
VENUSのターゲットは明快だ。「録音好し,ジャケット好し,選曲好し」とは「オーディオ好きで,美女好きで,スタンダード好きな」中高年のジャズおやじ向けの日本のレコード会社である。
管理人はそんなVENUSの“看板”であるエディ・ヒギンズのジャズ・ピアノを聴く度に,よくぞエディ・ヒギンズを,世界の(特に日本の)ジャズ・ファンへと紹介してくれた,とVENUSの耳利きに感謝を深めている。
確かにエディ・ヒギンズは“カクテル・ピアノ”である。エディ・ヒギンズのピアノの音は,パクパク,モグモグ,グイグイッと口に(耳に)入ってしまう。
実に飲みやすい。実に聴きやすい。そういう意味で,ジャズ初心者に間口が広い=カクテル・ピアノである。
しかし,エディ・ヒギンズのピアノの音は,あのお色気ジャケットから連想させられる「甘口のカクテル」などではない。スッと咽喉を通った後に“ピリリと舌を刺す”辛口のジャズ・ピアノである。日本酒または白ワインのソレである。軽快で繊細な演奏なのにキレがある。薄味なのにコクがある。要は原曲のイメージを薄めすぎないジャズ・ピアノなのだ。
エディ・ヒギンズが,超一流のカクテル・ピアノ弾き,のスタイルを身に着けたのは,シカゴにあるジャズ・クラブ「ロンドン・ハウス」のハウス・トリオのリーダーとして12年,フロリダのジャズ・クラブ「バッバス」でも4年間活躍していた頃のこと。
そう。エディ・ヒギンズは“現場叩き上げ”のジャズ・ピアニストなのであった。
毎晩,酒に酔ったお客の前でカクテル以上にピアノで酔わせるには…。心地良く美しいメロディは原曲通り崩さずに演奏すること。聴いていて疲れない演奏であること。時にはスタンダードを離れて,ポップな人気曲をジャズにアレンジすること…。
それら聴衆とダイレクトに相対するクラブ演奏の“極意”を身に着けたことが「美しいものをより美しく,客を喜ばせるためには自分のスタイルには固執しない。それでいてし辛口職人気質」の庶民目線での演奏が,VENUSの“看板”としての圧倒的な支持につながっていると思う。
『AGAIN』(以下『アゲイン』)を聴いてみてほしい。これぞ“エディ・ヒギンズ・スタイル”そのものである。いくら日本人好みに仕上げたとはいえ,ここまでツボをあてられると「参りました。おいしゅうございました」の言葉しか出やしない。
【祇園小唄〜京都ブルース】のような日本人向けのオリジナルは言うに及ばず,あれこれと他のジャンルの人気曲を持ってきてはジャズ・アレンジしているのだが,そのどれもが,自然なアドリブ,馴染み深いアレンジで,抜群に咽喉越しが美味い。

加えて『アゲイン』の魅力は,初心者向けばかりではない。VENUSのターゲット層である,中高年のジャズおやじにとって興味深いのは,ビル・エヴァンスの代表曲が多く収録されていることである。
管理人はエディ・ヒギンズの演奏からビル・エヴァンスへのリスペクトを感じてしまう。発散派のエディ・ヒギンズが,内省派のエヴァンスに憧れを抱く気持ちも良く分かる?
最後にVENUSの付加価値である録音であるが,ライナーノーツで寺島靖国が書いている通り,レイ・ドラモンドのベースにパンチの弱さを感じたなら,高級オーディオで聴き直してみてください。この重低音に“のけぞってしまう”こと間違いなしですよっ。
01. Again
02. How Insensitive
03. Gion Kouta〜Kyoto Blues
04. My Foolish Heart
05. Yellow Days
06. My Romance
07. I'll Never Be The Same
08. Walk Alone
09. Now Please Don't You Cry, Beautiful Edith
10. Polka Dots And Moonbeams
11. Will You Still Be Mine?
12. Hurry Song
EDDIE HIGGINS : Piano
RAY DRUMMOND : Bass
BEN RILEY : Drums
(ヴィーナス/VENUS 1999年発売/TKCV-35068)
(ライナーノーツ/寺島靖国)
(ライナーノーツ/寺島靖国)
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コメント一覧 (4)
また一人偉大なピアノ弾きが旅立たれました。今週はエディのCDをヘヴィ・ローテで追悼会を開こうと思います。
日本一のJAZZレーベルは澤野工房でしたね。これは失礼いたしました。
エディ・ヒギンズよりもウラジミール・シャフラノフとは,のぶひでさんも寺島派でしょうか? 私も体半分は寺島派です。