THIS CRAZY TOWN-1 石原江里子は「日本のセロニアス・モンク」である。最近強くそう思うようになった。

 石原江里子ジャズ・スタイルは「ピアノの弾き語り」である。例えるなら,同じく美人ピアニストダイアナ・クラールで決まりであろう。勿論,そう呼んでも何ら差し支えない。事実,管理人も過去に,石原江里子=「日本のダイアナ・クラール」説を唱えていた。しかしそれでも,石原江里子は「日本のセロニアス・モンク」なのだ。

 そう思うきっかけがあった。石原江里子の3枚目『THIS CRAZY TOWN』(以下『ディス・クレイジー・タウン』)である。
 石原江里子は『ディス・クレイジー・タウン』で,前作までの「日本のダイアナ・クラール」路線と決別した。
 カラフルでポップでチャーミングな『月に願いを』が,純粋にいいアルバムだっただけに,ブレイクできなかったのが痛手だったのだろうか? とにもかくにも「美人のお嬢様」を売りにするのはやめて「本格派」へと転身している。

 元々,石原江里子ピアノ一本で,十分世界と勝負できる実力者である。石原江里子の場合「ピアノの弾き語り」と言っても“ピアノに引っ張られて際立つヴォーカル”であった。
 そう。石原江里子ジャズ・ピアノは「ヴォーカルをリードし,しまいのはヴォーカルを追い越していく」強烈なジャズ・ピアノ
 ジャズ・ピアノが好きな人なら絶対耳につく見事なジャズ・ピアノなのである。こんなのあり?なバッキングは“ヴォーカル殺し”のテクニシャンである。

 しかし『ディス・クレイジー・タウン』で“ピアノ優位”だった演奏スタイルが変化した。これまではピアノに引っ張られていたヴォーカルの“押しも押されぬ”存在感!
 この“けだるいヴォーカル”はアストラッド・ジルベルト2世か? 声質といい歌い方といい,本当にもう“嫌になるくらい癖になる”ヴォーカルである。石原江里子の歌声が耳から離れない。
 これは決して技術ではない。聴かせる種類のボーカリストである。この「どんぴしゃ」ルックスにしてこの歌声は有り得ないでしょ? 写真の美貌とのギャップを感じさせる「個性派」ジャズ・ボーカリスト石原江里子の誕生である。

THIS CRAZY TOWN-2 必殺のピアノに必殺のヴォーカル! 石原江里子は「二兎を追って二兎を得た」!
 ピアノに集中するとヴォーカルが,ヴォーカルに集中するとピアノが? 『ア・サウザンド・ウインズ』と『月に願いを』で感じた中途半端な印象が完全払拭されている。
 すでに独り立ちしていたピアノと,ついに独り立ちしたヴォーカルとの“夢の二刀流”が完成したと思う。しかし石原江里子の“真のお楽しみ”はこの後である。

 最高のピアノヴォーカルがブレる。これを敢えてやっている。わざと調子を外している。未だバッキングでピアノが自己主張している。そう。この特徴はセロニアス・モンク・オリジナル!

 ゆえに管理人は“癖持ち”石原江里子を「日本のセロニアス・モンク」と呼び続ける。セロニアス・モンクを名乗れるジャズメンはそうはいない。この称号は管理人から石原江里子へ贈る「最大級の賛辞」である。これからセロニアス・モンクのように評価が上がるかなぁ? 巷の評価が上がらなければ「日本のダイアナ・クラール」説が復活する?

 
01. Quiet Nights Of Quiet Stars/Corcovado
02. This Crazy Town
03. Violets For Your Furs
04. Fly Me To The Moon
05. They Were In Love
06. When Your Lover Has Gone
07. Brazilian Suite No.2
08. Shall We Dance
09. Portrait Of You
10. That Old Black Magic
11. I'm Glad There Is You
12. It's A Wonderful World
13. Nostalgia

 
ERIKO ISHIHARA : Vocal, Piano
COLIN OXLEY : Guitar
MATT MILES : Bass
STEVE BROWN : Drums
STEVE KALDESTAD : Sax

(ポニー・キャニオン/LEAFAGE JAZZ 2006年発売/PCCY-30079)
(ライナーノーツ/石原江里子)

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