THE SUMMER KNOWS-1 管理人は頑固に“この道一筋”職人気質のジャズメンが好きなのであるが,マルチな才能溢れるジャズメンにとって,本職以外の楽器にチャレンジしたくなるのも当然であろう。

 ピアニストギタリストならアコースティックエレクトリック。ホーン奏者なら二刀流,例えば,木管奏者であればアルト・サックスフルートテナー・サックスソプラノ・サックスといったパターン。金管奏者ならトランペットコルネットトランペットフリューゲル・ホーン,と相場は決まっている。

 楽器を持ち替えたとしても,そのジャズメン特有のクセ,特徴までは変わらない。音色の変化が表現の幅を広げてくれるに過ぎない。そう。本質的には常に同じはずなのである。
 しかし,稀に楽器の持ち替えが“劇薬”になる場合がある。本職の楽器では決して見せない一面を“ここぞ”とばかりに露わにする。要は持ち替えた楽器の方が,そのジャズメンの個性=本質に“ハマっている”場合があるのだ。

 その代表格が“叙情派”トランペッターアート・ファーマー奏でるフリューゲル・ホーンであろう。
 アート・ファーマーと言えば,ご存知,ハード・バップ・トランペッター。ただしクリフォード・ブラウン流の“ストレートな”熱演タイプではなく,マイルス・デイビス流の“抑制された”熱演タイプである。

 以前に何かの文献で,素の彼も内省的で気が弱かった,と読んだ記憶があるのだが,アドリブにおける語り口からして“叙情派”トランペッターと言うキャッチ・フレーズは伊達ではない。
 そんな“叙情派”アート・ファーマーの本領発揮がフリューゲル・ホーンフリューゲル・ホーンは幾分暗めで輪郭がぼやけた?抽象的な音色。
 バラードとの相性がチリバツな,甘く・切なく・悲しく響く。全てがまろやかで柔らかく,朴訥にささやくような楽器,と書くと大袈裟?

 “いぶし銀”トランペッターであるアート・ファーマーの個性を引き出すために,フリューゲル・ホーンが存在するのか,はたまたフリューゲル・ホーンの個性を引き出すためにアート・ファーマーが必要なのか,これはもう「コロンブスの卵」!
 とにかく管理人の中では,アート・ファーマーと来ればトランペッターではなくフリューゲル・ホーン奏者なのである。

 『THE SUMMER KNOWS』(以下『おもいでの夏』)は,フリューゲル・ホーン奏者としてのアート・ファーマーに焦点を当てた,全曲,フリューゲルによるワン・ホーン・アルバム。
 ピアノシダー・ウォルトンベースサム・ジョーンズドラムビリー・ヒギンズ,そして奏でられるスタンダード集。

THE SUMMER KNOWS-2 このメンバーにこの選曲。悪かろうはずがない。この“お膳立て”を受けたアート・ファーマーも期待通りに,ソフトでまろやかで奥深い名演で応えている。
 ズバリ『おもいでの夏』のハイライトとは,完成された「黄金比のリリシズム」なのである。

 ところで,バラードとの「相性」の良さについて先述したので『おもいでの夏』は全編バラード,とお思いかもしれないが,バラードは全6曲中3曲である。

 しかしこれぞ選曲の妙! バラードが“秀逸”なのは当然としてバラード以外の3曲の「爆発するパッセージ」の名演が却ってフリューゲル・ホーン奏者=アート・ファーマーを強く印象付けている。

 そう。『おもいでの夏』には“いぶし銀”アート・ファーマーの“叙情性”が色濃く記録されている。ハード・バップ・トランペッターとしてのアート・ファーマーしか知らないジャズ・ファンに一聴をお奨めしたい。

 
01. THE SUMMER KNOWS
02. MANHA DO CARNAVAL
03. ALFIE
04. WHEN I FALL IN LOVE
05. DITTY
06. I SHOULD CARE

 
ART FARMER : Fluegel Horn
CEDAR WALTON : Piano
SAM JONES : Bass
BILLY HIGGINS : Drums

(イースト・ウィンド/EAST WIND 1977年発売/PHCE-2041)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/牧芳雄)

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