
首を縦に振る人の大半は,モブレーの代表作『ソウル・ステーション』の愛聴家であろう。ソフトで控え目で繊細で心温まる“アンニュイ”なハンク・モブレー! これぞジャズ・ファンにとっての“癒やし”の名盤である。
ハンク・モブレーは“お人好し”である。メチャいい人! こう書くと,首を横に振る人がいることも分かっている。
首を横に振る人の大半は,B級ハード・バッパーとしてのハンク・モブレー・ファンであろう。アグレッシブなブルース調で“ブイブイ”吹きまくる! 確かに“強面”のハンク・モブレーこそ,ハード・バップ・テナーの大スター! 生涯ハード・バッパーであり続け,自己の音楽スタイルを貫き等した“姿勢”においても“ハード”な人に違いない。
さて,ここで再度宣言する! ハンク・モブレーは“お人好し”である。メチャいい人! この宣言はハンク・モブレー=“強面”ハード・バッパーと“思い込んでいる”読者に向けての言葉である。
今回はハンク・モブレー=“強面”支持者が,その持論の根拠とする『HANK MOBLEY WITH DONALD BYRD AND LEE MORGAN』(以下『ハンク・モブレー・セクステット』)を例に,管理人の“お人好し”持論を展開してみよう。
『ハンク・モブレー・セクステット』は,ブルーノート(12インチ)におけるハンク・モブレーの初リーダー作! 初リーダー作と来れば“自分がいかに目立つか”が相場であろう。
しかし『ハンク・モブレー・セクステット』の売りは,ドナルド・バードとリー・モーガンの豪華な共演にある! “ポスト・ブラウニー”を狙う,若き2人の天才トランペッターが“火花散らした”アドリブ合戦を繰り広げる!
「この2人のどちらが凄いか?」論議が沸騰している最中での起用である。当然,話題は2人のトランペッターに集中し,肝心のリーダー=ハンク・モブレーは“ついで&おまけ”扱いである。全ては予想通りの霞ヶ関…。
ドナルド・バードとリー・モーガンの参加については,プロデューサーであるアルフレッド・ライオンの意向もあったであろうが,それでも自分以外に世間の注目が集まることが「見・え・見・え」の中,打診を快く受け入れ,3管セクステット用の新曲まで書き下ろした“奇特な人”。恐らくレコーディング中は,自分の両脇にいる“年下タレント”の熱演に“ニンマリ笑顔”だったに違いない。
ねっ,ハンク・モブレーって“お人好し”でしょ? メチャいい人でしょ?
加えて,モブレー=お人好し説にはもう一つ理由がある。モブレー=強面説の根拠とされているように『ハンク・モブレー・セクステット』での,ハンク・モブレーの演奏は強い! 敬愛するソニー・スティットばりのストレートなフレージングが“乱舞”する!
管理人は『ハンク・モブレー・セクステット』を一聴した時,正直とまどった。これが『ソウル・ステーション』と同じテナー奏者の演奏とは思えなかった。
あのソフトで控え目で繊細で心温まる“アンニュイ”なハンク・モブレーの姿はない。ここにいるのは,周りの人に嫌でも自分を合わせてしまう“お人好し”のテナー・マン。
一人きりだと静かなのに,共演者が“ワッ”といくと,行く気がないのについて行ってしまう。周りに“つられて”心にもない強面フレーズを繰り出してしまう。自分の個性を押し殺し“ついつい”周りに合わせてしまう。
『ハンク・モブレー・セクステット』での,ハンク・モブレーは“強面”ハード・バッパーに聴こえるが,これは“お人好し”の裏返し。
やはり聴き所は3管なのに2管! そう。ハンク・モブレーが全てをお膳立てし“ナイス・アシスト”を決めた,ドナルド・バードとリー・モーガンのアドリブ合戦に違いない。
01. TOUCH AND GO
02. DOUBLE WHAMMY
03. BARREL OF FUNK
04. MOBLEYMANIA
(ブルーノート/BLUE NOTE 1957年発売/TOCJ-1540)
(ライナーノーツ/レナード・フェザー,上条直之,高橋徹)
(ライナーノーツ/レナード・フェザー,上条直之,高橋徹)
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モブレーの“本質を突いた”素晴らしいコメントです! わかっちゃいるけど,ついつい聴いてしまう,愛すべきジャズメン,それがハンク・モブレーです。