
あの美音にしてあの爆音にしてあのアウトである。どんな主役でも一音で喰ってしまう。あのマイルス・デイビスが「KENNY」の名前が書かれたプラカードを聴衆に掲げて,ケニー・ギャレットの凄さをアピールした気持ちが理解できる。
デビュー当時のケニー・ギャレットの大爆発は,まだフリー・ジャズに接する前の管理人に取っては随分衝撃的だった。後のゲイリー・トーマスとグレッグ・オズビーのさきがけのようだった。事実,スティーヴ・コールマン等の「M−BASE」が世に出てきた時の感想は,こんなの初めて,ではなくて,ケニー・ギャレットっぽい,だった…)。
しかし,そんなケニー・ギャレットの魅力は多面体である。最初はケニー・ギャレットの激しい爆音が好きで聴いていたのだが,段々と好みが変わってきて,ケニー・ギャレットに魅了されたのは,圧倒的なオーバートーン! アルト・サックスというよりもジョン・コルトレーンやマイケル・ブレッカーに通じるテナー・サックスのような音! またしてもマイルス・デイビスの語録であるがケニー・ギャレットを称して「ジョン・コルトレーンとウェイン・ショーターを足して2で割ったような」アルト・サックスの吹きっぷりにKOされてしまった。
その後は(この期間が一番長いのだが)ケニー・ギャレットの「代名詞」である,徹底的なアウト・フレーズに参ってしまった。この頃の管理人はケニー・ギャレットのアウトに「狂っていた」。もう身体が無意識のうちにアウトに反応する状態であって,あのアウトが流れる度に電流が走り全身が痺れるような感覚があった。俗にいう「パーカー・ショック」ではなく「ケニー・ギャレット・ショック」をリアル・タイムに体験できた。
決定的だったのはマーカス・ミラーの『テイルズ』である。特に【TRUE GEMINIS】【MEDLEY:VISIONS JOY〜INSIDE MY TEARS】のケニー・ギャレットのアウトが「神」! マーカス・ミラー&ミシェル・ペトルチアーニの双頭名義の『ドレフュス・ナイト』も最高レベルの演奏である。
そんな感じで,ケニー・ギャレットの音源を全部チェックし熱心に追い続けていたが,ケニー・ギャレットも徐々にジャズ化していき,サックス・トリオにチャレンジするなどストレート・アヘッドなジャズ,あるいはノリノリなファンキー路線へとまっしぐら!
押し込むのではなく“伝家の宝刀”アウト・フレーズを引っ提げて,新しいメロディーと斬新なリズムを追求している様子に思えた。
そんな時に,突如届いた『STANDARD OF LANGUAGE』(以下『スタンダード・オブ・ランゲージ』)の音に驚いた。
ここ数年の取り組みの成果がバック・サウンドに新鮮に投影されている一方で,ケニー・ギャレットのアルト・サックスだけが,マイルス・デイビス・バンド時代の爆音スタイルへと戻っている! 久々に「ケニー・ギャレット・ショック」の電流が「頭のテッペンから足の先まで」流れ出る! あの時代の“吹きまくり”で“激しすぎる”ケニー・ギャレットが帰ってきた!

リズム隊は構成が決められているが,その上で調性を無視して荒ぶるラフな吹きっぱなしが,突出した「孤高のアルト・サックス」を強く意識させる。調性から外れた,骨太で激しすぎるアウト・フレーズのダイナミズムが最高にHOTである。
最初から最後まで「ハイテンション・ハードブロウ」な『スタンダード・オブ・ランゲージ』であるが,この猛烈なサウンドの背景にはケニー・ギャレットの後ろで,ケニー・ギャレットにパワーを注入し続けた2人の若手ドラマー,クリス・デイヴとエリック・ハーランドの存在が大きいと思う。
ケニー・ギャレットという人は,ジャズ界の2大伯楽であるマイルス・デイビスとアート・ブレイキーに見出された人だけに,ケニー・ギャレット自身も若手を「青田買い」する人で『スタンダード・オブ・ランゲージ』に起用したクリス・デイヴとエリック・ハーランドのドラミングを耳にした感じ,これは「第二,第三のブライアン・ブレイド」になれる逸材である。
全く無名の若手ドラマーだったから,当初はケニー・ギャレットのアルト・サックスばかりを聴いていたが,何度も繰り返し聴き込んでいるうちに,ケニー・ギャレットを“煽り続ける”小気味良いドラミングに自然と耳が行くようになった。
コンビを組むのが“重鎮”チャーネット・モフェットというのが大きいのだろう。クリス・デイヴにしてもエリック・ハーランドにしても,音楽全体を大きく捉えて要所要所をビシッと締め上げていく。叩きまくりながら的確な指示を飛ばし,ここぞのタイミングでチャーネット・モフェットにケニー・ギャレットの首輪を付けさせては,ベースを手綱代わりにアルト・サックスを自由に走らせていく。
バンド全体の演奏を瞬時にコントロールできる優れたドラマーを迎えたからこそ制作できた「ハイテンション・ハードブロウ」による,ストレート・アヘッドな“高速爆音ファンクネス”ジャズ。
『スタンダード・オブ・ランゲージ』でのケニー・ギャレットの“アウトする(シャウトする)爆音魂”を聴いてほしい。
01. What Is This Thing Called Love?
02. Kurita Sensei
03. XYZ
04. Native Tongue
05. Chief Blackwater
06. Doc Tone's Short Speech
07. Just a Second to Catch My Breath
08. Gendai
09. Standard of Language I II III
KENNY GARRETT : Alto Saxophone, Soprano Saxophone
VERNELL BROWN : Piano
CHARNETT MOFFETT : Bass
CHRIS DAVE : Drums
ERIC HARLAND : Drums
(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 2003年発売/WPCR-11497)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
創世記19章 ソドムとゴモラ
WEATHER REPORT 『スポーティン・ライフ』