
フレディ・ハバードを掴まえて「尻つぼみ」と称するのは,単純に「ハード・バップが最高だ」と思い込んでいるジャズ・ファンたちである。
彼らの批評の物差しとは音楽形式の優劣であって肝心の演奏ではない。彼らの妄想の中では,エレクトリックよりアコースティックが偉く,16ビートよりも4ビートが偉い。単純に雰囲気がフュージョンしている音楽は,そのアドリブがどんなに優れていてもジャズとしては評価されない。
現代最高のトランペッターはウイントン・マルサリスである。ウイントン・マルサリスを聴いた直後に下手なトランペッターは聴く気になれない。
絶対に有り得ないことだが,仮にウイントン・マルサリスがフュージョン・サウンドをバックにジャズ・トランペットを吹き上げたらどうなるのだろう? きっと一斉に“ウイントン・バッシング”が湧き上がることだろう。
理由はこれまた単純であってウイントン・マルサリスが“伝統のジャズ”を捨てたから…。
どう? これって変でしょう? 純粋な音楽好きには有り得ない批評でしょう? 肝心の演奏内容は無視してフュージョンっぽい“売れ線”に手を染めたらそれで全てがおしまいなんて…。
しかしこれは仮定の話ではないのです。現実に起きている悲しいナンセンスなのです。これこそが「フレディ・ハバード尻つぼみ説」の真相なのです。
フレディ・ハバードはハード・バップ・スタイルの栄光を守り続ける保守派ではない。ジャズ・シーンの変遷に自らのスタイルを重ね求める新進気鋭のジャズメンである。そう言う意味ではフレディ・ハバードはマイルス・デイビスと同類である。
「フレディ・ハバード尻つぼみ説」の支持者には電化マイルスを拒否する人が多いのも納得である。マイルス・デイビスは電化以降が最高なことも知らないくせに…。
そう。スタイル変われどマイルス・デイビスはマイルス・デイビス。スタイル変われどフレディ・ハバードはフレディ・ハバードなのである。
しかしマイルス・デイビスとフレディ・ハバードの決定的な違いは,マイルス・デイビスが流行を産み落とす側のジャズメンであったのに対して,フレディ・ハバードは作られた流行に乗る側のジャズメンだということ。
それゆえに幸か不幸か,マイルス・デイビスは2度とメインストリーム・ジャズに戻ることはなかったが,フレディ・ハバードはウイントン・マルサリスが作り上げた“新伝承派ムーブメント”に乗せられて“ストレート・ア・ヘッドなジャズ畑”へと舞い戻ることができた。
『FACE TO FACE』(以下『フェイス・トゥ・フェイス』)は,フレディ・ハバードが流行のフュージョン畑に腰を据えつつも,これまた流行のアコースティック・ジャズへの回帰を模索し始めた時期のアルバムである。

ズバリ『フェイス・トゥ・フェイス』の聴き所は,互いに“超絶技巧”と謳われるフレディ・ハバードとオスカー・ピーターソンのハイ・テクニックの応酬合戦!
そんな2人の高速バトルにギターのジョー・パスとベースのニールス・ベデルセンの芸達者が強烈に絡みつくからもう大変! スイングしたバックに呼応するテクニカル系のトランペットが個性豊かに鳴り響く! 世界最高峰の“ジャズ・トランペット”の大復活である。
実は管理人にとっては,上記,ウイントン・マルサリスの直後に聴けるジャズ・トランペッターの最右翼がフレディ・ハバードなのである。
フレディ・ハバードのトランペットはウイントン・マルサリスのトランペットに負けてはいない。いいや,勢いと高速フレージングではウイントン・マルサリスを凌駕している。
ウソだと思われた読者の皆さんは,騙されたと思って『フェイス・トゥ・フェイス』を聴いてみてほしい。騙されていたのは「フレディ・ハバード尻つぼみ説」を信じてしまった自分の方だった,と目が覚めるに違いない。
01. ALL BLUES
02. THERMO
03. WEAVER OF DREAMS
04. PORTRAIT OF JENNY
05. TIPPIN'
FREDDIE HUBBARD : Trumpet
OSCAR PETERSON : Piano
JOE PASS : Guitar
NIELS-HENNING ORSTED PEDERSEN : Bass
MARTIN DREW : Drums
(パブロ/PABLO 1982年発売/VICJ-60866)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
エレミヤ書9章 エレミヤの深い悲しみ
マーカス・ロバーツ 『ディープ・イン・ザ・シェッド』
コメント一覧 (4)
真面目に今年は電話しましょうね。こちらこそ沙織ちゃんのライブもご一緒してください。本年もよろしくお願いいたします。
『ハブ・トーンズ』でのハービー・ハンコックとの共演はオスカー・ピーターソンとは違ったアプローチのジャズしています。