『FIRST MEETING』の1曲目は【TETHERED MOON】(以下【テザード・ムーン】)。

 【テザード・ムーン】の冒頭から7分ぐらいまでの静かな静かな入りからは想像することのできない,中盤から後半にかけての「青白い盛り上がり」に,バンド名の冠を付けた「テザード・ムーン」の呼吸が聞こえてくる。

 これは凄い演奏である。8分台でギアを入れた菊地雅章ピアノが10分台以降ではみるみる姿を変えていく。
 そんな菊地雅章のスパークを待ってました!とばかりに,セオリーを無視して難解なベース・ラインを打ち上げまくるゲイリー・ピーコックの渾身のプレイを解読した,アンカー役のポール・モチアンの変幻自在のリズムが「テザード・ムーン」の3人を見事に結び付けていく。
 遠く離れていたはずなのに,いつの間にかくっついており,気付いたらまた距離がある。でも距離があるのにすぐ隣りにいるかのような濃密すぎる演奏である。

 【テザード・ムーン】に限らず「テザード・ムーン」の場合,どんなに熱く盛り上がっても,最高沸点には絶対に到達しない。水の最高沸点100度を例として語るなら「テザード・ムーン」の場合は,沸騰してもそれは90度止まり。90度とは小さい泡が大きい泡になってくる温度のこと。「テザード・ムーン」の場合は,この状態をキープするのであって,95度のように大きめの泡ばかりに変わるのではなく100度のようにお湯がぼこぼこと鍋からこぼれ出したりはしない。大きな泡になったとしてもそこにはまだ小さな泡が混ざっている。ふつふつと熱く盛り上がりながらも,決して漏れ落ちることのない,複雑な音の旨味!

 そう。【テザード・ムーン】は長時間の煮込み料理でしか絶対に味わうことのできない,ジャズの希少な名演である。【テザード・ムーン】での名演が誕生するためには19分もの時間が必要だったと管理人は思っている。余りにも長すぎる演奏時間ゆえにファースト・アルバムには収録できずにお蔵入りしていたのだろうが,1曲68分10秒の超大作「パット・メセニー・グループ」の『ザ・ウェイ・アップ』と通じる部分があることだろう。

 映画でもタイタニックは5時間越え。無駄のように思えて無駄ではない,平凡で静かな時間があればこそ。
 菊地雅章ゲイリー・ピーコックポール・モチアン〜管理人の何でもない日常…。

 
TETHERED MOON
MASABUMI KIKUCHI : Piano
GARY PEACOCK : Acoustic Bass
PAUL MOTIAN : Drums

FIRST MEETING-1
FIRST MEETING
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