PRAHA-1 『シエスタ』から始まった,木住野佳子の“外へ外へと発散していく”自分探しの音楽旅行。「ニューヨークのブラジル」に続く2番目の到着地は,チェコ共和国は『PRAHA』(以下『プラハ』)であった。

 音楽旅行の最大の財産は“人との出会い”にある。木住野佳子は『プラハ』で,偉大なるベーシストジョージ・ムラーツと“運命の再会”を果たしている。
 ジョージ・ムラーツベーシストとしての才能についてはここでは書かない。管理人が『プラハ』で書きたいのはジョージ・ムラーツベーシストの“枠を越えた”音楽家としての才能である。

 木住野佳子ジョージ・ムラーツの“運命の再会”には裏話がある。実は『プラハ』の始まりは東京でのこと。木住野佳子が「ストリングスと一緒にアレンジしたい」と話していたら,ジョージ・ムラーツがすかさず「チェコのプラハの弦が素晴らしいから,僕が一緒に」の一言でレコーディングが決定したとか,しないとか?

 音楽のテイストから録音からドラマーストリングスの人選に至るまで『プラハ』には,ジョージ・ムラーツの個性が色濃く表現されている。
 事実,ライナーノーツ木住野佳子自身「このアルバムは,ジョージ・ムラーツの協力なしでは実現しなかった」と書いている。そう。『プラハ』の真実とは,木住野佳子ジョージ・ムラーツの“コラボレーション”なのである。

 …とここまで書いてみたが,当たっているんだが,う〜ん,何か違うかな。
 そう。『プラハ』の個性とはジョージ・ムラーツの個性ではない。この深みのある音はプラハの“街の個性”であろう。

 『プラハ』を聴いていると,プラハという街の“息遣い”が聴こえてくる。美術館のような美しい街並は悲しみを隠すための厚化粧である。中世から歴史に翻弄され,大国の思惑に翻弄され,今なお複雑な紛争に囲まれる東欧の古都プラハは,どこか悲しくノスタルジック。痛んだ人々の心を癒してきたのは,いつも側にあるクラシック音楽。← この史とロマンがジャズにとっては重要だったりする。

 そう。『プラハ』こそ“ヨーロピアン・フレーバー”溢れる,詩情最高のピュア・ピアノ・アルバム。現地の空気感すら伝わってくる名演ノに思いがけなく“吐息が漏れてしまう”。プラハという街の“息遣い”は実に素晴らしい。
 切なく悲しげに響くピアノ。時には肉声に似たその響きに心を鷲掴みされてしまう。

 『プラハ』のハイライトは,木住野佳子のアレンジ力である。
 木住野佳子ピアノジョージ・ムラーツベースストリングスが“呼応”している。木住野アレンジのストリングスは,脇役ながら,単なる脇役以上に素晴らしく主張していてる。深みのある茶色の音色。枯れた音。深い秋の音色が響いている。

 木住野佳子は『テンダネス』でもストリングスと共演していたが『テンダネス』のストリングス
は,奇才デビッド・キャンべルがアレンジを手がけていた。
 『プラハ』での木住野佳子は初の一人三役。つまりアレンジし,指揮し,ピアノを弾いている。ついに姿を現われた“新しい木住野ワールド”。女性的で洗練されたピアノ・タッチと美しい旋律とストリングスとの調和である。この新たな木住野ワールドは,ジャズメンとしてのマチュアリティと未来への期待感を大いに感じさせてくれる。

PRAHA-2 さて管理人の『プラハ批評に,どうしても欠かせないのが「最高の音質」である。「最高の音質」に言及せずに『プラハ批評など成り立たない。成り立つ訳がない。

 『プラハ』は,音の良さにとことんこだわった“アナログ録音”のSACDハイブリッド盤仕様。
 ピアノの王様=ベーゼンドルファー・インペリアルモデルの繊細で深い響き。深く豊かで奥行きと広がりを感じさせる生々しいストリングス,迫力があるが不自然に強調されてはいないベースドラムの軽やかなブラシが,あたかも目の前で演奏されているかのように伝わってくる。
 また単に音の強弱に限らず,演奏家一人一人のタッチ,感性,味わい等,通常デジタル録音では表現されにくい微妙な要素を“音の表情”として忠実に再現している。『プラハ』は,内容は勿論,音の美しさだけで人を感動させる力をも秘めている。
 『プラハ』のアナログ録音は英断だったと思うが,やはりプラハの録音エンジニアのセンスが最高なのだろう。音楽の街『プラハ』は,演奏家だけではなく録音技師たちをも育てる土壌を有している。プラハ,恐るべし!

 最後に,美人ピアニスト木住野佳子“恒例の”ジャケット写真について一言…。
 『プラハ』のジャケット写真は,映画女優のオードリー・ヘップバーン風? 実にお美しい女優さんの肖像写真である。ピアノ・トリオストリングスの『プラハ』が目指すは映画音楽?
 そう。CDを聴き通してみると実感できるが『プラハ』には映画並みの“ストーリ性”がある。ストーリーは主演女優=木住野佳子プラハとの恋物語。
 実際『プラハ』の作りは,ムーディな雰囲気から徐々にジャズ度が高まっている。8曲目【ブルー・イン・グリーン】と9曲目【サム・アザー・タイム】の“エヴァンス・チューン”でピークを迎えた勢いそのまま,ラスト2曲のクラシック・ナンバー【別れの曲】【家路】へ雪崩れ込む。極微量のジャズ・フィーリングが嬉しい木住野ワールド。

 管理人の結論。『プラハ』は木住野佳子作,パット・メセニーシークレット・ストーリー』に並ぶ“超大作”であった。

  01. Forest Rain
  02. モルダウの風
  03. かげろう
  04. Oasis
  05. 足音
  06. Just Before the Light
  07. Oyasumi
  08. Blue in Green
  09. Some Other Time
  10. Etude op.10-3
  11. Going Home

(GRP/GRP 2004年発売/UCGJ-7002)
(☆SACDハイブリッド盤仕様)
(ライナーノーツ/木住野佳子,ジョージ・ムラーツ)

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