
チェット・ベイカーの別名は「ジャズ界のジェームス・ディーン」。チェット・ベイカーこそ,ハリウッドの映画音楽まで担当したジャズ界随一の男前! 白人で女たらしなウエスト・コースト・ジャズの「シンボル」なのである。
…と,言わば使い古された“定番”が「チェット・ベイカー=ジェームス・ディーン説」であるが,近年どうも雲行きがあやしい。多くの若者にとって,ジェームス・ディーンってダレ? もはやジェームス・ディーンは死語である。
そこで管理人からの新提言! チェット・ベイカーとは「ジャズ界の新庄剛志」である。エ〜ッとドン引きする前に人の話は最後まで聞いてほしい。「チェット・ベイカー=新庄剛志説」は,いきつけのジャズ・バーでは結構評判いいんですよっ。
「記録より記憶に残る男」新庄剛志。敬遠球をサヨナラ・ヒットしてみたり,阪神との5年総額12億円の契約を蹴って,年俸20万ドルでニューヨーク・メッツへ移籍したり…。帰国後の北海道日本ハムでの活躍は承知の通り。主に本業以外のパフォーマンスで人気を博した。
しかしSHINJOがパフォーマンスで遊べたのは,プロ野球選手としてしっかり結果を残せたから。そして結果を残せたのは彼の「天性の素質」の良さ。あのノムさんが本気で投手起用を考えていたのだから…。
同様にチェット・ベイカーも本業=トランペッターとしての活躍以上にヴォーカリストとして人気を博した。
“歌うトランペッター”チェット・ベイカーのトランペットの練習時間はいつでも静か。部屋の大鏡の前で“ジェームス・ディーンばりに”ポーズを決めて“どの角度で,どうトランペットを構えたら一番格好良いか?”を研究していた。
そう。無類のカッコつけであり「ジーンズが似合わなくなるのがいやだから下半身は鍛えたくない」発言のSHINJOと同じ練習スタイルを持っていた?
ゆえに,チェット・ベイカーのトランペットには,ひどく何かが欠けている。しかし他の誰にもない何かがある。
チェット・ベイカーのトランペッターとしての特徴はブラス・バンド奏者のようなノン・ビブラート。深みは感じないし,あっさりと消え去っていく。しかし1フレーズで“これぞチェット・ベイカー!”と分かってしまう独特のフレージング! 毎日女のケツを追い回し,ほとんど練習していないにも関わらず,この圧倒的な存在感!
そう。チェット・ベイカーは「天性の素質」だけでジャズ・ジャイアントと呼ばれるまでに成り上がった。あのチャーリー・パーカーやマイルス・デイビスもチェット・ベイカーの「天性の素質」を認めて褒めていたのだった。
そんなチェット・ベイカーだけに“汗かきかき”の熱演は少ない。ビジュアル=トランペットの構え方が重要なのであって,実力の半分も出せばそれなりの名盤が生まれてしまう。SHINJOの「僕はメジャーでも高校野球でも同じ打率」発言と通じる部分であろう。
そんなパンチラ野郎=チェット・ベイカーの全て,パンモロを何とか拝めないものか? そんな欲求不満の特効薬が『CHET BAKER & CREW』(以下『チェット・ベイカー&クルー』)である。

ウエスト・コースト・ジャズの範疇に入れてよい演奏ではあるが,西海岸黒人派との共演で,テイストとしてはハード・バップ! 本場・東海岸の“黒々ビート”をバックに“逞しいラッパ”が鳴り響く! ボビー・ティモンズの好サポートで,チェット・ベイカーの「天性の素質」が明確な形として花開いている。
さて,普段はジャケ買いなどしないし,お奨めもしない管理人だが『チェット・ベイカー&クルー』のジャケット写真に言及しないわけにはいかないだろう。セールから大海原へ身を乗り出し,高らかに出発の合図を吹き鳴らすチェット・ベイカーの姿に「これからイースト・コーストで一旗挙げてやるぜ!」的な“心意気”が写し出されている。
そう。『チェット・ベイカー&クルー』は,チェット・ベイカーによる“脱ウエスト・コースト宣言”の意欲作でもある。
しかし『チェット・ベイカー&クルー』で船出したヨットは,航海途中,酒,女,麻薬の大嵐に見舞われハード・バップには到着できず。このクルーたちとは2作で解散。解散と言えば新庄剛志が昨年末離婚した。新庄剛志の航海も急速にシケだした荒波に呑み込まれなければよいのだが…。
01. TO MICKEY'S MEMORY
02. SLIGHTLY ABOVE MODERATE
03. HALEMA
04. REVELATION
05. SOMETHING FOR LIZA
06. LUCIUS LU
07. WORRYING THE LIFE OUT OF ME
08. MEDIUM ROCK
CHET BAKER : Trumpet
PHIL URSO : Tenor Sax
BOBBY TIMMONS : Piano
JIMMY BOND : Bass
PETER LITTMAN : Drums
BILL LOUGHBROUGH : Chromatic Tympani
(パシフィック・ジャズ/PACIFIC JAZZ 1956年発売/TOCJ-6824)
(ライナーノーツ/ウッディ・ウッドワード,大村幸則)
(ライナーノーツ/ウッディ・ウッドワード,大村幸則)
マタイ22章 最も重要な2つのおきて
ジョージ・ベンソン 『ライヴ・アット・モントルー 1986』
コメント一覧 (4)
私は50年代の“ブイブイ”言わせていた時期のものが好みですが,晩年のチェット・ベイカーからは感動すら覚える“何か”が伝わってきます。聴いて少し重いので手が遠のいてしまうのが残念ですが…。
お褒めいただきありがとうございます。でもチェット・ベイカー=新庄説の寿命も短いと思うので,新庄に変わる次なるスターを探さねば,の毎日です。