MANHATTAN STORY-1 アキコ・グレースの「ニューヨーク三部作」は,どれも甲乙付けがたい名盤であるが,その3枚の中で真っ先に手が伸びるのが『MANHATTAN STORY』(以下『マンハッタン・ストーリー』)である。

 『マンハッタン・ストーリー』のハイライト=【パルス・フィクション】でマイルス・デイビスの【NEFERTITI】をイメージしてしまったものだから,もう大変! アキコ・グレースが演ろうとしてる演奏は,その昔,マイルス・デイビスが演ろうとしていたクリエイティブ!

 『マンハッタン・ストーリー』を,どこからどの曲から聴いても全曲でマイルス・デイビスのあの臭いがしてしまうから,もう大変!
 アキコ・グレースのアップテンポで「ドライブのかかった」演奏が楽しめる。即ちアキコ・グレースの一音足りとも無駄にしない「神がかった」ジャズピアノが楽しめる。

 アキコ・グレースピアノには,きめ細やかさと大胆さ,激しさと優しさが混在している。特徴として感じるのは甘くないピアノだということ。アキコ・グレースは聴衆受けする甘いフレーズを絶対に繰り出してこない。それなのにこんなにも優雅に響いている。抜群のテクニックを頭ではなく心で動かしている証拠であろう。本当に凄いことである。

 アキコ・グレースの「虚飾を捨て去ったピアノ」に追従する,ベースラリー・グレナディアドラムビル・スチュアートが,本気でアキコ・グレースの音楽性に“のけぞっている”。新しい音楽の創造の瞬間に直面して“のけぞっている”。

 だってアキコ・グレースとはブルーノートECMの「嫁の架け橋」となれる大器。そのポテンシャルの高さを目の当たりにしてラリー・グレナディアビル・スチュアートが狂喜している。
 アキコ・グレースブラッド・メルドー以上なのか? アキコ・グレースパット・メセニー以上なのか? 興奮して喰い気味のベースドラムのクリエイティブなリズムが最高に素晴らしい。

 特に長老格のロン・カーターから若手ファースト・コールにチェンジしたラリー・グレナディアベースが新世代のアキコ・グレースの感性に合っているのだろう。ピアノベースがコード・チェンジする瞬間はどれもアキコ・グレースにしても,ラリー・グレナディアにしても互いに想像していた以上のアイディアが見事に融合して新しいリズムを紡いでいる。

 『NEFERTITI』のマイルス・デイビスが『ON THE CORNER』のマイルス・デイビスへと大変貌を遂げた感じに似ていると思う。

MANHATTAN STORY-2 ラリー・グレナディアにしてもビル・スチュアートにしても『マンハッタン・ストーリー』での演奏が人生最高の出来映えではないかとさえ思ってしまう。
 ラリー・グレナディアベースが野太く逞しい。ラリー・グレナディアのピチカートが力強い。この力感を引っ張り出しているのが,紛れもなくアキコ・グレースピアノである。
 ビル・スチュアートも絶好調。スティックにしてもブラシにしても細にして大胆であり,何よりも強い躍動感を生む4ビートでのシンバリングが素晴らしい。この力感を引っ張り出しているのが,紛れもなくアキコ・グレースピアノである。

 スタンダードオリジナルも,傑作と讃えられた前作『フロム・ニューヨーク』より一層の飛躍を遂げている。アキコ・グレースは一体どこまで行ってしまうのか?

 『マンハッタン・ストーリー』で見せたアキコ・グレースの素顔が忘れられない。アキコ・グレースの要らぬ装飾を外したスッピンのジャズピアノが超最高なのである。超好みなのである。

 
01. Libido〜Mediterranean Sundance
02. That Morning
03. Fly Me To The Moon
04. Pulse Fiction
05. First Song
06. Change The World
07. Yours Is My Heart Alone
08. Over The Rainbow
09. Bemsha Swing
10. Two Thirty IN The Morning
11. Song For Bilbao
12. Blue Water

 
AKIKO GRACE : Piano
LARRY GRENADIER : Bass
BILL STEWART : Drums

(サヴォイ/SAVOY 2002年発売/COCB-53025)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/岩浪洋三,アキコ・グレース,寺島靖国,菰口賢一)

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