
ラテン〜ポップス〜クラシックなどを背景に“ジャズも演っている”塩谷哲と“ジャズ一筋”の小曽根真。5歳の年齢差以上に2人の経歴には大きな開きがある。
塩谷哲と小曽根真は,ある意味,ジャズ・ファンが連想する“対極”の代表格であろう。
熱心なジャズ・ファンであればある程,2人の立ち位置は“離れ離れで”ジャズ・ピアノの“対岸”で暮らしているかのようなイメージを持っていると思う。およそ世の終わりが到来しても共演しそうになかった『デュエット』のリリースに正直,戸惑いを覚えた。
しかし『デュエット』の最初の一音を聴いて不安が完全に吹き飛んだ! この絶品の相性は何? 2人は天才という“共通項”で遠い昔から結ばれていたに違いない。そうとしか思えない見事な調和ぶりである。
『デュエット』にはピアノ・デュオに期待される連弾のくだりはない。
予想通り?塩谷哲と小曽根真のフレーズは全くシンクロしていない。それぞれが自分のスタイルを最後まで貫き通している。
しかしそれでも音楽が混沌としていないのは,2人の天才が操る“オーケストレーション”に秘密がある。要はピアノの持つ特性を最大限に活用しているのだ。
そう。塩谷哲と小曽根真は,ピアノの持つ“最大音域の自由”という共通言語で会話している。
例えるならこうだ。フランス人とブラジル人が英語を使って会話をする。話題が共通の趣味に関することなので,母国語の違いなど問題ではない。言葉の壁にはボディーランゲージがある。
塩谷哲と小曽根真の『デュエット』は,音楽の交歓である。音楽さえあれば2人の間に壁など存在しなくなる。いいや,2人が“長年の連れ”に聴こえてくる。
アプローチは異なれど,塩谷哲と小曽根真の間には2人だけで共有している“音のモチーフ”が確実に存在していると推測する。
『デュエット』で塩谷哲と小曽根真は「ピアノの義兄弟の契り」を交わしている。“お兄”役の小曽根真が塩谷哲をリードすれば,すぐに“弟”分のソルトがタッグを組もうと歩み寄る。当の2人はどこまで登り詰められるかを,遊びのごとく感じ楽しんでいる。一方がアドリブに走った時の,もう一方の伴奏がスリリング。アンサンブルにも様々なパターンが織り込まれている。
切磋琢磨の繰り返しにより,互いのジャズ・ピアノ度が高まっている。そして時に2台のピアノが1台のピアノに“合体”する時の美しさ…。聴いてこれ程“面白い”ピアノ・デュオはそう多くない。これぞ“プロ中のプロの音遊び”であろう。
『デュエット』のハイライトは,2人の息詰まるバトルではなく,相手の曲を自分のソロで演奏したトラックである。
心からリスペクトする互いの名曲を,作曲した本人の目の前で演奏するのが,もう楽しくてしょうがない様子が音の表情に表われている。
これらのトラックを聴くにつれ,普段はピアニストとしてもコンポーザーとしても良きライバルである2人が,互いにジャズメンとして最大の敬意を抱いていることが良く分かる。素晴らしい。
なお,今回の『デュエット』は「塩谷哲名義のビクター盤」と「小曽根真名義のユニバーサル盤」の変則2枚同時リリース。レコード会社の壁を越えた“夢の共同プロジェクト”である。
仮想2枚組みのCDは,内容からジャケット写真&ブックレットに至るまで『デュエット』の精神が貫かれた作りとなっている。
選曲は2枚でクロスすることのない親切設計。2枚のCDジャケットを並べると1枚の絵になる芸術設計。2枚ともCDの3曲目に【ヴァルス】を,ラストに【ミスティ】を配し,チャンネルもレフトが小曽根真,ライトが塩谷哲と統一されたのが大殊勲!
ただし,小曽根盤はSACDハイブリッド盤なのにソルト盤はCD音質なのだが…。

ソルト盤は“エンジョイ”している。ソルト盤では“ジャズを愛する”塩谷哲と小曽根真が楽しめる。ピアノの動きに注意を集中すると,2人がジャズの文法で,でも自分の言語で会話していることがよ〜く分かる。
名盤『デュエット』成功の秘訣は,ライブ・レコーディングにある。『デュエット』は,塩谷哲と小曽根真2人きりの『デュエット』に違いないのだが,実は隠された大勢の共演者が存在する。
そう。ピアノ・デュオの極意を知るオーディエンスが,耳を澄ませば,時に聞き入り,時に拍手喝さいを送っている。その聴衆の反応が塩谷哲と小曽根真のアドリブをさえ導いている。完全なる“触媒役”を果たしている。
仮に『デュエット』が,同じ選曲でスタジオで録音されたとしても,ここまでエキサイティングなピアノ・デュオとはならなかったことと思う。
『デュエット』の真意は,演奏者と演奏者の『デュエット』であると同時に,演奏者と観客との『デュエット』でもあった。一心同体と化した2人のピアニストが観客と一体となって『デュエット』する。
この「演奏者と演奏者」&「演奏者と観客」の「2重構造」掛詞がオーケストレーシュンする塩谷哲と小曽根真の『デュエット』である。
01. Bienvenidos Al Mundo
02. Do You Still Care?
03. Valse
04. あこがれのリオネジャネイロ - Makoto Ozone Solo
05. Home - Satoru Shionoya Solo
06. Lazy Uncle
07. Spanish Waltz
08. Misty
SATORU SHIONOYA : Piano
MAKOTO OZONE : Piano
(ビクター/JVC 2005年発売/VICJ-61303)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/小曽根真)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/小曽根真)
サムエル記第一20章 ヨナタンのダビデへの揺るぎない愛
T-SQUARE & ROYAL PHILHARMONIC ORCHESTRA 『ハーモニー』
コメント一覧 (2)
BLUE LIFEさんお帰り〜。またBLUE LIFEさんといつまでもJAZZ談義していたいなあ。