アナログレコード

 ジャズフュージョン界に,ファミリー・バンド兄弟バンド)は「あるにはある」が,その分母の大きさに対する分子の少なさに釈然としないものがある。
 例えば,ニューオリンズのジャズ環境! ジャズ発祥の地=ニューオリンズは,今日でも巷の隅々までジャズで溢れている。そう。街中,近所中,大小の通りでジャム・セッション
 そしてその中心がファミリー・バンド! 家族の重要なコミュニケーション手段の一つが共にジャズを演奏することなのである。

 さて,ファミリー・バンドの特徴は,楽器がかぶらないこと→目指すは家族でのビッグ・バンド。家族内にピアニストが2人いるなど有り得ない。サックスやるならアルトテナーで切り分ける。
 そう。マルサリス家(エリスブランフォードウイントン)しかり,アダレイ兄弟(キャノンボールナット),ユーバンクス兄弟(ロビンケビン),ジョーンズ3兄弟(ハンクサドエルヴィン)しかり ← ※ジョーンズ兄弟は正確には6人兄弟です。

 初顔合わせのセッションもいいが,気心・手の内を熟知した“バンド・サウンド”こそ名演を生む。その名演はそのままデビューへと導かれる,と思ってしまうのは素人考え?
 でも普通に考えて,折紙付きの“質の良さ”=ファミリー・バンドをもっと聴いてみたい! 名演を聴けないのはジャズフュージョン界にとって,いや,全世界にとっての大損失なのである!

 しかし,こんな管理人の願い届かず,ファミリー・バンドは大抵デビュー・即解散! 家族揃ってすぐに他流試合へと出かけてしまう。
 そんな中,楽しく(根気強く)ファミリー・バンドを継続していた兄弟がいる。ランディマイケルの双頭コンボ『ブレッカー・ブラザーズ』である。

 そんな“仲良し兄弟”『ブレッカー・ブラザーズ』の最近作が,2006グラミー受賞作SOME SKUNK FUNK』(以下『サム・スカンク・ファンク』)!
 『サム・スカンク・ファンク』は,公式にはランディ・ブレッカーのソロ=『ランディ・ブレッカー・ウィズ・マイケル・ブレッカー』名義であるが,非公式には『ブレッカー・ブラザーズ』の最近作と言い切ってよい。

 余談になるが,あの史上最強超有名盤,キャノンボール・アダレイの『サムシン・エルス』が“実質”マイルス・デイビスのものであることから,ジャズフュージョン界には,名義人はさほど重要視しないという“定説”がある。
 そう。『サム・スカンク・ファンク』=『ブレッカー・ブラザーズ』は全く問題なしなのら〜!?
 ツッコミが欲しいのは,上記「最近作」というくだり。マイケル・ブレッカーが故人となってしまった今“最終作”“遺作”と述べるべきであるのは承知しているが…。
 ここは,新録音は不可能でも「過去の未発表音源を今後発売して欲しい」との願いを込めて,敢えて「最近作」で勝負です。

 『リターン・オブ・ブレッカー・ブラザーズ』にかけて『リターン・オブ…』名義人! 話を戻そう。
 主役であるランディ・ブレッカーは,今でこそ“マイケル・ブレッカーの兄”と称されることが多いが,ランディは,ピンでもバリバリ,超一流の「ウルトラ・テクニカル・トランペッター」である。
 あのマイケルの最初のアイドルが,兄・ランディ・ブレッカーだったのは有名な話。あのマイルス・デイビスより先に電化路線を歩んでいたのもランディ・ブレッカーである(これは有名ではないのかも)。
 そう。ランディ・ブレッカーこそ『ブレッカー・ブラザーズ』を牽引し“カッコイイ”フュージョン・シーンの最前線を疾走してきた,数少ない“フュージョン・エリート”なのである。

 “フュージョン・エリート”ランディ・ブレッカーの近年のテーマは「ジャズ回帰」! 『サム・スカンク・ファンク』は『ブレッカー・ブラザーズ』の往年の“ヒット・パレード集”であるが,ランディ・ブレッカーの「ジャズ回帰」正しく,アレンジがジャズビッグ・バンド
 WDRビッグ・バンドの“分厚い音圧”が,フュージョンの名曲をジャズ名演へと昇華させる! 単なる過去の焼き直しとならないのが,ランディ・ブレッカーの進歩の証し! ジャズメン魂を手に入れた“フュージョン・エリート”の快進撃を是非聴いてほしい。

PS いや,やっぱり聴き所は,ランディ・ブレッカーよりマイケル・ブレッカーでしょ?

(2003年録音/VICJ-61289)

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