LACH DOCH MAL-1 バド・パウエルセロニアス・モンクといった“大男”のジャズ・ピアノを聴くようになって偏見は消えたが,管理人がまだ子供だった頃,ピアノは“女の子が弾くものだ”と思い込んでいた。同級生の男子がピアノを習っていると聞くと,率先してバカにしていた記憶がある。
 そう。ピアノは「いいところのお嬢さんがリボンをつけて弾く」楽器。発表会でドレスを着てクラシックを演奏するあの姿…。根も葉もない偏見であった。

 しかし,あるジャズメンとの出会いを経て,前述のイメージが再び鮮明に浮かび上がってきた。山中千尋である。
 写真で見る山中千尋は,身長150cm? メチャ小柄で可憐でキュートで,正に管理人が子供の頃にイメージしていた「赤い靴はいてた女の子」にぴったり。ちーたん,管楽器でも弦楽器でもなくピアノを選んでくれてありがとう。

 ELTの“モッチー似”なので,勝手にそう思ってしまうのだが,いかにも“ホワッとして,フワッとして,ボーッとした”(←ゴメンナサイ)世間の汚れなど知らない素直で清楚なお嬢さん風の雰囲気! これこそ“繊細な西洋楽器”ピアノにドンピシャリ!
 山中千尋こそ,管理人が理想とするエレガント・ピアノの“申し子”に思える逸材である。

 しかし山中千尋は巨○であったりもする。このギャップ! これが彼女のジャズ・ピアノにも如実に当てはまる。
 かわいいと思って油断していると面食らう。いや。刺されてしまう。「あずみ?」「くノ一?」「キル・ビル?」である。
 …といった紹介の仕方は大袈裟かもしれないが,一音一音が明瞭で“芯の強さ”を感じさせる山中千尋ジャズ・ピアノは,下手な男性のタッチよりも力強く“凛とした表情”を見せることだけは確かである。この“凛とした”という表現が一番“しっくりくる”。

 『LACH DOCH MAL』(以下『ラッハ・ドッホ・マール』)は,そんな「女の子女の子した」繊細な表情と「あずみ」の力強さが同居した,山中千尋ジャズ・ピアノを楽しめる。
 トラック毎に,曲調毎に,演奏スタイルが変化している。優しい曲は思いっきり“チャーミング”に。燃える曲は思いっきり“ダイナミック”に。抽象的ではなく,ズバッと主題をブッタ切る。山中千尋も,美人に多いという例にたがわず“竹を割った性格”の持ち主なのかもしれない。

 この“七変化的なカラフルさ”が売りの『ラッハ・ドッホ・マール』であるが,聴き終わった時の印象は驚く程まとまっている。
 ズバリ,特徴は“瑞々しい透明感”! 『ラッハ・ドッホ・マール』にハード・バップ的な“泥臭さ”は一切感じない。これには山中千尋のルーツがクラシックにあり,バークリー音楽院首席卒業〜NYで活動中と言うエリート的な“育ちの良さ”が影響していることと思う。健康的で,どことなく非ジャズ的な…。

LACH DOCH MAL-2 正直に言うと,やはり管理人も巷のジャズ批評家と同様,澤野工房時代の“ブッ飛んだ”山中千尋が好きだ。

 『ラッハ・ドッホ・マール』は,澤野工房時代の“お馴染み”リズム隊=ラリー・グレナディアジェフ・バラードとの再演作。
 “完全復活”を期待していたのだが“良い意味で”裏切られてしまった。3人とも日々進歩しているのだがら,この種の音楽的変化は当然かも…。ここは潔く受け入れてしまおう。

 前作『OUTSIDE BY THE SWING』(『アウトサイド・バイ・ザ・スウィング』)でも感じた違和感は,インディーズとメジャーの制作スタンスの違いなのかも? 万人受けを狙って,山中千尋の非ジャズ的なセンスが全面に押出されている印象。メジャーは“売れてナンボ”の世界。制約が多いのかなぁ。

 なお『ラッハ・ドッホ・マール』の初回限定盤はDVD付! もちろん管理人も初回限定盤をGET! ピアノを“目まぐるしく”ダイナミックに“弾き鳴らす”山中千尋がアグレッシブ! ちーたんファンなら必見の“華麗な”映像美は見てのお楽しみ!

 
DISC 1 CD
01. QUAND BIRON VOULUT DANSER
02. SABOT
03. SERENADE TO A CUCKOO
04. RTG
05. THE DOLPHIN
06. NIGHT LOOP
07. ONE STEP UP
08. LACH DOCH MAL
09. LIEBESLEID
10. MODE TO JOHN
11. WHAT A DIFF'RENCE A DAY MADE
12. THAT'S ALL

DISC 2 DVD
01. ONE STEP UP

 
CHIHIRO YAMANAKA : Piano
LARRY GRENADIER : Bass
JEFF BALLARD : Drums
JOHN CARLINI : Guitar

(ヴァーヴ/VERVE 2006年発売/UCCJ-9077)
★【初回限定盤】 CD+DVD

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詩編92編 年を取っても衰えない
坪口昌恭 『VIGOROUS