
『ユー・アー・ソー・ビューティフル』は,実際にはビル・エヴァンスの愛奏集というわけではない。木住野佳子のピアノ・トリオは,エヴァンスゆかりのアレンジを覆すほどのオリジナリティに溢れているのである。
しかし,やはりと言うか,どこをどう聴いてもビル・エヴァンスの香りプンプン。木住野佳子がビル・エヴァンスと真正面から向き合っている。
そう。『ユー・アー・ソー・ビューティフル』は“内省的な美意識に包まれた”ジャズ・スタンダード集である。
女性ジャズ・ピアニストは,良きにつけ悪しきにつけ「女性」というだけで色眼鏡にかけられてしまう。静かにピアノを鳴らす人は「女性らしく」と形容され,ピアノを弾き倒す人は「女性なのに」と形容される。それが肯定であっても否定であっても“女性”ジャズ・ピアニストのレッテルから抜け出すのは容易ではない。
その昔「ビル・エヴァンスは男か女か」と野暮で幼稚な論争が起こった。管理人はズバリ,ビル・エヴァンスは男説。あの強靭なピアノ・タッチは,ハードボイルドな硬派である。
しかし,ビル・エヴァンス女説を唱える人の気持ちも理解できる。ビル・エヴァンスの演奏はいつもメロディアスで美しい。確かに女性を彷彿とさせられる瞬間がある?
さて,木住野佳子である。木住野佳子が“エヴァンス派”と呼ばれるのは,ビル・エヴァンス女説の支持理由による。
木住野佳子のピアノの響きが“美音のイメージ”なのだ。木住野佳子もビル・エヴァンスの特徴を正にそのように捉えている感有り有り。
『ユー・アー・ソー・ビューティフル』は,全11曲なのに総演奏時間は46分。つまり“美音のイメージ”に無駄な贅肉を削ぎ落とし,エヴァンス流にアドリブも短くまとめられている。
ビル・エヴァンスが,男であれ女であれ,素晴らしいジャズ・ピアニストに違いないのと同様に,木住野佳子も,女であれ女エヴァンスであれ,素晴らしいジャズ・ピアニストに違いない。
管理人は『ユー・アー・ソー・ビューティフル』を聴く度に,木住野佳子の本作に対する“強い思い”を感じてしまう。
敢えてビル・エヴァンスの愛奏曲を取り上げることで,木住野佳子は“エヴァンス派”としての自分と“女性”ジャズ・ピアニストとしての自分から決別しようとしている。「もうビル・エヴァンスみたいには弾かないもん」と言う木住野佳子の心の声が聞こえてくる?
尤も,木住野佳子へのビル・エヴァンスの影響は墓場まで。どんなに遠くへ離れようともビル・エヴァンスの“磁場”から逃れることなどできやしない?

ビル・エヴァンスのオリジナルと比較して聴くと“エヴァンス派”木住野佳子の理解の深さが実感できる。
もはや“無敵”の木住野佳子にGRP御用達の豪華なゲストは必要なし。
木住野佳子とトリオを組むのはライブでの共演経験も多い,古野光昭+市原康組と安ヵ川大樹+岩瀬立飛組の2組のリズム隊である。
ビル・エヴァンス・トリオのメンバーであったマーク・ジョンソン,エディ・ゴメス,ポール・モチアンの力を借りずとも,木住野佳子はビル・エヴァンスできる!
そう。『ユー・アー・ソー・ビューティフル』は,木住野佳子の“エヴァンス派”からの“卒業宣言”である。
01. Israel
02. Tenderly
03. Autumn Leaves
04. The Days of Wine And Roses
05. Waltz for Debby
06. O Grande Amor
07. Here, There And Everywhere
08. April in Paris
09. Here's That Rainy Day
10. Easy To Love
11. You Are So Beautiful
(GRP/GRP 1999年発売/MVCJ-29002)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)
★スイングジャーナル誌選定【ゴールドディスク】
(ライナーノーツ/岩浪洋三)
★スイングジャーナル誌選定【ゴールドディスク】
コメント
コメント一覧 (2)
とても上質で、エレガントに、時にはややワイルドで・・
美味しい部分だけを凝縮したアルバムだと思います。
選曲もそそられますね♪
そうそう、TRIXのライブ、ギターの菰口君の加入で今までの流れを継承しつつ、シリアス面もチラホラ感じられ、第2章の始まりといった感じでした。ストさんは相変わらず、場内を盛り上げてくれました♪
もう一つ、今日中古で「My Rule」買ってきました。700円と言う驚き価格でしたよ♪
セラビーさんのレビュー通り、ディメの過去と現在を繋ぐ架け橋のようなアルバムですね。
楽曲の良さには相変わらず下を巻きました。
ディメにTRIX、T−SQUAREと、日本のインストシーンは熱いですね!
おっと!野呂一生インスピリッツも頑張ってます!!
「エバンス愛を感じる一枚ですね!
とても上質で、エレガントに、時にはややワイルドで・・
美味しい部分だけを凝縮したアルバムだと思います。
選曲もそそられますね♪」。同感です。いや,私以上の素晴らしいレヴューだと思います。木住野さん本人にも是非お読みいただきたい短評に仕上げられています。くぅ〜。
TRIXのライブ。今までの流れの継承&シリアスな新境地の第2章の始まりでしたか? いいなぁ。私も生ストさんではじけまくりたいです♪
「My Rule」。ディメの良い点ばかりが凝縮された超名盤です。『9TH』『10TH』『11TH』の頃とは一味違う,新たなる頂点を感じます。でもでも今一番熱いのはディメではなくTRIXでしょう。