャズ・コンボのエッセンスを楽しませてもらったものだ。

 さて『ジス・イズ・ジズ』の触れ込みの一つは,ジョー・ザビヌルの新グループ“ウェザー・アップデイトデビュー作”であり“ウェイン・シューター色の追放”であった。
 それまで管理人は「自分はウェイン・ショーターが好きだからウェザー・リポートも好きなんだ」と思っていた。仮にそうであれば,ウェイン・ショーターがサイドメン的に扱われる『ジス・イズ・ジズ』を評価しなかったことだろう。
 
 誤解があっては困るが,これはウェイン・シューターがいけなかった,という意味では決してない。事実ウェイン・ショーターの抜けた,NEWウェザー・リポートは失墜する。
 何が言いたいのか? それは双頭コンボとしてのウェザー・リポートは終わった,という事実である。

THIS IS THIS-2 ジャコ・パストリアス在籍時のウェザー・リポートの成功は「バンドとしての絶妙のバランス感覚」にあった。ジョー・ザビヌルが楽曲の全体像を作り,そこにウェイン・シューターが色付をする「双頭リーダー」たち。そこにジャコ・パストリアスが加わることでバンドとしてクリエイトする。最後にオールランダーとしてのピーター・アースキン

 そうして『ジス・イズ・ジズ』でウェザー・リポートは見事に「バンドとしてのバランス感覚」を取り戻した。しかし再構築して出来上がった姿・形は,以前のような双頭コンボではなく,ジョー・ザビヌルのワンマン・バンドとなったのだ。

 過去にギタリストとしてジョン・マクラフリンソニー・シャーロックをゲストとして迎えたことはあったが,ウェザー・アップデイトの“目玉”として迎えたカルロス・サンタナとの相性が秀逸! ジョー・ザビヌルカルロス・サンタナウェイン・シューターの立ち位置を与えている。

 ウェイン・シューター自身も吹っ切れたものがあったのだろう。ジョー・ザビヌルから与えられた短いパートで最高のテナーソロを聴かせている。何ともハッピーで皮肉な結末である。

 
01. THIS IS THIS
02. FACE THE FIRE
03. I'LL NEVER FORGET YOU (Dedieated to the memory of my parents)
04. JUNGLE STUFF, Part I
05. MAN WITH THE COPPER FINGERS
06. CONSEQUENTLY
07. UPDATE
08. CHINA BLUES

 
WEATHER REPORT
JOSEF ZAWINUL : Keyboards
WAYNE SHORTER : Saxophone
VICTOR BAILEY : Bass
MINO CINELU : Percussion, Vocals
OMAR HAKIM : Drums
PETER ERSKIN : Drums

CARLOS SANTANA : Guitars
MARVA BARNES : Vocal
COLLEEN COIL : Vocal
D.SIEDAH GARRETT : Vocal
DARRYL PHINNESSEE : Vocal

(コロムビア/COLUMBIA 1986年発売/32DP 470)
(ライナーノーツ/小川隆夫)

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