TIMELESS-1 「逆輸入」という言葉がある。「MADE IN JAPAN」が海外で高く評価され,その人気ぶりから我が国でもブレイク,という図式。
 SONYの“WALKMAN”。TOSHIBAの“DynaBook”。TOYOTAの“レクサス”…。数え上げれば,枚挙にいとまがない。

 しかし「MADE IN JAPAN」の逆輸入は,なにも“ハード”に限定されたものではない。“ソフト”例えばミュージシャン! 管理人の世代で語れば絶対的にYMOなのだが,最近でも大物の「逆輸入」が続いている…。

 倖田來未は日本より先にアメリカでデビューを果たし即ブレイク。デビュー・シングル【TAKE BACK】は,ビルボードの “ホットダンスミュージック・マキシシングル・セールスチャート”で堂々の初登場20位を記録している。
 倉木麻衣(Mai−K)も日本より先にアメリカ・デビューを果たし即ブレイク。インディーズからのデビュー・シングル【BABY I LIKE】が即日ソールドアウト!
 今をときめく歌姫二人も,きっかけは「逆輸入」だったのだ。

 そして,ここに一人の“ピアノの歌姫”がいる。Sayaである。
 Saya斉藤栄弥)も,まずアメリカで認められ,後に日本デビューを果たした「逆輸入」ジャズ・ピアニスト
 Sayaの奏でるジャズ・ピアノは日本人以上に日本人っぽい音を出す。ワビサビ+西洋かぶれ+ジャズ。そこがアメリカでも受け入れられた理由なのだろう。

 『TIMELESS』はSayaのルーツである,クラシックをジャズにアレンジした曲と,クラシックの香り漂うオリジナルで固めた新録音4曲を含むジャズ・クラシック・ベスト盤である。

 昔からジャズとクラシックの融合を目指した多くの駄作が制作されては消えていったが『TIMELESS』はその数少ない成功例! それこそ“アレンジャー”Sayaの成せる技!
 軽やかな8ビートにエレガントなピアノを乗せた温かいタッチがメロディー・ラインの美しさを引き出している。Saya独自の解釈&ハーモニーが原曲を崩しすぎず,それでいてアドリブを随所に織り交ぜた“絶妙のバランス”で聴かせてくれている。

 管理人にとって,こんなに楽しくバッハやベートーベンを聴いたのは実に久しぶりの経験だった。『TIMELESS』と初めて接した時の“心地良さ”に興奮した日のことを今でも覚えている。Sayaの書き出すバッハやベートーベンの楽譜には,最高の一音が,時に加えられ,時に間引きされている。
 『TIMELESS』と=「PRICELESS」!

 無い物ねだりで欲を言えば“ジャズ・ピアニスト”としてのSayaをこよなく愛するファンとしては,もっとリズム隊にも凝った楽譜を用意して,ピアノとリズム隊とのインタープレイも聴かせて欲しかったのだが…。

TIMELESS-2 しかし,それでは『TIMELESS』のコンセプトにはそぐわない。『TIMELESS』の聴き所は,絶対的なAメロ,絶対的なBメロには手を加えずに大サビでのアドリブも1箇所だけに注力する“アレンジャー”としてのSayaにある。

 『TIMELESS』でのSayaはクラシックも弾く“ジャズ・ピアニスト”として“ポップ&キュートな”ジャズの表情で聴かせてくれる。本職のジャズ寄りではなく,前職のクラシック時代の美しい思い出を引っ張り出している感じ。

 野球で言えばキャッチャーである。キャッチャーと言えば古田である。2006年の古田敦也はプレイング・マネージャー。正に『TIMELESS』でのSayaの役所である。
 ん? 城島の方が近いかな? 単身アメリカへ渡った城島であるが,数年後にはSayaのように,ホークスへ「逆輸入」してもらいたいものである。ねっ,孫さん。

PS Sayaファンにとっての『TIMELESS』の真価は,本邦初登場の【VIA SPRING】【CHOPIN IN CARIBBEAN (NOCTURNE OP.9 NO.2)】【BUTTERFLY】収録にある。Saya幻のアメリカ・デビュー盤『DESTINATION FARAWAY』から3曲も聴ける〜。

 
01. Air
02. Flower Walz
03. Piano Sonata Op.8 No.2
04. Gymnopedies No.1
05. Clair de Lune
06. Via Spring
07. Chopin In Caribbean
08. Butterfly
09. Simple Poem
10. Prelude
11. Etude Op.10 No.3
12. Pavane
13. Timeless

 
SAYA : Piano, Synthesizer
JOHN SHIFFLETT : Bass
MARK WILLIAMS : Bass
DAVID PULPHUS : Bass, Guitar
JASON LEWIS : Drums
DESZON CLAIBOME : Drums
JASON MARSALIS : Drums
CHRIS CAMOZZI : Guitar
MIKE SPIRO : Percussion
PAISLEY : Programming

(ポニーキャニオン/LEAFAGE JAZZ 2005年発売/PCCY-30072)
(ライナーノーツ/Saya)

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